王都見物・前編
前回のあらすじ
アルフォートのあだ名を考えて、仲良くなった半面。
真実を知ったエリーゼと、少し距離が出来た事を残念に思うワド。
でも救えそうな事にホッとしてる一面も……。
翌日、改めてルマンド君に事の成り行きを報告した。
「エリーゼ、本当に他国の貴族と揉めないと約束できるのか?」
「はい、お兄様。あの子には暴走させないよう手綱を握ります」
ルマンド君は「ほ、本当に出来るのか?」と、不安げに身を乗り出して聞いている。
「当然です。あの子は全力で迷惑を回避します。確約できますの」
「……信じられん。トラブルを起こさないエリーゼが想像出来ん」
「お兄様、信用できないお気持ちは理解できますの。詳しく説明してる間、ワド達を観光に案内しては如何ですか?」
リゼが僕達をチラッと見ながら観光を提案している。そういえば初日以外は外を見ていない。
ちょっと心惹かれるよ。
「……ワールドン様、観光にご興味はありますか?明々後日には新年祭もあります。是非、新年祭も観光を楽しんで頂けますと、幸甚に御座います」
「うん!楽しみ」
ルマンド君の提案で、僕らはリゼを残し観光に向かう事になった。
「リゼ、後からでも絶対にきてね?約束!」
「リゼもワドと町を回るの楽しみですの」
リゼと約束した後に屋敷を出て、馬車に揺られながら大通りまで移動する。
雪が馬車の窓を、強く打ちつけていた。
「これだけ雪が強いと町は閑散としてるんじゃないのかなー?」
「大丈夫です、ルクル。この程度の雪であれば、新年祭の準備で大盛況ですよ」
凄い雪に思ったけど、アルが言うにはこの国だと普通らしい。
「雪国は凄いにゃー、寒くてもう帰りたいにゃー、部屋でお酒飲んで温まるにゃー」
「まだ町にでてないじゃん。あ、新年祭って屋台ある?」
自信たっぷりに「勿論あります」と答えたアルの言ったように、大通りは本当に大盛況だった。
所狭しと屋台準備が進められている。既存のお店も、新年大特価の文字が至る所に掲げられていた。
僕らは物珍しくて、キョロキョロしながら雪も気にせずはしゃぎ、カルカンも魚の屋台の設営を見てテンションが回復したよ。
「あ、外国の人かな?宿はどこで取ってるの?まだなら私の家はどう?」
ルクルと同じくらいの背格好の女の子が、いきなりルクルに声をかけてきた。
これって伝説の逆ナンってやつ!?
「いきなりお持ち帰りの逆ナンとは、ルクルも隅に置けないね。いつフラグ立てたん?」
「ワドー、違うと思うよー?」
「あ、えと……あの……違います、お母さん!私の家は宿屋やってるの!」
(は?はいーーー?誰がお母さんですって?)
「ぷぷぷ!違うよ。あの人は母じゃなくて友達だよ。君の名前は何ていうのー?」
ルクルが必死に笑いを堪えながら、少女に名前を聞いている。
こら!そこのカルカンとアル!笑い過ぎ!
「私はロアンヌよ!13歳、あなたは?」
「俺はルクル、同い年だよ。よろしくー」
「……ぼ、僕はワールドン、17歳なのー」
驚いて大きく開けた口に、慌てて手を当てるロアンヌちゃん。
「エェッ!?ご、ごめんなさい!てっきり27~28歳だと思ったの」
「年齢詐称は良くないにゃ!カルカンにゃー!よろしくにゃ、20歳にゃ!」
年齢詐称とかほざいたカルカンに、ロアンヌちゃんが本音の鉄槌を落とす。
「エェッー!?ご、ごめんなさい!猫魔族の見た目って詳しくなくて、てっきり37~38歳だと思ってた!」
「酷いにゃ。そこまでおっさんじゃ無いのにゃ!」
僕らは爆笑した。
アルは笑い過ぎて自己紹介できていなかったし、笑いが治まらなくて呼吸が苦しそうだったよ。
女の子の後ろから、少し小さな男の子がこちらを覗いている。知り合いだろうか?
「後ろの彼は知り合い?」
「あ、サブロワも挨拶すれば?きっと他国のお金持ちだよ?いっぱい儲かるかもよ?」
「サブロワです。10歳」
ロアンヌちゃん、めっちゃ下心出てんじゃん。隠す気ゼロじゃん。下心の全裸徘徊じゃん。光ガードすらないよ!
「サブロワ君、よろしくねー、ロアンヌはどうして俺達が他国の金持ちと分かったの?」
「だってキョロキョロしてて、この国の人じゃないの丸わかりだよ!あと着てる服が凄く豪華!」
「うん、僕らはこの国の出身じゃないね」
ルクルの質問にハッキリ答えるロアンヌちゃんは、良く観察していると感心したよ。
「他国のお貴族様なら新年祭にはこないから、お金持ちの商人さんでしょ?」
「どうしてお貴族様はこないにゃ?」
「エェッ!?そんな常識も猫魔族は知らないの?お貴族様はね、自国の新年パーティーでコネ作り?とかで忙しいからこないの!」
へえー貴族は新年祭に来ないのか。新たな常識が得られたよ。それにしてもロアンヌちゃんはカルカンを容赦なくえぐるね。
カルカンは「どうせ田舎にゃ」とか、「10代から見れば、おっさんなのにゃ」とか自分を卑下し始めた。
メンタルダメージが拡大しているカルカン。
お酒を飲ませて回復させてあげないと……って飲んでいる所は完全におっさんなのよね。
(本人、気付いてないけど)
楽し気にルクルと話すロアンヌちゃん。
カルカンに優しい言葉をかけるサブロワ君。
僕は二人に興味が湧いたので、【伝心】でアルに相談する。
『ねぇアル、この子の宿に泊まってもいいかな?』
『客引きをしてるので、あまり良い宿で無いかと』
『別に僕は良い宿じゃなくて平気だよ?庶民の暮らしも見てみたいし』
『分かりました。家には連絡入れておきます』
『よろしくね!』
僕とアルが【伝心】している間も、ルクルは熱烈な誘いを受けていた。割と満更でも無さそう。
ロアンヌちゃんはキャッチの才能があるね。なんかセリフだけだとピンクなお店に聞こえてくるから不思議!
「お願い!ルクル、いいでしょ?お泊りで一泊だけ、一泊だけ!お試しでもいいから!私、特別にサービスするよ!」
「えーと、ロアンヌちゃん、泊まってもいいけど、なんでルクルばかり誘うの?」
「そんなの当然よ!一番幼い子を落とせば親兄弟も芋づるよ?それに男の子のほうが、ちょっと甘い言葉かければイチコロなの!」
(ロアンヌちゃん、本音、漏れてる。だだ漏れだよ)
これ本当にお客さんとれるの?
とれちゃうお客さんもチョロ過ぎだよ。
あ、ルクルの顔が引きつった。満更でも無かったのが、ハニートラップって気付いて驚愕しているね。
「ロアンヌちゃん、僕らとあと一人女性の5人で二部屋泊まれる?」
「わぁ!おばさん……あ、お姉さん、ありがとう!部屋空いてるよ!ガバガバ!やったー!お小遣い増えるー!」
(ちょっ……おば!?)
(ぶぷっ!ぷぷぷwあ、でも信者エリーゼ様いたら、やばかったー)
(ワールドン様をおばさん呼ばわりとは……強い。姉上がいなくて良かった)
(やっぱりワールドン様の年齢詐称はバレてるのにゃ!ぷぷぷなのにゃー)
ちょっと君達さ!【伝心】でバレバレだよ。
それにカルカン……「17歳は年齢じゃないの。生き様なの」だよ?
それから僕らは、大通りから裏路地に移動し、ロアンヌちゃんの宿に向かう。その道すがら、サブロワ君の銃鍛冶屋へ寄り道した。
「ここ、僕の家です。……姉さん、お客さん」
幾つもの銃が店頭に並ぶ。そこで店番をしていた女性が、サブロワ君のお姉さんのようだ。
ボサボサで手入れしていないピンクの髪と、デニムパンツのパンクな恰好が印象的。
彼女はサブロワ君とは対照的で、かなりフランクに話しかけてくる。
「いらっしゃい!他国から観光かい?是非、ウチの銃を見てってくれよ」
「銃見せて貰うね。僕はワールドン。ちなみに何歳に見える?」
ヘブンリーブルー色の瞳を輝かせて接客してくる。
気さくな態度の彼女は、これまで多くの客をみていると思う。
僕は見た目年齢の、客観的評価が気になって質問した。
「あたいはミルネだよ。そうだねぇ、24~25歳くらい?」
「ミルネ姉!この人、17歳だって!27~28に見えるよね?」
「……姉さんも、ロアンヌも……失礼だよ」
後ろのやつらの笑い声にイラッとする。
僕は無視して色んな銃を手にとってみた。外の雪の影響もあるのか、手に取った銃はすんごくヒンヤリしている。傷心の心情と相まって、冷たい鉄の質感が心地良かったよ。
敢えて無視したのに、うざい笑い声をこらえてルクルが、語り掛けてきた。
「笑うなってのが無理だってーwなんで『ねぇいくつに見える』みたいな地雷クエスチョンしてんのさー!ぷぷぷ」
「あーはいはい。あ、ミルネさん、これってお値段いくら?」
「ごめんね。少し若く答えたつもりだったのに……あぁそれは新型の量産製だね。新年特価で24000カロリだよ」
ミルネさんは答えに気を遣ってくれたようだ。
と、するとロアンヌちゃんの年齢予想が客観的に正しいのか……なんだか凹む。
そこに、ルクルから【伝心】のサインがきた。
なんかウザいから無視したいけど、無視すると粘着されそうなのよね~。
『なに?僕、銃を見て忙しいんだけど?』
『ごめんごめん、その銃って日本円でいくらぐらい?』
『為替テキトーだけど、ざっくり240万円』
『たか!』
『新型の特注製だと、この10倍はするよ。型落ちだと1/10にガクッと落ちる』
『極端だなー』
『そう?ちなみにカルカンは最新型の特注品で5000万円相当のを4丁持ってるよ』
ルクルがギギギって音が鳴りそうなぎこちなさで、カルカンへ振り向く。
カルカンは退屈そうにしている。そりゃカルカンからしたら、しょっぱい装備しかないしね。
少し遅れて、ルクルのリアクションが返ってきた。
『はぁーーーーーー!?2億円相当!?』
『何を今更?』
『そんな高級品をあの呑兵衛が!?』
『そんなに驚く事?』
ルクルは必死にコクコクコクコクと頷いた。
『ちなみにモンアード君のゲストルームにあった調度品は、大体その10倍するよ?』
『あの部屋って、総額20億!?』
『ちゃうちゃう、調度品一つ当たり』
『ふぁーーー!?え……総額1000億?』
『そだね。そんくらいあったね』
ルクルは暫く放心していた。そして「ルマンド様の抜け毛は仕方なかった」と呟いた。
いや、勝手にルマンド君の毛根を殺さないで?
カルカンの装備品は、この世界の高位の貴族から見ても高額です。
モンアード君のゲストルームには、貴重な美術品がたくさんありましたが、エリーゼの拳圧で全て瓦礫になっちゃってますw
次回は「王都見物・後編」です。




