閑話:イカサマ対策
前回のあらすじ
王都見物から帰ってきたワド達は、翌日は吹雪になったのでトランプで遊んでいました。
ep.「新年祭・前編」の時のアルフォート視点です。
私達はルクル提案の、トランプというカードを使った遊戯で遊んでいました。
「にゃー!また最下位にゃー!やってられないにゃ!」
「ぷぷぷ、カルカン弱すぎ。大富豪では強いんじゃなかったん?ん?ん?(ニヤニヤ)」
ワールドン様がカルカンを揶揄って遊んでいます。
私やルクルは、その光景をお茶を飲みながら眺めていました。
「ワールドン様が大人げないのにゃ!」
「僕は17歳だからカルカンより年下なのー」
「おかしいのにゃ!年齢の計算あわないのにゃ!詐称にゃ!」
またもカルカンが最下位です。
流石はワールドン様、ほとんど1位で崩せる気がしません。私は自信をなくして、ティーカップの湯気を見つめていました。
すると、ルクルが席から立ち上がって、背伸びをしながら大声で話題を口にします。
「アル、ちょっとトイレに行きたいんだけどさー、付き合ってくれるー?」
「お、ルクルってば伝説の連れションってのかな?」
「ちょっとー!うるさいよー!お母さーん?」
「誰があなたのお母さんですか!?」
(屋敷のトイレをルクルは知っているのに、何故?)
理由は分かりませんが、ここは乗っておきます。
廊下に出てトイレ近くまで来たら、ルクルが話を切り出しました。
「わるいねー、アル。部屋から連れ出したかったから、トイレを口実にしたよー」
「あの場では話せない内容ですか?」
私の問いに軽く頷くルクル。
「うん。それがねー。ワドは確実にイカサマをやっているかなー」
「イカサマとは不正行為の事ですよね?」
「うん、そう。伝心は確実に使ってるねー」
ルクルが舌打ちをしています。イカサマを防げないのが悔しい様です。
神であるワールドン様が、わざわざイカサマまでして勝ちに拘るでしょうか?
(やる気がします。勝って尊厳を示して【ドヤ顔】という勝ち誇った顔をする為になら、イカサマくらいやりそうです)
「防げませんよね?」
「そうだね。たださー、イカサマしてる事実だけでも白日の下に晒したいんよー。手伝ってくれるー?」
「せめて一矢報いましょう。カルカンは?」
ルクルは苦い顔でフルフルと首をふり、目を伏せながら拒否を示しました。
「いやー、あのチョロい猫魔族は、こちらの情報が漏れるだけで、リスクしかないよー」
「確かに。取り込んだらカルカンから、情報が漏れる可能性が上がりますね」
「可能性というかー、ほぼ100%かなー。ババ抜きの時、カルカン君の事どう思ったー?」
(そういえば、ずっと凝視してました)
「あれほどババ持ってる事と、どこに持ってるか丸わかりで、本人勝つ気満々なのはちょっと滑稽でした」
「まあねー、そりゃーずっとババをガン見してるからなぁ」
カルカンは手の内が読み易いだけで無く、酔っているためか迂闊にポロッと情報を零します。
大富豪の時も「今まで不運だったけど、今回は3枚もあるからイケるにゃー」と零した事で、カルカンが2を3枚持っていると確信できました。
それにブラフという駆け引きの嘘に、毎回引っかかるのは、わざとやっているのか疑った程です。
ーーーアルのトランプ回想VTRーーー
「あ、今さ、カルカン君が掴んでるのがババだよー?」
「マジかにゃ!?危なかったのにゃー、じゃあこっちにするのにゃ!……ってなんでババにゃー!?」
「ブラフだよーさっき教えたでしょー?」
「ぐぬぅなのにゃーー。あ、アル氏!この真ん中のがババじゃないにゃ!」
「そうですか(スッと左を取る)」
「にゃーーーんで真ん中取らないのにゃ?」
(カルカン……わざとですか?)
((コイツ、本気でいってやがる))
「ブラフがあると楽しくないのにゃ!皆ブラフをやめるのにゃー!」
「じゃー、これからブラフなしねー」
「よっしゃ盛り返すのにゃ!」
((いや、無理でしょ))
(カルカンには、負ける気がしませんね)
「という訳で、右がババだよー」
「あ、じゃあ左にするのにゃ!……なんでなのにゃ?ブラフやめてるのににゃ!」
「ブラフやめるというブラフだよー?」
「卑怯者なのにゃーー!」
ーーーアルのトランプ回想ENDーーー
カルカンを仲間に引き入れるのは……諦めました。
「それでどうしましょうか?なにか策は?」
「取り敢えず、ババ抜きに戻すかなー」
「ババ抜きで倒せる気はしませんが……」
ルクルは人差し指を立てて左右にふります。
(確か、違うという異世界のジェスチャーでしたね)
「倒すのでは無くてー、イカサマを暴くだよー」
「そうでした」
「まぁベタだけどさー、見ないでシャッフルして、引かせる時も、カード見ないようにして様子みよー」
(成程。見てなければ、心読まれても平気ですね)
「あと、カルカン君と必ず対面になるようにねー」
「カルカンが隣にいると、ババ抜きは簡単過ぎますからね」
「じゃあさー、サインだけ決めとこうかー」
戻る時に、廊下に出るサインだけ共有しました。
アップルティーのお代わりと共に部屋へ戻ります。
部屋の中がお酒の匂いから、アップルティーの香りに入れ替わりました。
そして、カルカンとワールドン様が隣同士にならないように、言葉巧みに席位置を調整しつつ、5ゲームほどプレイします。
「あーあ、カルカン君がお酒飲み過ぎ。俺も紅茶以外でなんか飲みたくなった。ちょっと貰ってくるねー」
(ルクルからの、サインです)
「じゃあ少し休憩ですね。私はちょっと、姉の様子を見てきます」
「あ……うん、エリーゼをよろしく、アル」
「はい」
暗い表情をしたワールドン様を安心させるべく優しく微笑んだ後、私達は廊下に出ました。
念のため、部屋からある程度の距離まで遠ざかってから、会話をします。
「しかし、あんな回りくどいセリフのサインである必要あったのですか?連れションで良かったのでは?」
「いやいや、連続で連れションは怪しまれるー」
「何故あのサインに?」
(飲み物は、従者を呼べば良いでしょうに)
自ら飲み物を取りに行く行為は、貴族の私にとって違和感しかありませんでした。
ですが、ワールドン様は違和感を覚えなかったのか特に追及はされていません。
「ワドをー、あの部屋に釘付けにするためだよー」
「あのサインで?」
「重要なのはアルのセリフだよー」
私は意図が分からず、ルクルを凝視します。
ルクルはおどけた様子で、肩を竦めながら軽い口調のまま、割と衝撃的なことを言いました。
「エリーゼ様の様子を見に行くって伝えると、ワドは地味にショック受けて、動けなくなるからー」
(確かに、傷心のワールドン様に対して、有効ですが……ルクルも鬼畜ですね)
最近のワールドン様と姉上は、ギクシャクしている事が多いです。今その傷口を刺激するのは、私では考えもしませんでした。
ルクルは、私より貴族に向いているのでは?
陰謀に適性があると思います。
「結論だけどー。伝心ではないねー」
「伏せてても、お構い無しですからね」
協力して仕掛けた伝心対策では全く効果が無く、ワールドン様は連勝を続けています。
「それに、ペアができる速度が異常かなー」
「伏せて伝心対策しても、確実に減らしていきますよね」
普通にプレイしていた時も、ペアを作る速度が異常でした。
(まるで、全てのカードの数字が、わかっているような……)
「アル!それだー!」
私の思考がつい小さな呟きになり、それを聞いたルクルが目を輝かせます。
私の手を取り、何やらダンスまで踊りだす始末でした。
ですが、いきなりのことで理解が追い付かず、つい「それとは?」と疑問が口から出ます。
「トランプのカードにも、少しマナを纏わせる事ってできるー?」
「それならマナ石でも、できそうですが?」
ルクルはニヤリと笑って、要求を告げました。
「じゃあ、マナ石を用意してくれるー?出来れば光のマナでねー」
「それならば大量に余っていますね。ワールドン様から、光のマナ鉱石の提供が続いているので、低品質な光のマナ石は余ってます」
「よしよし、クククッ……今に見てろーワド」
従者に手早く用意して貰ったマナ石を、ルクルと二人で分けます。
暗所で保管されていたのか、ひんやりとした感触が肌に伝わってきました。
「これで、どうするのです?」
「ワドは、マナで印をつけてると思うんだよー。数字だけねー」
私が「どうしてそう思います?」と尋ねると、ルクルは笑いを嚙み殺しながら、説明を始めました。
「ちなみにワドは、トランプのゲームを俺と同じくらい知ってるんだよー」
「はい。それは聞きました」
「で、ゲームの候補出しの時に、マークが重要になるゲームは避けてたんー。恐らく複雑な印は難しいんかなー?」
それを聞いて「なるほど」と首肯します。
納得できる意見でした。
マークを避けていた理由として、妥当に思えます。
「だから、小さな印を数字の分だけ、つけてるのではないかなーと。ジョーカーは印なしだろうねー」
「あ!」
「ではイカサマ暴露といこうかー……クククッ」
それから部屋に戻ったら、ワールドン様が姉上の様子をしきりに聞いてきました。
ルクルからの事前の指示通りに、沈痛な表情を浮かべて、言葉を濁します。【伝心】を使わせない為に、ワールドン様の心の傷口を的確に狙うルクルは、やはり陰謀家の才能があると思います。
……そして、真実が暴かれました。
「なーーーなんでジョーカーがないの!?」
盛大にイカサマの事実をご自分で晒したワールドン様が、ルクルとカルカンから吊し上げを受けています。
本当に憎めないフレンドリーな神様です。
(……姉上を、どうかよろしくお願い致します)
カルカンはババ抜きでジョーカーだけを見ています。
でも、本人は見てる事にきづいてないんですよw
ちなみに大富豪のシークエンスは、私の地元では無いルールでしたので、ルクルもルールを知らない設定です。
大富豪、結構ローカルルールが多いですよね。
次回はカルカン視点の「閑話:ダイエットにゃ」です。




