観光案内
前回のあらすじ
カルカンがただの飲兵衛じゃなくて、凄い能力者だと判明しました。
それから、ロワイトを観光案内する流れに。
まずダフ村を案内したよ。
ダフ村の人々は血気盛んな連中が多い。元々が鉱夫ばかりなので筋肉もムキムキだ。
一部には筋肉に名前をつけている人もいる。僕はちょっと引いた。だって自分の筋肉と会話しているんだもん。
だけど彼らが一目置く存在がいる。それがカルカンだ。豊富なマナ鉱石の知識があり、戦闘時はかなりの強さだしね。
成り上がり思考の、跳ねっ返り共が最初は反発したらしいけど、まとめてカルカンが叩き伏せたらしい。
ダフ村の面々に道案内をしてもらいながら、鉱山に入った。マナ鉱石がバケツリレーの様に運ばれている。
「これは一体?どこへ運んでるので?」
ロワイトが、僕の疑問を代弁してくれた。カルカンが自慢げに語りだす。
「地下鉱区に運んでるのにゃ!」
「地下鉱区に?何かあるのかな?実に興味深い」
「ワールドン様の黄金水があるのにゃ!」
「ヤメテ……その言い方ヤメテ……」
一度そういう風に聞こえてしまうと、もうダメなんだよ。なんとしても別名を考えないと。
(……でも僕にネーミングセンス無いし、困った。いや割とマジで……)
僕の発言にカルカンやロワイトはキョトンとしている。
(分かってるよ、知らないと別におかしな名前じゃ無いからね!)
そっとルクルから謝られた。
「ごめん……ちょっと悪ノリが過ぎた。しかし、定着してるから変更は厳しいかな……我慢してくれワド」
「いいさ、全裸徘徊に比べればダメージ少ないし」
僕らの内緒話を他所に、カルカンが黄金水の説明をしていた。
「ここでマナ鉱石を最高品質にしてますにゃ。この黄金水に浸ければ3日で最高品質になるにゃ。マナ石も2週間あればマナ鉱石になるのにゃ!」
「凄い機構ですな。こんな簡単に最高品質が出来上がるとは……」
「黄金水が溜まり過ぎないよう、定期的に外に運ぶにゃ!そっちも見せるにゃ!」
更に奥に進んで行くと水車があった。足踏み水車という仕組みで、多くの鉱夫が足踏みして水車を回している。水車の段は何層にもなっていて、まるで水車の階段だった。
僕とロワイトから感嘆の声が上がる。
「これは壮観ですな」
「僕も初めて見たよ。ね、これ全部で何段あるん?」
「14段ですにゃ!」
これで地上まで汲み上げているとの事だ。
案内して貰い、裏手の階段から地下鉱区を抜け出る。暗い所から急に出たから、夏の日差しが眩しい。
汲み上げられた水は小川になっていて、畑の近くまで伸びている。女性陣が柄杓ですくって畑に撒いていた。数回でサツマイモが育ち、花を咲かせる。
「これは途轍もない農法ですな」
初見のロワイトは驚愕している。僕には見慣れた光景だけどね。というか、今日作った水は効能があり過ぎて、枯らしてしまうかも知れない……と思っていたら、ルクルが指摘したよ。
「今日のはマナが濃すぎるから、必ず希釈して使ってねー。それでも効果があり過ぎる時は蒸発させて水蒸気だけで良いよー」
「了解ですにゃ!」
そのやりとりを見ていたロワイトが質問する。
「この仕組みを考えたのはルクル殿ですか?」
「そうですにゃ!ワールドン様の黄金水も、そこから各村への水路もにゃ!鉱山に流すのも水車も畑もルクル氏の発案にゃ!」
「なるほど。異世界知識ですか。これ程に完成された仕組みは勉強になります」
そういや気にして無かったけど、短期間で作った制作部隊のボン達も凄いな。従者が本職なのを忘れそうだよ。筋肉DIYパないですね。
次はフウカナット村に移動だ。
僕は高速脱衣と光ガード&メタモルフォーゼを行った。夏服はスピーディーに着替えられるからいいね。
フウカナット村では熱烈歓迎されたよ。村人からルクルは凄く慕われていたし、僕には涙流して拝んでくるしさ。
「案内します。こちらですわ」
農林省大臣に指名したクラッツが、率先して案内してくれた。水田も出来て稲作も始まっているみたい。稲架掛けも大量だね。
(ん?収穫終わっているのに、一度も食卓に米が流れて来て無いんだけど?)
ルクルに【伝心】で聞いてみた。
『ねえ、お米が食卓に出てないんだけど?』
『…………』
『おい!ルクル!私物化しすぎだぞ!』
ルクルは全部日本酒の原材料に回していた。あと米焼酎も作っている!そして、一部だけ着服して、自分だけ白米を堪能していた。
追加で文句を言おうとしたら、和ホラーで思考ガードしやがった!ちょっとー!ふざけんな!
「ルクル、お米はちゃんと僕のとこにも回してね。じゃないと僕にも考えがあるよ?」
「……分かってるよー。少しだけな?」
(この期に及んで、渋るとは……コヤツ……)
クラッツが、水田の説明をしている。基本は小川の水を使っていて、僕の水は少しずつ混ぜるとの事だ。それでも育成速度は10倍だってさ。
小麦と大麦の畑へ移動して、麦畑の説明を聞いた。ここも育成速度が10倍になっているんだと。
(お、サツマイモもあるよ!)
空いている斜面では、サツマイモの栽培もしていたよ。サツマイモは排水性を確保するのが生育に良いらしく、麦作や稲作に適さない斜面を有効活用していると。
説明をするクラッツは、本当に誇らしげな表情だ。
「こんだけ収穫量が上がってんのも、品種改良が進んでるのも、全てワールドン様の黄金の聖水のお蔭ですわ。ほんま感謝ですわ」
「この農作もルクル殿が発案ですか?」
「そうやで、ルクル様は酒蔵の方も革命を起こした凄いアイデアマンやで!」
ロワイトは、また暫く考え込んでいた。
【伝心】で読み取ると、ルクル相手の交易を真剣に検討していたな。
物品以上にそれを生み出す考え方や手法、それらの元となっている異世界知識に価値を見いだしているみたいだ。
ホリター公爵家の製薬法とルクルの悪知恵が合わさったらと考えて……僕は身震いした。
(そら「混ぜるな危険」だよ。どう考えてもヤバい化学反応しちゃうね)
クラッツの案内で酒蔵に来たけど、まさかこんな事になっているとは。
以前と規模が別次元になっていたよ。
「ねえ、こんなに大きくて、建物の数も多いのは僕の記憶と違うんだけど?」
「それらの建設は、ヴェストさん達が精力的にきばってはりましたわ。ホンマ凄いわ」
「ワールドン様!酒蔵の拡充は仕方ないのにゃ!ルクル氏は必要と言ってたのにゃ!」
異常な速度での酒蔵全体の拡大は、ロイクブーケ村から移籍組のヴェスト達が暴走した結果みたいだ。カルカンの取り込まれ方を見るに、ルクルが意図的に扇動した事が読み取れる。
ビアスタイルは15種類まで増えていて、まだ増やすみたい。
日本酒も数種類出来ていて現在改良中との事。
蒸留設備も完成して、実験で各種焼酎が作られていた。
説明をご機嫌な様子で聞くカルカンと、真剣な眼差しで耳を傾けているロワイトは対称的だね。
「たくさんお酒出来るの楽しみにゃ!」
「飲用ではなさそう?……これらはまだ実験用か……一体どれだけの試行錯誤をするつもりなのか……」
「にゃ!?ここのはまだ飲めないのにゃ!?」
クラッツが苦笑いしながら答えた。
「そうや、全部実験用やで。お酒から作ったバイオエタノールゆうんと、お酒から酢を作ってから、酢酸を抽出したりと色々や」
「食糧を他に出す事を控えているのか?」
「ロワイトさんは鋭いんやなぁ、そうや。王国の充分な貯蓄分以外もあるんけど、ルクル様の指示で外に出してへん。品種改良や酒の改良の実験に回してるんや」
「何で飲用でないのにゃ……」
カルカンは目に見えて落ち込んでorz体勢だよ。ロワイトの思考はかなり深くまで潜っていた。
(でも、ルクルを買い被り過ぎじゃないかなぁ?あれって旨いお酒飲みたいだけだと僕は思うけどな)
ロワイトは、食糧品の物価を下げないように必要以上の流通を避けていると推測していたし、ザグエリ王国の他の村へ流れる事で離反が早まってしまうのを防いでいると見ていた。
更には日持ちする嗜好品の酒に注力する事で、将来的な輸出の主力にしようとしていると読んでいた。
考えが纏まったのか、ルクルに質問する。
「ルクル殿。来年以降の外貨獲得ですかな?高級品志向な所からみるにターゲットは貴族の財布でしょうな……いや貴族の人材か?」
ルクルが目を見開き驚いている。
「ホリター公爵家の特殊な薬品の力ですか?」
「いえ、しがない爺の憶測ですよ」
「……なるほど。ホリター家を世界が恐れる一端を垣間見た気がします」
(お、和ホラーガードが解けてる。どれどれ?)
あれ?ロワイトの推測はほぼ当たっている。物価とか離反とか考えていたのか。てっきりただの我欲全開だと思っていたよ。
それに、ルクルは娯楽の少ないこの世界に、娯楽を持ち込む足掛かりとして、既にある酒の高品質なものを持ち込むみたい。
娯楽で文化水準をあげる事を目的としている。それによって、ワールドン王国が力だけで実効支配している状況を、変えようと考えていた。
(全部、僕の為だったのか……ちゃんと言ってよ)
ルクルとカルカンをフウカナット村に残し、僕らはポロッサ村へと移動した。
後は温泉宿を紹介するだけだ。家族で一緒に泊まってもらう予定だよ。夕飯は僕も同席した。川魚の塩焼きが美味しかったな。
温泉組合の双子が、料理の説明をしている。
「女神様の黄金聖水のお蔭で、川魚の天然養殖が凄いのです。本日の料理もその成果です」
「芋料理や麦御飯もワールドン様のお蔭です。採れたサツマイモと麦を交換してます」
双子の男性がポポロで、女性がテトサ。中性的な見た目で良く似ている。説明を終えたら退室したよ。
「本日はありがとうございました。ルクル殿が、来年まで見据えて動いてるのは驚きました」
「え?ルクルはもっと先を見据えてるよ?」
僕は娯楽の事を全部暴露した。
(あ、ひょっとして、これ暴露しちゃ駄目なやつ?)
女神様の黄金の聖水で、村は大発展しています。
ワドは、ルクルが水面下で進めていた事を大暴露しました。
次回は「お城建設開始」です。




