港町での歓迎式典
前回のあらすじ
なぜか門番が領主不在を知らず、怪訝に思いながらも出直すワド達。
改めて、領主モンアードを訪ねます。
翌日に改めて領主モンアードを訪ねてみたら、今度は拍子抜けするほどアッサリ通された。
「昨日はいなかったみたいだし仕方ないかな」
「ワドー、……本当に大丈夫ー?迷惑かけてないー?信用されてるか不安ー」
「色々と善意で骨を折ってくれる凄く良い領主だよ」
僕らは4人で謁見の間に入り、領主モンアードと対面した。
「お、モンアード君!久しぶり!約束通りに友達を連れてきたよ!色々と土産話もたっぷりあるよ!」
「ワールドン様、お久しぶりで御座います」
「お初にお目にかかります、モンアード卿。わたくしはエリーゼと申しますわ」
あれ?ルクルとカルカンは片膝をつき跪いていて、視線も下げている。これじゃ紹介しづらいよ。
立つように促したけど、無視された。
悲しい。シクシク……
「こっちの少年はルクル、猫魔族はカルカンだよ」
「エリーゼ殿、ルクル殿、カルカン殿、どうか宜しくお願いする。楽にしてくれて構わない」
「はい。お気遣い、ありがとう御座いますわ」
エリーゼが淑女の礼をしていた。ふわりとローズの香りもしたよ。
「エリーゼ殿はひょっとして……隣国で噂の公爵令嬢でしょうか?」
「あら、どんな噂でしょう?」
「ワールドン様の右腕と聞き及んでおります」
「まぁ!それは事実ですわ!」
ルクルとカルカンはまだ跪いたままだ。改めて立つように促して、ようやく立ったよ。
「ルクル殿、カルカン殿、どうか本当に楽にして欲しい」
「はい、ありがとうございます」
「よろしくお願いしますにゃ」
それからモンアードの名を広めてくれた事や、約束を守って会いに来てくれた事、これらに物凄く感謝していると伝えられた。
そんなに感謝されると流石に照れるね。
「ワールドン様方のご帰還を祝して凱旋パレードなどは如何でしょうか?」
パレード!?
なんだか感謝ゲージが天元突破しているなぁ。
おっとルクルから【伝心】のサインがキタコレ。
『なぁ……パレードは流石に大袈裟じゃないー?』
『うーん……確かに。でも、心から感謝しているみたいだよ』
『ここの領主様、ワドに騙されてるんじゃないー?』
『失礼だな!僕は騙した事なんか無いよ!』
そう。僕は知ったかをする事はあっても、騙す意思はないのだ!だから誰も騙してはいないよ!ドヤァ!
とりあえずパレードは断る事にした。
「パレードは大袈裟。そこまでは良いよ」
「では、せめて歓迎式典だけでも執り行うことをお許しください。ワールドン様は恩人ですので……」
またまたルクルと相談だ。
『歓迎式だってさ。美味しい料理食べれるかも!』
『なんかー、ここまで持ち上げられるの違和感なんだけどー?』
ルクルが疑っているけど既に確認済みなのさ。
『ふふふ、それがねぇ~、モンアード君は100%善意なのだよ』
『ワドー、なにやらかしたー?』
『えと……日頃の行いが良いから?』
危ない。そういや修復されているけど、桟橋で【土下座】したんだった。どうかルクルにはバレませんように。
それでも、モンアード君は好意と善意から、僕らを持て成したいみたいだし、歓迎式はOKかな。
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了承を伝えると、早速式典の準備が始まった。
僕とエリーゼはドレスアップ中だ。
着付けを手伝っているマイティに、チラリと目配せをする。コクリとマイティから頷きが返される。
(大丈夫。マイティに任せよう)
そう。最大の問題として、式典ではお酒が振る舞われる事だ。限界の近いエリーゼがお酒を飲んだらどうなるか……答えは出ているね。
色欲エリーゼ対策はマイティに任せる。正直、この世で一番頼りになる従者だよ!
エリーゼは薄緑のドレスだ。スカートの裾に向かって徐々に色が濃くなっている。
僕は真っ赤なドレス。凄く派手。
元々、ほんのり金色のマナ光を帯びているので負けないようにド派手なドレスになった。
目立つのは本意じゃないけど、主賓だし「ワールドン様が一番目立つのは当然ですわ!」ってエリーゼに押し切られた。
式典会場へ移動し、場内や天井、美術品などを見回す。物凄く大きなホールだ。
出入り口はともかく、中は僕が元のサイズでもいけるくらいの広さだったな。
モンアード君の長い挨拶が終わり、僕らのお披露目となる。
会場の来客達からどよめきが起こったね。
ルクルもカルカンも礼服を着ているよ。なんか二人共似合わないなぁ。
ルクルは場馴れしていないのかキョドっている。
カルカンは1点を見つめている。あの視線の先は……あぁ、高級魚のムニエルだな。こいつブレないな。
暫くは主賓として飲み物だけで挨拶しなければならないようだし、こういう挨拶は苦手だよ。
少しの我慢だ。僕もパンデピスを食べたくてロックオン済み。よだれが出そう……
そんな事を考えていたら大きな音がした。
バターン!
あれ?エリーゼが倒れている……マイティと従者で運び出しているよ?
突然の出来事に会場もざわついている。
「ジャックさん、エリーゼ様大丈夫ですか?」
ルクルが筆頭従者にエリーゼの容態を尋ねた。僕も気になっている。貞操に関わるからね。
「はい。マイティからの提案で先に眠らせる事にしました。いつ寝るか分からないよりは安全に対処できるかと思います」
「くれぐれも、くれぐれもお願いするよ!」
特に念入りにお願いしておいた。
トラブル収拾の間で、カルカンは既に酔っ払っているけれど、ちょっと飲み過ぎだと思うよ。
そんな中、モンアード君がこちらにやってきた。
「エリーゼ殿は大丈夫でしょうか?」
ま、いきなり倒れたからね。普通はビビるよね。
「旅の疲れが出たのかもね。暫くは部屋に隔離して、安静にさせたら良いかと」
「確かにお疲れかも知れませんね。……ふふっ、しかし隔離とはワールドン様もご冗談を言うのですね」
え?冗談ではないよ?至って本気も本気、モチのロンよ?
隔離じゃヌルイね。(僕の安全の為に)監禁すべきだよ!
エリーゼが倒れた事で、歓迎式は早めに切り上げる流れになった。
カルカンが高級魚のムニエルを食べそこねてしょんぼりしている。僕はちゃっかりとパンデピスをお土産に包んでもらい済み。
(フフフ、抜かりなし!)
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明けて翌日、モンアード君への旅の報告会となった。
「エリーゼ殿はまだ回復されないのでしょうか?」
「うん。大事をとって休んでるよ」
「カルカン殿はどうなされましたか?」
「彼は二日酔いだよ」
僕の安全の為に強制的に色欲エリーゼはお休みしてもらっている。
カルカンは調子にのって飲みまくっていた。
ルクルに聞いた話だと、部屋にお酒を運んでもらって、夜も飲んでいたみたいだね。
カルカン……少しは自重しなよ。
そして旅の詳細を僕のやらかしはぼかしてモンアード君に報告した。
誤魔化す度にルクルの視線が冷たくなる。
「冒険者やギルドは必要だと思うんだよ!」
「今、うまく回っている組織を変えるメリットが見いだせないのですが……」
報告ついでに僕の主張も織り交ぜる。
「支払いも、先・後で分かれてるのは、混乱の元だから統一すべきだと思うの!」
「それは……それほど重要なのでしょうか?」
モンアード君は僕の意見を、完全には否定しないのがいいね!流石、好感度MAXは伊達じゃない。
信者エリーゼは全肯定だけどもさ。
「言語もさ、メイジー語で統一しようよ!」
「我が国としては魅力的な提案ですが……他国にも文化が御座いますから難しいかと……」
そうなの?複数の国の言語を覚えるほうが難しく思うけどなぁ僕は。
「ココ伯爵一家って面倒な貴族がいてね。どっちも本家にすれば良いと思うんだ!」
「それだと本家が複数できてしまいます……」
ついでに、ココ伯爵一家とのトラブルを報告したら、思わぬ返答がきた。
「ワールドン様、ココ伯爵達ですが……2日後に、ここモンアードに訪問予定です」
(え?……心の準備が出来てないよ?)
宿題から逃げてたら、宿題の方からやってきました。
2章「約束の帰路」の本編はここまで。
今回の別キャラ視点の閑話は3話予定です。
・ワドとの出会いと苦労話をカルカン視点
・全裸ワドと遭遇した兵士長ガルド視点
・ワドが電撃訪問した際の領主モンアード視点
となります。
本編だと見えない部分を描いています。
次回はカルカン視点の「閑話:カルカン君の苦悩」です。




