閑話:主観の違い講座
前回のあらすじ
エリーゼがロアンヌちゃんの宿を事故物件にした直後の皆のやり取りです。
ep.「暴走の元凶」の直後のリゼ視点です。
リゼがルクル達に、ワドの発言の注意点を教える事になったの。
「ワドー?聞いてた話とリゼの話が、全然違うんだけどー?どうなってるー?」
「ぼ、僕は1つも嘘は言って無いよ!」
「あ、俺はリゼの証言を信じるからなー」
リゼを信じてくれるルクルがいるから、頑張れる。
「なーーー!親友だろ!?僕らは!」
「ワールドン様、日頃の行いのせいかと……」
「おい、アル!その言い方だと僕の日頃の行いがまるで悪いみたいじゃんかー!」
「因果応報、自業自得……ですにゃー」
皆の砕けたやり取りに、少し心が軽くなる。
あのあとリゼに気を使わず接してくれているのは、ルクルとカルカンだけですの。
ワドは少し会話が空くと、気まずそうに視線をそらすし、弟のアルフォートもちょっとよそよそしいの。
(ルクルは気遣って気さくな態度でいてくれるんでしょ?カルカンはまぁ……あれなの)
どの程度、この会話の中に入って良いのか不安になる。ワドを見つめたいけど……リゼに見られ続けるのは、まだワドには早いから、チラチラ見るだけで我慢する。
(もうちょっとだけ、あと少しだけ……)
つい長くなってしまって、ワドに視線を気づかれた……失敗ね。でも、目があった事が嬉しくて、身体が少し火照って来ているの。
(今は、表情に出ないように気を付けなきゃ……)
「リゼー、ワドが逃げた後、リゼと合流した時に愚痴を延々と聞かされたってワドは言ってたんだけどー、ホントはどうなんー?」
「被告人は夜通し聞かされて大変だったと言ってたにゃー」
「また弁護人が追求してくるの?やめて?」
「そうね……あの時は……」
ーーーリゼ回想VTRーーー
「ワールドン様!お待ちしていましたわ!この港町と周辺の港町は全て教育済みですわ!」
「え!?周辺って?待って!待って……」
「この大陸の北側の21の港町全てですわ!」
「エ、エリーゼ!?ど、どういうことなの?」
「そんなに喜んで頂けて、わたくし、幸せですわ!さぁ次は内陸でしょうか?わたくし、もっともっと頑張りますわ!」
〜〜〜報告中!〜〜〜
「わたくしワールドン様に会えなくて辛かったですわ!本当に毎日辛かったですわ!」
「ご、ごめんね?勝手に飛び出して」
(謝罪の御言葉ですわ。わたくしが遅いのが悪いのに本当に慈悲深いですわ)
「だから代わりにワールドン様の素晴らしさを広める事に全力でしたわ!」
「ほどほどにね?」
(ほどほどに……つまり今のペースで頑張るようにという事ですわ。頑張りますわ!)
「わたくし他の港町での成果を早くご報告したくて頑張りましたわ!急いだので部下が数人、倒れましたわ!軟弱なので叩き直しましたわ!」
「そ、そうなんだ?……ハハハ……」
(ワールドン様が笑ってくれましたわ!嬉しいですわ!もっと教育を強化しますわ!)
「信仰が低い不埒者は処分しましたわ!これも早くお伝えできない事がもどかしかったのですわ!」
「処分って……生きてるの?」
「当然ですわ!記憶を全て消しただけですわ!今、綺麗な状態からの再教育中ですわ!」
「い、生きてたなら良かった……」
(~~~~~~っ!良かったと言って貰えましたわ!今後も続けますわ!)
「それに各港町の名産とおいしい食事もリサーチしましたわ!」
「あ、それは嬉しいな。聞かせてくれる?」
(~~~~~~~っ!嬉しいと言って貰えましたわ!幸せですわ!しかもおねだりですわ!全力で叶えますわ!)
「夜通しご報告致しますわ!」
「あ、案外、早く合流できて嬉しいよ。ハハハ……」
(~~~~~~っ!連続の嬉しいですわ!次はもっと早く合流できるように全力ですわ!)
ーーーリゼ回想ENDーーー
あの頃の幸せな日々を思い出したら、涙がでそうになる。でもここで泣いてはいけない。平静を装うの。
大丈夫、リゼはできるの。
「先に行った事を謝罪されたから、ちゃんとしなきゃと思ったの。布教を広めた報告をしたら『ほどほどに頑張れ』って励ましを頂いて、やる気を出してたの」
「おいー?ワドー?」
「え?え?僕、そんな事いったっけ!?」
「リゼが嬉しかったから間違いないの」
「ギルティですにゃー」
(焦ったワドも愛しいの。報告続けなきゃ……)
「部下の教育をした報告をしたらワドが笑顔だったから、再教育を頑張る事にしたの。それに町人を記憶消去して洗脳中と報告したら、良かったとワドが言ったから、それも更に進める事にしたの」
「ちょっと!?ワドー!何言ってるー!?」
「ワールドン様。流石にどうかと思いますよ?」
「え?え!?そんな記憶ないよ!記憶に御座いません!だよ!」
(リゼは忘れないの。大切な思い出だから……)
「名産や食事のリサーチを報告したら、嬉しいから夜通し報告するようにおねだりされたの……リゼ、凄く嬉しかった」
「おい!夜通し報告させてるのワドじゃんかー!お前、報告がテキトーすぎー!」
「リゼ氏は無罪にゃ!」
「ワールドン様、姉は人間です。睡眠を削るお願いばかりするのは控えて下さい」
「あ、あれ?確かにおいしいものを教えて貰ったけど……僕の記憶と少し違うような……」
ルクルとカルカンは、ワドを厳しく追及し始め、弟のアルフォートはやんわりと苦言を伝えている。
当のワドは、何度も首をひねりながら困った表情をして、記憶が違うというけど、大切な思い出だから間違うはずが無いの。
(マイティが寝た後も、2人で語り明かしたあの夜は幸せだった。今は遠い……遠いの)
それから、北の大陸に向かう船の中でお祈りをして白様を呼んだ話へと移っていく。
あの時は早く会いたい気持ちだけで必死だったことを思い出しながら語る。
「それに早く合流できて嬉しかったと言ってたの。だから大陸渡る時に置いて行かれた時には、もっと早く合流できるよう必死でお祈りしたの」
「あー!言ったかも!でも日常会話のつもりだったんだよ!それがなんで白に頼む事になるのさ!時効だよ!」
「「「完全にギルティ」」」
合流した時のやり取りを詳しく説明して、少し息を吐く。この場に一緒にいても凄く遠い。
でももう少し、もう少しだけ我慢。
(皆笑ってる。ワドも困った顔しながらも嬉しいみたい。その表情も眩しいの)
記憶の底に沈んでいる時だけあの頃の幸せが蘇る。今はこれだけ。
思い出を探していると、ふとルクルとの初対面の頃を思い出し、そっと呟く。
「……そういえば、ルクルの奴隷解消も『お願い。エリーゼにしか頼めないから』っておねだりされてね……嬉しすぎて、[急ぎ仕事]をしたの」
「急ぎ仕事ってなんなのにゃ?」
「……さぁ?」
「カルカン、こういう事は深く聞いてはダメですよ」
「そうなのにゃ?でも気になるのにゃー」
騒ぐカルカンを無視し、ワドの素敵な歌声を思い出していた。
あ、次のご褒美はワドの歌にしようかな?
素敵だったし……あの子も聞きたいはずだもの。
そうして仄かな楽しみを考えていたら、ルクルが場を締めるように、ワドへ強めの説教を始めた。
「結局さー、主観が違うと物事の捉え方が違うんだよ。ワドはもっと言葉に気を付ける事を心がけてー」
「ぼ、僕は誤解だと思う!」
「だーかーらー!ハラスメントは相手がどう感じるかなのー!」
語気を強めながらルクルは説教を続ける。
ワドは今でも泣き出しそうな顔をしながら弁明していて、そこに助け舟を出すかのようにアルフォートが小さく挙手をした。
「あの……主観の違いが分かる例えはありますか?」
「そうだねーじゃあさー……」
ルクルの提案で、カルカンから見たワドとの出会いを【伝心】で読み取って全員に共有する事になったの。【伝心】を受け取るのが怖くて震えが止まらなかった。
怖い……怖いの。
でも皆に気付かれないように、自分を抱きしめ震えを抑え込む。
(お願い!貴女の勇気を少しだけ貸して欲しい!)
なんとか震えが止まった所で、カルカンの主観の上映会が始まった。
ーーーカルカン主観上映会VTRーーー
【閑話:カルカン君の苦悩】を上映中。
ーーーカルカン主観上映会ENDーーー
(((誰だコイツ?)))
(あぁ、私達の知らないワドが素敵なの)
「なんか照れるのにゃー」
ワドとアルは主観の違いを認識する大切さが分かったと語り合っていて、ルクルは「自分を美化し過ぎ!英雄のお父さんは草葉の陰で泣いているぞ!」ってカルカンをイジっていたの。
ふふっ……まさかあのルクルと私達が、こんなにも打ち解けるなんて想像も出来なかった。
「本当なのにゃー!盛ってないのにゃー!」
カルカンの絶叫に皆で笑っていたの。
主観の違いは恐ろしいですね…
((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
ちなみに、伝心を受け取る事は、リゼのトラウマになってます。
次回から新章「失った物と新たな贈り物」になります。
次回は「住処への帰郷」です。
※色でのキャラ呼称の補足
本作の最高位ドラゴンの7柱は色で呼ばれています。
金、銀、白、黒、赤、緑、青、となります。
特にドラゴン達は敬称も付けずに色で呼び合っているので、唐突に色だけの呼称で出てくる事もあります。
分かりづらくて申し訳ないです。




