採掘場や農作の改善作戦
前回のあらすじ
王都予定地が決まりました。また、国境と定めた場所に竹林の防御壁が爆誕しました。
カルカンのやる気の為に、米、麦、芋の栽培を優先していくようです。
サツマイモ栽培が開始された。
僕も協力しようとしたんだけど、加減がうまく出来なくて枯らしてしまう。それで、当面は関わるなって出禁にされたよ。シクシク……
ポロッサ村やダフ村は、山芋くらいしか無かったみたい。サツマイモが取れるようになれば、主食としての穀物になりうるとの事。
各村周辺での自給率をあげておく事は、内部分裂を防ぐ為に必要だとさ。必需品である食糧をどこかに依存すると、外部からの印象操作で簡単に疑心暗鬼になるっぽい。
僕の代謝促進の力は後で活用法を確立するとの事で、それまでは自重するように念押しされたよ。とりあえず、各村のサツマイモについては一旦皆にお任せ状態さ。
と言う訳で、王都の候補地の周辺の整備に注力し始めたんだ。
まずは大量の土砂を持ってきて積み上げた。それをマナ力場で強制的に真っ平らに圧縮したよ。重機ドラゴンは頑張ったのさ。
元々の渓谷の水流部分は更に凹ませて、水の流れは復活させたんだ。新たに水路を引きたい所は、あらかじめ鋼鉄製の管を置いた。平らにする過程で地中に埋まったけど、それで良いってルクルが言っていたよ。
管に蓋をしていたのを外して、複数の管を溶接加工していたね。テストではほとんどのとこで上手く管を水が流れていた。水漏れがあった管は交換の為に掘り起こし、取り替えるとの事だ。
半径10kmの外壁も作っている。通常の石で作った後に、僕がマナ鉱石まで進化させる予定なんだ。
後から進化させる事で、初期資材の調達を容易にして建設速度を優先している。王宮の基礎部分もそんな感じで急ピッチで建設しているなぁ。
そして、僕の住居スペースなんだけど……納得がいかない。
「ねぇ……なんで僕の住居スペースは水浸しなのさ?常に浸水してるんだけど、欠陥住宅なの?」
「え?そんな事をあっしに言われやしても……旦那の設計通りに作りやしたぜ?」
ボンに文句を言った所で無駄とは分かっている。
でも、文句を言わずにはいられなかったんだ。
しかもルクルからは、ここに丸一日いるように言われている。エリーゼとリッツが話し相手として、居てくれているけどさ。
深夜は1人で水浸しになっていた。季節は双子節(6月)なのでひんやりしていて気持ちはいいのだけど「僕、一体なにしてんだろ?」って不意に思っちゃうよ。
翌朝、アルの馬で一緒に乗ってきたルクルに、説明を求めた。
「ルクルこれ一体なんなん?」
「いやー、いいティーバッグしてたよー」
ルクルは凄く良い笑顔で、謎ワードぶち撒けたよ。僕は強く声を荒げた。
「な!なんなの!?ちゃんと説明モトム!」
「金色の出汁がよく取れたってことー」
「ワールドン様!女神の黄金聖水は、素晴らしいですよ!」
出汁?というかアルのセリフだと、別の意味に取られそうだからヤメテ欲しいよ!
いつの間にかリゼが至近距離に来ていて、頬を染めて僕の袖を引き呟く。
「リゼもワドの黄金の聖水を飲みたいの」
「絶対に!らめーーーー!」
「そ、そうよね……」
くっ……なんか分からないけど、いつの間にか変な事態になっているぞ!
そこに、ダフ村のヘーゼルと言う鍛冶師が、馬に乗ってカルカンを連れてきた。
「素晴らしいのにゃ!ワールドン様の金色の聖水が本当に神々しいのにゃ!」
「ちょっ……表現!誤解うむからヤメテ!」
「マナ石が、どんどんマナ鉱石になっていってるにゃ!」
どうやら僕の浸かっていた水は水路を通って、各村に供給されているらしく、ダフ村では地下鉱区へ流れるようになり、マナ鉱石が量産されているとの事。
フウカナット村は農業を促進させた。
畑への水撒き用に分量比率を調整して使うと生育を調整出来るので、同様に他の村でも、サツマイモの育成に使う予定との事だとさ。
僕、いつの間にか金のティーバッグにされていたよ。
ってかそれで育成された作物を食べるのは、何かちょっとヤだなぁ。
それよりも気になっている事をルクルに質問する。
「ねぇ、ルクル。これからずっと水に浸からないといけないの?」
「ん?お湯が良かったらお風呂でもいいよー。排水はこの排水口によろしくー」
「待て待てーい!」
僕は水をルクルにザバッとかけてやった。ルクルと巻き添えのカルカンはずぶ濡れだ。
「……なにかな?ワド君?何か不満かな?」
「ワールドン様、酷いにゃ……」
2人から苦情の雰囲気を感じるけど、それはこっちも同じだよ!僕は徹底抗戦の構えで、手を腰に当ててぐっと胸を張る。
「ずっとずぶ濡れな僕はどうなるのさ!」
「快適性が足りないって事かなー?そこはボンに頼んでさー、ラグジュアリー仕様の拡張工事予定だよー」
「ちがっ!……ラグジュアリーってどんなん?」
ハッ!これは釣られたのか!?ラグジュアリーに反応したらルクルがニヤリと笑った。
「泡の出るお風呂と快適空間の寝湯」
「く、屈しないぞ!」
動揺がバレているのか、更にルクルの笑みが深まる。
「アクアウォールとアクアイリュージョン」
「インスタ映えしそう……いやダメだから!」
転写の魔術具で、撮影の楽しさを知ってしまい心が惹かれるけど、女神の黄金の聖水っていう不穏な響きと引き換えは辛い……もう一声!
「ウォータースライダーにウォーターアスレチック」
「よし、分かった条件を飲もう」
僕はプライドをポイッと投げ捨てた。
異世界のレジャーには抗えなかったのさ。プライドとは投げ捨てる物だよ。
昼食は、僕の居住スペースで皆と食べた。僕だけが流れるプールに半身浴な感じ。皆は普通に椅子に座っている。解せぬ。
メニューはリッツの手料理だった。サツマイモのマッシュポテト風と、野ウサギを細かくして焼いた物をまぶして、ライ麦パンに挟んでいる。
うーん、小麦パンの方が合いそう。それと、ゆで卵を潰してまぶした方がいいのかな?胡椒も欲しいかなぁ。
そのまま伝えたら、リッツは必死に聞いていたね。リゼが、午後は料理の勉強をするよう、リッツへ指示をしていた。
んで僕は、午後もずっとずぶ濡れだった。
ボンは外で作業している。リゼが気分転換にと、新しい御香を出してくれたよ。なんか体がポカポカして気持ちよくなった。
「リゼ、この御香いいね。ありがとう」
「~~~~~っ!ワドが好みなら、リゼの時には用意するの」
なんでエリーゼの時には用意してくれないんだろうと疑問を口にしたよ。
「エリーゼの時にも使ってくれないの?」
「……リゼとあの子は香りの好みが全然違うの。それにあの子にはまだ早いの……」
ああ、そういや別人格だと曲の好みも全然違っていたね。香りの好みも違うのは当然なのかも?でもこの香りは凄く気持ちいいなぁ。
「僕はこの香り好きだよ!」
「~~~~~っ!じゃあ、今夜から成分もう少し多めにいれるの」
「うん、よろしくね!」
午後はリゼとお喋りして過ごした。夕飯はリッツがリベンジにきたよ。
「うまっ!」
「やたっ!ルクルのアドバイス効いた!」
リッツは飛び跳ねて喜んでいるよ。僕の指摘に追加でマヨネーズと和からしを入れたみたい。小さく刻んだ歯ごたえコレは……まさか……
「……いぶりがっこ?」
「はい!アクセントに少しだけ!それと生クリームも少し入れました!」
道理で、胡椒のピリッとしたスパイシーさが増しているのに、クリーミーさも増している訳か。
褒め終わったら、リゼはすぐにリッツを退室させた。給仕はマイティが勤めている。
「どうしてリッツを早目に退室させたの?」
「リッツに、この部屋の香りは……まだ早いの」
(ん?アルコール成分でも入ってるのかな?)
確かに酔った時の感覚にも似ている。でも僕の国では10歳から飲酒可能だからいいんだけど?
ま、幼い体ではアルコール摂取を控えた方がよいのは確かだし。リゼの気配りだろうな。
こうやって僕は、水も滴る良いドラゴンを毎日勤めていた。
他の村の改善状況も順調らしいよ?
疑問形なのは、僕が直接視察出来ていないからだよ。
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そろそろ獅子節(8月)って所で来客が来たんだ。
アルとエリーゼが、めっちゃ慌ただしく出迎え準備をしている。アルはともかく、エリーゼがあんなに慌てるなんて何事?
「ねぇ、アル。誰が訪ねてきたん?」
「……私達の父です」
ふぇ!?お父さん!?
僕、こんな濡れ濡れの状態で会って大丈夫かな?
着替えたくてマイティを呼ぼうとしたら、ジャックがお客さんを連れてきた。
(間が悪いよ、ジャック……)
入ってきたお客さんは、白髪になったモーツァルトみたいな髪型のおじさんだった。
なんか貫禄あるなぁ。
「お初にお目にかかります、ワールドン様。ロワイト・ホリターと申します」
金のティーバッグになってしまいました。
最近は撮影が趣味になっているワド。ラグジュアリーな空間への憧れがあるようです。
次回は「先代大公の来訪」です。




