閑話:モンアードの暗躍
前回のあらすじ
領主モンアードはドラゴンの電撃訪問を受けました。
ep.「領主不在」~ ep.「港町での歓迎式典」の頃のモンアード・レート・メイジー視点です。
(また、この処置を依頼する事になるか……)
私は苦々しく思いながら、暗部の薬師を呼んだ。
「お館様、前回と同様の催眠暗示でよろしいでしょうか?」
「前回の好意に加え、強い恩義も追加で頼む。他は前回同様だ」
「……承知しました」
人に変化したエターナルドラゴンが電撃訪問してきた。幹部達は緊急対応に当たっている。
2年近く前にエターナルドラゴンが来た際うまく言い包めて、誘導に関しては上々の成果が出ている。
各港町でエターナルドラゴン自身から「モンアードからの通達」と口に出すように仕向けた。
それが功を奏し、我がモンアード領とエターナルドラゴンの結びつきを、世界各国にアピールできた。
(狙い通り、各地でかなり浸透してきたな)
それにしても予想外ではあったが、北側で人型エターナルドラゴンが女神と崇められ始めている。
これも大きな副産物となっていた。
(もう少し、信用を得てから動くべきか……)
……厄介なのは、ドラゴンの【伝心】だ。
あれはこちらの心を読み取る能力がある。
「お館様!緊急の伝令です!」
カービル帝国に潜入させている諜報部隊から、事前に情報を得ていた。
隣国とは常に緊張関係にあって、こうした諜報活動を行っていた事が幸いしたと思う。
部隊から「心を読む能力あり」と報告を受けた際は、驚愕と共に頭が痛い問題でもあった。
心を読まれる対策へ、我々は真剣に取り組んだ。
その為に前回のエターナルドラゴン襲来時には、私自身も含め、関係者に強力な暗示をかけた。
暗部が自白剤などで利用している薬品各種を用いて、念入りに処置を施している。
その効果は数日だ。前回の滞在期間では何度も暗示をかけ直す事になった。
薬の副作用はあるが、本心を悟られる訳にはいかない。こちらも必死だった。
暗示の内容を大雑把にまとめるとこうだ。
・今回のことに関する後ろ暗い記憶の消去。
・王国内の陰謀詳細を都合良い解釈や認識に改竄。
・エターナルドラゴンに対する強力な好意。
大きく分けてこの3つである。
他の港町への働きかけや、その際にモンアードの名を出す事などは、暗示に組み込まれていない。
後ろ暗い事を消し、強い好意を持っていれば、私なら善意で他への手配を行うと確信していた。
また、僅かな打算からモンアードの名を出させるようにするのも当然だろう。
私の性格や行動は、私自身が一番良く知っている。
重要なのは善意からの提案である事だ。
ドラゴンの【伝心】能力で探られても、不審に思われない事が重要だった。
本人が本当に忘れていれば、心を読まれても不審な点は見つからないだろう。
そして私は賭けに勝った。
この暗示対策をしていなければ、前回のエターナルドラゴンからの質問にボロが出ていた事だろう。
記憶が戻った時、あのドラゴンの勘の良さに冷や汗が出たものだ。
我がモンアード領の野望の為、利用しようと画策している事が露見していたのなら、私は殺されていたかも知れない。
今回の電撃訪問も上手く乗り切る必要がある。前回と記憶の整合性を取るのが急務だ。
(しかし、調査していたのも一旦消すしか無いか)
ドラゴンの同行者に対する詳しい情報も消す必要があった。消した後に、大陸の噂程度は後から吹き込んで貰う事にする。
前回と記憶の整合性を合わせつつ、恩義に厚い人物像の演出を行っておきたい。
モンアードの名を広めてくれた事、人探しの旅の報告の約束を守ってくれた事。
この2点を非常に強く恩に感じていると、暗示をかけるよう指示する。
恩に感じるには弱い要素ではあるが、薬品を使った暗示なら問題はない。
一切疑問にすら感じず、心から恩を感じて行動に移すだろう。
(すると凱旋パレードか祝宴辺りか?)
私は私の行動を予想する。
少なくとも心から感謝しての言動であれば、心を読まれても不審に思われまい。
「……お館様、準備が出来ました」
「うむ、すぐ行く」
立ち上がり、薬師に続いて歩みを進める。
私は政争を避けて、港町領主に降ったと貴族連中からは言われている。だがそうでは無い。
この港町は海洋資源も豊富で、マナ鉱山など山間部の資源も国内トップだ。
東にザグエリ王国、南にカービル帝国と隣接している。
隣国から資源を得る為の工作や、国境沿いの小競り合いが絶えない。
それほどに魅力的な資源の宝庫であるモンアード領。
紛れもなく国内最大の要所だった。
王位に固執し、政争に明け暮れてこの領地を失うより、さっさと継承権を手放して実利を取った。
私はこの選択が正しかったと断言できる。
(機がくれば、すぐに王座はとれるからな)
今はまだ力を蓄える時期だ。エターナルドラゴンの力や名声も最大限利用していく必要がある。
薬での催眠暗示は、副作用に悩まされるのが難点であった。使えば使うほどに副作用が強くなっていく。
副作用の中で最も強くでるのが不眠症だ。
前回の時は度重なる薬服用の影響で、3ヶ月は不眠に悩まされた。
(今回はどれほどだろうか?)
私は不安や本心を奥底に沈めて、催眠暗示を受け入れ眠りにつく。
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翌日、エターナルドラゴンが訪ねてきた。
「お、モンアード君!久しぶり!約束通りに友達を連れてきたよ!色々と土産話もたっぷりあるよ!」
「ワールドン様、お久しぶりで御座います」
(あぁ、領地の名を広めてくれたばかりか約束も守って頂けるとは……本当に感謝だ)
「ワールドン様方のご帰還を祝して凱旋パレードなどは如何でしょうか?」
領地をあげて祝うべきだろうと考え、早速提案を行い、暫く無言で反応を伺う。
「パレードは大袈裟。そこまでは良いよ」
「では、せめて歓迎式典だけでも執り行うことをお許しください。ワールドン様は恩人ですので……」
式典の提案が受け入れられた事に胸を撫で下ろす。
(ワールドン様に、相応しい式典にしてみせようではないか)
そうして、盛大な歓迎式典が始まった。
モンアードも伝心対策には苦労しています。
この後も結構な不眠に悩まされます。
次回から新章「お貴族様との揉め事」になります。
次回は「2つの伯爵家とのトラブル」です。




