はじめての誕生節
前回のあらすじ
建国してすぐにカービルからスパイを送り込まれました。
他の国出身の民と接触時の動きを見る為に、建国祭を催す事になりました。
ジャックと【伝心】で連絡を取る。
『どう?どんな動きがあったん?』
『メコソンはフウカナットの村人に、ワールドン王国の素晴らしさを語っています』
わざわざ良い国と宣伝してくれているって事?
なんにも問題ないじゃん?
僕はジャックへ問題ないと伝えて宴に戻ろうとした。
『問題ないから宴に戻るね』
『お待ち下さい!このままルクル様にもお繋げできますか?』
『できるけど?』
釈然としないまま、ルクルにも【伝心】を繋げる。
ジャックから先ほどの説明がされて、ルクルから警戒を強めるように指示が飛ぶ。
『ジャックさん、知人や親戚へも喧伝するような煽りもしてるかなー?会話の流れはどうですー?』
『はい。知人や親戚にも、ワールドン王国の素晴らしさを理解して貰うべきといった話題になっております』
『ジャックさん、ありがとう。別の動きが出るまで監視続けて下さい』
ジャックは監視に戻った。理解できなかったので、ルクルの近くに行って横にくっついて座る。
僕にも分かるように説明してもらうよ!
「ねぇ、宣伝はいい事だよね?何か問題?」
「んー?分かってなかったか……今は問題だよー」
「解説オナシャス」
「大きく分けて4つの要因があるのねー」
ルクルが語る4つの要因はこんな感じ。
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・フウカナットの周辺の村には知人や親戚が多い。
・ザグエリ王国は重税を敷き村人は困窮している。
・ザグエリ王国とワールドン王国が敵対している。
・後々にポロッサ村へ撒いた噂話が影響してくる。
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更に詳しく教えて貰い、やっと分かってきた。
フウカナットの周辺の村を、ワールドン王国に寝返らせる為の工作らしい。周辺は困窮しているから、今後フウカナット村が裕福になれば、ザグエリ王国を離反してくる流れになるってさ。
離反が相次ぐとザグエリ王国側は面白くない。なので取り返す為の、ちょっかいや工作が増える予想。
それに、ポロッサ村やダフ村としては元ザグエリ領民の比率がどんどん増えると、危機感を持つ懸念が出てくる。正式な帰属がモンアードのままのダフ村はともかく、ポロッサ村は孤立感が強くなる。そこで先日の噂がじわじわ効いてくるって事だと。
説明が回りくどいので単刀直入に聞いた。
「んで、ルクルは何を警戒してるん?カービルの狙いは何なん?」
「ザグエリ王国とワールドン王国の、決定的な決裂と開戦かなー。その為の布石の1つでしかないよー。これから他の策も仕掛けてくるかとー」
僕は首をギギギって感じで、ルクルの方に向けた。
「それってマ?僕は戦争しないよ?」
「したくなくても、そうせざるを得ない状況を作ろうとしてるって訳。ワールドン王国の地盤が固まる前に内部分裂のスキを作って、ザグエリ王国を釣るのー。だから今はマズイんよー」
僕は慌てて立ちあがった。そしたらルクルにガシっと腕を掴まれる。
「ワドー、何する気なのかなー?」
「だって宣伝を止めないと!」
「落ち着けってー、ちゃんと説明するからー」
メコソンの家族が危険なのと、カービル側が別の手段に切り替える可能性があるので、今は泳がせるべきと説明された。
動きが予想できる方が、対策しやすいとの事だ。
まずは内部分裂しない為に、内政基盤を作る事を優先しつつ、カービル工作が裏目に出る様に水面下で対策を進めると説明を受ける。
「任せて大丈夫なんだよね?」
「んー、ワドの力が必要になったら頼るよー。それよりもこれからお祝いだよー?気持ち切り換えてねー」
そうだった。
今夜は誕生節のお祝いもあるんだった。お祝いも2日に分けて開催だよ。今日はリゼとアルのプレゼント、明日がエリーゼとカルカン、それからルクルのプレゼントの予定になっている。
日没になり、灯りがつけられる。松明ではなく灯りの魔術具だ。僕のマナ鉱石が大量にあるので、光の魔術具を使うのは気軽にできる。普通はもったいないから、ランプや蝋燭、松明などを節約して使うんだ。
明かりで照らされてから少しして、皆から口々にお祝いの言葉が述べられる。
「ワールドン様おめでとうございます」
「ワールドン様!これで18歳にゃ!」
「僕は誕生節を迎えたけど17歳なの~」
カルカンが「やっぱり詐称にゃ」と騒いでいる。
アルは無難な言葉だね。でも、嬉しいな。
「ワールドン様、こちらプレゼントです」
アルからのプレゼントだ……なんだろう?
開けてみると、僕が最初に自分で購入した、ミニスカートのワンピースだった。
あれ?以前のよりも生地が良いかも?
「ワールドン様がお気に召していたので、新調しました。これからは夏になりますし、今は重力制御も完璧ですし……その……下着もありますので……」
気に入っていたの覚えていてくれたんだ。心の中で「今度はスカートの中が見えないように注意する」と誓った。
「ワド……これ受け取ってくれる?」
「わぁ、美味しそうな香りだね?なんだろ?」
リゼは怖ず怖ずと近寄ってきてプレゼントを渡してくれる。中にはカルカンの妹から貰った、スイーツに似たお菓子が入っていた。
「お菓子、早速食べていい?」
「ん……食べて欲しいの。そして……初めての誕生節おめでとう」
「ありがとう、嬉しい!」
「~~~~~っ!リゼはちょっとお手水に行くから、詳しくはリッツに聞いてなの!」
そういうとリゼは走り去ってしまった。
ルクルが顔面を片手で抑えながら「やっちゃったかー」と言っているな。
そこへリッツがヒョコっと前に出てきた。
「ワールドン様!誕生節おめでとうございます!そのお菓子はあたしも手伝ったの!」
「そうなんだ、ありがとね。お、これってスイートポテトになってる!」
異世界のスイートポテトだった。カルカン妹から貰ったスイーツとは完成度がまるで違う。
「ルクルからレシピ聞いたの。牛乳、砂糖、塩、卵黄を追加したよ。美味しかった?」
「うん、とても美味しいよ!」
「ありがとう。あとでリゼお姉ちゃんにも伝えるね。それにさっきは、リゼお姉ちゃんが喜ぶ言葉をかけてくれてありがとう!」
(ん?何か特別な事いったっけ?)
僕は首を傾げた。
そしたらリッツが満面の笑顔で、大きく手をあげてジェスチャーする。
「すんごい喜んでたよ!明日はエリーゼお姉ちゃんも絶対にご機嫌だよ!」
「そ、そう?流石は僕だね!(ドヤァ)」
リッツは本当に明るく笑っていた。国民の皆に笑顔でいて欲しいと自然に思えたよ。その日はリッツと楽しくお喋りをした。
夜が明けて、徹夜で飲んでいた呑兵衛組が死屍累々な中、爆音が近付いてくる。
ドドドドドドドドド!
「ワールドン様!ありがとうございます!もう一人のわたくしがあと一歩で、わたくしを頼る所でしたわ!」
「朝から唐突だね。なんなの?」
リッツの言った通り、エリーゼは朝からめちゃご機嫌だった。
今日は昼からかくし芸と、ルクルによるブラインド大会が予定されている。
(カルカンは返事がない屍状態だけど、射撃のかくし芸やれるの?ちなみにかくし芸は僕も参加するよ!)
かくし芸の1番手はボンの3分DIYだ。椅子を作るらしい。3分は無理なんじゃ?と思ったけど、ちゃんと時間ピッタリに作っていた。エリーゼの無茶ぶりをこなし続けているだけはある。
アルの手品は初心者向けのショボい感じだったな。
カルカンは二日酔いで辛そうだったけど、適当に放り投げられた石10個が地面に落ちる前に、射撃で全て撃ち抜いた。
「うぷ……気持ち悪いにゃ……」
その直後に大広間にレインボーリバースが撒かれて、急遽掃除のお時間になったね。
僕も早着替えに挑戦だ。1分間に10回着替える。ペースは良かったんだけど、最後ちょっと間に合わず光ガードに頼った。悔しい。
大トリはエリーゼ。
50m先にある大木を倒す大技だ。
「いきますわ!……真空衝撃波!」
凄まじい爆音と共に、大木は木っ端微塵になったよ。もうなんでもありだなエリーゼは。
ルクルによるブラインド大会ってのは、ビールの麦芽やポップの分量を変えた複数種類から、見た目と味と香りで当てるってゲーム形式だった。
「どれも旨いのにゃ!ぷしゅる~にゃ!」
カルカンは全問外していた。ありゃ酒を飲んでいるだけだわ。ヴェストが全問正解で優勝したな。
日没になり2日目の誕生節のお祝いになった。
「ワールドン様!こちらわたくしとカルカンとボンの合作のプレゼントですわ!」
「開けてみるね」
麻袋に入っていたのは小さな箱だった。そっと開けてみると、音楽が流れてくる。ケタが大ファンな音楽ユニットの騎士の歌だ。
「緑のマナ鉱石を使って、ルクルの前世のオルゴールを作ったにゃ!ボンの匠の技がいきてるにゃ!」
マナ回路をカルカンが担当、曲の提供はエリーゼ、オルゴールとしての仕上げはボンが担当らしい。めちゃくちゃ嬉しい。
「ありがとう、一生大切にするよ」
「~~~~~っ!わたくし、御前失礼しますわ!」
エリーゼが睡眠薬を飲んで倒れた。マイティがそそくさと回収していたよ。エリーゼは、またリゼを頼ったって落ち込むんだろうなぁ。
入れ代わりでルクルがスタスタと歩み寄ってきた。
「俺からはコレだよー!」
突き出された麻袋はジャラジャラと音がする。なんだろう?と開くと光のマナ石が大量に入っていた。
「転写の魔術具で見てみてー!」
言われるままに投影してみる。そこには国民の、作業風景や日常風景が大量にあった。
「マイティさんや他の皆にも協力して貰ったんだー!新しいコレクションになるだろー?」
皆が笑顔だ。僕の見ていない所の皆の様子にウルっと来たよ。僕に新しいコレクションが出来た。
「コレクション取り戻せなかったの気にしてた?」
「そりゃーまあねー!でも、これなら代わりになるだろー?皆の大切な思い出だしさー」
「充分すぎるよ……ありがとうルクル」
それは今の僕にとって最高のプレゼントだった。
はじめての誕生節で浮かれてたワド。
無自覚ですが「ありがとう」「嬉しい!」さらに満面の笑顔の3連鎖コンボで、リゼをKO寸前でした。
それと、新しいコレクションができました。
次回は「国境林を作る」です。




