ビール造り
前回のあらすじ
誕生節のお祝いで飲んだビールに、納得が行かないルクル。
突如、暴走をし始めてビール造りが始まりました。
※ルクルの暴走があまりに目が滑る為、3回も書き直した回です。
※初稿に比べたらかなりマシになったのですけど、それでも目が滑ると思います(苦笑)
ルクルが吠えていた。
誕生節の宴でビールが出たので、ルクルは未成年だけどせっかくのお祝いだからと飲ませたんだ。それから荒ぶっている。
ケタは生前、重度のビールマニアだった。
それこそ手作りビールとかもやっていた程だ。
なのでお酒全般にうるさいけど、特にビールには一家言あるみたいだね。
「ビール改善計画を発動させるよー!」
「にゃっにゃにゃっにゃ!」
はしゃぐカルカンと、怪訝そうなアルとエリーゼが対照的だった。カルカンは単純に新しい酒が生まれる事への興奮がみてとれる。公爵姉弟は、必要性を理解出来ない感じかな?
「ダメとは言いませんが、必要ですか?」
「ビールよりワインの方がおいしいですわ!安酒は必要ありませんわ!」
「あ?もう一度言ってみろ。俺に喧嘩売った事を後悔させてやる」
ルクルがガチギレだった。
目が据わっているし、大好きなビールを貶されて、腸煮えくり返っている事が伝わってくる。
エリーゼ相手に一歩も引かない構えだ。
「ひ、必要かも知れませんね?姉上?」
「そ、そうですわ!色んなお酒が合ったほうが良いですわ!つ、造りますわ!全力ですわ!」
「ルクル氏は怒ると怖いのにゃ」
好きなものを馬鹿にされるとキレるのは変わっていないなー。
ま、僕も好きなものを悪く言われるとキレちゃうけど。
「それでは皆さん、麦芽の選定と、ホップの選定から始めますよー」
「ルクル先生!ホップとはなんなのにゃ?」
「良い質問ですねー。カルカン君。ホップはビールの苦味と香りを決める上で重要なものです。こちらにバンナ村周辺で採れた数種類のホップがありますよー」
(いつの間に用意してたん?3分クッキングなの?)
僕は割とドン引きで質問したよ。
「よ、用意がいいね。こんなに採れたん?」
「俺がホップを見逃す訳ないだろー?」
「にゃー!?とても苦いのにゃ!こんなの入れたら苦くて飲めないのにゃ!」
「じゃ、僕はリベラさんの手伝いあるから」
ルクル暴走の相手を皆に任せて、僕はリベラさんの手伝いへと向かった。
─────────────────────
そうして僕は、リベラさんの手伝いに勤しんでいる。
「えらいおおきに。ワールドン様には良くして頂いてばかりで、申し訳ないわぁ」
「妊婦さんは大変だから、仕方ないよ。力仕事は僕に任せて!」
リベラさんは出産が近いらしいので、無理はさせられない。水汲みや薪割りなどの手伝いを、率先してやっていた。
「ほんま助かりますわぁ。ウチの旦那が帰ってきたら、ちゃんとお礼させて貰います」
「そ、そんなに気にしなくていいよ!僕、お手伝い好きだから」
(リベラさん、ごめんなさい……)
僕はまだ、旦那さんの事を内緒にしていた。
だって、リベラさんは旦那さんの事を話す時、凄く嬉しそうに、楽しそうに話すんだ。
とても言い出せる雰囲気じゃ無かったよ。
僕は居心地が悪くなって、皆の所に逃げ戻った。
(皆に心配かけないよう、普通にしなきゃ)
僕が必死に、気持ちを切り替えて戻ったら……ルクルのビール講座が、まだ続いていたよ。
ケタが休みに設定した日に、延々とビールについて語っていたから僕も結構詳しいんだ。
ビール造りの工程のどのタイミングで、ホップを入れるかによって、苦味と香りの比率が変わるんだって。村長達もホップの存在を知らなかったみたいで、食用とも認識して無かったらしいね。
「専門的過ぎて、私はついて行けませんね」
「とにかく全力で造りますわ!」
ルクルの目がギラギラしているよ。ビールのウンチク講座が続いている。いや、なげーよ!
「待った!麦芽講座やってると時間かかるでしょ?先に造ろうよ!何使うん?」
「むー、仕方ないかー。使うのはペール、ウィート、クリスタルかなー」
「さっぱりついていけません……」
「ぜ、全力ですわ!気合いですわ!」
「飲めればなんでもいいのにゃ!」
(おっと、イケナイ。皆がついてこれてないよ)
ルクルが主導して、麦芽の分量のバランスと、近くで採れたホップとの相性を試行錯誤していく。
近くで採れたホップは以下に類似との事。
アマリロ、エクアノット、ザーツ、ストラタ……
僕らがホップについて熱く語っていると、周囲が困惑の反応を返してきたよ。
「これ何語でしょうか?姉上わかります?」
「き、気合いですわ!」
「全部苦くて、おいしくないのにゃ!」
ホップの配合は、ルクルがこだわって試行錯誤していた。最終的に出来上がったのは、シャインマスカットを思わせるフルーティーな香りで、万人受けしそうな素敵な香りに仕上がっていた。
「なにこれ!?あまくてうまーなのにゃ!」
「確かに苦味が気にならない甘さですね!」
「凄く甘苦いですわ!美味しいですわ!」
「僕も、これは出来上がりが楽しみだよ」
一番搾りを飲んだけど、凄く美味しかった。
ルクルの暴走は続く。酵母の選定も始めた。
「そんなもの必要なのかにゃ?」
「ビールに限らん!酵母は全ての酒造りで避けて通れないぞー。酒において2番目に重要なものだよー!」
「1番はなんにゃ?」
「生徒カルカン君、当ててみてー」
あ、この問題知っているよ。僕も引っかかった。
「原材料である麦芽!酵素!ホップ!各分量割合!熟成温度!熟成期間!炭酸ガス!丁寧な管理!ぜー……ぜー……にゃ……」
「はい、生徒カルカン君は全部不正解~」
「正解は気合いですわ!」
「はい、エリーゼ様も不正解~。ワドー、正解を覚えてるかなー?」
「当然!一番は水でしょ(ドヤァ)」
「はい!生徒ワド君は大正解~」
そう、ケタから出題された時は僕も正解が分からずに途方にくれたよ。あまりに基本的過ぎて見落としてしまうんだ。
ビール純粋令というものは麦芽・ホップ・酵母・水のみを原材料とする物である。発泡酒や第三のビールと呼ばれるものは麦芽・ホップ・酵母が代替品で賄われている。
酵母なしだとアルコールにならないが、元々アルコール度数があるものと混ぜてしまうなどだ。
代替が効かない物は水だ。
硬水か軟水かも、ビールを作る上で重要だ。
それ以上に、井戸水などは井戸毎に特有の不純物がまざったり匂いがついていたりする。いかに綺麗な水を使えるかは重要なのだ。
この辺りの山々の湧き水を調べて、最も綺麗で品質の良かった硬水を使う事になった。
─────────────────────
(今日もリベラさんのお手伝い……頑張るぞ!)
それから、ビール造りの日々でも、毎日欠かさずリベラさんのお手伝いに行ったよ。
お手伝いをして、リベラさんの笑顔を見ると嬉しくなるのが半分。旦那さんの話をして楽しそうにしているのを見て、申し訳なくなるのが半分。
「えらいおおきに。ワールドン様はほんまに、お優しいわぁ」
「こ、このくらい普通だから!」
どうしても、旦那さんの事を言えなかった。
だから毎日、心の中で謝ったよ。
リベラさんのお手伝いや、ビール造りに明け暮れていたら、節をまたぐ時期になった。
「ルクル氏、そろそろ双魚節なのですにゃ。私へのプレゼントは、このビールを最初に飲む権利が欲しいのにゃ!」
「オーケー、カルカン君には出来上がりを、最初に飲む権利を与えるよー」
僕も、ずっとブレスの促進期間を、調整する練習をさせられていた。今では1週間単位で熟成促進させられる程に、精度があがっているよ。僕、頑張った!
ビールの完成と同時に双魚節のお祝いだ。
「カルカン君、誕生節おめでとうー!」
「ありがとうなのにゃ!ビール楽しみなのにゃ!」
皆にビールが配られた中で、カルカンが最初の1杯を飲み干す。
「う……」
「う?どした?カルカン?」
「うまーーーなのにゃーーー!」
カルカンの大絶賛を皮切りに祝宴が始まった。
さっきから、カルカンが騒ぎまくっている。
「あ、そんなに飲むなコラーなのにゃ!これは私へのプレゼントなのにゃ!皆は飲みすぎなのにゃ!これ以上は減らさせないのにゃ!」
(あまりの旨さに、独占欲が働いたようだねぇ)
だけど嬉しい事だけでも無かった。節を跨いだら、凶報が立て続けに入ってきたんだ。
翌日、リベラさんは夫の訃報を知った。
この時に造ったビアスタイルはHazy IPAです。
通常よりはペール比率多めの配合です。
ケトルホッピングはストラタを多めに。レイトホッピングはアマリロを多めに。ザーツはほんのり程度に抑えてレイトかな。エクアノットは全体バランス見ながら比率調整。本音を言えば、モザイクかシムコーが欲しいかなぁ……。
え?「後書きが一番目が滑ります」ですって!?
はて、一体何のことでしょうか?
次回は「新しく生まれたもの」です。




