2つの伯爵家とのトラブル
前回のあらすじ
港町モンアードへやってきたワド達。
宿題として先送りにしていた貴族との揉め事が、唐突に突きつけられました。
モンアード君への報告を終えた後、領主館のゲストルームへ戻った。
これからルクル、カルカンと3人でココ伯爵家の対策会議だ。
ちなみに、エリーゼは色欲バージョンになっているので、マイティの監視付きで別のゲストルームに隔離している。
抜け出せないようにベッドに鎖で雁字搦めに縛りつけた上で、痺れ薬も投与している徹底ぶりだ。
何度か「トイレに行きたい」と称して抜け出そうとしたらしいけど「そこで漏らして下さいませ。お掃除はお任せ下さい」とマイティは突っぱねていたと後日聞いた。
(マイティさんマジ鬼畜!けどマジ感謝!)
そんな訳で、エリーゼの乱入を一切心配せずに、相談できる場がセッティングされたんだ。
とても高価なテーブルとティーセットが並び、見た目も楽しい。
ルクルが先に席を取ったので、僕とカルカンは対面のソファーに座る。
高級な茶葉のお茶が実に良い香りだ。それにお茶請けのパンデピスが、甘くておいしい。
ソファーの手触りも素晴らしくて、とても満足。
カルカンは昨日飲み過ぎたのか、既に横になり始めていたよ。
口をつけてたカップを置くと、僕は勢いよくルクルへ話を切り出した。
「ルクル、流石に今回は相談にのってよ!」
「はぁ……分かったから、詳しい事情を説明してくれるー?」
「おけおけ、任せてよ!」
「ワールドン様、大声はやめて下さいにゃ……頭に響きますにゃ……」
カルカンは二日酔いで、まだ頭痛が酷いみたい。
自業自得だから配慮なんかしてあげないよ?
ていうかほんと自重して?
(猫魔族の国で見た優秀さは、一体どこに……)
気を取り直して、僕は説明を始めた。
少し前のめり気味になりながら、ちゃんと伝えようと必死で、思いつくままの内容を語っていく。
「ココ伯爵家ってのは、3代前に家督問題で兄弟それぞれで当主を名乗ったらしいの。んで造船技術で出世した家系らしくて、誇り高いみたいだよ!」
「なるほどー、さっぱりわからんー。あ、ジャックさん、詳細説明お願いします」
むぅ、僕の説明だと分からないと言って、すぐ従者に丸投げされたよ。……ちょっと悔しい。
スッと前に出て片膝をついた筆頭従者から、詳しい説明が行われた。
「ココ伯爵家は代々造船で国に貢献し、軍艦から貨物船まで幅広く手掛けています。4代前の当主が跡取りを決める事無く、亡くなったのが事の発端です」
(そうそう。確かに造船が自慢だって言ってたね)
「第一夫人も、第二夫人も、それぞれの息子を正当な当主と言い張って擁立しました。当時のメイジー国王はその争いに辟易としていて、それぞれを分家扱いとし、侯爵から伯爵に降格させました。これが3代前となります」
(へー、そうだったのか。分家と分家になった経緯はテキトーに聞き流してたから知らなかったかも?)
「それから、正当な本家当主となり侯爵に返り咲く為に、両家の確執が激化して行きます。分家当主だけでなく、仕える者達やお抱えの商会等も、険悪な関係になっています」
従者は少しためてから、一部の語気を強めて語る。
「それぞれに分譲された領地の領民も、お互いを嫌悪しており、関係修復は困難です」
従者は「ここまでが確執の話となります」と、一旦話を切った。
僕らは冷め始めたお茶に口をつけて人心地つける。
(確かに凄い仲悪かったな。僕は関わり合いになりたく無かったんだよなぁ……)
僕は思い出しながら少し遠い目をしていた。
そこにルクルが、改めて従者への質問を切り出す。
「それでどうして、ワドが関わる事になったんですかー?」
「エリーゼなんだよ!」
「ワド、うるさい。ややこしくなるから黙っててー」
冷たくあしらわれて傷ついた僕は、腹いせに手近にいたカルカンの頭をワシャワシャとした。
「わ、ワールドン様やめるにゃ……また気持ち悪くなってきたにゃ……」
喚くカルカンを無視して、気が済むまで弄り倒す。
改めて従者が、説明の続きを語りだした。
「では、今回関わる事になった出来事について、ご説明致します」
少し退屈になってきた僕は、カルカンのふっさふさの毛を引っ張ったりして遊びながら聞く。カルカンは「んにゃ?」「ふにゃ?」といじる度に変な声をあげていて面白い。
「港町を巡る女神の噂を聞きつけたココ伯爵両家が、自慢の艦隊を見せに来ました。……ただ、お互いを口汚く罵ったりして大変見苦しかった為に、エリーゼお嬢様が動きました。お嬢様が『口先だけでなく、性能で証明すれば良いですわ!』と仰られて、性能勝負をする流れになりました」
従者は少し居住まいを正し、言葉を続ける。
「その上で『ワールドン様に認められるには、ワールドン様をお乗せできる強度は最低限ですわ!』と煽りまして……」
左手を額に当てながら嘆息するルクルは、カップを置き、空いた右手を従者へ突き出して発言を遮った。
「理解しました。ワドの体重調整を切った上で、船が耐えられるか試して、耐えきれなかった。ですね?」
「はい。ルクル様、ご明察です」
「ぼ、僕が太ってるみたいに言うのやめれ」
(ルクルが僕をジト目で見てる……なんで?僕、悪くないよね!?)
「あのなーワド、ほんとに体重調整を切ってどうすんだよー?」
「え?……だってエリーゼがそうしろって……」
「ハァーーーー……」
長いため息をついてからルクルが補足した。
僕の体重を推定で出すと、2000~3000tは最低でもある見込みらしい。
サイズ感から勘で出した推測値だから、下手したらもっとかも?と言われた。
数値じゃイマイチわかんないけど、それってちょっとだけ重いのかな?
(僕って、ドラゴンではスリム体型なんだけどなぁ)
ルクルが、スプーンをカップに「キンキン」と当てながら、窘めるように言葉を続けてくる。
「そんなのが人の足サイズに集約されたら、どうなると思うかなー?」
「えと……た、耐えきれない?」
「なんだ分かってるじゃんー」
(な、なるほど。少しは浮遊の力をかけなければならなかった……と。今更言われてもなぁ)
スプーンとカップが奏でる音は、カルカンの頭痛を促進しているみたいで「頭が割れるにゃ」とブツブツ言っているけど、無視無視。
僕らのやりとりが一段落するまで黙って聞いていた従者が、さらに追加説明をし始めた。
「それだけでは終わらず、エリーゼお嬢様が煽りに煽ったので事態が拗れました。大破した船を背に『どちらも分家ですらないボロ船ですわ!』と煽りまして……」
ルクルとカルカンの顔が引きつり始める。
「さらには『ココ家の造船の誇り等、所詮この程度ですわ!』と誇りを踏みにじりました」
(やっぱ、改めてエリーゼが酷いなぁ)
「これに怒り心頭な両家は反発しましたが『女神に認められない事実は変わりませんわ』と取り合わず、さらに『偽物同士で傷を舐め合っていれば良いですわ』と傷口に塩を塗る罵倒の数々を浴びせました」
(うんうん。あれは酷かった。馬鹿にされた皆さんは顔真っ赤にして怒ってたもん)
淡々と語る従者。
話の内容に、部屋の温度も気持ち下がったように感じる。
ルクルとカルカンも絶句しているよ。
「あまりの事態悪化を見かねたワールドン様が、耐久性以外でもう一度勝負する提案をしました。そうしましたら、エリーゼお嬢様も掌を返し『ワールドン様は、不屈の精神があるのかお試しになられたのですわ!』と今までの暴言も、忍耐力を試す試練だったと言い出しまして……再勝負の内容を決める事と勝敗の判定が、ワールドン様の宿題となりました」
従者が「以上です」と語り終えると、部屋の中に暫し静寂が訪れる。
ルクルが申し訳無さげに、僕を見ながら謝罪を口にした。
「ワドー、ごめんよー。ワドが言ってた通りエリーゼ様が悪かったみたい」
「ワールドン様、冤罪でしたにゃ。ごめんなさいですにゃ」
(わかればいいのよ。わかれば!)
僕は無言で、カルカンをワシャワシャといじるのを繰り返した。
「ワールドン様、頭に響くにゃ!止めて下さいにゃ!」
エリーゼが煽ったせいで、ワドが宿題を抱える事になっていました。
ですが、エリーゼ自身に煽った自覚は全くありません。
次回は「分家と分家のお家騒動・前編」です。




