ドラゴン建国する
前回のあらすじ
建国の為に、引っ越しを行って、ポロッサ村に移動してきたワド達。
建国に向けて、周囲の村の説得に動き始めます。
『ではまたな!』
緑はカルカンの招待状を貰って去っていった。
カルカンは仕切りに【土下座】だけはしないで欲しいと懇願していたけど、緑には意味が全く伝わっていなかったよ。そりゃ他のドラゴンは【土下座】なんか知らないさ。
ボンの指揮の下、急ピッチで仮住まいが作られている最中だ。
エリーゼが無茶を言っていないか聞いてみる。
「お嬢の命令の中じゃ、3日で仕上げろなんてぬるいほうでさぁ~」
3日間の徹夜作業がぬるいなんて……いくらなんでもさ、ブラックすぎひん?
でも「数ヶ月単位で徹夜出来るお嬢には敵わない」と笑って語るボンは、立派なブラック戦士。所謂社畜だったよ。比較基準が、絶対にオカシイと思ったね。
今日はダフ村にも訪れた。既にモンアード君から通達を受けているらしい。
「領主様が信頼されているワールドン様であれば、儂らも安心ですじゃ。よろしくお願いいたします」
そう言って、村長のスタチオさんは深く頭を下げた。うんうん。上手くやっていけそうで何より。
鉱山が近いダフ村の男衆は、屈強な体付きをしていたね。ボンと筋肉会話が出来そう、と思ってしまった。
「効率良く、良質なマナ鉱石を確保するのにゃ!」
マナの目利きが確かな、カルカンは張り切っていたよ。
ダフ村の指揮をカルカンに任せて、僕はフウカナット村に移動する。
村長のバギャさんにワールドンと名乗り、ここを治める為にザグエリ王国から接収すると伝えたよ。マナは多めに放出しての初対面だ。
「指名手配犯が、ワールドン様のような女神様やったとは……」
上手く女神と信じさせて、信用させる事が出来たみたい。他国との小競り合いを無くす事と、税の緩和を伝えたら大喜びで受け入れてくれたよ。
「ミカド陛下……いやもう陛下やないな。ミカドのクソ野郎にはホトホトうんざりしてたんや。有り難くワールドン様の下に降りますわ」
クラッツという青年を始めとして、非常に協力的だったよ。村人の説得に動いてくれている。
それに、フウカナット村の畑は広大だった。
穀倉地帯とは凄いものだね。見渡す限りの麦畑が広がっている。
ルクルを始めとした【旨いビール造り部隊】が怪しい笑みを浮かべていた。
(ビールが特産になりそうだね!)
「おいおい、チャレンジャーにネルソンソーヴィン、ハラタウはミッテルフリューだけじゃなくてトラディションもあるぞー」
「サー、ルクル!それはなんですか!?」
「ふふふ、ふふふ……ふふふふふふ」
あ、なんかルクルが壊れている。大量にホップを見つけて、大望のハラタウを発見でテンションが何かオカシイよ?ピルス作る気満々だろうね。
ポロッサ村に戻った時には、夜になっていた。リゼとマイティとで温泉に浸かったよ。最近の香油はほんと気持ち良くって、マイティにマッサージされながら思わず寝ちゃいそうだった。危ない危ない。
(僕、寝ちゃうと年単位で起きないから)
リゼに提案されて、香油の体の芯がポカポカする成分比率をあげてみたよ。凄く体が温まるので、これで寝ないで済みそうだね。御香も焚いていて、その香りもなんか良いんだ。
それを伝えたら、リゼは凄く喜んでいたな。リゼが一緒の時だけ御香を焚いてくれるってさ。有り難いね。
翌日、エリーゼと一緒に、ポロッサ村の説得に乗り出した。宿の女将さんが温泉組合の人達を、村の広場に集めてくれたよ。
「というわけで、この村を僕の国として治める事にしたんだ。悪いけど協力してくれるかな?」
「しかし、我々は帝国臣民として……」
組合の青年が反論しようとした瞬間、突風が吹き荒れて青年が飛ばされた。
隣でエリーゼが、正拳突き残心を決めている。
「ワールドン様の御言葉には、是とより早い是しかありませんわ!どうすれば、より良くお仕えできるかのみを考えるのですわ!」
「エリーゼ、物理での説得はダメだよ?」
「わたくし、殴ってませんわ!風しか当たってないので、これは寸止めですわ!」
あくまで寸止めと言い張るエリーゼ。だけど人が10mくらい飛ばされるのは、寸止めと違うと思うの。
「ちゃんと反対意見も等しく取り上げて、民主主義として……って聞いてる?」
「わたくしがワールドン様の御言葉を聞き逃すなんて有り得ませんわ!お任せ下さいませ!否を唱える前にちゃんと消しますわ!だから反対意見は存在しませんわ!」
ぎゃーーー!既に暴走状態だよ。
僕が必死にエリーゼを宥めていたら、温泉組合の面々が、全員地面に平服していた。
(なんで?)
「ワールドン様にお仕えさせて下さい。こんな私達を大切に扱おうとする神様に、お仕えする事が出来て光栄で御座います。これから、宜しくお願い致します」
エリーゼの暴走を止めようとした言葉の数々に、感動したらしい。
(僕、何を言ったっけ?)
必死だったんで何言ったか憶えて無いよ。
その後、アルと合流して、今後の方針を話す。
「色々と足りないものが多いですが、それぞれの村を基盤として発展させていく方針で良いでしょうか?」
「それでOKだよ!いまボンが建てている住居も仮住まいだし。当面は、今の生活の延長上として行こう」
アルの提案をすぐに快諾した。まだ王都とか、作れる余裕無いしね。
「後でルクルとも相談しますが、穀倉地帯の責任者は誰にする予定ですか?」
この質問は予想していたよ。
ルクルは責任者をやりたがりそうだけど、国の事をやって貰わないと困るから。
「クラッツを農林省大臣にして、補佐にバギャをつけようと思ってる。人手が足りなければ、ヴェスト達も回そうかなと。どうかな?」
村長のバギャでは無く、その息子のクラッツにしようと提案した。クラッツは20歳と若いが、その分新しい事に対しての柔軟性がある。村長のバギャが補佐すれば、経験不足も補えるだろう。
「確かに……新しい風を取り込める人材が良いので、適任ですね。鉱山はどうですか?」
お、合格点を貰えたみたい。顔がニヤけそうになるのを我慢しつつ、鉱山の責任者を考える。
誰を選んでもメリット・デメリットがあるなぁ。どうしよ?
迷ったけど、自信たっぷりに言い放つ。
「鉱山は村長のスタチオに、責任者をやって貰うよ。若さや体力は、周囲が補って協力すれば良いと思う。当面は、今までの体制を維持でいこう」
「はい、私もそれが最も無難と考えています。変革が必要になった際に、代替わりを行えば良いかと」
おお、アルと同じ意見という事は、常識的な意見って事だね。アルが補足してくれたよ。ダフ村の住民は、成り上がる意欲が高い人が多いらしい。なので村長以外で誰かを抜擢すると、いざこざに発展する懸念があったんだと。
(そういうことは先に教えてよね!)
昼過ぎに、ルクルやカルカン達と合流する。
ポロッサ村は温泉組合に代表任命を委ねて、僕らは他国への布告について協議したよ。
「メイジー王国側への周知に関しては、モンアード殿に任せるとしても、他の諸外国への周知はどのように行うお考えでしょうか?」
「ワドー、カービル帝国の知り合いはいないのー?」
正直な所、知り合いと言うほどに、見知った関係の人はいない。でもそういや、1番目の港町の兵士長は顔は憶えている。僕が不安そうな顔をする訳にはいかないので、自信たっぷりな表情で笑みを浮かべたよ。
「うん、知り合いはいるよ!ちょっと挨拶してくる」
「それは貴族でしょうか?よろしければお名前をお聞かせ下さい」
アルから知り合いの名前を聞かれたよ。さ、流石に憶えて無いぞ……とりあえず役職だけで、後は知ったかで押し切ろう。
「名前は聞いてないけど、兵士長だと言ってたね。前線の港町にいる兵士長だから、彼に貴族の知り合いもいるよ!(多分)」
「そこまで自信がお在りでしたら、お任せ致します」
僕の虚勢はバレずに乗り切れたね。渾身の知ったか&ドヤ顔で何とか誤魔化せたみたい。アルの説得には成功したよ。
「他の国への通達は後々にするしかないかー。ま、しょうが無いよなー」
「ん?伝心で良くない?」
なんかルクルが「なに言ってんだコイツ?」みたいな表情している。肩を竦めて、軽めのお手上げポーズをしながら、うんざり気味にため息を吐いた。
「はーーー、あのさーワド。一国ずつ回って伝心してたら期間がかかるだろー?だから順番に少しずつ通達するしか無いって話してんの。わかるー?」
「世界中の、全ての生物に向けて、伝心すれば一回で済むじゃん?なんでわざわざ一国ずつ回るのさ?」
「ふぇ!?」
驚いたルクルが、後ずさってコケ、尻餅をつく。
(そんなに驚く事?)
「そんな事できんのー?マジでー?」
「そりゃ出来るよ。伝心って元々そういう用途だし」
本来、【伝心】は神託として、多種多様な生物にイメージを共有するものだ。なので、言語に関係なくどんな生物にも伝わる。神託として使う機会があまりに無さ過ぎて、亜神同士のやりとりでしか、使われて無かった。
「直接関係する領地以外は、伝心での神託で済ませちゃうね!」
皆がポカーンとした顔をしている。
やっぱりちゃんと菓子折り持って、挨拶に行ったほうがよいかな?
「ワールドン様!挨拶など不要ですわ!神託を有り難く受け取り、粛々と従うのが当然ですわ!」
「スケールがデカいのにゃ!」
相変わらずエリーゼは僕の心を読むのね。
ま、神託だけでOKっぽいので、それで楽しようっと。そうと決まれば早速行動だ。
接収した国への最低限の連絡を済ませ、僕や領土のイメージ共有込みで【伝心】を最大出力で行う。
『この世界に生きる全てのものに伝える。僕の名はワールドン。光の一柱である。神の名の下に、ワールドン王国の建国を表明する。僕の領土や民に手を出すものには天罰を降す。……心に刻め』
神託を行った。
神託により建国が宣言され、ここにワールドン王国が爆誕した。
王国が爆誕しました。
伝心を気軽に普段使いしてますが、本来は神託として使うものなのです。
6章「悠久のドラゴンは自国を建国する」の本編はここまで。
今回の別キャラ視点の閑話は4話予定です。
・ザグエリ王国の宰相ベコウ・ストロー視点
・誕生節のお祝い等を描写したエリーゼ視点
・ポロッサ村の温泉組合の若旦那ポポロ視点
・ルマンドの父親ロワイト・ホリター視点
となります。
本編だと見えない部分を描いています。
次回はベコウ・ストロー視点の「閑話:神罰と新たなる国策」です。
※色でのキャラ呼称の補足
本作の最高位ドラゴンの7柱は色で呼ばれています。
金、銀、白、黒、赤、緑、青、となります。
特にドラゴン達は敬称も付けずに色で呼び合っているので、唐突に色だけの呼称で出てくる事もあります。
分かりづらくて申し訳ないです。




