ドラゴン引越センター
前回のあらすじ
候補地に迷っていたワドは領主モンアードに相談します。
そして、領主モンアードの提案で、建国予定地の目処が立ちました。
いよいよ建国が、間近に迫ってきました。
「カービル帝国とメイジー王国、そしてザグエリ王国の国境沿いの村を、まとめて取り込むよ!」
翌日の朝御飯を終えて、皆でお茶している時に僕は告げた。
アルだけは、慌てた様子で聞き返して来たよ。
「ワールドン様、本気ですか?3ヵ国と揉める懸念があります。それにモンアード領土を貰い受けるのは、領主の意向でしょうか?」
「うん。モンアード君から、契約書も貰ってるよ!」
アルも昨夜のルクルと同じように不審がって、契約書を見せて欲しいと言い出した。
それをエリーゼが、ピシャリと一言で黙らせる。
「ワールドン様がお決めになった事は、全てが是ですわ!アルフォート、女神様のご意向に、異を唱えるのは許しませんわ!」
「……姉上、確かに失言でした……」
アルも納得してくれたようだ。
再び視線を僕に戻した時には、迷いが消えていたよ。
「それに一帯を統治下に置くので、バンナ村のビール醸造所までも徒歩圏内になるんだ。ザグエリ王国のフウカナット村は、穀倉地帯で麦作りも盛んらしいし、ビール作りも忙しくなると思う」
この情報に最も喜んでいたのはカルカンだ。
にゃっにゃにゃっにゃと、はしゃいでいる。以前のビールが無くなった時から、恋しがっていたからね。
皆が口々に、今後について話していたのが一段落するまで、僕は無言で待った。皆が、不思議そうに僕を見つめてから重大発表をする。
「国土交通省を設立するね。国土交通大臣にはボンを指名するよ!必要な資材や人材は、エリーゼや村の人達と相談してね。あ、重い資材は僕が運ぶね!」
「ええー!?あ、あっしですか!?」
ボンは自分を指さして確認してきた。
顔には「そんな大役無理です」と書いてあるくらいに、驚きが見て取れる。だけど、ボドゲ作成と神像作成で見せた、高い技術を眠らせて置く気はサラサラ無いよ?
「君が適任だし、君にしか頼めないんだ。勿論、やってくれるよね?」
「勿論ですわ!ボンが全力で頑張りますわ!気合いですわ!」
ボンに語りかけたけど、何故かエリーゼが快諾の返事をした。エリーゼには逆らえないらしく「そ、そっすね。頑張りやす」と力無くボンが言っていたね。
(ほんと頼むよ!)
さぁ引っ越し先が決まったから早速移動するぞ。
ヴェストやソルティーバさんに退去の挨拶を済ませに行く。そしたらヴェストを始めとした若い人達が、僕について行きたいと言い出した。
「この村にも若い人出は必要でしょ?迷惑をかける気はないんだ」
「ここに居ても何も出来やしないし、ワールドン様に付いてってザグエリ王国のヤロウ共と、ドンパチ出来る方が絶対に楽しそうですから、俺は行きますよ!」
ヴェストは付いて来る気満々だ。
僕は村長のソルティーバさんに慌てて謝罪する。
「ええんですよ。ワールドン様。若いもんにこの村は退屈でしょう。ここの領主のキャンメル伯爵様には申し訳ないですが……」
「ありがとう、ソルティーバさん」
僕はキャンメル伯爵宛に、手紙を一通用意した。
書いたのは、字が綺麗なマイティだけど。マナ鉱石を幾つか譲る事と、困った事があれば助力するので、相談して欲しい旨を伝える内容だ。
それをソルティーバさんに預けた。
ヴェスト含めて、3人が来てくれる事になったよ。肉体労働が得意そうな彼らを、ボンの部下につけた。
「それじゃあ、出発するぞ!」
「「「いざ!旨いビールの元へ!」」」
「にゃっにゃにゃっにゃ!」
ヴェスト達はビール目的だったんか。今気付いた。
なんか格好良い事を言っていたけど、本音はそれかい!
僕は呆れながらも、ドラゴン形態にメタモルフォーゼする。今はどの角度でも大丈夫。光ガードも、最小限で完璧に隠せるように、洗練されて来たのさ!
(倉庫も人数増えると手狭だよね?)
新しい移動手段も考えないといけないなと思いつつ、僕はゆっくりと飛んだ。倉庫をシェイクしないように、慎重に高度を上げる。
ブールボン王国が遠くに見える。雪が無いのが不思議な気分だ。白羊節もそろそろ終わりの時期なのを実感していた。折角なので、ブールボン王国の近くを通るルートで行く事にする。
(おおぉう、確かに印象変わるね)
王宮は青をベースとした色で、所々に赤が使われている。遠目には紫の斑模様がある青い王宮だよ。雪化粧されたウエディングケーキの印象からは、ガラリと雰囲気が変わっていたね。
ブールボン王国とザグエリ王国を隔てる、山脈の上空までやってきた。
おっと、影が薄いから見落とす所だったよ。
『やぁまた会ったね!』
『おう!なんだ?またその荷物を持ってるのか?』
緑と再開したよ。やっぱりこの辺にいるみたいだ。
前回会った時も倉庫を運んでいたっけ?
僕は国を作る意向を伝えた。
『そうそう、僕はね、人の国を作るんだ!』
『は?何故ドラゴンが人の国を作るんだ?』
『それがさぁ、成り行きなんだよね』
緑は僕が人の国を作ると言う事が、心底理解できないって感じだったね。ザグエリ王国との確執も含めて、色々と説明した。けど、緑は既に興味を無くしている。
『ふーん……ま、あの煙を出す乗り物を、作らないならいいけど?』
『あ、それなら僕に良い案があるんだ。煙を大量に減らせるかもだよ?』
周囲に暴風が吹き荒れた。
明らかに興奮しているね。緑の興味を惹くことは、バッチリ出来たみたいだ。
『そ、そうか!何か協力できる事はあるか?』
『そうだなぁ、マナ鉱石を譲ってくれないかな?』
『そんな事で良いのか?大量にやるぞ』
僕は緑に大量のマナ鉱石を、譲って貰う約束を取り付けた。皆を運んだら、すぐに受け取りにこなくっちゃ。引っ越しは結構忙しいな。
更に数日かけて、カービル帝国のポロッサ村までやってきた。着いたのは日没後だよ。倉庫を空き地に置いて、皆に後の事を頼む。
「ワドー、俺ら置いてどこ行くんだよー?」
「緑の最上級マナ鉱石を、大量ゲット出来るチャンスなんだよ!邪魔しないで!」
僕の言葉に、カルカンとアルは凄い反応をした。
「緑の最上級マナ鉱石ですか?文献で見た程度しか、存在を確認出来ない希少なものですが……」
「そんな凄いの逃す手はないにゃ!ワールドン様、ここは私に任せて先にいくにゃ!」
あ、カルカンに言ってみたいと思っていた異世界セリフ「ここは俺に任せて先に行け」を、先に言われてしまった。
(悔しい。いつか言おうと思ってたのにぃぃ!)
それに僕の光の最上級マナ鉱石よりも、遥かに希少価値が高いらしい緑に、少し嫉妬した。いや、ほんと少しだよ?緑は肉眼で見えないから、住処が見つからないらしいんだ。珍しいから希少価値が高いらしい。
風の力を多く使える緑のマナ鉱石は、需要がめちゃくちゃ高いと思う。だからこれは先行投資なのだ。
気球や飛行機などの、乗り物も可能になるかも知れない。そしたら汽車も減るはずだよね?可能性はあるさ。
(僕、嘘はついてない!)
自分自身への言い訳を済ませてから、緑に会いに山脈の上空へ来たのさ。
『こっちだ!』
緑に案内されて、彼の住処に行ったよ。こ、こんな隠し部屋みたいなのが合ったんか……羨ましい。
緑の住処は、山脈で特に高い山の、断崖絶壁の所にあった。雪解け水で滝が出来ている。眼下の崖下には大穴があり、人がとても辿り着けそうに無いよ。
滝のカーテンを潜り抜けると、巨大な横穴があったんだ。直径150mくらいかな?こりゃ見つからないわ。
緑としては、滝が匂いシャッターのつもりみたい。
『住処を少し広くしたかったから、ちょうど良かったぞ!』
緑と僕が住処に入って、大量のマナ鉱石を運ぶには手狭だった。なので僕は人形態に変化したよ。
『な、なんだそれは!?』
『お?驚いたかい?猫魔族に教えて貰ったんだよ。ふふん(心のドヤァ)』
『教えろ!』
緑が教えろとしつこくてさ、猫魔族の国の場所を教えたよ。ちゃんと、離れた場所に降りるように、注意もしたのさ。
(ま、緑なら迷惑かけないでしょ)
強力なマナ力場を使って、大量のマナ鉱石を運ぶ。
入口も直径200mくらいに広がったかな?リフォームできて良かったじゃん。
緑は、引っ越し先まで運ぶのを手伝ってくれた。
その間は、緑のお喋りという名の愚痴に付き合ったよ。
『でな、面白い所を見つけても巨体が邪魔で入れないだろ?小さければ入ってみたい隠れ家候補がな……』
『あー、確かに。小さくないと出来ない事多いね』
『だろ?色々やりたい事あるんだ!どうしてそんな便利なのを教えてくれなかったんだ!ズルいぞ!』
『いや、緑が人形態に興味を持ってるって始めて知ったし?』
『人形態には興味ない!小さくなれるのがいいんだ!もっと早く知りたかったぞ!』
小さくなりたかったみたい。実際に見たことあるものに変化出来ると伝えたら、非常に喜んでいたよ。
再びポロッサ村に着いたら、カルカン達が引っ越し作業を中断し平服していたので、一体どうしたのかを聞いてみた。
「こちらにおわすのは、風の一柱であるインビジブルドラゴン様で在らせられる。頭が高いのは失礼にあたります。……にゃ!」
(だってさ!)
おい!僕も光の一柱なんだけど?扱いの差がなんだかさ……酷くない?
緑はワドと、ほぼ同じくらいの大きさです。
荷物をマナ力場で浮かせる為に、マナが濃くなってるので、村ではかろうじて見えてます。
次回は「ドラゴン建国する」です。
※色でのキャラ呼称の補足
本作の最高位ドラゴンの7柱は色で呼ばれています。
金、銀、白、黒、赤、緑、青、となります。
特にドラゴン達は敬称も付けずに色で呼び合っているので、唐突に色だけの呼称で出てくる事もあります。
分かりづらくて申し訳ないです。




