建国祭
前回のあらすじ
住みやすい国を自前で用意する流れになり、ドラゴン王国が爆誕しました。
物凄い勢いで事態が加速していきます。
さてと、建国したはいいけどノープランだよ。
ルクルやアルと相談して、今後の方針を決めていく必要を感じている。今は方方に散っているので、集まるのは4日に1度くらいだ。
そこへカービル帝国からメコソン兵士長が使者としてやって来た。
「ワールドン様、この度は王国の樹立、誠におめでとうございます。つきましては、私もこの国の一員として受け入れて貰えますか?」
「……うん、いいよ」
メコソン兵士長には、1番目の港町キシガイでお世話になった。お金を持って無かった僕に上納金をくれた優しい人だ。彼は今、スパイとしてここに来ている。
スパイだけど追い返す訳にはいかなかった。
【伝心】で覗いてみたら、彼の家族が人質に取られていたから。
(どうするか早目にルクルに相談かな?)
建国宣言の前日に港町キシガイに挨拶に行った。そこでメコソン兵士長と再会を果たしている。
あ、上納金は全額返したよ。
その時に貴族を紹介して欲しい事を伝えたら、ちょうど港町に来ていたドウエン将軍を紹介されたよ。実に嫌な視線で観察してくる、感じの悪い男だった。
ドウエン将軍は、カービル帝国で四天王と呼ばれている将軍の1人。異世界の四天王だと最初の1人は、だいたい噛ませ犬なんだよね?
だけど、考えている事は厄介だったな。
楔にメコソン兵士長を選ぶのは嫌な手だよ。
ーーーカービル帝国挨拶再現VTRーーー
「こちらが我が帝国の四天王の1人であるドウエン将軍です!」
「メコソン兵士長紹介ありがとう。君がドウエン将軍なんだね!僕はワールドン。建国するので挨拶に来たよ!」
「……はじめましてワールドン様、ヤオシーサ・ドウエンと申します」
(これがザグエリ王国王都を半壊させたという神か。見た目は綺麗な小娘にしか見えん)
「それでね、カービル帝国のポロッサ村を接収するんだ。だから隣国としてよろしくね」
「我が帝国領土を接収ですと?見返りは?」
(この女は何を言っている?いきなり領土侵犯を公言したぞ?)
「見返りかぁ……考えて無かったな。何が欲しい?何を望む?」
「……(交渉可能か?)」
(それほどカービルの領土に固執してないのか?それなら……)
「あ、接収を断るのだけはNGだから、それだとザグエリ王国と同じように見せしめ?ってヤツをやらなきゃならなくて僕はヤだよ」
「……(くっ!)」
(先に釘を刺されたか、だが上手い事取り入って内部からザグエリ王国との確執を広げて行けば……)
「そうですね。陛下とも相談してから回答でも良いでしょうか?」
(ザグエリに退場して貰って、我が帝国が大きく領土拡大できる手がかりにしてやろう)
「僕もそれでいいよ。急な話でごめんね?」
ーーーカービル帝国挨拶再現ENDーーー
終始、僕の強さを見定める視線が注がれて、実に嫌な感じだった。他国との確執を広げる工作員として、メコソン兵士長を選ぶ辺りも陰湿だね。
ひとまずメコソン兵士長には、ポロッサ村の警備の仕事を割り振った。現状ではとても他の村には行かせられないから。
んで、深夜にリゼを乗せてフウカナット村へ飛ぶ。
温泉でメコソン兵士長がスパイだと伝えたら、リゼが今すぐルクルに相談しようと言い出したんだ。真剣な表情だったからすぐに頷いたよ。
「ルクル、起きて……」
「……ん……リゼ!?」
リゼがルクルに顔を近づけて、耳元で囁いて起こした。なんか見ているこっちがドキドキしたよ。ルクルもめちゃ慌てている。
そしてカービル帝国の思惑とスパイの件を話した。
「ひとまずさー、お祭りを開催しよー」
「なんでお祭り?僕、スパイの相談をしてるけど?」
ルクルが椅子をキコキコ鳴らしながら、バランスを取っている。
「その兵士長の家族の為にも暫く泳がせるわけでー、俺らの目があるとこで、全ての村人が集まる口実がいるんだよー」
「なるほどね。最初の接触を見て、カービルの今後のアプローチを予測するのね」
「そゆことー」
なんかルクルとリゼだけで分かり合っているんだけど?
やっぱりなんか嫉妬しちゃうな。
「それにさー」
そう切り出したルクルは椅子を揺らすのをやめて、僕をジッと見据えた。
「建国祭って必要だと思うんだよー。ワドの誕生節のお祝いも兼ねてねー!」
「僕の誕生節!?僕、いつが誕生節か知らないよ?」
「うふふ。新しく国が生まれた誕生節って訳ね。あの子も絶対に喜ぶの。ワドの誕生節をお祝いできるなんて。……ルクル、本当にありがとう」
なんか僕が置いてけぼりで、2人の世界なんだけど?
リゼは両手でルクルの手を包み込んでいるし。
詳しく説明を受けたら、建国宣言した金牛節を僕の誕生節にするらしい。僕、お祝いして貰うの初めてだから凄く嬉しい。
プレゼント貰えるのかな?凄く楽しみなんだけど、おねだりしてもいいのかな?身を乗り出して、早速聞いてみた。
「ねぇ!プレゼントおねだりってしてもいいの?」
「ダメー!プレゼントはサプライズで用意するからー!」
「あら?リゼはおねだりでも嬉しいの」
サプライズかぁ。リゼへのサプライズプレゼントが嬉しそうだったのを思い出した。ああいうのもいいな。
「サプライズでいいよ!楽しみにしてるね!」
その日は、建国祭&誕生節のお祝いの日取りだけを決めて解散となったよ。
翌日の朝一番にエリーゼが突撃してきた。
「ワールドン様!建国祭と誕生節のお祝いについて聞きましたわ!」
「えと、マイティから聞いたの?」
「もう一人のわたくしからですわ!」
そういえば、リゼとエリーゼは何故か、記憶の共有が出来ているんだった。一体どうやっているのか質問しようとしたけど、エリーゼの怒涛の勢いに押され聞けなかったよ。
「ワールドン様!建国祭は2日間開催でお願いしますわ!これは譲れませんわ!」
「え?初年度だから催し物も少ないし、1日だけってルクルの話なんだけど?」
「わたくし、今からルクルを説得してきますわ!全力ですわ!」
ドドドドドドドドド……!
って感じで去って行ったよ。マイティも困惑しているね。
「マイティは付いてかなくて大丈夫なの?」
「はい、ワールドン様の朝御飯の給仕を放り出したら、お嬢様に殺さ……いえ叱られます」
そっか、命は大事にしないと……ね。大切な事だよな。うんうん。
朝食を食べ終えて、お茶を飲んで寛いでいた。そろそろボンの仕事の視察&手伝いに向かおうと思った時に、遠くから地鳴りが聞こえてくる。
ドドドドドドドドド!
え!?早すぎない?まだ1時間ちょっとなんだけど……フウカナット村って往復で100kmはあるよね?
「ワールドン様!ルクルの説得完了ですわ!建国祭は2日間でお願いしますわ!」
「待って、待って……ルクルは許可したの?」
「もう一人のわたくしの為と伝えたら、即答で快諾でしたわ!」
何がなんだか分かんない。
リゼも1日間の開催で納得していたはずだよ?
はぁーエリーゼの行動は謎だから、深く考えても意味無いね。
「分かったよ。2日間お祭りを楽しもう!」
エリーゼはハッスルポーズを決めて喜んでいたよ。
とにかく、国民総出で建国祭への準備が始まった。
ボンは仮住まいだけで無く、僕が運ぶ用の倉庫を運びやすい形&快適に過ごせる建物に作り直した。それから国民全員が余裕で入れる大広間も作った。めちゃ仕事が早いね。
カルカンは猫魔族の商人を通じてマナ鉱石の流通ルートも開拓している。こっちは軌道に乗るまで少し掛りそうだ。
ルクルが作っているビアスタイルはピルスだけではなく、ヴァイツェンやヘイジーの第二弾も完成させた。ボックやスタウトにも手を出し始めているみたい。
ジャックは警備とメコソン兵士長の監視をしている。
今の所は「ザグエリの民がポロッサの利益を盗もうとしてる」って音も葉もない噂を流しているだけだ。
ポロッサ村の食糧事情を支えるのがフウカナット村だから、皆は噂を笑い飛ばしているね。
アルは全体の管理や帳簿なんかをやっているよ。
僕は苦手だから手伝ってあげれないけど頑張れ!
エリーゼとリゼはリッツの勉強を見てあげている。
最初の頃、リッツは別人格のエリーゼ達に驚いていたな。
それでも最近は打ち解けて来たし、ルクルをからかうのが共通の話題になっているみたいだ。
最近、リッツの笑顔が見られるようになって、雰囲気も凄く明るくなった。ルクル曰く明るいリッツが本来の彼女らしいよ。
いよいよ今日から2日間の建国祭だ。
皆が新しいビールのジョッキを持って僕の言葉を待っている。こういう挨拶って初めてで緊張するなぁ。
「えー、本日はお日柄もよく、皆様につきましては毎日一生懸命働いて……」
「長いからカット!じゃあーかんぱーい!」
僕の必死に考えた国民への挨拶を、ルクルが強制キャンセルしたよ!?
ちょっと!そりゃないよルクル!
「だいたいさー、長がつく人の挨拶は長過ぎるんだよー、さっさと飲みたいじゃんー?」
「にゃっにゃにゃっにゃ!」
(くっ!ビール大好きコンビはピルスに夢中だ。話聞いてくれない!)
「アル~。アルなら挨拶の大切さ分かってくれるよね?」
「私はお祭りなので堅苦しくない方が良いと思いますよ?」
アルに絡もうとしたら、スッと避けられた。既に酔っているのか顔が赤い。あ、ワールドン王国では、10歳から飲酒可能な法律にしたよ!
「リゼは分かってくれる?」
「本当にリゼが初日で良かったの?あの子の方が初日に相応しいと思うの」
リゼは自分がお祭りに出てよいのかを、ずっと気にしていた。折角だし楽しんでよ。
エリーゼがリゼの為に2日間にしたいと言った理由がやっと分かった。リゼにお祭りを楽しんで欲しかったんだな。僕もそう思う。もう少しリゼは楽しんでいいんだよ。
お祭りを国民と一緒に楽しんでいたら、ジャックから【伝心】のサインが来た。あーあ、動いたのか。こんな日くらいやめてよね。
膨れっ面で僕は仕方なく【伝心】を繋げた。
メコソン兵士長がスパイとしてやってきました。
ワドの心境としては複雑ですが、人質がいるので仕方なしという感じです。
次回は「はじめての誕生節」です。




