分家と分家のお家騒動・後編
前回のあらすじ
暴走エリーゼの、トマト祭り開催をギリギリ回避しました。
平和的な解決を目指して話し合いを続けます。
先ずは、ココ伯爵達に腹を割って話すよう促した。ルクルとカルカンが震えていて使い物にならないし、僕が頑張らないと。
「腹を割ってと申しますと?」
「そうだなぁ……相手の造船の、優れている所をあげて行くとか?」
「自分のでは無く、相手のですか!?」
「そうだよ。確か『敵を知り己を知れば百戦危うからず』だったかな?」
ルクルに教えてもらった事なんだけど……今は無理そうだなぁ。まだ震えているし。
エリーゼの深淵を覗くような目も、そのままで戻ってきていない。
「と、とにかく相手の長所も知らないようでは、話にならないって事だよ!」
「「畏まりました」」
そんな感じで、相手の長所をあげる事になった。
「ノサト卿の船は、安定感があり、どんな海域や天候でも快適に過ごす事ができます」
「何を仰るか、ノヤマ卿の船こそ、小回りが効いて操舵性に優れるので、安全な航海ができますぞ」
「いやいや、ノサト卿の船の方が乗る人の事を考えて、如何に快適に過ごせるかの機能に特化しているではありませんか」
「それを言うならノヤマ卿の船の方が、船を扱う者への配慮や工夫が盛り込まれてて、扱い易さがピカイチです」
あれ?確執が大きい割には相手の船を大絶賛だな。
エリーゼへの恐怖心からでは無く、二人は本心からそう言っている。
「二人共、まるで相手の船を、乗り慣れてるかの様に詳しいね」
「「……」」
あれ?なんか気不味そうだな。僕、なんか変な事を言ったかな?
「実はノサト卿の船を、かなり前からプライベートで愛用しています」
「私もノヤマ卿の船を動かすのが趣味で、隠れて乗っておりました」
んんん?あれだけ険悪なのに?どういう事だろう?
クッソ、エリーゼの目が戻らないから、ルクルとカルカンはマジ役に立たない!
「えー……と、相手の事を悪く言ってたけど、船は好きだったって事?」
「「はい」」
「なら、なんであんな険悪に?」
「それは……」
「その……」
話を詳しく聞いてみた。
本人達よりも、周囲の方が対立関係で盛り上がっているとの事。
それに侯爵に返り咲くのは悲願である為、引くことは出来なかったとの事。
相手の船を認めている為、その他の下らない事でけなし合っていた事。
「えと、要約するとメンツの問題で引っ込みがつかないって認識で合ってる?」
「「はい」」
なるほどぅ。でも、こっからどうすればいいのかの引き出しが無いよ(汗)
「えーと、そうだな、そうだな……とりあえず船を見せてくれる?」
な、何も思いつかなかった。頭真っ白で不意に出たセリフが「船を見せて」になってしまった。
正直、どうすればいいのか分からない。
ルクルとカルカンを残し、僕、エリーゼ、ココ伯爵達の4人で領主館を出て桟橋に向うことにした。
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外は物凄い豪雨だ。すっかり忘れていたよ。
でも、雨に打たれて正気に戻ったみたいで、エリーゼの瞳が普段の状態に戻っている!
(運が良かった。まだリカバリできそう)
ノヤマ伯爵と僕だけで、ノヤマ伯爵の船に乗り込んだ。
「伯爵様!お帰りなさいませ!」
「伯爵様!おーい、伯爵様が戻られたぞ!」
「伯爵様!濡れたお体をお拭き致します!」
凄く慕われている。船乗り達が、本当にココ伯爵を慕っているのが伝わってくる。
「良い船乗り達だね」
「はい。部下に恵まれております」
僕は船乗り達に、ノサトの船はどうかを聞いてみた。
「あんなもん船じゃないですよ!」
「あんなのに乗るのは船を知らないやつです!」
「ウチの船が世界一だよな!」
「ウチの船のが圧倒的に良い船ですよ!」
具体的な相手の船の特徴を聞いてみたら「敵の船なんか知りたくもない」って回答だった。
次にノサト伯爵と僕で、ノサト伯爵の船に乗り込んだ。
「伯爵様!お早いお帰りですね!」
「伯爵様!着替えをすぐに用意します!」
「伯爵様!ささっ、こちらへ」
こちらでも凄く慕われている。ノサト伯爵もどこか自慢げだ。
「良い船乗り達だね」
「はい。皆、自慢の仲間です」
僕は船乗り達に、ノヤマの船はどうかを聞いてみた。
「やつらがまともな船作れる訳ないです!」
「やつらは海に浮いてるだけの物体ですよ」
「ウチの船が一番です!間違いない!」
「ウチの船の方が比べるもなく最高です!」
デジャヴを感じながら追加で特徴を聞いてみる。「敵の船なんか知りたくもない」って同じ回答が来たよ。
とにかく周囲の視野が狭い事が分かった。身内への結束はとても固い。
一旦、元の部屋に戻る事にした。
僕らが戻った時に、ルクルとカルカンがビクッてなったね。それから、恐る恐るエリーゼの目をみて、安堵していたよ。
皆にお互いの船で見聞きした事を【伝心】した。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の全てを使って共有したよ。
タオルを出してくれたり、レインコートを貸してくれたり、温かい飲み物を出してくれたりと、どちらも優秀だった。
仲間への気配りを伝える為、あえて五感全部にしている。
逆に相手に対しては興味も無いし、下にみて差別意識がある点も伝わったと思う。
ココ伯爵達はお互いの部下に驚愕していた。
彼らは相手の部下から失礼な態度を取られている為、相手の部下は不出来だと思い込んでいたようだ。
実際には相手を見下して、知ろうともして無かったのが、自分の部下にもいた事にショックを受けている。
「実態はこうだったのですね……」
「私達自身も視野が狭かったようです……」
「ワド、これはお手柄だよー」
え?え?褒められた!ドヤっていい?いいよね?
せーの、ドヤァ!(会心の出来)
「ここでそのドヤ顔が無ければ、普通に褒めれるんだけどねー」
(あ、あれ?もちょっと褒めてよ!)
「わたくし、双方にワールドン様の素晴らしさを説得してきますわ!そうすれば全て解決しますわ!」
「エリーゼ、そういう話じゃ無いんだよね」
「大丈夫ですわ!ワールドン様の素晴らしさを知る事で、全ての人は幸せになりますわ!」
「エリーゼ、待って」
「すぐに説得は終わりますわ!わたくし全力で説得してきますわ!」
爆音で去っていくエリーゼ。止める間もなかったよ。
「えー、エリーゼ様が平常運転になったのは別にほっとくとしてー」
「いいの!?」
「両伯爵にご提案があるのですが、お聞きになりますか?」
「聞こう」
「言うてみろ」
ルクルの提案はこうだ。
年1回の開催で船のコンテストを執り行う。
コンテスト期間中は監査の名目で、船員を半分は相手の陣営に入れる事。
一般のお客に船旅を提供して、どういった所が良かったかアンケートを取る事。
良い評価が倍以上集まった方が、その年の本家とする事。
「建前は監査ですが、同じ船に乗り相手の仕事ぶりを見る事で、偏見を減らし良い点を吸収させます。恐らく倍以上の差がつくことは無いと思います。ですが切磋琢磨する事で、両家共に侯爵に返り咲く事も、不可能では無いと思います」
「え、それ倍以上の差がついたらどうするの?」
僕が質問したけど、ルクルはあくまでココ伯爵達に回答した。
「仮に倍以上の差がついた頃には、相手を認める事が出来るくらいに、相互理解があると思います。それに翌年のリベンジに活力を回せば良いのです」
「「なるほど」」
ココ伯爵達はルクルの提案を受け入れた。
提案に一般のお客に判断させる云々があったので、エリーゼが説得で不在だったのは、好都合だったとルクルが言っていた。
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「ありがとうございます。これからコンテストに取り掛かります」
「船の事業で何かお困りの事が在りましたら、是非ご協力させて下さい」
そういってココ伯爵達は帰っていった。
年1回の投票で代理戦争ができるのなら平和だね。良かった。
そのあとすぐに来客を知らせる連絡が来た。
(ん?誰?ココ伯爵達が引き戻してきたのかな?)
「お久しぶりです。ワールドン様。……姉はどこですか?」
お、アルフォートじゃん!
なんとか穏便に騒動を収められました。
次回は「大公当主の呼び出し」です。




