表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
大公の提案への抵抗

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/389

ガラスハート・後編

前回のあらすじ

ルクルからの提案で、色欲エリーゼを抑えられる可能性が見えて来ました。

可能性を知ってワドはとても喜んでいます。

 翌日、再びルマンド君との会談の場が設けられた。


 私人としての相談との事で、客間に案内されたよ。

 その日のルマンド君の表情は凄く真剣だった。その菖蒲色の瞳には、覚悟が宿っていたと思う。


「ワールドン様、ルクル殿、カルカン殿、愚妹の被害を抑えられるよう、お力を貸して頂きたい」

「ルマンド様はどのような案をお考えですか?」

「分かりました。これはあくまでワールドン様の安全が、確保できた後の提案となります」


 ルクルが質問した事は、僕も気になった。具体的な考えが無ければ、あのような雰囲気では無いだろう。

 僕の安全?嫌な予感にゴクリと喉を鳴らす。

 ルマンド君は、顔の前で手を組み、静かに語り始めた。


「ここまでの旅路とは逆に、愚妹の主人格を入れ替えます。元の人格は極力、表に出さないようにする事も考えています」

「主人格を入れ替える……なるほど……[事も]というのは、別案もあるという事ですか?」

「……はい、いささか賭けの要素が強いですが……最終手段としての案はあります」


(え?……色欲エリーゼとずっと一緒って事?もし安全が確保出来てても……ちょっとヤダな……)


 ルクルが「お伺いしても?」と追求しているけど、ルマンド君の表情は固く、言葉も言い淀んでいる感じ。


「……軽蔑して頂いても構いません。とある薬を、元の人格の時に投与する予定です」


 僕は詳しくないけど、軽蔑とは穏やかじゃないな。

 薬は何かとてもヤバそうな雰囲気がした。

 僕が言葉を失っている間、ルクルとカルカンの質問に、ルマンド君が応じる形で進んでいく。


「ルマンド様、その薬とは?」

「……暗部で使用している記憶の消去や混濁の効果がある薬です。それの副作用を利用します」

「ふ、副作用とはどんなのですかにゃ?」

「長い期間の記憶へ影響させるには大量投与が必要です。……ただ、副作用として記憶が破壊されて、廃人になるリスクがあります」


 思っていた以上の副作用に、僕らは目を丸くした。


「……上手くいけば、新しい人格だけは助かるかも知れません」

「でもでも、今までのエリーゼが壊れちゃうって事でしょ!?僕はヤダよ!」

「確かに最終手段ですね……」


(ルクル!最終手段でもそんなのヤダよ!)


「信者エリーゼの時は、僕と2人で大人しく部屋にいる。そういった形でどうかな?」

「そうです。それが表に出さない案ですね」


 僕が「じゃあそれを」と言いかけると、ルマンド君が強めの口調で遮った。


「ですが、ワールドン様の負担がとても大きいと思います。一瞬の隙も与えず相手をするのは大変でしょう?」

「僕が一緒にいてと言えば大丈夫だよ!」

「……何かの拍子に暴走して、飛び出していく可能性がありますよね?」


(う……それは、あるかも……)


 というより実際にあった。「ダメだよ?」って言っても「大丈夫ですわ!」って聞く耳持たず、暴走した記憶が幾つもある。


「実は処分も検討しました。ですが、今はワールドン様のマナを浴びて進化している為、並の暗殺では返り討ちでしょう?」

「しょ、処分?暗殺!?」

「同じく強制投与も困難ですが、ワールドン様が服用しろと命令すれば、愚妹は劇毒でも飲むでしょう」


 僕は頭が真っ白になった。エリーゼを廃人にする為の薬を、飲むようにお願いする?僕が?

 僕はテーブルを叩いた。テーブルは木っ端微塵に粉砕され、宙に粉塵が舞う。


「ふざけるな!僕は友達にそんな事をお願いしないぞ!」

「ワド、落ち着け」

「エリーゼは僕の友達だ!女の子で初めての友達だ!絶対に嫌だ!」

「ワド!いいから落ち着け!」


 完全に我を忘れていた僕の肩を、ルクルが両手で強く掴んだ。


「これはルマンド様の考えてる案だ!俺達はエリーゼ様が廃人にならない案を出せばいい!」


 いつものナヨナヨした喋り方では無くて、オタネタの口調でも無くて、貴族相手の取り繕う話し方でも無くて、真剣に発せられたルクルの言葉だった。

 僕は少し冷静さを取り戻したけど、心の中に渦巻く焦燥感が消えない。

 そんな中、空気をぶった斬るゆるい言葉。


「エリーゼ様は困った人にゃ。でも食事の恩にゃー、一肌脱いでやるにゃー」


 フンスと両腕をあげガッツポーズを取るカルカン。

 その場にあった、緊迫した雰囲気が霧散する。アルフォートは少し吹いていた。僕の中の焦燥感も霧散して、肩の力が自然に抜けていく。


(相変わらず空気読めて無いよ……無いけど……君が友達で、良かった……)


「ワールドン様、ルクル殿、カルカン殿、愚妹の……エリーゼの友人になってくれてありがとう」


 そう言ってルマンド君は頭を下げた。彼の覚悟は分かった。僕らは助ける覚悟を持てばいい。

 エリーゼの対策は、一度持ち帰らせて貰う事にした。


─────────────────────


 それから僕らはルマンド君の元を離れ、エリーゼの自室に向かったよ。今は色欲エリーゼとなっていて拘束されているらしい。

 カルカンとアルフォートに今回は遠慮して貰って、僕とルクルだけだ。


「マイティさん、状況はどうですー?」

「マイティ、僕が入っても大丈夫?安全?」

「はい、ルクル様の依頼通りにしています」


 依頼の内容が気になって、揺さぶりながら尋ねた。


「ルクルルクル、依頼ってなんなん?」

「拘束に加えて、目隠しと猿轡をお願いしただけだよー?」


(え?何そのアブノーマルなプレイ……ルクルってそういう趣味が?)


「ちょっと、ちょっと、何か失礼な誤解してないかなー?」

「趣味は個人の自由だけど、無理矢理に強要するのは良くないよ?」

「ちっがーーーう!お前の為だよ!ワド!」

「僕、そっちの趣味はちょっと遠慮かな……」


 ルクルが慌てて説明を始める。


「今回の伝心は長丁場だろ?エリーゼ様の視線とか、発言とかでワドが動揺するのを避ける為なんー」

「動揺しても仕切り直せば良くない?」

「仕切り直したら明日は信者エリーゼ様だよー?それに日数かけ過ぎて、ルマンド様が最終手段に踏み切ったら?」


 僕は言葉に詰まった。

 確かに、そんなにリトライの時間は無さそうだ。


「分かった。早めに伝心を終わらせよう」

「それに……これはワドにも酷な事になるから、先に謝っておく。……ごめん」

「なんで?なんでルクルが謝るの?」

「終われば分かるよ……」


 ルクルのごめんが何故なのか疑問に思いつつ、僕らはエリーゼの部屋に入った。くぐもった声と、拘束の鎖の音が激しくなったよ。

 席についたルクルが、説明を始めていく。


「エリーゼ様、貴方は二重人格になっています。そして別人格の記憶がありません。記憶がかけている期間が長い事に、少しは疑問をお持ちでは無いですか?」

「……」


 心当たりがあるのか動きが止まった。


「眠る事で人格が入れ替わるようです。眠らないようにお願いします」

「…………」

「では、ワドから伝心で、別人格の共有をしますね」


 僕は色欲エリーゼと再会した時から後の、信者エリーゼとの思い出を共有した。

 僕らだけで相談していた、エリーゼ対策なども共有したよ。

 僕が色欲エリーゼを拒絶している、その全てを。


 【伝心】(    )の共有が夜に差しかかった所で、ルクルが目隠しと猿轡、拘束を解除していた。寝ていないかを確認する為にだ。

 拘束を外された、エリーゼの様子は……

 そのエリーゼは呆然と目を見開き、天井を見つめたままだった。色欲エリーゼの視線が、僕で無いのは初めてだ。


─────────────────────


 夜通し【伝心】(    )を行って2日目も続いている。期間が長いので、伝える内容が多い。

 2日目の夜に差しかかったら、エリーゼの瞳からは涙が流れていた。

 エリーゼは一言も喋らず【伝心】(    )を受け入れ続けている。


(なんだか、心が痛くなったよ……)


 更に夜通し続けて3日目の朝になった時、エリーゼがポツリと呟いた。


「……もう……いいわ……わかった」

「エリーゼ様、まだ靴を選んでプレゼントするシーン等が残っていますが?」

「……わたし以外の……わたしと……楽しそうにしているワドを見るのは……つらいの……」

「そう……ですか。ワド、もういいよお疲れ。先に戻ってくれるー?俺は少し、エリーゼ様と話をしてから戻るよ」


 僕は【伝心】(    )を止めて、席を後にし扉の前まで進む。

 部屋を出る前に、一度振り返りエリーゼを見る。

 涙を流し続けるエリーゼの瞳が、僕を見ることは無かった。

 ルクルからの指示でマイティも連れて退室したよ。

 扉が閉じた直後、せきを切ったエリーゼの嗚咽が廊下まで響いた。



(ごめんよ、ごめんよ……エリーゼ)



 僕はこの日、初めて友達を傷つけてしまった。

友達を傷つける初めての経験をしたワド。

知識として知っている事と、自分自身で体験する事の違いを学習しました。


次回は「対策会議」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元毛玉作品集
新着順最近投稿されたものから順に表示されます。
総合評価順人気の高い順に表示されます。
ドラ探シリーズ「ドラゴンの人生探求」の関連作品をまとめたものです。
本日の樽生ラインナップ樽酒 麦生の短編集です。
セブンスカイズ
代表作。全25話。
なろう執筆はじめました!なろう初心者作家向けのエッセイです。
― 新着の感想 ―
 お疲れ様です  今まで遠ざけてたエリーゼさんのために机を破壊するほど怒るワールドンさんに感動です。
兄弟ふたりの胃痛、ワドたちへの迷惑やら何やらがあるけど、一番デカいのが周囲への多大な影響なんだよな、エリーゼの暴走効果って。 貴族としては放っておけないし、暴走が止められないなら処分もやむを得ない、か…
はじめての女友達を守るために、真剣に向き合うワールドン! 色欲エリーゼに信者エリーゼの記憶を伝えるために頑張りましたね。やっぱり色欲エリーゼとしては、自分でない自分が大好きなワールドンといちゃついてい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ