大公当主の呼び出し
前回のあらすじ
ココ伯爵達の問題は、ルクルの提案で一旦収束。
エリーゼの弟であるアルフォートが、入れ替わりでやってきました。
僕を訪ねてきたのは、エリーゼの弟であるアルフォートだった。
「お久しぶりです。ワールドン様。……姉はどこですか?」
「久しぶりだね、アルフォート。エリーゼは今、布教活動でココ伯爵家の船乗りや従者を、説得しにいってるよ」
「……また、他国の貴族に迷惑を……はぁー、姉を連れ戻してきます……」
顔面蒼白で力無い感じのアルフォートは、フラフラとエリーゼを連れ戻しに向かった。
なんかトラブルかな?常にトラブルがあるから最近は感覚マヒ気味だよ。
「だから……安全で……だけでしょ?」
「確かに……被害は……ですにゃー」
ん?なんかルクルとカルカンが、コソコソとナイショ話をしている。僕も混ぜてよ!
「何を話してるの?僕も混ぜて!」
「……いいよねー?カルカン君?」
「ですにゃー」
「なになに?説明モトム!」
「ワドにとってはツライお知らせだけどー」
な、なな、なんて恐ろしい事を言い出すんだよ!?僕を生贄にするつもり!?
「なるべく色欲エリーゼでいてもらうとか、君達は僕がどうなってもいいっていうの!?友達を見捨てないで!(切実)」
「とは言ってもさー」
「必要な犠牲ですにゃ!」
ヤバい!見捨てないで!
僕はなりふり構わず、泣きながら必死に抗議したよ。
「ぼ、僕は信者エリーゼに、ずっと起きててもらうからね!」
「信者エリーゼ様は周囲が危険過ぎるでしょー?ワドが1人で我慢すれば済む話だよー?」
「ワールドン様は尊い犠牲になったのですにゃ!」
(カルカン!勝手に過去形にしないで!)
「断固反対!反対!せめて僕の被害を、軽減出来る具体策が無いと絶対にやだよ!」
「分かった分かった、ジャックさん達と相談して対策練るよー」
「ルクル氏、早く対策しないと、何人死ぬか分からないにゃー」
「分かってるよー、カルカン君。この惨状を見れば流石に危機感しかないしー」
確かにこの部屋は半壊したけど、そんなのエリーゼと旅してればよくある事だし、元々は信者エリーゼしかいなかったんだよ!?
要は「信者エリーゼだと被害が甚大」ってのが2人の言い分だ。色欲エリーゼを僕が我慢しろって話だけど、貞操の危機だよ!無理だよ!
「人に化けてるだけで、性別の無いワールドン様は生殖機能ないですにゃ!見た目だけですにゃ!問題ないですにゃ!」
「いやいやいや、なんか失ってはいけないのを失う気がするよ!?」
「全裸徘徊してたんだし、もう諦めて良くないー?」
「それとこれは別の話だよ!?諦めたらそこで試合終了だよ!?」
既に痴女と変態の称号があるんだから、あと幾つかあっても同じとか酷い事を言っている。
僕は猛抗議を続けた。切り札を使っての僕の逆転勝利だった。僕、頑張ったーーー!
最終的に「信者エリーゼに2人が不敬を働いたって言うよ!」という僕の発言を聞いた瞬間、2人は青ざめて謝罪したよ。ちゃんと対策を考えるまでは、信者エリーゼを眠らせないことで合意したね。
話がまとまった頃に、エリーゼとアルフォートがずぶ濡れで帰って来た。
「ワールドン様!説得完了ですわ!」
「姉上が……ココ伯爵達の船を……全て大破させました……どう詫びれば良いのか……」
あー、今回は物理説得だったのね。こんな豪雨で海に投げ出されたなら、恐怖が刷り込まれただろうな。
「所で、アルフォートは何故モンアードに来たの?」
「ワールドン様、姉に対して兄上から帰還命令が出ています。どうか一緒に来てくれませんか?」
どうやらエリーゼの各地でのやらかしに、アルフォートのお兄さんが対応でいっぱいいっぱいらしい。
アルフォートのお兄さんは、大公という偉い身分の現当主だとさ。道理でエリーゼがお金持ちな訳だよ。
今までも帰還命令は出ていたが「ワールドン様のお傍にいますわ!」と無視していたとの事だ。
それで、僕にも来て欲しいみたいね。
どうやら、アルフォートはメイジー王国の王都へ、エリーゼのやらかし(ホッドケットでのリコム伯爵拉致)の謝罪で訪れていたそうだ。
そこにモンアードでの歓迎式典の話を聞きつけて、急遽駆けつけたとの事だよ。
姉が変だと弟は大変そう、頑張って。
「ルクル、どうする?」
「エリーゼ様の里帰りには協力した方が良いと思う。対策方法の相談のためにもねー」
「じゃそうしよっか」
僕は了承をアルフォートに伝えた。アルフォートは口添えをしたルクルに凄く感謝していたから、紹介も一緒に済ませたよ。
あ、カルカンもついでに。
「ルクル殿、本当に、本当に感謝します!このお礼はいつか必ず……」
「アルフォート様、お気になさらず」
感謝を述べるとアルフォートは、ココ伯爵達とモンアード君への謝罪に向かった。
賠償だけで済むといいんだけど。
その日はモンアード君の所に泊まって、明日すぐさまエリーゼの里帰りに向う事で合意。
夜通しエリーゼと話していたんだけど、その夜はアルフォートも参加したよ。従者からの報告は受けているけど、僕からもエリーゼの話を聞きたいってさ。
ま、僕としては、エリーゼを寝かせなければ話の内容はなんでも良かったしね。
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翌朝。
全員で、モンアード君へ挨拶しにいった。
「ワールドン様、また近い内にお越し下さい」
「モンアード君、色々と悪かったね。また来るよ!約束するよ!」
「モンアード殿、この度は重ね重ね申し訳なく……」
「アルフォート殿、どうか頭を上げて下さい。謝罪は既に受け取っております。ルマンド殿にどうか宜しくお伝え下さい」
「はい、必ず」
アルフォートがひたすら謝っている最中、エリーゼは堂々としていたし、「ワールドン様への不敬を咎める為には、必要な事でしたわ!」と言っていて、全く悪いと思っていないようだ。
全額賠償すればOKという清々しい割り切りだったね。
ちなみにアルフォートに聞いた話だと、家のお金をエリーゼが勝手に使っているそうだ。アルフォートのお兄さんは、ストレスがマッハらしくて大変だってさ。
それから僕らは、鉄道でエリーゼの里帰り旅をする為に駅にきた。モンアード君は駅までお見送りに来ていたよ。ほんといい人だね。また来る約束もしたし、今度は色々とゆっくり話をしたいな。
汽車が発車する直前まで、カルカンが魚の駅弁を買い漁っていて、あわや乗り遅れる所だった。
運転手さんに迷惑かけなくて良かったよ。
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ポーーーーー……!
汽笛が鳴り、汽車が走り出す。
名残り惜しいけど港町モンアードが少しずつ遠ざかっていく。彼はまだ見送りを続けている。
「ワドー、領主様、良い人だったねー」
「良い人ですにゃー、お酒のお土産いっぱいですにゃー」
「カルカンはお酒ほどほどにね?」
「さぁワールドン様!わたくしの故郷でも全力で説得を致しますわ!」
「エリーゼも物理説得はほどほどにね?」
「あ、姉上……」
アルフォートは胃の辺りをさすりながら、苦言をエリーゼに言っている。エリーゼは話を全然聞いていないな。いつもの事だけど。
初日からカルカンは酒を開けて飲みはじめた。どこかに落とした自重の精神、拾ってこいよ。あと、車内が酒臭いんだよ!
今回は途中下車せず、王都駅、オルタ駅を過ぎていく。
カルカンは駅につく度に、駅弁の売り子からオススメの魚弁当を聞いて、真剣に吟味していたよ。
オルタのかにめしは美味しかったから、また食べに来たいな。
次の長いトンネルを抜けると、雪が降っていた。
車窓から見える平原には、見渡す限りの雪が積もっていて、視界が通るに連れ、色合いは白一色へ変わっていく。
「おおーーー!銀世界だーーー!」
「ルクル氏、はしゃぎ過ぎですにゃー、恥ずかしいにゃー」
「ルクル殿は雪の馴染みが少ないのですか?」
「なんか急にかき氷が食べたくなった」
「ワールドン様!かき氷とはどのような食べ物ですか!?わたくし手に入れますわ!」
暫くすると窓の外が、白い煙で真っ白になる。
「うわーーー!なにこれー!?」
「一定間隔で、雪を溶かす熱が通される仕組みなんですよ。その水蒸気です」
「へー、僕もはじめてみた」
「我が国では温水を放水して、雪を溶かしています」
「楽しみにゃー」
旅はすこぶる順調だった。
最近、ブツブツとエリーゼの独り言が増えているので、どこまで寝ないで持つかだけがとても不安。
(僕の為に頑張ってエリーゼ!)
エリーゼの里帰りに付き添う事になりました。
次回は「鉄道の旅と潮騒」です。




