住処への帰郷
前回のあらすじ
ブールボン王国からワドの住処まで帰ってきました。
最高速で飛ばしたので、倉庫内がシェイク状態になり酒瓶が全部割れて、カルカンが激怒しています。
「聞いてるのですかにゃ!?ワールドン様!笑って誤魔化してもお酒は返ってこないのにゃ!」
「ハハハ……ごめんよ。カルカン」
こんなに謝っているのに、カルカンの怒りが収まらない。
アルとルクルも、今回は助け船を出してはくれない。
味方してくれそうなエリーゼは、スヤスヤと眠っている。
(つまり、孤軍奮闘な状況です……辛い……)
従者3人組は、倉庫の中の片付け作業中だ。
中は無数の酒瓶が割れていて、危ない上に酒の匂いで充満していたからね。
倉庫の置き場として、住処から少し離れた所に着陸している。住処の近くは起伏が激し過ぎて、置けそうに無かったから。
「すぐにパシリされて下さいにゃ!ワールドン様!今すぐお酒買いに行くにゃ!」
「この機会にダイエットとしてさ、お酒を暫く控えてみたら?」
「な、なんて恐ろしい提案するのにゃ……」
僕の提案にサッと顔色を変えるカルカン。
そこにルクルとアルが、別の話題を被せてくる。
「ワドー、もうカルカン君はほっといてさ、あの煙について説明してー?」
「何か野営地のように思われますね。それなりの人数がいそうですよ。ワールドン様、いつも、ああなのですか?」
この世の終わりみたいな表情をしている猫は無視して、ルクルとアルの見ていた方向に目をやる。
(なんだろ?あれ……)
日没が過ぎて薄暗い中、明かりに照らされた煙は確かに目立っていた。こんなの僕がここに住み始めてから一度も無かった事だ。僕は大慌てで首をブンブンと横に振った。
「し、知らないよ僕。あれなんなの!?」
「いや、聞いてるのこっちだしー?」
「確認に向かいませんか?」
アルの提案で、確認に向かう事になったよ。念の為にコッソリとね。
嘆いているカルカンは、邪魔だったので置いてきた。
マイティ達が、寝ているエリーゼと同様に、守ってくれるらしい。とはいえ、カルカンが本気なら、そこらの魔獣や人族には負けないけどね。
先行したアルから【伝心】のサインだ。
『どう?どうだった?』
『……あれはザグエリ王国の騎士団と思われます。国旗はありませんでしたが、鎧の意匠が騎士のものですし、言葉がザグエリ王国語でした』
『なんでここで野営してんの?』
『そこまでは解りかねます』
アルと【伝心】を終えた僕らは、一旦引き上げる事にした。
「なんで騎士団がいるのかなー?ワドー?なにかやらかしたー?」
「なんで僕がやらかした前提で話するのかな?僕、悪くないよ!?」
「信頼と実績がねぇー」
ルクルからのやらかし疑惑に、僕はヘルプを求める。
「ひ、酷くない!?ねぇ、アルも酷いと思うよね?ルクルに何か言ってやってよ!」
「…………」
「な、何か言ってよ!無言なのやめて!」
それから色々と予想を出して相談したけど、結論が出ないって事になった。気にはなるけど、一旦は放置して僕の住処へ向かう事にしたよ。カルカン、エリーゼ、従者3人組は倉庫内で留守番だ。
ツルツルとした岩が多い、不安定な岩場をよじ登る。僕はホバーだけどね。
僕がネタを口にしながら昇っていたら、ルクルが記憶ないみたいで変なツッコミいれてきた。
「なにー?麻雀のネタかなー?」
「ん?ルクルに教えて貰ったんだけど?憶えて無いの?なんで?」
「ふぇ?そ、そうだっけー?分かんないー」
僕が口ずさんでいた「手を伸ばす」ネタが分からなくて、ルクルが小首を傾げている。
「クライミングスポーツのアニメだよ!」
「思い出した!なんで忘れてたんだろー?」
「そんなん知らないよ。大丈夫?」
(あれぇ?やっぱりなんか変)
ルクルは「オタク知識を全部思い出した」と言っていたけど、ちらほらと抜けている記憶があるよ。
汽車の旅でも、ネタに反応出来ていない事がたまにあったし。
なんだろ?法則性があるのかな?
気になるな。放置して、後で致命的なミスにならなきゃいいけど。
少しだけお気に入りのネタを確認しとく。
「私はあなたのマヨネーズになる!」
「よーし!よく言った!……ってなんでイキナリなんだよー?俺マスタードになる流れなんー?ワド?」
(うん。やっぱり気のせいだよ!)
ルクルの記憶は大丈夫な事を確認したので、僕らは住処へと急いだ。
近づくにつれて、様子がおかしい事に気づく。
何故か多くの人の気配が、住処からしていた。
「なんか、かなりの人数がいそうだよねー?」
「このような事はこれまでもあったのですか?」
「いや、今までは一度も……」
僕がここに住みはじめて多分1000年くらいだけど、こんな事は一度も無かった。明らかに変だ。
僕は少し不安になって、2人を急かす。
「ほら、遅いよ!さっさと登る!」
「だったらドラゴン形態になって、のせてよねー」
(そうだった。ウッカリしてた!)
僕は慌ててドラゴン形態に戻る。慌てていたから、服を脱ぐのを忘れていた。
ビリビリに破けたお気に入りの赤い冬服が、風に舞っている。ちょっと悲しいけど気持ちを切り替えて、2人を咥えてひょいひょいと背中に投げた。
「じゃあいくよ!」
住処の入口に来たら、20人くらいの騎士達から悲鳴が上がった。全員が明らかに動揺していたね。
震えながら騎士の一人が誰何する。
「エ、エターナルドラゴンか!?」
「僕はワールドンだよ」
「エターナルドラゴンでは無いんか?」
「君達……そう、人からはそう呼ばれるね」
「「「~~~っ!」」」
誰も喋らなくなったので【伝心】を使った。
ーーーザグエリ騎士団内心VTRーーー
(き、聞いてないで!エターナルドラゴンは引っ越したんちゃうんか!?)
(こ、殺される……リ、リベラ、帰ってやれんくてごめんな……身重の君を残して逝く俺を許してくれや!愛しとるで!)
(助けてや!こんなのイヤや!オカンー!)
(別次元やな……戦いとか、そういうレベルでないわな。絶対に敵わへん……これは終わったなぁ。ケッタイな任務やったなぁ……)
(すげえな!金色や!あの鱗は売ったら幾らになるんやろ?俺も億万長者になれるん?)
(こいつら囮にして、俺だけでも生き延びてやらな!ほんまやってられんわ!)
ーーーザグエリ騎士団内心ENDーーー
バラバラの思念が、大量に流れ込んで来て頭が痛い。
どうやら、アチラさんも予期せぬ遭遇だったのは分かった。
「さっさと出てってくれる?ここは僕の住処なんだ」
「はい!直ぐに出てきますわ!」
「ほんならサイナラ!エターナルドラゴン様!ごっつおおきに!」
「ハイハイ、サイナラねー?全く……」
僕の住処に勝手に入るなんて、僕にもプライバシーというのがあるんだよ?ザグエリ騎士団は礼儀がなって無いね。
僕は2人を降ろして、人形態に戻った。アルが顔を真っ赤にして抗議している。
「ワールドン様!服を!服を着て下さい!」
「さっき破けたんだよ。仕方ないじゃん?」
「は、恥ずかしいのです!せめて隠して……」
アルは挙動不信な感じで、視線をウロウロさせている。
「なんでアルが恥ずかしいのさ?逆じゃないの?光ガードはあるよ?」
「光ガードが甘いです!しっかり全身を覆うようにお願いします!」
「ワドー、アルー、ほらいくよー」
(なんでアルが恥ずかしがるのさ?)
でも、光ガードは角度によっては見えちゃうらしい。メインカメラだけ意識していても、足りないみたい。
仕方なく、僕は光で全身タイツを再現してみた。
それにしても【伝心】だと僕の全裸も平気なのに、肉眼だとダメってアルは変わっているよなぁ。ルクルに質問したら触れてやるなだってさ。
例えるのなら「伝心は1人脳内で見るAV。肉眼はリアルで知り合いの全裸に遭遇した感覚」だってさ。意味不明~。
そんなやり取りをしながら、僕の住処の奥深くへと進んだ。
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(な、なんじゃこりゃー!?)
そこはマナ鉱石が掘り荒らされて、ボコボコになった住処だった。僕のコレクションを確認したら、綺麗サッパリ無くなっていた。
「ぼ、僕のコレクションがないんだけど!?ど、どうなってるの!?」
「これは……」
「あちゃー、やられちゃったねーワド」
何がやられたのかを、ルクルに問い詰めようとした瞬間、銃声が聞こえた。僕らは急いで、洞窟の入口まで戻る。
あれは倉庫の辺りか?
パパパパーン!
銃声が更に鳴った。何が起きているのか分からない。とにかく僕は急いで倉庫に向かう。
「待て!おいてくなー!ワドー!」
「待ってください!ワールドン様!」
2人の声を背に振り返る事なく、僕は倉庫にホバーの全速力で駆け出した。
新章突入です。
やっと、まともな戦闘パートに入れます。
でも、ワド主観だとかなり雑な感じになるので、ちゃんと戦闘を描くのは閑話までお預けです……。
次回は「泥棒騎士」です。




