誕生節のお祝い
前回のあらすじ
ボードゲームは、ルクルに優勝を奪われてしまいました。
ボンの匠の技により、ワドの神像が爆誕。ルクルから1位のお願いは翌日発表する事に……。
「俺からのお願いはねー、来月のエリーゼ様&リゼの誕生節のお祝いと、希望のプレゼントを用意する事だよー!」
早朝一番にルクルから宣言された。何か違うよ?
「ルクル、1位が最下位にお願いじゃ無いの?」
「だってさー、カルカン君にお願いしたい事って特にないしねー。それにご褒美が最下位に限定したお願いとは、一言も言ってないよー?」
「屁理屈!」
「なんだよー、ワドはリゼとエリーゼ様の誕生節を、祝ってやりたくないのー?」
「いや、勿論祝うよ。当たり前じゃん」
リゼがルクルに勝ちを譲ったのって、やっぱり密約があったんじゃ?
だけど、友達の誕生節はお祝いしたいから、ちょうど良かったよ。
この世界では、ルクル(ケタ)の世界と違って誕生日じゃなく、その月単位でお祝いするんだ。
あと暦月の概念は基本的に無いの。年月日じゃ無くて、年節日になっているんだ。そもそも、月が無いからね。
でも、ルクルが月単位や数ヵ月とかの表現を推しているから、僕らは全員が暦月の読み方を受け入れている。
でも、この世界の常識は暦節が基本になっていた。
過去の文献でも、異世界から来た賢者が暦月を広めていたらしいんだ。
だからアル達も、抵抗無く受け入れている。
この大陸での節の表記はこんな感じ。
─────────────────────
1月:磨羯節。
2月:宝瓶節。
3月:双魚節。
4月:白羊節。
5月:金牛節。
6月:双子節。
7月:巨蟹節。
8月:獅子節。
9月:処女節。
10月:天秤節。
11月:天蠍節。
12月:人馬節。
─────────────────────
幾つか国によって節の表現が違うんだけど、一番メジャーなのがこれだね。
エリーゼの誕生節は宝瓶節、カルカンは双魚節、アルとルクルは獅子節だ。
僕は生まれた節が分からない。だから無いの。
僕らはバンナ村で生活しながら、翌月のエリーゼの誕生節のお祝いに向けて準備をしていた。
ルクルから「プレゼントについては希望の品を用意する事」って優勝のお願いで指定されている。
なのでお願いを聞いたんだ。
リゼのお願いは全然いいんだよ。だけどエリーゼのお願いが、とてもじゃないけど看過できない。
僕は毅然とした態度で断った。
「ワールドン様、お願い申し上げます!どうか、許して下さいませ。わたくし、どうしても叶えたいのですわ!」
「だ、ダメだよ?そんな目で見つめられても……だ、ダメなんだから!」
リゼとエリーゼは、お互いが僕に何をお願いしたのかを知らないみたい。
聞いてみたら「サプライズプレゼント」だってさ。
エリーゼは、繰り返し何日もお願いしてきたよ。
頑張って心を鬼にして断っていたんだけどさ、ルクルが入れ知恵したのか、流れが変わった。
(…………今の僕は、とても劣勢だ……よ……)
エリーゼが皆を引き連れて、隔日の日課になっているお願いにやってきた。
「ルクルの案は素晴らしいですわ!ワールドン様!お願いの件、よろしくお願いしますわ!」
「ワールドン様、お願いの内容は分かりませんが、姉の願いを聞き届けて下さい」
「ワールドン様、私からもお願いしますにゃ!それに命と酒がかかってるのにゃ!」
アルとカルカンも懇願に加わった。
特にカルカンは、必死に身振り手振りしている。必死さがなんか怖いよ。
「ワドー、俺からもお願いだよー。内容は全く知らないよー。でも、エリーゼ様のリクエストだからさー」
「くっ、皆して僕を……ってルクルは内容知らないのかよ!?」
「うん。だってさー『それは言えませんわ!』って言われたしー?」
ルクルは僕と、視線を合わせようとすらしない。
なんか、企んでいる気がするよ!
「エリーゼ!どうしてルクルに案を貰ったの!?誰の入れ知恵なの!?」
「わたくし、困ってる事をもう一人のわたくしに相談しましたわ!そうしたら、ルクルに頼りなさいと言われましたわ!」
(くっ、リゼの差し金だったか……)
でも、リゼもエリーゼのお願いの内容は知らないっぽいんだよね。それぞれの独立プレーなのか?
エリーゼからのルクル、アル、カルカンへのプレゼントリクエストは、僕へのお願いの口添えだった。なので彼らは、エリーゼのお願いを知らないけど援護射撃をしている。
リゼからのプレゼントリクエストは、それぞれ違う希望だった。
ルクルには、歌詞の意味を教えて貰う事。
アルには、欲しい薬をルマンド君に貰う事。
カルカンには、サツマイモの苗を大量に貰う事。
って内容だった。
ルクルへのリクエストは理解できる。僕のプレゼントに被るから。
お薬の要求は、直接ルマンド君にお願いしにくいみたい。あの一件で、まだ気まずいのかな?
それと、猫魔族の特産であるサツマイモを手に入れたいんだとさ。
僕から「カルカンの妹の作ったデザートが美味しかった」と伝えた事が発端みたい。どんな土地でも育ちやすいサツマイモは、バンナ村の特産としても良いかもね。
─────────────────────
困った。
エリーゼの懇願が日に日に圧を増してくる。
僕はついに折れた。
(でも、約束だけは死守して貰うからね!)
リゼからのリクエストは、僕のリサイタルだ。
ルクルとあった時の歌と、他にも歌を聞かせて欲しいと懇願されたよ。それにエリーゼにも、聞かせてあげてとのこと。なのでルクル特別セレクションを、二人の為に2回分公演する事になった。歌詞が日本語だから、歌詞の意味をルクルに聞いたみたいね。
エリーゼからのリクエストは、没収していたマナ石の返却と盗撮の許可だよ。これには凄く抵抗があったの。でも、エリーゼとリゼ以外には、絶対に見せないと命をかけて約束されて……僕は折れた。エリーゼの粘り勝ちだ。
(ま、まぁ?最悪流出しても、ぼ、僕はドラゴンだし?致命傷では無いよ?……だよね?)
ついに誕生節をお祝いする日が……やってきた。
夜明け近くまで雨が降っていたけど、朝になったら晴れていたよ。
空には虹が架かっていて、快晴だったね。
エリーゼが晴れるように、気合いのお祈りをしていたらしいよ?
バンナ村の皆さんもお祝いしてくれる。宴の用意がされていて、お酒の味もかなり改良できたし、村の人も一緒になって、宴でのお酒を楽しんでいた。
暫くして、プレゼントの時間がやってきたんだ。
僕は断腸の思いで、光のマナ石をエリーゼに返す。
そして撮影(盗撮)の許可を出したよ。
「わたくし、とても嬉しいですわ!もう一人のわたくしに素敵なプレゼントが用意できましたわ!」
どうやら、リゼへのプレゼントだったみたいだ。
確かにエリーゼは盗撮にこだわっていなかったし、リゼの方が禁止&没収で落ち込んでいたから。
切り替えた僕は、リサイタルの準備をしていた。
「わ、わたくしが先に聞いて良いのでしょうか?もう一人のわたくしのリクエストですわ!先に聞くのはもう一人のわたくしが適任ですわ!」
「だって、リゼが先にエリーゼに聞かせてあげて、ってお願いしたんだよ?だから先に聞いてね」
エリーゼは瞳に浮かんだ涙を拭いながら、喜びを伝えてきたよ。
「ワールドン様!わたくし、わたくし、とても幸せですわ!」
「うん。楽しんでね」
僕は全30曲を熱唱した。エリーゼは狂気乱舞して喜んでいたな。
皆や、村の人も楽しんでくれたみたいだ。
翌日の夜。
僕とリゼとマイティは、3人で村から離れた小川に来ている。僕が盗撮を没収した小川だ。
宝瓶節(2月)の中旬だから、まだ少し寒い。
だけど、僕は小川に素足で入って歌う予定だよ。
(うん。結構、ヒンヤリするね)
「返してくれて本当にありがとう。それに撮影の許可……本当に嬉しいの。あの子にもお礼言わないと」
「エリーゼがどうしてもリゼの為にって、全力だったからね」
リゼは胸元を両手で抑えて、嬉しそうに俯いた。
「ん……本当にリゼは恵まれてるの」
「じゃあ聞いてね」
今日はリゼ1人の為だけのリサイタルだ。
これは昨日、エリーゼにお願いされた。マイティもいるけど、彼女は撮影部隊なんだよね。
リゼ1人の為だけに全30曲を熱唱した。小川に浸かっている足から、僕のマナを放出して水面が金色に発光するステージ演出付きだよ!僕、頑張ったー!
「嬉しい……嬉しいの。ワドの歌声をリゼが独り占め……本当に嬉しいの。素敵なプレゼントをありがとう」
そう言ったリゼは、とても柔らかい笑顔をしていた。僕も凄く嬉しい。
リゼが心から笑ってくれているし、笑顔が戻って、本当に良かった。
どの曲が気に入ったのか聞いてみたけど、2人の好みは全然違うの。
やっぱり性格が違うと、曲の好みも違うみたい。
リゼは青春の歌やアホの歌、破滅の歌などコミカルな歌を好んでいたよ。エリーゼは騎士の歌が好きだってさ。重厚な歌が好きそうだったね。
リゼとエリーゼの誕生節のお祝いは、大成功に終わった……に見えた。
だけど、1人納得していない人がいる。
「この世界のお酒は美味しくないーー!」
ルクルは企んでいるのでは無く、内容に察しがついてるから気まずいだけです。
リゼからR18の質問と、撮影禁止になった事の報告。
エリーゼから、リゼを元気にする協力依頼。
……どんな映像かも察してしまいますよね?
5章「失った物と新たな贈り物」の本編はここまで。
今回の別キャラ視点の閑話は3話予定です。
・王国騎士団との戦闘をアルフォート視点
・戦闘とボードゲームでの様子をリゼ視点
・ザグエリ王国との交渉に挑むルクル視点
となります。
次回はアルフォート視点の「閑話:英雄の子」です。




