新しい先生
前回のあらすじ
猫魔族の国にきてみたら、緑がトスィーテの姿に変化を習得していました。
名前と一人称を与えて女子会オールをしていたら、カルカン妹のトスィーテちゃんに怒られました。
「それでは行ってきますわ!」
エリーゼは猫魔族との外交に向かった。
僕らは留守番している間に、トスィーテちゃんの成人のお祝いをしたよ。
「僕からのプレゼントだよ!受け取ってくれる?」
「ワールドン様、ありがとうにゃん!」
プレゼントできるのはマナ鉱石と竜鱗くらいだったけど喜んでくれた。
最近のカルカンを【伝心】で見せてあげたら、お兄ちゃんが不摂生だってめっちゃ怒っていたね。トスィーテちゃんから、僕が代わりに怒られた。これは後で責任を持ってカルカンに【伝心】するよ……じゃないと僕の怒られ損だ。
リンリンリリリン、リリリリリーン~♪
ボン&カルカン作のオルゴールも聞かせたんだけど、緑がめっちゃ食いついて、「欲しい」「くれ」ってうるさかった。カルカンに頼んでみるけど、その分は建国を手伝ってと依頼しといたよ。すぐにでも僕の国に行きたいと言っていたけど、トスィーテちゃんの許可がまだ出ないんだ。
ガトーは僕と違って光ガードを出せないから、ドラゴン形態との切替時に丸見えなのがNGだとさ。今は特訓中だと聞いている。
(なんか、怒るトスィーテちゃんには逆らえないんだよね)
エリーゼが帰って来たから、さっさとお暇する事にしたよ。このままここにいるとガトーの変身バンクに付き合わされそうだし、長居は無用って事で空輸邸を置いた水辺に来ていた。
「必ず行くからな!吾輩を待ってろよにゃん!」
「焦んなくていいから変身バンクは、トスィーテちゃんの合格をちゃんと貰うんだよ?」
「おう!任せろにゃん!」
僕は光ガードでドラゴン形態に戻り、ゆっくり上昇して雲の上まできた。ん?そいや雲ガードにすればガトーもすぐにこれるんじゃ?って今気付いてしまったよ。後でちゃんと【伝心】して教えといてやるかな。
そうして、丸一日とちょっとの空旅を楽しんだ。
国に着いたのと日没がほぼ同時で、薄暗い僕の居住スペースの前には、ルクルとカルカンとテトサがいる。
(何かあったのかな?)
「ワドー。待ってたよー。さっさとびしょ濡れになってくれるかなー?」
「ワールドン様!早くびしょびしょに濡れるのにゃ!もう不足してるのにゃ!」
「ワールドン様、困っています……早く濡れ濡れ姫になって下さいませ」
ちょっと言い方!絶対に誤解を招くからね、それ!
「おかえりなさいませ、お嬢様、ワールドン様。本日から復帰させて頂きます」
「ただいま。そしておかえりマイティ」
「マイティ……リゼを許してくれる?」
「勿論です。私の主は貴女だけですから」
マイティが復帰したので、今日はリッツを早めに休ませたよ。この旅の間、ずっと休みが無かったからね。マイティに手伝って貰い、水浸し用の服に着替える。今日のはリゼが用意した水着だな……ってか布面積ちっさ!
着替えをいつもの如く高速撮影しているし……またもやリゼがローアングラーだよ。一体なんなのさ?
「お茶をお淹れしました」
マイティが淹れてくれたお茶を飲んで寛ぐ。
やっぱりマイティが淹れてくれた方が香りが良くて美味しいな。
そう思っていたらリゼが来月の提案をしてきた。
「ワド……天蝎節なんだけど、リッツとマイティをお祝いしてあげたいの」
「え?2人って天蝎節生まれだったん?」
「知らなかったの?」
全然知らなかった……ってかそういう話題あんまりしないから。
リゼは元々マイティの誕生節を知っていたし、8年前には成人のお祝いをしてあげたらしい。従者の誕生節は普通はお祝いしないのだそうだ。でも、日頃のお礼にと、内々でお祝いする事があるんだと。僕としては大賛成だったよ。
「わぁ、プレゼント何にしようか?」
「ふふっ、ここで会話してたらマイティにプレゼントがバレちゃうの。後でコッソリ相談しましょ?」
「あの……サプライズは怖いので出来れば先にお伺いしたいのですけれど……」
マイティは困った顔をしていたけど、サプライズプレゼントにするのは決定事項だからね!
僕とリゼは視線を交わして頷き合い、マイティを下がらせて内緒話をしたよ。
僕とリゼしかいないのでちょっぴり媚薬をお茶に入れて飲んでいた。2人してめちゃハイテンションでプレゼントの話題が盛り上がったな。
(よーし、これなら絶対、驚くよね!)
翌日は朝から来訪があった。
モンアード君からの紹介でやってきた、新しい講師の人だ。僕はマイティに着替えを手伝って貰い、来客対応用の服に着替える。着替え途中でマイティから質問されてドキッとしたよ。
「……ワールドン様、例の媚薬を飲まれましたね?」
「え!?なんで分かったの?」
「依存性がありますから、頻度はお控え下さいませ」
(依存性って?明日リゼに聞かなきゃ……ルクルにはなんか相談しづらいな)
そう思いながら用意が出来たと合図して、来客を部屋に通した。
「はじめまして、ワールドン様。私はカールと申します。モンアード領でも講師をしておりました。宜しくお願い致します」
「経験者なのかぁ!いいね!よろしく、カール先生」
「はい、さっそく今日から仕事に入ります」
カール先生は連れてきた孤児達とリッツ、それから各村の子供達を青空教室で教え始めた。カール先生は凄く教え方が上手で、聞いているだけでどんどん知りたくなる。興味を持たせるように話をするのがとても上手い。
(僕も授業受けたいかも!)
王都予定地に簡易的な寮が作られて、子供達はそこで暮らしている。女子寮はリッツが取り仕切っていて、皆からは寮長と呼ばれ始めていた。
授業が終わった後に、僕は男子寮を訪問してみたよ。村の子供達から熱烈歓迎されて、揉みくちゃにされた。
(なんか変、体が異常に熱い……)
「み、皆は勉強頑張るんだよ!僕はちょっと用事あるから!」
「えー!ワールドン様もう帰っちゃうの?」
「ヤダもっと一緒に遊ぼう!」
「ごめん!僕、急ぐから!じゃあね!」
ダメだ。なんか変だ。僕は慌てて空に逃げた。
暫く空で休んでいると、落ち着いたので部屋へと戻る。エリーゼとマイティが心配して待っていてくれたみたいで、2人が駆け寄って来た。
「ワールドン様、一体どうなされたのですか!?男子寮で不敬があったのですか!?わたくし、今から制裁してきますわ!」
「お嬢様、違いますよ。ワールドン様、例の発作ですね?」
「うん、多分……そう……マイティは何か知ってる?」
マイティに説明された内容は驚愕の事実だった。媚薬によって生物として女性と同じになっていると言うのは、前回聞いた内容だけどその先が問題だった。異性に触れられると発作が起こり、感情の制御が難しくなるらしい。だからなるべく素肌の接触は避けた方が良いとの事。
(そ、そんな副作用があったのか……服用は減らさなきゃだよ!)
その後はエリーゼが「ワールドン様の素肌に許可なく触れるなんて不敬」と言っていて宥めるのに凄く苦労したな。
(……ってあれ?)
リゼがルクルと誕生節の餃子手渡した時に手が触れていたような……それにエリーゼもアルを物理で殴っているよ?
「マイティ、エリーゼがアルに触れてたのは?それにリゼがルクルに触れてたよ?」
どうやらエリーゼに全く影響は出ないみたい。
脳を変える事で、元々性別が無い種族にもその認識を植え付けるとの事。なので使った記憶が無いエリーゼに影響は出ないとさ。
マイティ談ではリゼの精神力は凄いらしく、その話にはエリーゼも乗っかってきた。
「もう一人のわたくしは凄いのですわ!本能の暴走を気力でねじ伏せてるのですわ!」
めちゃ力説していたね。
というかエリーゼって、リゼの事が凄く好きだよね。いっつも褒めているし、何かあっても必ず擁護するしさ。
「分かった分かった、リゼは凄いよね!所でプレゼントの件は相談いってる?」
「はいっ!聞いてますわ!マイティには……あっ!マイティは聞いてはダメですわ!退室してなさい!」
マイティがそそくさと退室していった。僕はプレゼント内容を確認する。
「えと、リッツにもマイティにも服をプレゼントするんだよね?」
「はい!ちゃんと相手の欲しがる物にしましたわ!」
「リゼが何をプレゼントするか聞いてる?」
エリーゼの服ならまぁ安牌だろう。リゼが何を贈るのかで被らないのを考えなきゃだよ。僕は耳うちして貰う為に左耳を近づけた。
「もう一人のわたくしはリッツに日記帳と便箋セットや文房具を贈るそうですわ!」
「あ~、読み書き覚えたんだっけ?それ良さそうね」
「マイティには新しい水着を贈るそうですわ!もう一人のわたくしと色違いのお揃いですわ!」
なるほどな。僕の身の回りのことを世話すると濡れる事が多いからね。水着の方が早いかも?
……っと、僕のプレゼントも相談しなきゃ……
「僕は金の宝玉をプレゼントしようかと思ってるん。素渡しだと流石に不恰好だから、ボンに頼んでブローチにしようかと」
「わたくしもそれ欲しいですわ!」
「え!?」
うーん、でも2人には誕生節のプレゼントな訳だし、エリーゼにもあげたら特別感がなくなっちゃうよね?
「えと、エリーゼとリゼには次のプレゼントのタイミングでもいいかな?」
「申し訳ありません!わたくしまた我儘を言ってしまいましたわ!でも、どうしても欲しくなって……」
「暫く身に付けるのを我慢できるなら贈るよ?」
「わたくし、全力で我慢しますわ!」
この日はお互いにプレゼント内容を確認し合った。ボンに仕上げて貰って、いい感じにブローチは出来上がったよ。
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そして、マイティがサプライズを嫌がっていた理由が当日に発覚した。
(なんてかさ、普通のプレゼントをしようよ!)
リゼのマイティへのプレゼントが碌でもなかった。エリーゼのリッツへのプレゼントが碌でもなかった。
「お嬢様とお揃いですけど、これほとんど紐ですね……私にはハードル高めです」
「……シュコー……シュコー……」
(どうしてこうなった!?)
ちなみに緑は最上位ドラゴン達の中で「クレクレ君」という扱いを受けています。
他人の物を欲しがるのは何億年も前からずっとのようです。
次回は「秘密の特使」です。




