国境林を作る
前回のあらすじ
建国祭と、生まれてはじめての誕生節のお祝いで浮かれているワド。
スパイの動きは一旦放置する事になりました。
建国祭と誕生節のお祝いは無事終了した。
メコソン兵士長の動きは、現時点ですぐに効果が出る動きでは無い。方針としては当面は放置、まずは内政強化に注力する事になったね。
翌日から本格的に動き出す事となりそうだ。
皆が寝静まった後、僕はオルゴールと転写の魔術具の投影を、繰り返し使ってニヤニヤする。皆の笑顔を見ているだけで、幸せな気分になるな。眺めているとすぐに朝になった。
季節は初夏で、だいぶ陽が昇るのが早くなったよ。
朝食をリゼと一緒に食べて、会議の為にルクルの所に向かう。今朝の朝食はリゼが作ったみたい。最近は料理にハマっているようだ。
スープはちょっと変な味したから、まだ修行中ってとこかな?
「朝食どうだった?」
「ゆで卵と、サツマイモのポテトサラダは美味しかったよ」
移動している間にリゼから朝食の質問があったんで、僕は正直に答えた。
「鰻のワイン煮込みと野菜スープはダメだった?」
「ダメじゃ無いけど……少し変な味がしたから、ルクルにレシピ相談してみてよ」
「ん、分かったの」
話しているとすぐに部屋へついた。ノックして入ると全員揃っていたよ。入室と同時にルクルから声がかかる。
「遅かったからー、先にはじめてるよー」
僕とリゼは軽く頷いて、それぞれの席に着く。
「まずは王都を作ろうかー。とは言っても最初は規模が大きな村ってとこだけどねー」
「場所はどこにするのですか?」
「ズバリ!3つの村のちょうど中間点でしょう!」
ルクルとアルが、王都の位置を地図見ながら検討していた話に割り込んで、僕は中間地点を指差す。
「そこには渓谷がありますが……どうするので?」
「そ、それは……」
アルに問われて僕は返答に詰まり、ルクルをとっさに見た。ルクルはニヤリと笑いながら回答する。
「そりゃ、渓谷をすっぽり覆うサイズでの王都を作れば解決さー。渓谷を活かした設計にする前提でねー」
「脇の崖や起伏はどうするのです?」
「ん~?我が国自慢の重機で開墾するのさー」
お、ルクルも同じ所に目をつけていたみたい。アルの質問にも即答だ。自慢の重機の開発も進んでいたとは……やるな(ニヤリ)
「凄いねルクル。いつの間に重機なんて作ってたのさ?僕、聞いてないよ?」
「んー?自慢の重機は今、目の前にいるよー」
「え?どこ?」
ルクルが僕を指差す。周囲も何故か納得の表情だ。
そっか~僕ってば重機だったんか~。
なんか重労働が確定しているっぽい。
「僕が毎日働くんだね。働くクルマなんだね……やるよブラック!」
「いんやー?1日で終わるとおもうけどー?」
どうやら、マナ力場で周辺をまとめて平らにしてしまうらしい。それならすぐに終わるね。そこでアルから待ったがかかった。
「水流の流れが変わってしまい、予期せぬ水害が起こる懸念があります。そちらについては?」
「水路を作るのも大前提だよー。あとさー、温泉も新たに掘り起こしたいねー」
ん?温泉?ルクルは構想をさらに語り続ける。
「火山帯なのと、周辺の水流から推測するにあの辺りでも出ると思うけどー、どうかなー?カルカン君」
アルからの懸念をサラッと流したルクルは、カルカンに話を振る。
「出ますにゃ!マナの流れを読んでピンポイントで当てれますにゃ!」
「ちょっと待って下さいルクル!水路とは?」
常識担当のアルが動揺しているから、この提案は非常識な内容なんだろうね。ルクルは特に気にせず会話を続けた。
「ダフ村とフウカナット村に流す為の、水路を敷く予定なんだよー。アルにも詳細を後で共有するねー」
「……分かりました。仔細は後ほど」
王都の場所が決まったので、次の議題に移る。従者達がお茶を入れ替える為に入室してきた。
従者の1人と目があったので、笑顔で手を振る。今、目があった従者リッツは自ら志願して、従者見習いとなっている。マイティに指導を受けているよ。
見習いになった時に、髪型もツインお団子にしたみたい。マイティの、高めシニヨン団子に憧れていると言っていたね。
お茶の入れ替えで、ハチミツ入りのミルクティーの甘ったるい香りが、部屋中に充満していた。なんか、真面目な話をする雰囲気じゃ無いね。仕方なく議題の順番を入れ替えて、先に食糧の話からする事になったよ。
フウカナット村の農業の今後と、ダフ村とポロッサ村の食糧改善の話になり、ルクルが話を切り出した。
「フウカナット村の水源を追加で確保出来れば、水田を作れると思うんだー。稲苗は猫魔族から、少し譲って貰えるんだってー」
「是非、協力しますにゃ!」
どうやら猫魔族の国では生米からパンを作ったりで、炊飯の考えが無いみたい。なので現時点では使い方を持て余しているようだね。
それよりも、カルカンの食い気味な協力宣言が気になるな。
「カルカンってお米パンそんな好きだったっけ?」
「気合いですにゃ!全力ですにゃ!」
エリーゼの口癖を真似ているカルカンに、リゼが顔を顰めた。
「何をルクルに吹き込まれたの?お魚を手配するからサッサと白状するの」
「日本酒を作るのにゃ!早く飲みたいのにゃ!」
魚を餌にアッサリと釣られたカルカン。日本酒が目的だったのか。猫魔族の国から稲苗が無くならないように注意しなきゃだな。
アルが仕切り直して、別の問題点を告げる。
「ダフ村やポロッサ村の周辺は、起伏が激しく土地も痩せてて農業に向きません」
「それもさー、猫魔族からサツマイモの苗を貰って改善するよー」
ルクルがサツマイモの栽培案を出した。サツマイモは肥料がなくても育つし、平地で無くても栽培可能との事。焼き芋、スイートポテト、大学芋、etc.……
スイーツが充実する未来に涎がでそうになる。
「猫魔族の国は全面協力しますにゃ!」
カルカンの妙なやる気が気になるな。リゼが冷めた目でカルカンに問う。
「で、それはなんのお酒になるの?」
「焼酎ってお酒になるらしいのにゃ!米焼酎、麦焼酎、芋焼酎の飲み比べをルクル氏に提案されたのにゃ!楽しみにゃ!」
既にカルカンは取りこまれ済みだった。
かなり脱線したけど、当初予定していた議題に移ったよ。そう、国防について話をするんだ。
「国境を簡単に越えれるのが課題だよねー」
「ええ、村については出入りを監視できても、領地内への出入りは防げません」
ルクルとアルは課題について話している。僕はそっと挙手して意見したよ。
「国境沿いに竹林を作れば良くない?」
「竹林?何言ってんの……ってそうか……」
ルクルは唇に拳を当てて考え込んだ。
考えがまとまったのか、視線だけあげて僕を見る。
「竹もマナで進化するんだよねー?」
「そらま当然だし」
「竹が進化するなんて、文献でも少ししか事例がないですよ?進化に必要な500年に対し、寿命が足りてないのです」
僕らのやり取りに、アルが一般常識を被せてくる。だけど、そんな常識は僕には無いね。
「僕のマナで強制的に進化させるん!簡単ですぐ終わるんで任せて!」
「じゃー、任せるよー」
大役を任された。僕やったるよ!(ドヤァ)
村人総出で竹苗を国境沿いに埋めて回る。半径約75kmなので、そこそこ大事業だったな。
促進の力は1年くらいに抑えつつ、マナだけは膨大に込めた光のブレスを竹苗に当てていく。
竹は20~30mぐらいに成長し、光輝く竹へと進化していた。最高級のマナ鉱石と同等以上のマナ濃度だ。これなら魔獣も寄れないだろう。
竹林の地面も進化している。思わぬ副産物だったんだけど、生命が上を通ると地面が発光するようになった。
魔獣や動物が近寄らないので、通るのは知能のある人族がほとんどだよ。侵入警報の代わりが勝手に出来てしまったね。
全部、僕の計算さぁ(ドヤァ)
国境林を確認に来ていたルクルにドヤ顔をかましていたら、サラッと流されてしまったよ。
「ちょちょ!もっと僕の功績を褒めてもいいのに!」
「ワールドン様の功績は素晴らしいですわ!偉大ですわ!」
「あーハイハイ、しかし思ったよりも早く出来上がったんで、次の予定が詰まってるんだよー」
国境に数日で巨大な竹林ができた事で、ザグエリやカービルの動きに変化が出ているらしい。ルクルはジャックから細かい報告を受けていた。
どうやら、ワールドン王国への脅威度と、緊急性の見直しが行われたらしく、今後の動きが読みにくいとの事みたいね。
ルクルとジャックは、メコソン兵士長の処分について話し合っているな。出来れば、穏便に済む事を祈りながら、成り行きを見守った。
(あー、なんか面倒だから、カービルにもガツンと言っちゃうとかダメなんかな?)
竹林の地面が警報機代わりになりました。
ワドは全部計算と主張してます。
次回は「採掘場や農作の改善作戦」です。




