獅子の誕生節
前回のあらすじ
媚薬の影響が大きいマイティを休ませる事にしたワド。
エリーゼの説得により、外務大臣が決定し、ドラゴン内閣府のメンバーが決まりました。
ドラゴン内閣府の大臣を国民に発表したら、大歓声が上がった。
他の国は内閣府ではないのが一般的なんだけど、ルクルがわかり易い体制にしようと満場一致で決まった。
ま、実質的にルクルにおんぶにだっこなのは事実だしさ。
総務と財務は完全に、アルへ頼り切りだった。
国民のほとんどが平民だから、そういった実務や国家規模の予算管理などを任せられないからだ。この辺りは今後、学校を作って将来的には解決したい所。
総理もそうだ。アルは柄じゃないって最初は固辞していたけど、他に適任者が居ないんだ。貴族が極端に少ないので、アルかエリーゼorリゼになる。
ほら、アルしか選択肢が無いでしょ?常識的な人に総理をやって欲しいし。
あ、ルクルは黒幕やるから表に出ないって最初から逃げた。
それから他の抜擢にも、色々な事情が絡んで難航したんだ。
温泉街の水産省大臣のテトサと、双子で温泉組合の若旦那でもあるポポロを、観光省大臣に抜擢したよ。双子の責任バランスと温泉組合に忖度した感じ。
マナ工学をどこに入れるか議論した結果、文部科学省を文部マナ省に改名して、マナを含む省庁にしたんだ。マナ関連は、カルカンが最も詳しいから大臣は即決だったな。
アルが法律作成で苦戦していたから、リゼが手伝ってくれた。元々エリーゼは、問題を多く起こすから法律は詳しいそうだ。ギリギリ法律を掻い潜っていたみたいだね。その知識を活かす為、リゼに法務省を任せる事にしたんだ。
っていうかエリーゼに任せると、僕の絶対君主制になるからそれは避けたかったし、リゼはルクルと相談して、民主主義を取り入れた適度な落とし所を提示していた。そう言う点でもリゼしか適任者が居なかったね。
元々、任命していたクラッツとボンはもう認知されているし、周囲からも認められている。
というかボンはエリーゼの従者なんだけど、もう誰も従者と認識して無いね。
防衛省も揉めた。強さでいったらエリーゼだ。だけどルクル曰く、防衛の基本は戦争を避ける事だとさ。敵を作るから防衛省をエリーゼには任せられないと。
寧ろエリーゼは軍事の方に回し、将軍に任命する事で話は纏まったよ。
それでマナ心眼持ちのカルカンに防衛省を任せる事になった。
ちなみにジャックは、裏方に回って貰っている。
経済産業関連は、実質的にルクルが掌握しているので満場一致だよ。厚生労働省もこちらの世界にはそういう文化が無いから、ルクルしか適任者が居ないんだよね。
最後にギルドマスター。
黒幕ってのは流石に役職名としてNGだしさ、これについては議論が長引いたな。
ーーー役職名議論再現VTRーーー
「普通に摂政で良くはありませんか?」
「いやいや、アルさー、宰相に相応する総理大臣がいるのに、指示系統が複雑化するだけになるよー。ワドもいるんだしー?」
「ルクル氏は何か役職名候補あるのにゃ?」
「最高顧問とかー、顧問相談役とかー?」
「つまんないからボツ。僕がワクワクする役職名にしてよね?」
「なんだよー、その縛り?例えばどんなんー?」
「月からの使者の猫、伝説の戦士を導く妖精、魔法少女のスカウト、どれがいい?」
「月ねーだろ!それに猫魔族じゃねーし!日朝も無理ー!願いも叶えらんないぞー!」
「裏で支配してるんだから、支配してる感じの名前はどう?……リゼは支配されるのも好きなの」
「姉上の性癖は聞きたくないです!」
「お、そのネタは良さそうね。僕も推すよ」
「推すってワドになんか案あるのかよー」
「ならマスターとか?例えば、ギルドマスター関連は黒幕が多いと思うけど?」
「あー、ギルドマスターは黒幕多いかもー?」
「あのアニメと、あのなろうアニメ、それから……」
「あのなー、その辺はネタがガチでアウトー」
「あの……ギルドが何か知りませんが、ギルドマスターで良いのでは?」
「リゼもそう思うの」
「ギルドが謎めいてて良いにゃー」
「「え?この流れマジ?」」
ーーー役職名議論再現ENDーーー
オタネタであほなやり取りしていたら、ギルドマスターを選ばないといけない流れになったんだ。
発表が終わったらそのまま獅子節のお祝いで、国民全員の獅子節生まれをお祝いする。
ヴェストやホールンは獅子節生まれだ。二人共、日本酒を堪能していたな。
僕らはルクルとアルをお祝いするよ。
今日はリゼだから、エリーゼのプレゼントだけは明日2人に個別に渡すらしい。エリーゼは自信たっぷりな表情をしていた。
アル曰く「あの笑顔の姉は、碌な事をしません」だとさ。
リゼがおずおずと出てきて料理をルクルに差し出した。僕も協力したよ。異世界の餃子という料理だ。「餃子+ビール=幸せ」とルクルが言っていた事を伝えたら、餃子の再現の協力を求められた。
「リゼが作ったの。プレゼントの餃子……」
「……媚薬とか入ってないよねー?」
「それは勿論。でも愛情はいれたの」
(あれ?ラブコメの波動を感じる?なんでリゼはあんなに顔赤いの?ルクルはキョドってるしさ)
リゼからのアルへのプレゼントは、実質的すぎて味気無かった。アルは喜んでいたけど「総務省と財務省の業務を手伝う」って、いくらなんでもプレゼントとしては無いわー。
さて、僕からもアルへのプレゼントを渡すぞ。ボンにも手伝って貰った力作なのさ。
「アル!僕からのプレゼントだよ!」
「ありがとうございます」
「開けてみて!」
アルは、麻袋からガサゴソと中身を取り出した。
「これは……靴ですか?」
「異世界のサンダルって靴さ」
アルは雪国の靴をずっと履いていたから、サンダルにしたんだ。ここは結構暑い国だし、夏だしね。それにアルから初めて貰ったプレゼントが靴だったからお返ししたかったんだ。
アルは嬉しそうに両手で抱えて微笑んでいる。
「僕のマナ鉱石も敷いてあるから、疲労も回復するよ。是非、夏は履いてね」
「はい、大切にします」
ルクルへのプレゼントは、リッツや村々の女性陣に協力して貰った。若干、見た目は失敗したけど、味はそこそこ再現できた。甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「ルクル!ハッピーバースデー!ん?ハッピーバースマンス?」
「それ……苺のショートケーキ?」
「苺に似た果実だけどね。ちょっと不格好だけど味は自信あるよ!」
異世界では誕生日の定番はこれなんだろ?僕、頑張ったー!まぁ僕も食べたかったのもあるけどさ。
ルクルを見たら、目に涙を浮かべていたよ。
「まさか転生して、こんな誕生日が来るなんてな」
ちょっとしんみりしたところで、KYがプレゼントを持ってやってきた。一体何を用意したのやら?
さっそうと2人の前にきたカルカンが麻袋からプレゼントを取り出す。
(おい、お前が取り出すんかい!)
「これは2つで対になってる銃にゃ!この国を支える2人に1つずつ渡すのにゃ!」
「カルカン君、ありがとー。嬉しいよー」
「カルカン、こんな凄い銃いいのですか?」
なんとカルカンは銃をプレゼントした。50万カロリはする最高級品だ。ルクルには僕のマナ鉱石の金の銃、アルには銀のマナ鉱石の銀の銃だ。高額なプレゼントに僕も驚いた。カルカンは笑う。
「いいのにゃ!別途、今年の最高級品を新しく作ったのにゃ!それの強さや精度は保証するにゃー」
「ええ……ずっと見てましたから知っています」
「カルカン君、流石に金額が高いよー!これじゃ来年のお返しが大変だよー!」
アルは羨望の眼差しで銃をうっとり眺めていて、ルクルは照れ隠しで高いって騒いでいる。カルカンも一緒に笑っていて楽しそうだ。そこにリゼとリッツも、ビールと餃子のお代わりを持ってきてくれた。全員が幸せな笑顔で嬉しい。
(ここに、エリーゼが居ないのが寂しい……)
分かっている。もしエリーゼがいたらリゼがいないから、この寂しさは埋まらないんだ。無いものねだりだと分かっているんだ。
でも寂しいのは仕方ないじゃん。
そう思っていたら、マイティが震える体で近付いてくる。
「マイティ、まだ無理したらダメだよ?」
「お嬢様へ、幸せのお裾分けをする為に、今日だけは見逃して下さい」
「お裾分け?」
「ワールドン様もあちらに行って下さい。フレームに収まらないのです」
マイティの手には転写の魔術具が握られていた。そうか、マイティはエリーゼにこの映像を贈るつもりなんだな。
「分かった!いっぱい撮ってあげてね!」
「はい」
魔術具は、凄いな……幸せを……贈れるんだ。
僕はルクル達と相談して、もっと凄い魔術具を作りたくなったよ。
(世界中の皆が幸せになれるような万能の魔術具を……いつか作りたい!)
心の中で誓いながら、笑いの輪に加わった。
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翌日の早朝。
ルクルとアルは、エリーゼから個別に呼び出しを受けていた。
戻ってきた2人は対称的な見た目だったね。いや、赤いという点では同じかも?
アルが瀕死の重症だったので、僕の最小の力で癒やしたよ。ルクルに頼みたかったのに、顔を真っ赤にして逃げたんだ。
アルの傷が治ったので事情を聞く。
「一体、何があったの?」
「姉からのプレゼントです……」
「へ?怪我だらけなのに?プレゼント?」
「軟弱だから、稽古つけてやると言われ……」
本当に碌でも無いプレゼントだった!
流石に可哀想なので、エリーゼの所に文句言いに行ったよ。
「エリーゼ!アルへのプレゼントはちょっとどうかと思うよ!稽古以外で何か贈り物をしてね!」
「ワールドン様……」
「プレゼントは相手に足りないものじゃなくて、相手が喜んでくれるものにするべきなの!僕は異世界ギャルゲーの共有でそれを学んだよ!」
それを聞いたエリーゼは、少し考えて静かに頷く。
「確かに贈り物は相手が喜ぶ物にするべきでしたわ。改めてアルには贈り物をしますわ」
「ルクルには何を渡したの!?」
「足りないものと、喜ぶものですわ」
(ん?2つ渡したのかな?)
でもなんか、ルクルの反応は普通じゃ無かったから碌でも無い物の可能性がある。
僕は気が引けたけど【伝心】で読み取った。
リゼかエリーゼのどちらかとしか居れない事を、寂しいと感じ始めたワド。
大切な人と、大切な時間が、どんどん増えていきます。
凄い魔術具を作る事を、胸に秘めていました。
次回は「初の人生相談」です。




