新年祭・前編
前回のあらすじ
エリーゼは自分の顔面を殴って、リゼに入れ替わりました。
それから暴走する禁句を、リゼにレクチャーして貰います。
宿には血痕の迷惑料として、1000カロリを渡した。
「ありがとう~!また来てね!私、ルクルが凄くタイプだから~、いつでも歓迎するよ!」
ロアンヌちゃんに「タイプってのは本当?」って聞いたら「お金持ちはタイプだから本当だよ!」だってさ。ついでに、タイプと言うと再訪率が上がるし、言うだけならタダって事を下心全開で話していたよ。
ルクルを【伝心】で読み取ると、地味にショックを受けていたな。
見送りを受けながらロアンヌちゃんの宿を後にして、2日目の王都観光だ。リゼと観光するのは初めてだったけど、和気藹藹と皆で買い食いしながら回った。
信者エリーゼとの会話も気がかりだけど、やっぱり昨晩のリゼは我慢していたってのが気になったよ。
(早く、なんとかしたいな)
楽しく観光できたのは、カルカンのおかげかな。僕とリゼの空気が微妙なのもお構いなしだ。いつものKY力を発揮してくれて微妙な空気は爆散したよ。
3日目は吹雪になったので、ゲストルームに終日いたんだ。ルクルが数日前に提案したトランプを、従者が作ってくれていた。ババ抜きと大富豪をやったけど、あまりにカルカンが弱すぎる。最終的にはやさぐれてお酒に逃げていたな。
ちなみに、信者エリーゼは部屋に籠もっている。
部屋の前まで呼びにいったけど「今のわたくしでは、まだ会えませんわ!」の一点張りだったよ。ルクルに少し時間が必要と諭されて、その日は諦めた。
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今日はいよいよ新年祭だ。
馬車はこっちが僕、リゼ、マイティ、カルカンだ。ルクルが「カルカンの力が必要だよー」って頼んでいた。頼られた猫は、にゃっにゃにゃっにゃと上機嫌だ。
でもさ、多分KYな部分を見込まれての人選だけど、それに気付いていない所が流石のKY力だよね。
「リゼ、新年祭はどんなお祭りなの?」
「貴族の挨拶回りで、ほとんど参加した事がないの。確か9歳の時の一度だけね」
「その時は楽しかったにゃー?」
リゼは少し目を閉じて、思い出そうとしていたけど、諦めたようで少し窓の外に視線を向けて呟いた。
「そうね。アルを連れ回してトラウマを植え付けて、お兄様に凄く怒られた記憶だけかしら?あんまり憶えてないの」
「アル氏も災難にゃー」
「アルから伝心で読み取るのはやめとく……」
話していたら、馬車が大通りに着いた。
今日は晴れていて最高のお祭り日和だ。
ルクル達とも合流して、早速向かおうとしたらアルから待ったがかかる。
「どしたん?アル?僕は早くいきたいよ?」
「重力制御を調整して下さい」
「え?完璧だけど?」
え?浮いても無いし、埋まっても無いよ?
「あーーーなるほどー!」
「にゃ!」
「え?何?なにか変?」
「「「変!」」」
「変ですの」
従者3人組までもが頷いていた。な、なぜ?
「ワドー、少し雪に埋まるよう調整してー」
「さ、匙加減が難しいよ!?」
「雪の上で足跡がなくて、足音もしないのは絶対に変にゃー!降ってないから目立つにゃ!」
今までは雪が降っていたから目立たなかったけど、晴れたら僕の異常性が目立つらしい。暫く、適度な重量に調整するため頑張った。
上手く調整できてから、活気の中心へと向かったよ。
「「今年の無病息災を祈願して~乾杯!」」
全員にお酒が配られた。この新年の1杯だけは未成年でも飲んでいいらしい。カルカンだけは一杯お代わりしていた。
ケタの頃に聞いたお酒の知識だと、ランビックというエールの一種のホットビールだったよ。冷蔵庫が無かった時代は常温ビールやホットビールが当たり前だったらしい。ちなみに味は凄く酸っぱかった。香りも酸味が強いね。
「病気にならないってそんなに大事なの?」
「当然にゃー、健康が一番にゃ!」
「でもでも、女の子の看病とかってラッキースケベの定番だよね?薬を挿入とかさ?」
「ワドー、アニメの話を持ち込まないー。それに看病で座薬は普通じゃ使わないぞー」
「ワドがそういうの好きならリゼは……ん、ダメダメダメ、今のは忘れて?」
僕は病気にならないから分からない感覚だ。アルは初めて見た実姉の痴態にドン引きしていた。
(少しは寛げてるのかな?)
飲み過ぎなのか雪で滑ったのか分からないけど、カルカンが三回もコケたよ。多分、前者の割合が大きいような気がする。
「あぁ~イカ焼きがぁ……3秒ルールにゃ!まだ間に合うにゃー」
「カルカン、不衛生です、落ち着いて。また買ってきますよ」
「アル氏も神様なのにゃー」
カルカンが子供達にぶつかって、またもコケた。
アルが介護していると、子供が謝ってきたよ。
「……ごめんなさい、カルカンさん……」
お、サブロワ君じゃん!後ろの2人は新顔だね。お友達かな?でも服装が明らかに違うね?
「こんにちは、サブロワ君。後ろの2人はお友達?」
「こ、こんにちは!お姉さん!」
「おう!友達だぞ!今日友達になった!俺はカオだ!よろしくなオバサン!」
「はじめまして、おば……お姉ちゃん。ミアです」
やっぱり、おばさん認定されちゃうのか。
「あら?チキーズさんの所の坊っちゃんね?私の顔に見覚えありませんの?」
「ったく、誰だよ?……あ!あ、あの……いや、その……」
「こちらの[お姉様]に挨拶をし直して?」
「お、お姉様、カオと申します。すみませんでした」
カオ君が急変したよ。めっちゃ震えている。
サブロワ君も先日の一件で僕に畏れを感じているみたい。シャイな彼はいつも小さい声だったのに、僕への挨拶はハキハキだったよ。
珍しい、アルから【伝心】のサインだよ。
『アル、どうしたの?』
『この2人、貴族です。チキーズ男爵の子と、ジノゴ子爵の子ですね、確かサブロワと同い年だったかと』
『あ、それでリゼを知ってたって事?』
『そうです。本来、貴族の祝賀パーティーに出ている筈なので、お忍びで平民として紛れ込んでるのかと』
なるほどなるほど。さっきの殺気はおばさん呼びに腹を立てたのか。リゼも大人げないや。子供の呼び方は気にしなくていいのに。
「お、おい。サブロワ、さっさと行こうぜ!離れの噴水前だろ?さっさと案内しろよ!」
「私もカオも楽しみにしてたの。初めてで楽しみ!」
「……うん。こっちだよ。カオ、ミア」
何かな何かな?なんか楽しそうな予感。ルクルに目配せするとコクリと頷いた。
「ほーら、カルカン君。早く移動するよー」
「リゼもこっちだよ。おーい、アル!早く来てー!見失っちゃう!」
僕らは子供達をやや遅れて尾行した。
買い出しに出ていたアルはかなり後方からついてきている。
大通りから離れた職人街っぽい所に噴水があった。
なにやら奇抜なコスプレっぽい衣装を着た人達が、色々なパフォーマンスをしている。
「大道芸にゃ!凄いのにゃ!」
「おおー!あれってマナ鉱石を使ってるのー?」
「多分、そうっぽい。大技とか手品みたいな時にマナ反応がでるよ」
「そういえば子供の頃にアルと参加しましたの」
リゼがポツリと呟き、そこに遅れてやってきたアルは顔面蒼白になった。
「参加できるのにゃ?してみたいにゃー」
「子供も参加出来るのは、的の林檎にゴムで出来た玩具の弓で当てる芸ですの」
「へー、リゼとアルもそれにでたのー?」
カルカンとルクルは次々と質問をしていき、懐かしむような表情でリゼがお祭りの内容を説明していく。
「男の子が林檎を頭の上に乗せて、女の子がそれを射抜くの。恋愛が成就するってジンクスがあるの」
「僕もギリギリ未成年で出れないかな?」
「ぐっ……痛たたたた……」
さっきからめっちゃアルが具合悪そう。
胃の辺りを両手で擦っている。一体どうしたの?
そう思って【伝心】してみた。
ーーーアル回想トラウマVTRーーー
「お、男女のペアの参加だね?お友達かな?」
「姉弟ですわ!やってやりますわ!」
「ハハハ、元気なお嬢ちゃんだねー。そっちの弟君は何歳かな?」
「5歳。頑張ります!」
「おぉ!勇敢だねぇ!じゃあ二人共そのマークの位置に立ってね」
「はい!全力ですわ!全弾当てますわ!」
「3つ全部当てるのは難しいよ?じゃあ、この弓を……って君!何持ってるの!?」
「そんな玩具じゃ的を射抜けませんわ!わたくしは本物だけを使いますわ!」
パパパパーーーン!
「ちょっ!?僕ちゃん!生きてるか!?」
ーーーアル回想トラウマENDーーー
「的に全弾当てたのに、何故か急遽中止になりましたの。原因はあんまり憶えてないの」
「全部当てるの凄いにゃー!」
「へー、じゃあ特賞は貰えなかったのー?」
リゼ達の話が盛り上がっているのを横目に、僕はアルを気遣って声をかける。
「え……と、アル?なんていうか……た、大変な恐怖だったね?」
「ワールドン様、勝手に見ないで下さい!」
4丁を使った見事な4連速射だったよ。色んな意味で本物だったよ。
ランビックのホットは個人的には苦手ですね。
クリークは普通に冷やしている方が好みです。
次回は「新年祭・後編」です。




