大公に面会
前回のあらすじ
引き続きブールボン王都まで鉄道旅です。姉弟との出会いをワドは思い返していました。
ようやく王都方面への最後の乗り換えを終えました。
(おおお、凄い人の数だ)
ブールボン王国の王都に僕らは到着していた。ここにエリーゼやアルフォートの本邸って自宅があるらしい。各地にいくつも住む所があると聞いている。
興味あるって伝えたら「今すぐ行きますわ!」とエリーゼが暴走して、宥めるのが大変だった。
ブールボン王国は、雪がかなり深い。
町の至る所に、温水が出る魔術具が地面に埋め込まれていて、一定間隔で放水されている。
雪は深いけど、歩く所は溶かされていた。
靴の中が濡れてしまって、正直気持ち悪い。
「ねぇ……脱いだらやっぱダメかなぁ?」
「ぶっ!?」
「にゃ!?」
「な!?」
「ワールドン様!すぐ近くに靴屋がありますわ!そこで雪国用の靴を買いますわ!」
エリーゼ以外が口々に「紛らわしい」と言っている。
(僕、既に学習してるよ?一度ついた変質者のレッテルって剥がせないの?)
だけど、エリーゼだけは何も補足しなくても分かってくれた。
この旅の間、ずっと起きていてくれたし、本当に感謝している。
旅の終盤では、なんか他の3人がやたらエリーゼに睡眠を取らせようとして揉めたよ。
ーーーワド回想VTRーーー
「ワールドン様、一度は姉に睡眠を取らせてあげて下さい。これ以上は身体を壊してしまいます」
「鉄道という閉鎖空間では許可できない。エリーゼが寝たら、僕は飛んで逃げるから」
「ワドー、俺も流石に罪悪感あるんだけどー、ちょっとだけ我慢できないのー?」
「我慢が致命傷になる事もある。罪悪感は窓から捨てるといいよ」
「ワールドン様、鬼畜にゃ!エリーゼ様、もう瞬きもしてないにゃ!」
「カルカン、土下座されたく無かったらちょっと黙ろうか?」
(このオタゴン、鬼)
(鬼にゃ、悪魔にゃ!)
(ここまで鬼畜だとは……)
「君達ちょっとー?伝心で丸わかりなんだけど?」
ーーーワド回想ENDーーー
本邸で動けない状態にしてから、ゆっくりとエリーゼには休んで貰うよ。
ブールボン王国は、北風のため雪が多い土地だとアルフォートから説明を受けた。港町モンアードと比べて、やたらと屋根が鋭角なのも、雪が屋根に積もりすぎるのを避けているらしい。
「雪を溶かした湯気が凄いねー」
「これだけの魔術具だとマナ消費が凄そうにゃ」
「いえ、実は温泉から温水を地下に流していて、魔術具は一定間隔の放水だけなのです」
温泉の話題に、カルカンとエリーゼが反応する。
「温泉あるのにゃ!?」
「ワールドン様!また温泉にも行きましょう!わたくし今度は起きてますわ!」
「温泉いいねー!また行きたいよー」
「う……トラウマが……」
僕も本当は行きたいよ。でもさ、少なくともエリーゼの睡魔が解消した後じゃないとリスクがマジヤバい。
(……思い出したら、悪寒が……)
「あれが我が国の王宮です」
「おおおー!大きいねー!」
「ま、負けたにゃ、完敗にゃ……」
カルカンが猫魔族の王宮と比べて、勝手に凹んでいる。
ん?エリーゼがふらついている……燃料投入が必要かな?
「わ、ワールドン様……わたくし、ちょっとだけ目眩が……」
「僕は全力で起きてるエリーゼが大好きだよ!」
「~~~~~~~~っ!全力ですわ!気合いですわ!まだいけますわ!」
うんうん。エリーゼの目に力が戻った。
それにしても王宮は大きい。猫魔族の王宮と比べると10倍?いや、もっとかな?めちゃくちゃデカイよ。でも形状が丸いのはなんでだろうね?
「丸いのはなんで?」
「あ、俺も気になってたー」
「丸いのはマナ効率考えたら当然ですにゃ!凄い建築技術にゃ!」
「はい。カルカンの言った通りマナ効率の為です。我が国、自慢の技術ですよ」
マナ鉱石での魔獣除けの効果が、最大になるようにしているらしく、普通の建築スタイルだと、角になる部分がどうしても効果が下がるとの事。
鉱石を円柱状に加工していく技術はとても難しいそうだ。
駅から大通りを王宮方面へ歩いて、既に1時間近く経っている。(内、30分は僕の靴購入)
王宮のサイズが遠近感を凄く狂わせていて、ルクルがそれを見上げながら感想を零す。
「なんかさー、ウエディングケーキにしか見えないんだけどー」
「あ、僕もそう思ってた」
「……ケーキ……た、食べ……」
僕も感想が被ったけれども、円柱状の段々になっている王宮は、雪でデコレーションされているのも相まって、ウエディングケーキって感じがしっくりくるよ。
(おっと、エリーゼの燃料がもう切れたよ)
また大好きを投入して頑張って貰わないとね!
ん?なんか皆の思考が、またも非難轟々だ。
人の心が無いのか?と言われてもなぁ。
だって、僕はドラゴンだからドラゴン心なのさ。
「それにしても白一色だねー」
「元の建物は結構カラフルですよ。夏に来ると印象違うと思います」
「夏の景観も見てみたいな」
「ですにゃ!」
「…………、…………わ……」
(マイティーーー!助けて!限界っぽいよ!?)
従者3人組がエリーゼを抱えようとしたら、エリーゼは拒絶した。エリーゼは意識ある限り、僕の近くから遠ざける行為は必ず拒否る。
今日は、既に大好きを5回も言っている。次で6回目だ。
頑張れ!エリーゼ!頑張れ!あとちょっとだぞー!
雪の中でも駅からの大通りは人がとにかく多かった。大通り終わりに、やっと空いてきたと思った所に馬車が複数止まっている。どうやら僕らを待っているようだ。
「こちらの馬車にお乗り下さいませ」
筆頭従者から馬車に乗るよう案内された。
僕とエリーゼ、アルフォート、マイティで同じ馬車に乗り込む。ルクルとカルカンは別の馬車だ。
マイティが心配そうに、エリーゼへ声をかける。
「お嬢様、あと30分です。お気を確かに」
「うん、お屋敷についたらゆっくり休んでね、エリーゼ。大好きだよ」
「…………頑張り、……ます……わ……」
マイティとアルフォートの目にブワッと涙が浮かんだ。
(マイティ!アルフォート!泣かないで!まだ生きてるから!)
さ、さすがに僕も罪悪感を拾ってきたほうが良いかなと思ったよ。
王宮の近くに大公本邸があった。門を通り過ぎても庭がめちゃ広くて、屋敷までが遠い。
マイティもアルフォートも僕も、エリーゼの手を強く強く握っている。
ついに着いた。
長い長い鉄道の旅を、一睡もする事なくエリーゼはやり遂げた!
なんか物凄く感動!僕もウルッときたよ。
「さぁお嬢様。お部屋で休みましょう」
マイティがエリーゼを連れて行く。本当にお疲れ。
僕らは、アルフォートに連れられて、謁見の間に向かった。
「はじめまして、私はルマンドと申します。ワールドン様、この度は愚妹が大変ご迷惑をお掛けしました」
「ルマンド君って言うんだね。うん、おぼえた。エリーゼは確かに困った娘だけど……今日は優しくしてあげてね」
「アルフォート、エリーゼはどうした?ここに連れて来い」
ルマンド君が、エリーゼの不在に不満げで、呼ぶようにアルフォートに命令していた。
「兄上!どうか、寝かせてあげて下さい!」
「ルマンド様、ルクルと申します。エリーゼ様には、お休みを与えて頂けるよう私からもお願い申し上げます」
「猫魔族のカルカンと申します。私からも切にお願い申し上げます。……にゃ!」
「な、何が……一体何があったのだ!?またもトラブルか!?トラブルなのか!?」
エリーゼのお兄さんのルマンド君はとてもやつれていた。今も胃の辺りを抑えている。
兄弟だなぁ、アルフォートと仕草が似ているよ。
ハラハラと抜け毛が落ちている。大丈夫だろうか?ミルクティーカラーのセミロング頭髪がとても心配だよ。
「トラブルというか、モンアードからここまで一睡もしなかっただけだよ」
「な、何をやらかしたのだエリーゼは!?」
「落ち着いて下さい!兄上!」
説明をしたら、余計にルマンド君は混乱していた。
無駄に心配しすぎなんだよ。多分。
「なんかこの兄弟は苦労性だねぇ」
「ワドー、おまいう」
「ワールドン様、御自分でさらなる苦労を押し付けてそれはどうかと思いますにゃ?」
(え?僕、今回なんかしたっけ?)
エリーゼ、ゆっくりとオヤスミ……R.I.P.
3章「お貴族様との揉め事」の本編はここまで。
次章の前に、語られていなかったアルフォートとの出会いを挟みます。
次回はアルフォート視点の「安心できない女神との出会い」です。




