王都見物・後編
前回のあらすじ
王都見物に来ていたワド達。ロアンヌちゃんのキャッチに捕まります。
一緒に来ていた少年の銃鍛冶屋に寄り道をする事になりました。
ルクルがなんかやたらしつこいから、うっかり1つの銃を手に取りすぎていた。
「あ……しまった」
銃が僕のマナを帯びて、金色にうっすらと光りだす。ちょっと失敗。
「アル、これ買いたいんだけどいい?」
「はい、24000カロリでしたよね?」
「ちょちょちょちょ!それちょっと戻しな」
ミルネさんが慌てて銃の確認をし始めた。目が爛々に輝いている。
「悪いね~、これ最上級の特注品だったみたいだよ。新年特価180000カロリでどう?」
(おいおい、いきなり価格あげちゃったよ)
「だったら要らないかな」
「いや、アンタはべたべた触ったよね?高級品をそんなに触れて、何も買わないってそりゃ無いよ?」
(あー面倒な事になったなぁ)
「それ元々は25000カロリくらいの価値にゃ!ワールドン様のマナを帯びてマナ鉱石が進化しただけにゃ!詐欺にゃ!」
「カルカン、無駄な正義感だすのやめてね」
「何言ってるんだい?あたいらは明朗会計でやってるよ!この銃の価値は180000カロリが妥当だよ!」
「そうにゃ!でも、それの価値を高めたのはワールドン様にゃ!おかしいにゃ!」
あー、カルカンが無駄にマナ鉱石職人魂を燃やしちゃったよ。勘弁してよ。
「でも高級品を素手で触ってたのはそっちだろ?」
「そもそもここに高級品置いてなかったにゃ!手に取れる所に高級品を置く理由もないにゃ!」
「カルカン、ここは私が収めます」
アルが何か紋章を見せた。そしたらミルネさんも、ロアンヌちゃんもガタガタ震え出した。
「ホリター公爵家の……紋章!こ、殺される……」
「ロアンヌは知らなかったの!他国の商人さんだと思ってたのに……」
「いえ、事を荒立てなければ不問としますよ」
ルクルから【伝心】のサインだ。はいはい。
『思い、出したーーー!』
『え?伝心を使ってわざわざそれ?』
『リアル黄門様じゃんかー!』
『あー、言われてみれば印籠シーンかも?』
『なんか怒涛の勢いで、色んな時代劇を思い出したんだけどー?』
関連する記憶の刺激で、連鎖的に繋がるのかな?とりあえず、ちょっとは心象を良くしてから帰ろう。
「えーと、驚かせたお詫びに購入はしないけど、めちゃ安い銃を1つ貸してくれる?」
ガタガタ震えながら、ミルネさんが安物の銃を差し出してきた。恐怖で明らかに混乱している。
「ワールドン様は優しすぎるのにゃ!」
「まぁ一応はお詫びをね」
「あの、お姉さん。うちの姉さんが、ごめんなさい」
サブロワ君、めっちゃ良い子。お姉さんは頑張っちゃうよ!タネも仕掛けもありません、暫く握って……っと、ほら金色になったよ。
「「「えええええ!」」」
「はい、これお詫びね。マナ鉱石だけは最高級品になってるから。じゃあロアンヌちゃん、行こうか」
ロアンヌちゃんは震えたまま質問してきた。
「さっきのは?あの、おばさんは何者なんですか?」
「お姉さんとお呼び!そうね、僕がうっすら光ってるのは分かるよね?」
「は、はいっ!何か高級な化粧品ですよね?」
僕は化粧をしていないのに、ロアンヌちゃんはしていると思ったみたい。
「化粧品?違うよ。僕はすっぴん。んで僕は一応、エターナルドラゴンと呼ばれてる存在なのね」
「え!?あの……お伽噺の?」
「そう、それ」
ロアンヌちゃんは完全に固まった。
(どうしよう?お、ルクルから【伝心】を皆に繋ぐサインだよ)
『何ですにゃ?』
『どうしました?』
『ワド、お前……なんか神様っぽいー』
『だから、眷属神って言ってるじゃん』
(忘れられがちだけど、僕も神様だからね)
『いや、威厳が無いからハッタリかなーと』
『ハッタリの相手に[様]の敬称つけて呼びませんよ?』
『そうにゃー、フレンドリーで気さくな神様にゃー』
『僕がどんなにお願いしても、敬称だけは外してくれないよね。敬称無しで呼んでくれるの、ルクルとリゼだけだよ?』
ルクルがなんか僕を見直してくれたみたい。
これまでも皆が寝ている時に、マナ鉱石を進化させていた事も伝えた。マイティに金銭的な補填に使うように渡していたんだ。
まぁエリーゼが暴走すると、被害額の方が上回るんだけどね。
暫くするとロアンヌちゃんがフリーズ状態から回復した。
顔面ブルースクリーンだったからね。治ってよかった。
「あの、うちは貧乏なので、公爵様やエターナルドラゴン様をお迎えは出来ない……です。ごめんなさい」
「気にしなくていいよ。おウチの人には僕らの身分をナイショにして泊めてくれる?」
引き続き泊まる意思がある事を伝える。
それに敬語は身分がバレるからやめてと伝えたよ。
「……分かりました。……じゃない、分かった。あの、年齢の事はごめんなさい。高級な化粧品で厚化粧してると思ってたの……」
「ワールドン様の実年齢は……ふがふが……な、何するにゃ!」
「カルカン、ちょっと黙ろうね」
僕はマナ力場を作って無理矢理カルカンを黙らせた。
それから、激しい雪の中を暫く歩いて、ロアンヌちゃんの宿にたどり着いたんだ。
だけど、確かにお世辞にも良い宿とは言えないね。オブラートに包むと老舗、ストレートにいうと老朽化した建物だよ。
扉を開けて入ると、母親と思われる女性と、年老いた女性がいた。
「ただいま~!お客さん連れてきたよ~。身分はナイショだって人だから失礼の無いようにね!おばあちゃん、母さん」
おい、ナイショを5秒で暴露したぞ。そういやロアンヌちゃんは本音だだ漏れ娘だったじゃん。ロアンヌちゃんにナイショを守るのは無理だったか。
「いらっしゃいませ!二部屋かい?うちは夕飯と朝飯の2食付きで一部屋140カロリだよ」
「280カロリです。お確かめ下さい」
「あいよ、確かに。あらでも、お兄さんはどっかで見たような気がするね」
「公爵家のお坊ちゃんに似てる気がするねぇ~。こんなお婆の手料理で申し訳ないねぇ~。お代わりだけはたんとお食べな」
「ご子息様本人な……んぐんぐ……あ、あれ?」
ロアンヌちゃん、その暴露は見逃せないので、マナ力場で防がせて貰ったよ。部屋毎の価格で食事付きだと、量は人数割になるので少なそうね。
「あら~、本当に本人そっくりかもね~」
「んだんだ、似てるね~。ロアンヌ、水汲みば、手伝え」
「はーい」
ロアンヌちゃんとおばあちゃんは外に水汲みに出ていった。宿の中は、丁寧に掃除が行き届いていてピカピカだったね。一階はレストランも兼ねているみたいだ。
外で何やら声がするなと思ったら、ロアンヌちゃんが戻ってきた。
「お知り合いみたいだから案内したよー!なんか人数増えてるよ。母さん」
「お連れさんかい?」
「お待たせ、ワド……」
「リゼ、マイティ……」
僕は慌てて男3人、女3人に訂正する。
「いいよいいよ、元々8人分の食事用意してるから」
そう言って、ロアンヌちゃんのお母さんは笑顔で答えていた。
それから、この宿では普通の事だと教えてくれる。
「うちは貧乏宿だから、お客さん同士が相部屋にして、安く抑えたりするからね。ベッドの数だけ用意するのさ~」
「余ったら余ったでうちのもんで食べるから気にせんでええ、ええ。ゆっくりおし」
すぐにご飯にするらしいので、部屋に荷物を置いた後は、一階のレストランで談笑しながら寛いでいた。
すると、とても良い香りがする料理をロアンヌちゃんが運んで来る。
(宿の自慢料理なんだって!)
夕飯はクリームシチューに似た料理だよ。優しいバターの香りが食欲をそそるね。ぶっちゃけ期待値低かったけど、凄く美味しかった。高級な味では無いけど……美味しい。
「このクリームシチューみたいな料理は美味しいね」
「これは郷土料理の、ニンニクバターミルク煮込みですの。平民の家庭料理で、リゼも何回かしか食べたことないの。でも、ワドや皆と一緒に食べると本当に美味しい……温かい」
「思い出した!これー、シュクメルリっぽいかもー?」
「え、ルクル?その料理、僕教えて貰ってない……」
「どっかの郷土料理、竹屋で食べたの思い出したー」
ワイワイ言いながら食事を終えたよ。風呂は無いらしくてお湯とタオルが部屋に運ばれた。近くに温泉があるから、雪が強くない時はそこに行くのをオススメするらしい。
ロアンヌちゃんより幼い子供達が、運ぶのを手伝っていた。5人兄弟で、ロアンヌちゃんは長女だと聞いたよ。
「お手伝い大変だね?」
「ううん、いつものこと。私、女だからこっちの部屋の手伝いで良かった~!ホリター公爵様の相手なんて無理無理~。ワールドン様は親しみやすいから平気だよ!」
ちょっとーー?ホリターの公爵令嬢が目の前にいますよーー?ロアンヌちゃんの口の軽さは、凄く不安になるよ。
「ロアンヌはホリター公爵が苦手ですの?」
「苦手と言うか~、んん~、長女のエリーゼ様って人が超絶破天荒らしくて~、逆らったら殺されるって皆怖がってるよ?リゼさんも気を付けてね!」
「ん……」
ぎゃーーー!目の前、目の前ですからー!いつも冷静で動揺しないマイティが動揺している!激レア、マイティさん!
爆弾を投下したロアンヌちゃんは、用意を終えるとそそくさと退室した。
(この空気どうすれば?)
「あの子に教える事が増えましたの。マイティ、ワドの身体を拭いてあげて欲しいの」
「ありがと、リゼ、マイティ」
その日、リゼからは特にボディータッチもなく、ヤラシイ視線も無かった。
それには安心したのに、リゼが自分を押し殺して無いかが不安になったよ。
本音だだ漏れ娘のロアンヌちゃんは書いてて楽しいです。
次回は「暴走の元凶」です。




