不動産相談
前回のあらすじ
建国の為に、世界中の候補地を巡りました。
そして、皆で候補地の協議を行う事に……。
「さてと、まずは候補を整理しようかー」
そんな風にルクルは切り出した。
僕も改めて候補を整理してみる。今回は季節の変わり目だった事もあって、冬と春の生活感を体験出来たのも良かったな。
カービル帝国のポロッサ村とシオトベ村は、温泉がとても魅力的だった。逆に言うと温泉以外は何も魅力が無くて、立地的にはかなり悪いね。紛争が絶えない点はかなりのデメリットだろう。
ゼイノフル連合国のカイナ諸島、そこにあったキスイブ村は孤島であるのと、村や連合国の人々が親切な点が良かった。欠点は冬は極寒である事と、隣国との接点が少ない事だ。世界情勢には疎いように思う。
モナリーガ王国のチマタ村は畜産業が良かった。
僕の目指すスイーツも牛乳は多く合ったほうが良いので、その点は高く評価できる。ただ、閉鎖的な村の雰囲気はともかく、雨が多い気候だけはいかんともし難い。僕は白や緑と違って、天候に影響を与える事は出来ないので、雨と湿気に付き合う覚悟が必要だね。
トーハト王国のロイクブーケ村は、村人がザグエリ王国を好いていないので、国際指名手配である僕らに好意的且つ協力的だった。
問題点としては産業が麻や絹を使った織物メインである事と、そのままでは地形が悪く、農業も畜産も向かない点かな。
ザビケット自治区とパウス王国は、僕の判断で選ばないと既に決めていた。
メイジー王国とブールボン王国は、モンアード君やルマンド君に迷惑をかけないように除外している。
指名手配されているザグエリ王国も除外対象だ。
海洋資源や鉄道は、価値が高く揉めるリスクが高い為に、港町や漁村は今回対象外としている。カルカンは海の魚が手に入りにくい事を嘆いていたよ。強いて言えば、ゼイノフル連合国でも魚は捕れるだろう。但し、冬場は漁師も漁に出ないとの事だ。海の魔獣に遭遇した際の生存率は、冬場だとほぼ0%だと聞いた。
「ワドー、どこかに決めれたかなー?」
ルクルから質問を向けられる。皆の視線が僕に集まるけれど、まだ決めかねていた。
「どこも一長一短なので、皆の意見も聞きたいな」
僕は一旦回答を保留した。
最初に意見を出したのは、意外にもリッツだった。
「あたしはチマタ村がいいと思う……」
リッツは元奴隷と言う事もあってか、あまり自分から意見はしない少女だった。
まだ、ルクル以外には打ち解けて無いと思う。
「そう思った理由を聞かせてくれる?」
「……村が拒絶してる雰囲気があったから、この村よりは気が楽だったの……」
確かにリッツは2つの村にしか関わっていない。
この村は過干渉気味で、人を避けているリッツの意見としては納得できた。
そこにルクルが挙手し、発言してくる。
「俺はチマタ村だけNGかなー。他はどこでもやってけると思うしー」
「私もチマタ村だけは、候補から外しています」
アルも賛同して、チマタ村の反対票が2票入った。
理由としては、僕が人との交流を重視しているから、最も相応しくないと言っていたね。
(でも、リッツの人嫌いを治したいからだろうな)
ルクルはリッツが他の人に、馴染めないのを気にしていた。そのリハビリとしての理由の方が、大きいように感じたね。
「カルカンとリゼはどう?」
僕が2人に意見を求めると、2人ともゼイノフル連合国以外と答えた。
リゼは既に、エリーゼと相談済みとの事だったよ。リゼ&エリーゼは冬場にお風呂が無いのは嫌だとさ。
カルカンは寒いのが辛いと言っていた。
皆の意見が出たので、また僕の番が戻ってきたよ。
「ワドー、どうなのー?」
「僕は……決めかねてる」
今までの意見を総合すると、消去法でカービル帝国になるのだけれど……そんな消極的な理由で、皆の今後を左右する決断は躊躇われた。
少し視線を落としていた僕の目の前にきたカルカンが、見上げながら僕に告げる。
「ワールドン様、迷ってるのならモンアード様やルマンド様に相談してみてはどうですにゃ?迷惑をかけないのと、関わりを持たないのは別ですにゃ」
僕はカルカンの一言に、目から鱗が落ちるとはこの事だと思ったよ。ま、実際は目に鱗は無いし、僕の鱗はカルカンが売り捌いて、酒代にしそうだけどさ。
ポロッサ村を選んだら、隣接する事になるモンアード君に相談してみようと思った。
そうと決まれば、港町モンアードへと僕だけで向かったよ。
今回も不在だったので訪問理由を伝えた所、1日だけ待たされた。翌日に再度訪問し、モンアード君に悩みをぶち撒けたよ。少し考えてからモンアード君は答えてくれた。
「ワールドン様、それでしたらご提案が御座います」
「聞かせてくれる?」
僕に対して、いつも誠実に対応してくれるモンアード君なら、僕に悪い提案は絶対にしないと思う。だから素直に意見を聞いてみた。
「カービル帝国のポロッサ村と合わせて、モンアード領のダフ村とザグエリ王国のフウカナット村を、一緒に取り込んでは如何でしょう?」
「え!?……どうして?」
僕は提案内容に驚いた。特に自領の資源豊富な村を、手放す話には目を丸くしてしまったよ。
提案理由がとても気になったね。
「カービル帝国からだけ接収すると、無用な反発を生むでしょう。隣接する国から等分に接収する方が、特定の国にだけ迷惑をかけている印象を緩和できます」
「なるほど」
提案された村は徒歩で行き来できる距離だ。
まとめて取り込む事の利点を、モンアード君に補足説明して貰ったよ。
「元々、険悪な関係であるザグエリ王国を、無理に避ける事も無いでしょう。まとめて収める事で紛争を無くす事が出来れば、村々にも恩恵が大きいです。ワールドン様の存在があれば抑止力となり、小競り合いの紛争は無くなると思われます」
「ふむふむ、続けてくれる?」
紛争が無くなれば、村から好意的に迎えて貰えるのは想像がつくよ。ルクルやアルが言っていた、抑止力の効果もあるのだろうね。
「緩衝地帯としての王国を、作られれば宜しいかと愚行致します。救いたい人を救うという、ワールドン様の御心にも添えるかと思います」
「僕としては有り難いけどさ、モンアード君は困らないの?」
1番気になっていた質問をぶつけてみた。
「ダフ村は鉱山が資源です。ワールドン様に治めて貰い、良質なマナ鉱石に変えて貰った方が有益です。私に迷惑を掛けたくないとのご意向でしたので、共同統治をご提案させて下さい」
「共同統治?」
詳しく話を聞いてみた所、僕が統治するけど、村の資産や鉱石の利権は、モンアード領側に残して欲しいとの事だった。表向きは僕が統治している形だ。鉱山や村を自由に使って構わないけど、収益はモンアード領側にも一定の恩恵が欲しいという話だ。
僕としては、これまで散々お世話になってきたので、利益の分配程度なら全然OKだった。
なんと契約書も即日用意してくれたんだ。
速攻でサインしたね!いやー相談して良かったよ。
「ありがとうね、助かったよ」
「ワールドン様、今回の件、ルマンド大公及びに公爵家への相談は、行わない方が望ましいと思います」
「んんん?それはなんで?」
「気を遣わせるだけになってしまいますので……」
モンアード君が言うには隣接していない、ブールボン王国の公爵家に相談をして、負担をかけるのは避けた方が望ましいって話だった。
その意見には納得なんだけど、ルマンド公爵家への記憶が、妙に欠落しているのが僕には気になったよ。
(あ、ひょっとしてアレかな?)
前回のエリーゼの暴走での部屋破壊が、あまりに辛くて……虚無の女神様が御力を使ったとか?
あり得る……辛い記憶は忘れたいよね。うんうん。
本物の女神様に感謝しないとね!
「辛いだろうけど……頑張って!」
「は?……はい、頑張ります。頑張りましょう」
僕は優しい気持ちで、モンアード君の肩をかるく叩いてエールを送ったよ。辛い事は忘れて頑張って欲しくて、生暖かい目で見つめた。
彼は少し困惑していたね。
提案内容を改めて吟味してみたけど、アルやエリーゼ達にも報告しない事は伏せた方が良さそうだね。ルマンド君に報告がいってしまうと、抜け毛も心配だし、これ以上は心労を掛けたくないし。
(モンアード君の提案は、どれも有益だったな!)
会談を終えると、その足で直ぐにロイクブーケ村に戻った。深夜にはなんとか着いたよ。
ルクルに事の経緯や契約書を見せた。そしたらルクルは、何故かモンアード君を警戒しだしたんだよね。
僕はモンアード君を擁護した。
「モンアード君の提案は理に適ってるし、彼は善意での提案だよ?まぁ利権については、領主としての計算もあったけどさ、それは当然だよ。これまでの恩もあるから、寧ろ足りないくらいだよ?」
「それはそうなんだけどさー」
「ルクルは何が引っかかるん?」
「うーん。提案が綺麗にまとまってる事と、ダフ村がメイジー帰属な点かなー」
ルクルが納得して無いから、もう一度説明をし直す。
「だから、領内は上手く言ってたのに、急に帰属先が変わると民が不安になるからだって。当面はメイジー帰属の方が安心だろうし、モンアード君の配慮の何が不満なの?」
僕が問うと、暫く顎に手を当てていたルクルが、おもむろに口を開いた。
「不満が無い事が不満。それにあの時に気にして無かったのに、虚無の女神から記憶を消されてる事も」
「時間が経ったら辛くなったんじゃないの!?もういいよ!決まった事をうじうじ言わない!分かった?」
一応、納得してくれたけど表情は不満げだったね。
(ルクルは細かい事を気にし過ぎなんだよ!全く!)
ワドは契約書を良く読まずサインするタイプ。
3つの国の隣接地帯にある、3つの村を接収する事になりました。
何はともあれ引っ越し先が決まりましたね。
次回は「ドラゴン引越センター」です。
※色でのキャラ呼称の補足
本作の最高位ドラゴンの7柱は色で呼ばれています。
金、銀、白、黒、赤、緑、青、となります。
特にドラゴン達は敬称も付けずに色で呼び合っているので、唐突に色だけの呼称で出てくる事もあります。
分かりづらくて申し訳ないです。




