より暮らしやすくする為に
前回のあらすじ
リベラの夫の殺害や、王都での大量虐殺から逃避したくて、ワドがヤケ酒をしていました。
僕は飛び起きた。
危うく寝る所だったよ。寝たら数年間は起きないからね。危なかった。ルクル、リゼ、アルに顔を覗き込まれている。
なんか申し訳ない……あ、カルカンは?
「カルカンは?どこにいるの?」
「そこで酔い潰れてるよー。それにしてもワドは飲み過ぎだよー?」
な、なんか理不尽。カルカンのほうが倍以上は飲んでいたのに、僕だけ叱られるなんてさ。
「カルカンは叱られないのに、僕だけ叱られるのは不公平じゃない?」
「えー?ワドは叱られなくていーの?あんな扱いになるよー?」
ルクルがクイッと顎をカルカンの方にやる。そこにはアルに介護されるカルカンがいた。
「まだイケるのにゃ……まだ飲めるのにゃ」
「ハイハイ、カルカン、帰りますよ?」
「うるさいにゃー!ここが家なのにゃ!」
「あーハイハイ、お名前と住所は言えますか?」
まるで、花見の後に公園で寝ているおっさんと、それを起こすお巡りさんの様なやりとりだったよ。
「名前なー?それよりお代わりにゃー」
「あーハイハイ、住所は言えますか?」
「ん~?猫魔族のどっかにゃ!」
「ハイハイ、猫魔族のどっかですね」
さーっと血の気が引いたよ。叱られないとはアレと同レベルって事だ。僕はすぐに謝った。
「ご、ごめん……叱ってでも見捨てないで……」
「わかったなら、いーよー!」
「わたくし、いくらでも甘やかしますわ!」
うん。甘やかされるのはほどほどにしよう。残念猫みたいになるのはさすがに嫌だし。
宴会はいつの間にかお開きになっていた。
夜も明けている。
ん?そういや、いつの間にかエリーゼになっているね。
カルカンを寝かしつけた後、皆に村長の悩みを相談したよ。
「とりあえず、焼畑農業をやろうかー。日本では法律で禁止されてたけど異世界だしさー」
「ルクル、焼畑農業とは何ですか?」
「ルクルルクル、それ、僕も聞いてないよ?」
ルクルの話では、農作物を作り続けると土地が痩せていくのを、回復させる手法として使われるらしい。20年くらい休ませなければならなくて、土地が狭い所では課題が多いし、頻繁に行うと砂漠化の原因にもなるとの事。
その代わり肥料が無くても土地の力が回復する。
この世界の肥料や農業に詳しくない僕らが、取れる選択としてはベターだと話していた。
「畑を休ませる期間が課題なんだけどさー、ワドがいれば解決でしょー?」
「焼き畑の土地を20~30年ほど促進させればいいんだよね?おけおけ!任せてよ(ドヤァ)」
「土地を回復させて生産性をあげるのですね」
アルは納得して、何度も頷いていたよ。お酒の熟成期間についても、僕の力を使うという話題が出た。
「お酒に光のブレス?何を代謝させるのさ?」
「そりゃー酵母の働きをだよー」
「なるほど、熟成期間を圧縮してしまうのですね。短期間で熟成完了できますね」
「やればいいんだね?熟成王に僕はなる!」
お酒の改善案が出そろった後に、ルクルがいきなり話題を切り替えてきた。
「お酒の改善も急務だけどさー、まずは娯楽からじゃないかなー?」
「ルクル、それはどうして?」
「あ、私も気になりました」
「まずはワールドン様の神像が必要だと思いますわ!祈りが届けば裕福になりますわ!」
信者エリーゼは農業の時は、専門外だからかずっと黙って聞いていたね。でもさ、神像は要らないよ?信者エリーゼが変な事を言っているので、従者3人組に対応を依頼する。
(ふぅ、これで落ち着いて話せるね)
娯楽が必要な理由を、改めてルクルに尋ねた。
「まずさー、この村は若い働き手が極端に少ないんだよねー」
「そうですね。老人か身重な女性、後は子供ですし」
「ま、お酒の改良も予定通りするよー、稼ぎを向上させるのも必要だしねー」
アルの言う通り、働き手としては極端に少ないね。
「それで?娯楽は何故なん?説明モトム!」
「出稼ぎに出ているのは、この村が貧しいのもあるけどー、娯楽が無いんだよねー」
「確かにお酒しか楽しみが無いですからね」
うーん、稼ぎが悪いだけじゃなくて、退屈だから若い人が出ていくって事なのかな?
「ってのは建前で、娯楽に俺は飢えてるんー」
「おい。ルクル本音が駄々漏れ、ロアンヌちゃんかよ?」
「……なぜ唐突に今なのですか?」
なんと、ルクルが遊びたいだけだった……でも何で今?
「……ちょっとさー、事情があってねー」
「「事情?」」
「あー、こっちの話だよー」
トランプでも配布するのかと思ったら、新しく作ると言い出した。ボードゲームを作るんだとさ。二人用のボドゲはケタの時も散々遊んだなぁ。あれは良いものだ。
「俺らで試してさー、面白いものならこの世界でも流行ると思うんだー!どうかなー?」
「ま、僕もボドゲ好きだし?いいけども……なんか裏がありそうなんだよね」
「ワドが細工できない様に、ボンに依頼したよー」
僕は驚いて、少し振り向いてボンを見た。
「え?あの筋肉ムキムキの従者に?」
「彼はあれでDIYが得意なんだよー?ワド、失礼だよねー」
「ルクル、完全にイカサマ対策できるのですか?」
アルが僕を疑わし気な目で見ている。
悔しい。けど、前科があるから仕方ない。
「ま、無理だねぇー」
「ぼ、僕はイカサマなんか、し、しないよ?ひゅ……ぷすー……ふ~……クソっ!」
僕は口笛を吹こうとしたけど、うまく吹けない。
ドラゴンの時には出来ないから、なんとなく苦手なんだ。僕以外全員できるのが悔しくて今もこっそり練習中だ。ちなみに一番うまいのは意外にもマイティだったし。
「でさー、やるなら優勝のご褒美は必要だと思うのよねー?」
「うんうん、いいね!」
(ワールドン様、イカサマする気満々ですね)
アルの思念がチクチク刺さるけど、気にしない。
「ビリは当然罰ゲームが必要だとおもうのー」
「そだね。やっぱ熱湯風呂が定番かな?押すなよ!的な?」
(ワールドン様、完全に他人事ですね)
僕は溶岩でも平気だから、熱湯風呂でも全然いいの。
「ちなみに、万が一ワドのイカサマが発覚したら特別罰ゲームね。これはかーくーてーいー」
「ふぁ!?」
「それはいいですね!(満面の笑顔)」
ふぁ!?何言ってんの?ルクル!しかもアルまで笑顔で賛同しているし。で、でも、イカサマばれなきゃいいんだよね?
(でも……もしバレたら?……バレたら?)
「ね、ねぇ、もしバレたらどうなるの?」
「んー?イカサマしなければいいんだよー?罰ゲームはヤバいから、精神安定の為に知らない方がいいかもよー?」
「イカサマは相当な罰が必要ですね(笑顔)」
精神安定?こ、怖いんですけど?
何が行われるの?そんなのやだよ!僕はイカサマを使わないで勝ちにいくと決めた。
「それで、ルクル。ビリの罰ゲームは?」
「一日だけ、このメンバーのお願いを聞くってので、どうかなー?妥当な期間でしょー?」
「そだね。それくらいなら全然OKだね」
ルクルが林檎にかぶりつきながら、罰ゲームの提案をして、僕とアルは賛同したよ。
「1位のご褒美は?」
「お願いの権利でよくないー?」
「ふむふむ、ま、僕もそれでいいよ」
なんかルクルから、言葉巧みに誘導されているような気がしないでもない。黒い笑顔をしている。
何を考えているのか不安になって【伝心】使ってみた。
(ぎゃあーーー!なんてこと考えてるのさ!ひぃぃぃ!)
僕はその場でのたうち回った。苦手なものを見せられたからだ。こんな仕打ち酷い!
「お、伝心を使いやがったやつがいるなー?」
「なぜ、分かるのです?」
「ワドの苦手なホラー映画をイメージしてたからね」
僕、異世界の幽霊とか苦手なの。神様なのに幽霊がダメっておかしい?
そんな事ないよ!だって和ホラーって怖がらせる為に工夫されているから、めちゃ怖いよ!神である僕が保証するよ!
(う、うかつに伝心が使えなくなったぞ)
ボードゲームの題材に候補があると、ルクルは筋肉ムキムキマンの従者ボンへ伝えに行き、僕とアルは焼畑候補地に来ていた。
さっそく、焼畑を行って光のブレスをかける。
「さくっとやりました」
「ワールドン様、何か別の響きに聞こえますが?」
「気にするな少年よ」
混乱しているアルを置いといて、村長に熟成樽がある場所へ案内してもらう。
「ワールドン様、こちらですわ」
「ありがとう、ちょっと離れててね」
一番若い樽が並んでいる所に案内して貰って、そこに、ほんの少しだけの力を込めたブレスを当てた。
「村長、確認してみて」
「ほんなら確認させて貰いますわ……こ、これは!?凄いで、一瞬で熟成できとる!」
村長が言うには、3年分の熟成が出来ているらしい。
コンマ数秒の光のブレスで、驚くべき効果だった。
(村の改革、今の所は順調だね~)
問題に向き合わず、従者に対応させました。
後でワドは、きっと凄く後悔する事になりますよ。
次回は「ボードゲーム作成」です。




