表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
大公の提案への抵抗

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/389

ガラスハート・前編

前回のあらすじ

ブールボン王都に辿り着き、大公当主との面会しました。そしてエリーゼの問題行動を報告したら、当主が倒れました。

 ルマンド君との話し合いは、夜遅くまで続いた。


 それにしても気になるのは、本邸は外観の立派さに比べて、美術品や調度品が極端に少ない事。これなら港町の高級宿のほうが充実しているくらいだよ。


「所でルマンド君に聞きたいんだけど」

「何でしょうか?ワールドン様」

「美術品や調度品が極端に少ないのは、どうしてなのかな?」


 僕はストレートに聞いてみた。ルマンド君もアルフォートも同じように苦い顔して、胃の辺りを押さえている。なにか訳あり?


「……愚妹エリーゼの後始末の為に、売却したりお詫びとして献上したりで、代々の品々までほぼ全て手放しております」

「ふぁ!?」


 僕が驚いていると、アルフォートも追加情報を投下してきたよ。


「私が子供の頃には、たくさんありました。姉のせいで寂しくなりました。今では準男爵位よりも少ないでしょうね」


 そんなに金銭的に大変だったの?僕、かなりのお金を使って貰っているけど?

 返せとか言われないか僕、ドキドキしてきた。

 恐る恐る聞いてみる。


「ひょっとして金銭的に困窮しているの?」

「いえ、そこまでではありませんよ」


 僕が「なら、どうして?」と問うと、遠い目で答え始めるルマンド君。


「どうせ家に置いていても壊されるか、勝手に売られるかなので諦めたのです」

「あはは……」


 僕、乾いた笑いが出ちゃったよ。

 ルクルとカルカンも引きつった顔で絶句している。

 子供の頃のエリーゼが、壊したり、勝手に売ったりしていたらしい。暴走癖は昔からなのかぁ。


「愚妹は子供の頃から、手が付けられないお転婆です。壊れやすい物は、いつ壊されるか気が気でない日々でした。それに愚妹はお小遣いが足りないと思えば、勝手に美術品などを売り飛ばしています。元の価値からすれば端金で売られた時は、ストレスで倒れましたよ」


 ルマンド君の菖蒲色の瞳には、苦労が滲み出ていた。

 物凄く老けて見えるけど……お兄さんなんだよね?

 一体何歳だろう?僕だって少しは空気を読むから、とても聞けないよ。

 そう思って躊躇したら、カルカンが色々とズバっと質問し始めた。


「あの、従者が屋敷の大きさに比べて少ないのも、金銭的なご都合ですかにゃ?」

「いえいえ、各地へ出張らっている為ですよ。カルカン殿」


 更に「エリーゼ様の後始末ですかにゃ?」と質問を続けるカルカン。

 それにも、ルマンド君は特に警戒する様子もなく、丁寧に返していたよ。


「それもありますが、基本的には我が家系の問題です。ワールドン様には隠し事出来ないので、お話ししますよ」


 アルフォートから【伝心】(    )の事は聞いているみたい。ルマンド君が代々の役割を語りだした。


「我が家系は傍系王族です。公爵位となる際に、性をホリターに改名しております。元々は親族ですので、王族として名を連ねておりました。ですが、王族も綺麗事だけでは国がたち行きません」


 ルマンド君は一息いれてから、そのまま続ける。


「王族の中で、汚れ仕事を請け負う暗部が構成されていました。その暗部を王族から切り離す形で、我々の先祖が大公となりました。この国の表と裏を掌握するのが、我が家系です」


 おぉう、嘘が全く無かったよ。びっくり。

 ルクルもカルカンも青い顔をしている。


「そんな国家機密を、話しても良かったのですかにゃ!?」

「ハハハ、問題ありませんよ。どうせ聞かれたら愚妹がホイホイ話すでしょうし、それに……」


 言葉を切った上で、一部を強調し伝えてきた。


「知られた所で、我が暗部をどうこうする事は(・・・・・・・・)出来ませんよ」


 相手に知られても、警戒をされた上でも、その上をいく絶対の自信があるみたいだね。

 ん?【伝心】(    )で読み取ったら、結構恐ろしい情報が出てきたな。後でルクルにも伝えておこう。


「ただ愚妹の対応だけは、頭が痛い問題なのです」

「兄上、二重人格の件の報告は受けましたか?」

「……基本的な報告は聞いた。それも頭が痛いな」


 そう言いながら、ルマンド君は軽く被りを振った。


「あの、ルマンド様。差し支えなければ、エリーゼ様の二重人格で、お困りの内容を教えて頂けますか?」

「あぁ、勿論。構わないともルクル殿」


 ん?ルクルが質問したけど、色欲エリーゼの被害って僕限定じゃないの?何か他にもあるのかな?


「それ、僕も凄く気になる」

「ハハハ、ワールドン様は愚妹の被害を一番受けていらっしゃいますしね。温泉の件は、とても申し訳無く思っております」


(マイティーーー!?そんな事まで報告してるの?ちょっとーーー!僕のプライバシーは?)


「愚妹の二重人格は、お互いの記憶がありません」

「確かにエリーゼ様の人格は、記憶を共有できていませんね」


 ルクルが肯定を示したので、僕も便乗しておく。


「うん、僕もそれで助かってる部分ある」

「しかし記憶が無い事で、新たなトラブルが生まれております」


 僕らと合流する前から、トラブルを起こしていたとの事で、ルマンド君が詳細を説明してくれた。


「元の人格で揉め事などトラブルを起こした翌日には、別の人格になっていて記憶がありません」

「被害者が翌日に詰め寄った時に『知らない』『そもそも誰?』みたいな事がありまして……必要以上に拗れてるのです」


 あー、なるほど。被害者側からすれば昨日の事なのに、色欲エリーゼは全く知らない事だから、完全にシャットアウトしたんだろうな。

 それは揉めるね。かなり感じが悪そうだ。


「……そちらの問題につきましては、解決可能かも知れません」

「ほぅ……ルクル殿はワールドン様の御力を借りて、愚妹に真実を突きつけるつもりか」


 ルクルが「はい、流石ですねルマンド様」と返し、何やら理解し合ったような雰囲気を醸し出している。

 そこにルマンド君から、追加の質問があった。


「両方か?それとも元人格には伏せて……」

「はい、新しい人格側です。勝算は高いと思います」


 ん?そんな話は聞いて無いんだけど?

 ま、後で相談があるんだろうな。もし、僕の生贄計画だったら……断固拒否だけど。


「ところで兄上、私が持ち帰った最新のトラブル情報が御座います。今、報告しても宜しいでしょうか?それとも後日が良いでしょうか?」


 少しの逡巡の後、「どの道、同じだ。今、申せ」とルマンド君は促した。

 ルマンド君は覚悟を決めたのか、悲壮な青い表情をしている。


(なんか……あんなに顔色悪いのに大丈夫かな?)


「姉は、モンアード侯爵の領主館の一室を半壊させました」

「ぐっ、胃が……」

「その部屋のかなり高額の美術品や調度品、高級食器などが全損しております」


 あまりの被害の大きさに、胃の辺りを押さえながら目を丸くするルマンド君。


「ガハッ!痛たたたた……そうか……」

「いえ、報告はまだあります」


 ルマンド君は「な……んだと……」と声を絞りだすと、これ以上無いってくらいに目を見開く。

 僕は他の被害を思い出せずに小首を傾げていた。

 アルフォートは「ココ伯爵両家の全ての船を全損させました」と淡々と報告。


 それを聞いて「ガハァァア!」と盛大に吐血するルマンド君。

 抜け毛だけじゃなくて、吐血して倒れたけど大丈夫?ルマンド君は繊細なのかな?

 ルマンド君が倒れたので、その日の面会は終了したよ。


─────────────────────


 んで、僕らはゲストルームに案内された。

 革張りの一人掛けソファーにそれぞれ腰をおろす。

 そして、僕は直ぐに本題を切り出しルクルを問い詰めていく。


「ルクル!色欲になにかするって話聞いてないよ!」

「あぁ、それなー」

「ちゃんと説明して!」

「ふはぁ~旨いにゃーしみるにゃー」


 僕の貞操がかかっているのに、カルカンは暢気に晩酌している。マジで自重して?


「伝心で信者エリーゼ様の状態を見せて、記憶の共有が出来てない事を突きつける作戦だよー」

「それがなんになるの!?」


 僕は身を乗り出して、食い気味に問う。

 おどけた素振りのルクルは、ソファーに深く体を預けながら言葉を返してくる。

 先に「まぁ、細かい交渉が上手くいくかはこれからだけどさー」と前置きをしながら語りだすルクル。


「色欲エリーゼ様は、ワドの前以外では割と普通だとジャックさんに聞いてるのねー」

「それは僕も知ってるけど、僕に対してはブレーキ無いから意味ないよ!?」


 ルクルは「違くてー」と言いながら、頭をかいて思案顔をしていた。

 けれど、なんか要領を得ない……なんなの?

 にしても酒臭い、カルカン邪魔!なんかムカツク!

 にゃっにゃ言いながら1人楽しそうに飲んでいる。空気読め!


「現実を突きつけてさー、ワドの安全を確保する為だよー。1番の理由はねー」

「だからどうやって安全を?」

「今の色欲エリーゼ様ではダメって現実をだよー?」

「んんん?」


 ルクルは「鈍いなー」と言いつつ少し姿勢を変え、テーブルに肘を乗せて口の前で手を組んだ。


(あの司令のモノマネかい?)


「ワドが全力で避けてるという紛れも無い現実を……だよ。現にブールボン王国の王都まで、自分とは違う人格と一緒にいる。それをワドが選択してるからねー、動かぬ証拠だよー」


(あーーー!そういう事か!)


「大好きな友達に避けられてるって結構クるからね。当面は大人しくさせる事も出来ると思うよー」

「確かに!」


 僕は柏手を打って強い同意を示す。

 更に後のフォローまでルクルが申し出てきた。


「あとは信者エリーゼ様の情報を流す事を条件に、色々と交渉もできると思う。ワドだと荷が重いからそれは俺がやるよー」

「ルクル、マジ神!救世主!」


 即、「神はお前じゃんかよー」とのツッコミだよ。

 正直、僕にも良心の呵責があったから、信者エリーゼの負担は気に病んではいたんだ。でも、貞操の危機になりふり構ってられなかった。

 安全さえ確保出来れば、エリーゼに睡眠をとってもらう未来が来るかも知れない!

 そうして、ルクルはおやすみといって眠りにつく。カルカンはかなり前からぐーすかぴーだ。

 ふぅ、ルクルに任せておけば大丈夫だ。

 興奮していた僕は、ルクルに大事な情報を伝える事を失念していた。



 この情報を伝え忘れた事を、後に強く後悔したよ。

ワド「僕にも良心の呵責があったから…」

ルクル「はぁ?」

カルカン「にゃー?」

…ザワッ…ザワザワ…

…審議中(しばらくお待ち下さい)…

ワド「ちょ…ほんとだよ!?」


次回は「ガラスハート・後編」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元毛玉作品集
新着順最近投稿されたものから順に表示されます。
総合評価順人気の高い順に表示されます。
ドラ探シリーズ「ドラゴンの人生探求」の関連作品をまとめたものです。
本日の樽生ラインナップ樽酒 麦生の短編集です。
セブンスカイズ
代表作。全25話。
なろう執筆はじめました!なろう初心者作家向けのエッセイです。
― 新着の感想 ―
 お疲れ様です。  ルマンド君の胃が心配になってきますね。重要なこととはなんなんだろうか。今後も楽しみです。
ルマンドぉぉっ! もう胃に穴が開いてるよ、これ! 可哀想に……………。 エリーゼ、恐ろしい子(≧Д≦)
ルマンド兄さん、吐血!!(☉。☉) 私の大好きなお菓子!! エリーゼ……。どうにか更生できませんかね?(◔‿◔) ルマンド兄さんが老けちゃって、そのうち過労死してしまうよ〜。 何とかお兄さんの胃を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ