新年祭・後編
前回のあらすじ
ブールボン王国の新年祭を回っていたワド達。
サブロワ、カオ、ミアに出会い後をつけたら、大道芸をやっている所につきました。
暫く大道芸を見学していたら、カオ君とミアちゃんが林檎を射抜く芸に挑戦した。
「さぁ、今度は元気な男の子と可愛らしい女の子のペアの参加だよ!2人のお名前と何歳かを教えてくれるかな?」
「カオ!10歳だ!」
「カオ君は勇敢だねー」
「ミア、10歳です。頑張ります」
「ミアちゃん、彼のハートを打ち抜く自信はあるかなー?」
ミアちゃんは力強く返事したよ。
「あります!いっぱい練習しました」
「お、やる気満々だね。じゃあ二人共、マークの位置に立ってね」
「はいこれ、矢は3つだよ。ミアちゃん頑張ってね!それじゃあスタート!」
3つとも外してしまったミアちゃんの目には、涙が浮かんでいる。
「ミアちゃん、残念だったねー」
「わ、わた……し、今日の為に!……ぐすっ……がんばっ……た……のに……うぅ……何で、今日に限って……手が……震える……の……うわ~ん!」
まさかのガチ泣きであるよ?
司会役の人も困っている。
なんで手が震えたんだろ?あ、これが風邪ってやつ?確かに健康、大事ね。
急遽、あと一回だけ特別にチャンスあげる事になったけれど、何故かリゼがミアちゃんの近くに行った。
(リゼ……なにする気だろ?)
「ミア、手が震えるのね?」
「は、はい……練習したのに」
「カオが大好きなのね?」
「~~~っ!」
ミアちゃんの顔が真っ赤になった。やっぱり風邪で熱があるのかな?
「ミアのカオを見てる目を見れば分かるの。好きだからたくさん練習して、好きだから上手くいくか不安で手が震えるでしょう?」
「……はい」
「分かるの、私も同じ。好き過ぎて上手く動けないの。冷静になればいいって、わかってても、どうにもならないの」
「……そんなとき、どうすれば……いいの?」
ミアちゃんがアドバイスを求めて質問していた。
「……自分じゃない、もう一人の自分を心の中に持つの。その子は呆れる程に真っ直ぐで、どんな困難でも真正面から突き進んで、望むものを手に入れてしまうの。……眩し過ぎて直視できない……灼けてしまうような自分……私の憧れなの」
「……はい。私もどんなことでも出来る自分のイメージを持ってみます!」
アドバイスを受けたミアちゃんの矢は命中した。
ミアちゃんとカオ君は、満面の笑顔で手を繋いで会場を後にしたよ。
あのアドバイスは、イメージコントロール的な事かな?まぁミアちゃんが乙女ゲームの主人公なら、間違いなくフラグを1つ立てれたよね?良かった良かった。
不意にルクルから小声で話しかけられる。
「なぁ……ワド、お願いがある」
「お願いとはなにかな?ルクル?」
「リゼに今日は何かご褒美あげてくれない?」
突然、そんな事言われてもご褒美が思いつかないよ。
「え?何かって?僕があげれるもの?」
「そうだよ。ワドしかあげられないもの。ミアとカオを参考にしてみてー」
「んー、考えて見るよ」
リゼがこっちに戻ってきた。
だけど、僕にあげられるものかぁ……やっぱマナ鉱石かな?
でも違うんだろうな割と真剣な口調だったし。
おっと、サブロワ君とミアちゃんとカオ君がこっちに来たよ。
「ミア、おめでとー!よかったよー」
「おめでとうにゃ!」
「ありがとう、上手くいって良かった!」
ルクルとカルカンが祝福の言葉をかける。ミアちゃんは嬉しそうに返事をしたよ。
(あれ?カオ君も赤面してる?)
「な、なんだよミア!恥ずかしいだろ!」
「ヤ!上手くいったら今日はお願い聞いてくれるんでしょ?」
「わかったよ!俺も男だ!二言はねぇよ!」
二人のやり取りに、なんかサブロワ君が居心地悪そうにしている。ミアちゃんとカオ君は手を繋いで……おぉ!あれは上級者の恋人繋ぎではないかね!ミアちゃんやるね~。彼らはそのまま屋台の方に消えて行った。
日没になり、カルカンが酔いすぎてフラフラなので、そろそろ帰ろうかって時に大きな音がした。
空に色とりどりの光が舞っている。
あ、これって花火か。結構音大きいな。
僕らも周りの人々も、やんややんや言いながらそれを見上げていたな。
ふと、リゼを見たら手が震えていた。
右腕で左の腕を抑えている。僕は不思議なほどに自然な動きで、リゼの左手に触れた。
「ワド!?」
リゼは顔を真っ赤にしていて、まるでさっきのカオ君みたいだった。彼らの幸せそうな笑顔が浮かんで、僕は指を絡めた。The恋人繋ぎである。
「~~~~~っ!」
リゼが悶絶しているよ。
ルクル、多分これで合っているんだよね?
僕は空を見上げてから呟いた。
「頑張ってるリゼへのささやかなプレゼントだよ。受け取ってくれる?」
「今のリゼには全然ささやかでないの。おかしくなりそうなの。だから手を離して……」
「ふふっ、やーだ。ってリゼが言ったよね?」
僕はスキンシップで離してくれなかった時の言葉を思い出して告げたよ。
「そ……んな……リゼとの事……憶えてるの?」
「当たり前だよ。リゼも大切な友達だよ!」
あれ?リゼから鼻血がポタポタと出ていて、止まらないんだけど?だ、大丈夫!?
「……ど、動悸が……このままじゃ、あの子の事……何も言えないの。リゼ……はぁ……はぁ……限界……かも……はぁはぁ……ん……」
「大丈夫!?鼻血はどうしたの!?」
「……さ、最期に……リゼの……お願い、聞いて……はぁ……はぁ……くれ……る?」
ものすごくツラそうにしている。鼻血も凄いけど、呼吸が荒くて明らかに変だった。それに言葉のニュアンスも!
「なんか最後のニュアンスがちょっと変だよ!?僕に出来る範囲でなら聞くよ!」
「リゼが……いっぱい……いっぱい頑張った……ら、こうしてご褒美くれ……る?……ん……はぁ」
「うん、このくらいならご褒美あげるよ?」
「……や……くそく……です……の」
ゴッパーーン!ドサッ!
空は花火、地上では血飛沫が同時に咲いた。リゼは右手で、自分の顔面を思いっ切り殴った。ロアンヌちゃんの宿屋の再現なんだけど!?
(マ、マイティーー!)
駆けつけたマイティが、リゼを抱えて素早く撤収する。流れるような物凄くスムーズな動きだ。周囲の人は空を見上げていて、気付かなかったくらいの早業だった。
ん?ルクルから【伝心】のサインだ。褒められるのかな?
『ルクル!ご褒美ってあれで合ってるでしょ!?僕も学習したの!(心のドヤァ)』
『合ってるけどー』
『けどー?(ワクワク)』
『ワド、やり過ぎー!前みたいに色欲全開になっても今度は助けないからねー』
『ちょちょ、ちょま!そんなのダメだよ!何度でも助けてよ!(切実)』
ルクルに恐ろしい事を言われて僕は涙目だった。後でどの辺りがやり過ぎだったのかをしっかりと問い質すぞ!
公爵本邸に戻った後、ルクルにリゼの回復をお願いした。
それからマイティに物理以外で人格入れ替えの手段を用意するよう懇願したよ。毎回あんなんじゃ心配だし、寿命も塵積だからね。
マイティは睡眠薬の小瓶を用意してエリーゼに持たせる事にしていた。これで一安心だね。
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翌日の早朝。
エリーゼがゲストルームに訪ねてきた。
「おはよ。エリーゼ、皆はまだ寝てるよ?」
「おはようございます……ワールドン様。あの……昨日は何かトラブルでしょうか?」
「ん?いや、揉めたりのトラブルは無かったよ?なんでトラブルと思ったの?」
いきなりの質問がちょっと分からないな。最近はトラブルの感覚がマヒ気味だし?
「……もう一人のわたくしから、連絡がありませんでしたわ」
「そうなんだ。倒れてたから心配だよね」
「え?わたくし倒れたのですか!?」
エリーゼが目を見開いて驚いた。
「そうなの。エリーゼの宿屋の時と一緒。いきなりグーパンで焦ったよ。マイティから聞いてないの?」
「わたくし起きてすぐにここに来ましたわ。ワールドン様!わたくしの為にありがとうございます!厚く御礼申し上げますわ!」
「え?僕、なにかした?憶えてないけど?」
てっきりマイティから昨日の事を聞いていると思っていたら違うみたい。
それより、エリーゼからのお礼に心当たりが無いけど?
「もう一人のわたくしに代わって申し上げましたわ!わたくし、次の連絡が楽しみですわ!」
「そ、そう?楽しそうで何よりだよ?」
「はいっ!」
それだけ言うとエリーゼは去って行った。
朝食を終えた僕らは、カルカンを残して再びルマンド君と面会していた。カルカンはいつも通りの二日酔いだよ。
「アルフォート、お前から見てエリーゼはどうだったのだ?」
「宿屋を汚した事以外は特に問題ありませんでした。汚した件も次からは改善できると、専属従者から報告を受けています」
「そうか……良かった。ワールドン様、ルクル殿、ありがとうございます。愚妹を宜しくお願い致します」
一応、二日酔いで不在のカルカンもいる事をアピールしつつ笑顔で答えたよ。
「カルカンも一緒にエリーゼを支えるよ!僕に任せて!」
ルマンド君、エリーゼ、アルが深く頭を下げていた。どうやらルマンド君の案は廃案となったようだ。
(……良かった。本当に良かった)
おもちゃの弓矢は、直線では届かない威力です。
ですので放物線を描いて当てるのですが、割と難易度高めです。
※弦も矢もゴムで出来てます。
※どこかのお嬢様が本物の銃を使ったケース以外では安全です。
次回は「旅先の方針相談」です。




