転写の魔術具
前回のあらすじ
ザグエリ王国騎士団と一晩戦闘していました。
大事にしない為にリゼが転写の魔術具で秘密共有強要をしていました。
その特殊な使われ方にワドはドン引きしています。
捕虜は回復させて、開放した。
全員が羞恥に耐えるような顔をしていたな。ある種の惨劇を見てしまったね。僕としても少し可哀想に思ったよ。
「転写の魔術具ってすごいねー」
「ルクル!そんなに女性騎士の映像を見てはダメですよ!」
「アルも興味あるでしょー?」
「いえ、ここまで破廉恥なのは……流石に……」
アルは顔を真っ赤にしているけど、興味はあるのかチラチラと見ている。なんでか分からないので、聞いてみた。
「ねぇ……アル?興味あるならハッキリみれば?」
「~~~っ!そ、そんな事出来ません!」
「ワドー、リゼとマイティを連れて、ちょっと席を暫く外してくれる?」
アルが耳まで真っ赤になったな。ルクルが何故か、席を外す提案をしてきたよ。何でだろ?
「いいけどなんで?」
「んー?ワド達がいるとアルが見たいのを充分に見れないから?かなー」
「ちょっ、ちょっとルクル!?」
「アル落ち着きなよ。僕らは席を外してるよ」
そんな訳で僕とリゼとマイティは、少し離れた小川に来ていた。マイティに服を用意して貰ったけど、それを着る前に、軽く水浴びをしたよ。ふと、マイティを見ると転写の魔術具を使っていた。
僕は体を拭いて着替えながら、気になっていた事を質問する。
「転写の魔術具って、1回撮る為に1個のマナ石が必要なんだよね?気軽には撮れないって聞いたけど?」
「通常のマナ石ならそうですの。光のマナ石なら極小の1個でも8回撮れますの」
「そ、そうだったのね……」
「ワドが光のマナ鉱石を大量に融通してくれたから、我が家は光のマナ石が大量に余ってるの。だから割と気軽に使えるの」
(そうか、なるほどだよ)
確かに光のマナ鉱石は、非常に稀少だと聞いた。
特に僕特製のは純度、濃度共に最高品質だとカルカンが絶賛していたね。質の劣る光のマナ石は、最近余っているとアルも言っていたな。僕がマナ鉱石を、渡し続けたお陰だと感謝されたっけ?
転写の魔術具の詳細を、僕は思い返していた。
転写の魔術具は、異世界のカメラみたいなものだ。魔術具を使って、マナ石に光を焼き付けて保存する。そのマナ石に光を当てれば焼き付けた時の映像を、プロジェクターみたいな感じで投影できるのだ。
必ずマナ石が必要になり嵩張るので、スマホみたいに気軽に撮る事は難しい。
でも今の話を聞くと、光のマナ石なら極小サイズでいけるみたい。石のカットを工夫すれば、それぞれの面に別の映像を保存でき効率的だそうだ。
属性にあったマナを使うと、効率があがるのはこの世界の常識だった。
火を扱うコンロは火のマナが燃費が良くて、冷やす冷蔵庫みたいな魔術具は水のマナの方が燃費が良い。
それぞれの魔術具に適したマナを、利用する事で効率的に扱える。転写の魔術具は光を扱うので、光のマナだと効率が段違いなのだろう。
「じゃあ、記念日の記念撮影以外でも、気楽に撮れるんだね?」
「はい、毎日でも撮れますの」
「そっかー、それでさっきは何を撮ってたの?僕?」
「そ、それは……今はコッソリだから言えないの」
「ダメだよリゼ?友達だから隠し事はなしね?見せてよマイティ」
暫くリゼがアワアワしていたけど、観念したのかマイティに渡すように告げた。僕はマナ石に光を当てて投影してみたよ。
すると……そこには全裸の僕が……しかも光ガードがにゃい!
「ど、どういう事なの!?リゼ!マイティ!ちゃんと説明して!?」
「そ、それは……」
「私が説明致します。お嬢様、ワールドン様」
マイティに説明して貰った。
マイティが使っていた転写の魔術具は、最新型の超高性能なものらしい。強すぎる光が、映像に残らないようにする技術が使われているとの事。異世界のトーンマッピングみたいなものだろうか?
なので光ガードで隠されて無い、僕の人形態の全裸がそこに写し出されていた。女騎士達の反応からするに、この映像は大変に宜しくない物だと僕にも分かったよ。
「これは没収だね。油断も隙もあったものじゃないよ。他には?」
「あぁ、リゼの仄かな楽しみなの。どうか許して?」
「だ、ダメだよ?さっきの騎士達の様子だと、これ流出したら僕、社会的に終わっちゃうんでしょ?僕は、社交的なんだから」
僕がダメだと言っているのに、食い下がってきた。
「リゼが個人で楽しむものなの」
「んんん~、でもダメだよ。これから盗撮は全部ダメね?それに、これR18だよね?僕は17歳なの~」
「ワド、[R18]とは……なんですの?」
「僕は詳しくないよ。めちゃくちゃ詳しいルクルに、根掘り葉掘り聞いてね!」
「ん……分かったの」
取り敢えず面倒な説明は、ルクルに丸投げしたよ。
僕らは小川から引き上げて、合流した後に住処内部まで再度訪れた。
道中でルクルがリゼに、R18について根掘り葉掘り聞かれていたよ。
顔を真っ赤にしたルクルが「ワドー、後でおぼえてろよー!」と言っていたから、仕返しがきそうでちょっと怖い。
……それにしても。
再び住処の荒れ具合を見て、悲しくなる。
隠していたコレクションも全滅だった。
カルカン達が、残りのマナ鉱石を欲しがったので、許可したよ。
すると、ルクルが変な事を言い出した。
「マナ鉱石から伝心で、状況を読み取れたりしないのー?もしくは、残留思念を読み取る魔術具って無いのかなー?」
僕を含め、従者3人組までもがポカーンとしている。
あんなに説明したのに、まだ分かって無いのかな?
あ、カルカンがプンスコしながら説明を始めた。
「ルクル氏、常識がおかしいのにゃ!何度も言ってるのにゃ!」
カルカンが、ルクルに魂と魔術具の説明を始めた。
僕も説明は苦手なので、カルカン講座を聞いて、教え方を参考にさせて貰う事にする。
─────────────────────
思念や感情は、記憶する事のできる生命体しか持っていない。すなわち魂が必要である。植物などの有機体は読み取れるが、鉱石など無機体から読み取る事は不可能との事。
へーへー、マナ鉱石から読み取るなんて荒唐無稽な事を言い出すと思ったけど、そういう分類なのか……と、いう事は試して無いけども植物には【伝心】ができるのかも知れない。
─────────────────────
魔術具も魂が無いものに対して、魂の効果を持たせる事は不可能との事。それをやろうとした研究者は、天罰を受けた逸話があるらしい。
これは異世界のオタク知識でも、似た様なエピソードは多いからねぇ。死者蘇生や、ホムンクルスなどを生み出そうとした愚かな研究者達は、法則の男神と輪廻の女神から厳しい天罰を受けただろうね。
─────────────────────
魔術具はマナ法則や物理法則、自然法則に則った上で、マナの力を借りて実現可能な範囲の再現をする道具、とのレクチャーが続いている。
これは異世界で言う所の、家電や燃料を使った道具と同じだね。そこに、マナ法則という理論が加わった形だ。何かしらの現象を起こすのに、道具や魔術具が必要なのは世界の常識だった。
僕のメタモルフォーゼも、体組織の圧縮と外皮の見た目変化を、マナ法則に従って実現する魔術具に頼っている。
マナだけ途轍もなく大量にあっても、実現できる訳じゃない。電気だけ大量にあっても、電化製品が無ければ有益な効果は得られないって事だよ。
(ん?説明は終わり……じゃなさそうね)
あ、カルカンが、またもや異世界の魔法についての説教を始めたよ。ルクルが魔法についてカルカンに語った時に、心底頭にきたらしくずっと説教していたからなぁ。
詠唱とか魔法陣とかで、世界の法則を書き換えるような考えはあり得ない。
この世界では、頭のオカシイ人として扱われる。異世界だと厨二病扱いだよね。
食べ物を温めるには、電子レンジやコンロなど、何かしら器具が必要だ。魔法はそれを[詠唱]という言葉の羅列や、地面への落書きだけで、脳内妄想を現実世界に反映させるというトンデモ理論なのだ。
異世界でも、厨二病は頭残念な人って扱いだしね。
それと同じだから、ルクルもいい加減分かってくれてもいいのにな。黒歴史増えるよ?
「ワールドン様、どうかお考え直し下さいませ。どうかお嬢様に御慈悲を……」
さっきからマイティに、盗撮の許可を懇願されている。そんな切実な上目遣いでも、ダメなものはダメだから!
リゼは目に見えて落ち込んで、席を外している。
悲しそうな表情だったけど……でも!
(こ、心を鬼にして毅然とふるまうよ!)
話題は、ザグエリ王国に盗られた僕の私物を、どう取り返すかの話に移っていた。
ワドはリゼに見られ続けるのを苦手としています。
だから、リゼはワドをチラ見だけして、代わりに転写の魔術具での映像を眺めていました。
没収と撮影禁止はかなりショックを受けています。
次回は「ドラゴンと隣国との亀裂」です。




