閑話:独占ライブのベストショット
前回のあらすじ
ワドの住処を楽しみにしていたけど、眠ってしまったエリーゼ。
ザグエリと揉めた事と、ワドの為の余興に全力です。
ポロッサ村でワドと過ごした思い出にも触れています。
ep.「旅先の方針相談」~ ep.「物件下見・前編」までのエリーゼ視点となります。
「Dear Elise」
日記はいつもの書き出しから書き始めます。
わたくし、もう一人のわたくしと文通するのが、最近の一番の楽しみですわ!
ワールドン様の住処へお伺いする事になりました。
それをとても楽しみにしているもう一人のわたくしに、住処のご様子をお伝えしようと意気込んでいましたわ。
でも、カルカンのワールドン様に対する不敬な言動に我慢できず、もう一人のわたくしを、頼ってしまいました。
目が醒めた後、どんなお叱りが書かれているか、恐る恐る日記を開いたら、ザグエリ王国と揉めた経緯だけで、ビッシリ埋まっています。
(どうして、ワールドン様が御心を痛めるのでしょうか……)
女神であるワールドン様の、大切な所有物を盗んだのなら、ザグエリ王国は滅ぼされて当然ではありませんか?首を傾げながら続きを読み進めました。
ルクルと結託して、ワールドン様の御心を慰める為の、異世界遊戯の余興を用意すると綴られています。
ワールドン様の御心が一番大切ですもの。わたくしも協力するとお返事を書きました。
ワールドン様は、このバンナ村の人々にも御心を砕いているそうです。……そうだわ!ワールドン様の神像を作ってお祈りできるようにすれば、この村も幸せになりますわ!
もう一人のわたくしも、コッソリ頑張っているのを知っています。わたくしもワールドン様の為に、コッソリ頑張りますわ!
最後にさらりと綴られていた内容に、とても悲しくなりました。
転写の魔術具での撮影を禁止された事と、水浴びを撮影したマナ石が、没収された事が綴られています。
もう一人のわたくしの、唯一の楽しみが禁止されてしまいました。
もう一人のわたくしは、大丈夫でしょうか?
わたくしは心配です。
心配している事を、お返事に書きました。
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眠りから醒めたわたくしが真っ先に行うのは、日記の確認です。もう日課になりましたわ。
(何と言う事でしょう!)
異世界遊戯で優勝すると「ワールドン様がなんでもお願いを聞いてくれる」と綴られています。これは、なんとしても優勝しなければと思いました。
ルクルが優勝した時にはわたくし達の誕生節のお祝いを催して、ワールドン様にプレゼントをおねだりできるようにしてくれる、と追加で綴られています。
最低でもルクルを優勝させる、出来ればわたくしが優勝すると誓って遊戯大会に挑みました。
クラソクという遊戯は、盗人の真似事をする様です。わたくしは不本意でしたけど、やるからには全力ですわ!気合いですわ!
ワールドン様が役になりきって、楽しそうに演技なさっていました。これを撮影して、もう一人のわたくしに見せてあげられないのがとても残念です。
村長はクラソクキューブを麻袋から取り出す役目で参加していました。わたくしは2回も白様にお会いしているので、白マナは直感でわかりますわ!村長が麻袋の中で白マナキューブを掴んだ時だけ、眼力だけで村長に[絶対に引くな]と伝えましたわ!うまく伝わって良かったです。
結果としてはアルフォートに持ってかれましたが、ワールドン様のトップを阻止できたので、及第点ですわ!
アグリコヲは農業や畜産を営みながら、家族を増やしたりする遊びです。もう一人のわたくしが好みそうな遊戯ですわ。村長の協力が得られなかったこの遊戯は、うまく行きませんでした。ですがルクルが優勝しましたわ!
わたくしは日記に、早速プレゼントの希望を書こうとしましたが……その手を止めます。
(折角だから、もう一人のわたくしを驚かせたいですわ!)
そう思い直して遊戯の詳細と、お互いのプレゼント希望はナイショにする提案を書きました。
お返事が楽しみですわ!
眠りから醒めて、すぐに日課の日記確認を行います。ナイショの提案の了承と、既にワールドン様へプレゼント内容をお願いした事が綴られていました。
ワールドン様は快諾してくれたとの事です。わたくしにも楽しみにしているようにと綴られていました。
一体どんなプレゼントをおねだりしたのでしょう?楽しみですわ!
わたくしはワールドン様に転写の魔術具での撮影許可と、没収したマナ石を返して貰う事をお願いしました。何度も何度も断られました。でも諦めません。気合いですわ!
(もう一人のわたくしに、心からのプレゼントを贈るのですわ!)
プレゼントのおねだりの事を伏せて、もう一人のわたくしにうまくいかない事を相談しましたら、「ルクルに頼りなさい」という、もう一人のわたくしから助言を貰い、行動に移しました。
ルクルからの提案でわたくしへの他の方のプレゼントは、わたくしのお願いへの協力にするアドバイスを貰ったのです。
協力を得て何日も全力でお願いして、やっとワールドン様にお願いを聞き入れて貰えました。ルクルには感謝しましたわ。
途中の日記では、ワールドン様に無理なお願いをしていないか、心配するお小言が綴られています。わたくしはその度に、問題ありませんとお返事しました。
ワールドン様は一生懸命お願いしたら、絶対に叶えてくれると信じていました。
やっぱり、ワールドン様は素晴らしい御方ですわ!
そうして、2人で誕生節のお祝いが楽しみな事を、毎日綴っていました。
誕生節のお祝いの日が決まりました。わたくしが起きる予定日です。日記に、もう一人のわたくしからの提案で、日取りが決まった事が綴られています。
わたくしの為に我慢したのでしょうか?
それとも楽しい誕生節のお祝いに、自分を抑えられる自信が無かったのでしょうか?
わたくしはお返事に、理由の催促を書いて眠りにつきました。
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今日はわたくしの誕生節のお祝いです。
もう一人のわたくしからお返事がきています。わたくしに楽しんで欲しいと綴られていました。
理由の質問には、何も触られていません。
わたくしは涙が抑えられませんでした。
もう一人のわたくしは自分を押し殺して、ワールドン様とのお祝いをわたくしに譲った事を理解してしまいましたから。理由を書かなかったのではなく、書けなかったのだと分かってしまったから。
(どうにかして、もう一人のわたくしにも幸せのお裾分けを出来ないかしら?)
お裾分けを考えていたらあっという間に時間が過ぎて、お祝いの宴が始まりました。
ワールドン様に撮影の許可を貰えたので、マイティにたくさん撮影するように指示します。少しでも、もう一人のわたくしへ贈り物をしたくて、わたくしは張り切りました。
もう一人のわたくしと、ワールドン様からのサプライズで、歌をプレゼントされました。わたくしから先に聞かせてあげるように言われたそうです。
わたくし幸せです。もう一人のわたくしにも幸せになって欲しいですわ!
ワールドン様の歌が終わり、歓談が始まったのを見計らって、ルクルに近付いて相談しました。
「ルクル、もう一人のわたくしの為に協力して下さいませ」
「エリーゼ様、近いです……」
なにやらルクルが、顔を赤くして遠ざかろうとしますが逃がしませんわ!
「ナイショ話をするのに離れては出来ませんわ!」
「ナイショなら声を抑えて……」
わたくしは逃さないようにルクルの二の腕を掴みつつ、顔を近づけて相談します。
「もう一人のわたくしを喜ばせたいのです。何か妙案を考えなさい」
「……歌のお返しですか?」
わたくしは頷きます。ルクルは察しがよくて話が早いですわ。少し考えて、ルクルがわたくしに耳打ちしました。
(素晴らしい案ですわ!)
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わたくしは早速ワールドン様に、お願いを申し上げに行きました。
「ワールドン様!もう一人のわたくしへのリサイタルですが、もう一人のわたくしの為だけの独り占めライブでお願い致しますわ!」
「え!?何それ?」
混乱なさったワールドン様へ、ルクルが補足説明をしてくれて本当に助かりました。
ほんの一時でも、もう一人のわたくしがワールドン様を独り占めする時間をプレゼント出来たら……嬉しいですわ。
わたくしは今日の日記に宴の詳細を書いて、プレゼントが嬉しかった事と、明日のプレゼントを楽しんで欲しい事を書きました。お返事が待ち遠しいです。
そしてお返事を頂きました。弾むような字です。嬉しかったのが伝わってきます。わたくしは自分の事のように喜びました。
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それから、色んな国への旅が始まります。
わたくしはポロッサ村で、マイティに香油マッサージを受けているワールドン様をコッソリ撮影しました。もう一人のわたくしだと「警戒されて良い撮影が出来ない」との事なのです。わたくし頑張りますわ!全力ですわ!
油断しきっているワールドン様を、色んな角度から撮影しました。かなり良いアングルで撮れたので、今回のマナ石も大量です。もう一人のわたくしが喜ぶ姿を想像しながら、秘密箱にそれを仕舞いました。
お返事には感謝が綴られていましたわ。
それに合わせて、もう一人のわたくしが使っている御香と、香油は絶対に使わないよう注意書きがされています。
きっと、お気に入りなのでしょう。
もう一人のわたくしが大切に使っている姿を想像して、少し嬉しくなります。
(それにしても良いですわ!)
マイティが撮影したワールドン様と、もう一人のわたくしの姿は素晴らしいですわ。独り占めライブの時の映像です。ワールドン様の少し照れたような笑顔と、もう一人のわたくしの幸せな笑顔が、一緒に映っています。
わたくしのお気に入りのベストショットですわ!マイティを褒めてあげましょう。
わたくし、嬉しくて何度も見返してしまいます。こういう映像をもっと撮りたいと思いました。
さぁ!今日も良いアングルで撮影頑張りますわ!
リアルラックですから。不正は無かった……いいね?
ポロッサ村で撮影できた事については、次回の閑話で触れています。
次回はポポロ視点の「閑話:浴場持ち込みと必死の説得」です。




