ドラゴンと隣国との亀裂
前回のあらすじ
転写の魔術具で、盗撮されていた事に気づいたワドは、禁止&没収しました。
これから盗まれたコレクションを取り戻す話をはじめる所です。
相談した結果、僕とルクルだけでザグエリ王国の王都にある王宮へと、乗り込む事になった。
ブールボン王国や猫魔族の国と、ザグエリ王国の関係に配慮した形だよ。顔が割れている公爵家が、前面に出るのは避けたかったから。
ドラゴン形態に変化して、王都に向かう途中に小さな村を見つけた。そこに皆を乗せた倉庫を置いて、心配かけないよう留守番組に軽口を叩く。
「じゃ、行ってくるよ。ルクルがいるから案外穏便に済むかもね?」
「ワドー、無茶振りすんなよー?」
「ワールドン様、お気をつけて」
アルが声をかけたのと同時に、心配そうなリゼが一歩前に出て、ルクルに語り掛けた。
「ルクル……ワドをお願いなの。無茶だけはしないでね?……約束なの」
「分かってるよーリゼ、任せてー」
「アルもリゼも心配し過ぎだよ!」
「ワールドン様、お土産はザグエリ王都名物のお酒がいいのにゃ」
リゼは心配しすぎだけどさ、相も変わらぬKY力であるねカルカンは。ルクルだけを背に乗せ、僕は空に飛び上がった。ゆっくりと上昇し、かなり小さく見えるようになった皆に大声で告げる。
「いってくる!吉報待ってて!」
暫く空を飛んでいると、ルクルがガタガタと震えているのが伝わってきた。あぁ、高所恐怖症か。そんなに怖いなら留守番組に残れば良かったんじゃ?そう思い聞いてみた。
「ねぇルクル?そんなに空が怖いなら留守番すれば良かったんじゃ無いの?」
「……そ、それだとさ……ヒィ!……あ、怖!リゼが納得しな……い……からね……高っ!」
「リゼが?残るって最初に言い出したのに?」
「……そ、それは……な……」
ルクルが言うには、リゼは別口で動くつもりだったみたいだ。僕を心配しての事らしい。ルクルがついていく事で、安心してリゼが残れるようにするとの事。
なんか最近は、やたらルクルとリゼが仲良いんだよね。
(僕、嫉妬してるのかも?)
そんなやり取りをしつつ、ザグエリ王国の王都まで来た。立ち寄った村からは直線距離で100kmちょいかな?結構近くて、すぐに着いたよ。
空を飛んだまま暫く待っていると、騎士団から誰何の声がかかる。
「金色のドラゴン!お前は誰や!?なにもんや!?この国になんの用や!?」
「僕の名前はワールドン。僕の住処に盗っ人が入ったので、それを取り返しに来た」
「なんやて!?ワイらザグエリのもんが盗んだ言うんか?」
騎士団の全員が、盗みを知っている訳でもないみたいだ。今、問答している彼は、事情を知らない事が読み取れた。
「そうだ。君達の王様と話がしたい。今すぐに手続きして、会談の場を設けるように」
「ハイそうでっか……ってなるとおもてんのか!?王様は忙しいんや!帰れ帰れ!」
「1時間以内に会えないのなら、この王都を廃墟にする。30分後には警告として半壊させる。僕は神だ……二度は言わない」
「な、なんやて!?本気なんか!?」
僕はゆっくり頷いた。
この問答はルクルとあらかじめ決めていた事だ。神の所有物を盗むという愚行に対し、こちらが下手に出る必要は一切無いとの事。寧ろ神の威厳と畏怖を示せないと、今後も舐められるから強気で行くべきらしい。
僕としてはこんな高圧的な態度はヤだし、出来れば仲良くしたいんだけどな。最初が肝心ってルクルに押し切られた。リゼも納得した表情だったから必要な脅しなんだろう。
(僕、出来ればフレンドリーな神様でいたいよ……)
眼下の騎士達は大慌てで、王宮内に連絡を出しているみたい。今朝の騎士達はここには居ないようだ。遠征からまだ戻って無いのか、非番なのかは分からなかった。
空を飛んだまま待ち続ける。
時間がかかっているのか、実際には脅しを実行しないと思っているのかは分からない。
約束の30分が過ぎたよ。ルクルと【伝心】で改めて確認する。
『ね、ねぇ……ほんとにやるの?』
『仕方ないよ。あ、王宮の脇の方を狙ってー。なるべく市街地には影響少なくねー』
『や、やるのかぁ……』
僕はほんとはやりたくない。でも、必要だとルクルは言う。リゼとエリーゼを暴走させない為に。被害はなるべく王宮の端っこに、という無茶なオーダーのオマケ付きだった。
僕は、千葉の夢の国のお城に似た王宮の、脇に狙いを定めた。
(覚悟を決めて……やるよ!ドラゴン咆哮!)
ゴッ!ドカーーン!ドォーーーン!……バラバラバラバラ……
僕は数千年ぶりに咆哮を放った。轟音と共に、大半が瓦礫に変わる。あまりに久々過ぎて、うまく加減が分からなかったんだ。思っていた以上の惨劇に、僕は怖くなったよ。
王宮は半壊して、市街地の7割強の地域が瓦礫と化して、そこら中で火災が起こっている。泣き叫ぶ民衆の声に、耳を塞ぎたくなった。
ルクルから強めの【伝心】が届く。
『ボケっとするな!やり過ぎちゃったのはしょうがない!早く次を!』
『……う、うん。分かってる!』
(光のブレス!)
僕は治癒効果のある光のブレスを、王都丸ごと覆うように展開した。威力は極小に抑えている。寿命がかなり持ってかれるだろうけど、死ぬよりは良いだろうというルクルの指示に従ったよ。
眼下に広がる火事は、ブレスで消火できた。
一気に燃え尽きるまで進んだみたいだ。大怪我をしていた人々も、次々と癒やされて歓声を上げる。助かって良かったよ。
僕は【伝心】で王都全域に向けて意思を届ける。
『僕は光の一柱のワールドン。この国の王様が僕に不敬を働いた。30分以内に謝罪に来なければ、今度は癒やしを行なわずに王都を崩壊させる。この国の民よ、恭順を示せ』
取り敢えず、台本にあった事はやり切った。
後は相手の出方次第での、ルクルお手製アドリブ勝負だよ。
この国の人達が気になって【伝心】で、思念を拾ってみた。
ーーーザグエリ国民の思念VTRーーー
「なんてエラい事してんのや、王様は!?」
「神様、堪忍や!まだ死にとうない!」
「こんだけの癒し……ホンマの神様や……」
「ウチは神様に従う!なんでもする!」
「王様はなにしてんのや!はよ謝りぃ!?」
「じっちゃん!目を開けて!じっちゃん!嫌や!嫌やぁぁぁ!なんで神様がこんな酷いことすんねん!じっちゃんが……じっちゃんが」
「おい、婆さん!怪我ないのに光を浴びたらイキナリ倒れたで!?あの神様に殺されたんか!?神様じゃのーて悪魔やないか!」
ーーーザグエリ国民の思念ENDーーー
僕は、あまりの強い思念の多さに……頭痛がした。
でも、問題はそこじゃない!僕は慌てて、ルクルに【伝心】の内容を共有して、判断を尋ねた。
『ルクル!僕のせいで寿命が尽きた人達がいるみたい!どうすればいいの!?』
『……ごめんワド。俺の配慮が足りなかった……よ。ほんとごめん……』
『えっと……謝れば許してくれるかな?』
『無理だと思う。このままの態度で行こうかー』
『そ、そんなぁ……た、頼むよ?』
『大丈夫!リカバリーは任せてー』
すると王宮の瓦礫の中から、数人の人達が出てきた。平伏し、発言の許可を求めている。僕は空からそれを睥睨しつつ重々しく口を開く。
「発言を許そう。お前は誰だ?」
「この国の王を務めるミカドと申します。この度は不幸なすれ違いとの事で、誠に申し訳御座いません。深くお詫び申し上げます」
「不幸なすれ違いとは?」
「我が国は、神様の所有物を盗んだりしておりません。我が国に、濡れ衣を着せようとする者の陰謀でしょう」
ウソだ。真っ赤な嘘だった。
素直に返した所で「神の天罰が下るかも?」というくだらない保身で、このような嘘をついている。
ドラゴンの【伝心】を、正しく理解していない愚行だった。ルクルに【伝心】で相談する。
『どうすればいい?嘘を突きつけると、逃げ場を無くすからそれは避けたい……よ?』
『……そうだな。愚行に付き合うようで癪だが、こんな感じでいこうか……』
ルクルの案に、僕は胸を撫で下ろす。良かった。
穏便に済みそうだ。即興台本のセリフ回しを、威厳たっぷりに言う。
「それなら、それを証明せよ。犯人を炙り出して、盗まれた宝を捧げよ。それで今回の件は不問とする」
さて、これで恭順の意を示してくれれば一件落着だ。
……ところがそうはならなかった。
「それは、我が国が負うにはお門違いで御座います。どちらかと言えば、冤罪で多大な被害を出した我が国に、支援すべきでは無いのでしょうか?」
僕とルクルは開いた口が塞がらなかった。どの口がそれを言うのさ!?このミカドとか言う王様は、完全に対応を間違えているよ!
ルクルと改めて【伝心】で相談する。
『こういうとき、どうすればいいの?』
『愚行に乗っかったの俺等だしなぁ。でも、ここまで馬鹿だとは……ミカド王ってヤベーな』
『うん、馬鹿の相手はどうすればいいの?』
ミカド王は、ルクルが高所恐怖症を忘れて、素に戻るくらいの馬鹿だった。
『これ以上は民衆に被害出したくないよなー?』
『それは勿論!フレンドリーな神様でいたいからね。観光にも来たいしさ』
『そうだなぁ……んー、さっきのセリフを繰り返して一方的に帰るか。ワドのコレクションを取り戻せなくてもかまわないー?』
(コレクションよりも、王都の人達が大事だよ!)
『もういいよ!民衆に被害が出るのがヤダよ』
『じゃ、「努々忘れるな」を追加でよろしくー』
相談を終えた僕は、一方的に繰り返した。
「証明せよ。犯人を炙り出して盗まれた宝を捧げよ。それで今回の件は不問とする。努々忘れるな」
それだけを告げると、ザグエリ王国の王都から飛び立った。
なんとも苦い気持ちだったよ。
カルカンだけは本気でお土産を待っています。
……決裂したのでお土産はありませんw
次回は「妊婦のいる村訪問」です。




