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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
約束の帰路

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領主不在

前回のあらすじ

温泉宿で温泉を堪能したワド達。港町モンアードを目指して旅を再開します。

 隣の港町まで徒歩で進み、ようやくすぐそこの所まできた。


 途中で何度も「飛んだ方が速い」と主張したけどルクル達は頑なに拒んだ。

 そのせいで凄く時間がかかってしまったよ。


「……まだ大丈夫ですわ!まだいけますわ!」

「エリーゼ様、7連鉄ですけど本当に大丈夫ですか?」


 ルクルはエリーゼを心配している。

 でも、エリーゼが寝たら困るのは僕だから、続けて睡眠を取らせないように必死だ。


「エリーゼはまだまだ眠らないで行けるよ!」

「いや、ワールドン様……どう考えても無理ですにゃ……エリーゼ様の目は血走ってますにゃ!」

「わたくしはまだ大丈夫ですわ!」


 僕はエリーゼが元気になる言葉をかけてあげる。するとすぐに元気になるんだよ。便利!


「僕はエリーゼならやり遂げると信じてるよ!」

「お任せ下さいませ!全力ですわ!気合いですわ!」


 カルカンから「ワールドン様は鬼ですにゃ」と失礼なつぶやきが聞こえた。

 あ、エリーゼに口の聞き方を注意されたね。

 信者エリーゼは、僕への不敬は絶対許さないからね。あの説教は長くなるだろうなぁ。


 その説教を横目に、港町の大通りへと抜けた。

 視界が開けると、行き交う人々や大きな駅舎が目に入る。

 鉄道も通っているこの町は、ホッドケットの3倍の規模らしい。

 観光を兼ねて宿で一泊してから移動するか、今日の鉄道で出発するかで意見が割れた。

 カルカンとエリーゼは一泊派。僕とルクルは今日の鉄道派である。

 従者3人組は票を持っていない。


 エリーゼ曰く「ワールドン様に湯浴みを」との事。徒歩の旅では川での水浴びだけだったから、どうしても清めたいらしい。

 カルカンはどうせ港町の魚料理が目的だろう。さっきから、クンクンと鼻をひくつかせている。

 ルクルは汽車に乗った事がないらしく、大はしゃぎだ。異世界でも蒸気機関車は乗った事が無かったと言っていた。

 僕?僕はエリーゼの限界が来る前に、モンアードへついておきたいのが理由。

 日に日にエリーゼがやつれてきて、限界が来そうなのが目に見えているからね。

 モンアード領主に頼んで、エリーゼと部屋を別にしてもらえば、色欲の被害を最小限に抑えられると思うの。


(一刻も早く、港町モンアードへ!)


 メンバーの中で僕が一番真剣に主張した。

 僕が本気で意思表示すればエリーゼは従う。エリーゼの手下と化しているカルカンも、まとめて取り込み完了。

 行くと決まれば、従者3人組が素早く手配を済ませてくれる。凄く頼りになるよ。

 ルクル以外は慣れたもので鉄道に乗っても普通にしている。

 ルクルは若干引くレベルのはしゃぎようだった。


「ファーーー!座席がフカフカだよー!お、この引き出し何なの!?あ、窓の外!地面がめっちゃ近いよー!?ほら!ワドも見てよー!」


(席に座らず走り回ってるな。何だかこっちが恥ずかしいよ……)


「しょうがないなぁルクルは。僕が鉄道について教えてあげよっか?」


 大人しくさせるためにも蘊蓄を語ることにした。

 ルクル(ケタ)に共有して貰った鉄道と違い、この世界の鉄道は、半分が地面に埋まっている形だ。

 だから窓の外は地面スレスレなんだよね。

 魔獣避けの為に、壁面にはマナ鉱石が使われている。レール部分には熱を通す機構があり、冬は雪を溶かすらしい。

 その為に排水口の部分があり、雨や雪の水を流すようになっている。

 弊害として、沿岸地域か、川が近くにある所にしか線路が敷けない制限があるんだとさ。

 高架線は耐久性や予算の都合で無いらしく、地面にすっぽり埋めるのは景観が楽しめないので今の形になったようだよ。


「へぇー!へぇー!へぇーー!」


 お、反応がずいぶんいいね!

 僕の説明にルクルは関心している。アルフォートに教えて貰った知識が役に立った。今日のドヤ顔は一味違うよ!(ドヤァ)


─────────────────────


 それから、約8時間をかけて港町オルタに着いた。


 補給で2時間程滞在するとの事。僕らは一度下車して食事に向かう。

 既に日没後なので辺りは暗い。だけど、酒場の明かりだけがやけに目立っているので、方向は間違えないね。

 晩飯はカルカンのリクエストで魚料理だ。次の港町オルタで魚をご馳走するとの約束で、説得したからね。

 当然、お代は全額エリーゼ持ちだよ。


「くぅ~!旨いにゃー!」


 カルカンだけがお酒を飲んでいる。ルクルは未成年だからNG。僕も設定上、17歳で未成年なのでNG。

 このメイジー王国は、18歳から成人で飲酒可能だ。

 従者3人組は仕事中のため当然NG。

 エリーゼがお酒を頼もうとした時には、全力で止めたよ。酔って寝ちゃったら(僕が)大変だからね。

 というわけでカルカンだけが堪能している。

 本人は全く気付いて無いけど、皆が恨みがましい視線を送っているよ。


「お魚の唐揚げとお酒サイコーにゃー!」

「くっ……精神年齢ならとっくに成人なのにー!俺も飲みたいー!」

「僕も飲みたいけど我慢……」

「ワールドン様が控えるように言われましたから我慢しますわ!」

「ぷはー、生き返るにゃー!」


 このおっさん猫。周りの空気読めないのかよ……


(おっと時間、時間)


 エリーゼが手早く会計を済ませ、そそくさと撤収する。

 酔っ払いは「まだ飲みたりないにゃー」と言っているが無視して引きずり駅へと急いだ。

 発車10分前になんとか乗車。危なかった。また、駅員さんが行方不明になるのは阻止できたよ。


 汽車が走り出す。ここから港町モンアードまでは丸1日以上かかる。何度も汽車の中で夜を迎える訳だ。

 エリーゼが寝ないように頑張らなきゃ。

 途中、メイジー王都の駅にも停車したけど、降りなかった。人が多くて時間通りに戻れるか不安だったからね。


─────────────────────


 そうして幾度となく夜を越えて、モンアード駅へ辿り着いた。

 港町ホッドケットは最東端、港町モンアードは最西端だ。メイジー王国を横断した事になる。

 乗客たちが次々と降りる中、僕たちもようやく地に足をつけた。

 鉄道旅の途中、何度かエリーゼがヤバそうだったけど、なんとか持ち堪えてくれたよ。


(エリーゼ、ありがとう!感謝してる!)


「ここの領主とは顔見知りなんだ!早速向おう!」

「お魚が呼んでますにゃ」


 カルカンが屋台の魚の塩焼きに釣られて、フラフラとそちらに向かいそうなのを言葉で止める。

 確かにこの魚の焼ける香りの誘惑は強敵だ。でも僕の安全確保が優先だよ!


「大丈夫!領主の所でご馳走して貰おうよ!」

「それなら仕方ないかー」

「ですにゃー」


 僕は安全確保の為、皆を案内して領主館に急いだ。

 エリーゼは瞳を閉じるともうヤバい領域なのか、二日前から一度も瞬きしていないんだ。

 さ、流石の僕も少し罪悪感を感じるよ。


「やぁ!やぁ!僕はワールドン!領主のモンアード君に取り次いで貰えるかな?」


 僕は領主館の門番達に気さくに話しかけた。だけど、反応はあまり好ましくないものだった。


「なんだ?ワールドン様の名前を語る偽物か!ワールドン様は巨大なドラゴン様だぞ!」


 そっか、僕の人変化を港町モンアードの人達は知らないよね。うっかり、うっかり。

 でもここでドラゴン形態になると、周囲の建物を破壊してしまうし、どうしよう?

 そう思っていたところに突如突風が吹く。



 ブォーン!……ガラガラガラガラ。



「……偽物……ですって?」


 そこには正拳突きの素振りをしたエリーゼが……ってか風圧で城壁が崩れてるんですけど!?


「「「ヒィィィ!」」」

「エリーゼ様!落ち着いてー!」


 門番はガチでビビっている。

 ルクルはエリーゼを止めようと必死。

 眠りを封印された今のエリーゼは、目が血走っていてほんとに怖い。


「エリーゼ、落ち着いて。僕が本物なのは領主を呼んでくれれば分かるから」


 改めて領主への連絡をお願いした。伝令の兵士が戻ってくるまで暫く待つ。

 1時間ぐらい待たされただろうか?


「領主様は本日不在です!明日、改めてお越し下さい!」


(え?なんで?)


 領主不在を門番が知らない事が腑に落ちないけど、この場は一旦引き下がった。

 仕方なく宿を取る。

 ちなみに戻る時に屋台は店じまいしていて、カルカンがガックリと肩を落としていた。

 さっそく、宿の魚料理でご機嫌とらなきゃ。

 あと、エリーゼの睡眠対策もなんとかしなきゃだよ。



(お願い、エリーゼ!後1日だけ我慢してね!話し相手は任せて!)

鉄道の旅がたった1話で、港町モンアードに着いてしまいました。ですが、実際にはかなり距離があるので、結構日数がかかってます。


次回は「港町での歓迎式典」です。

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列車の旅の描写が良かったです。窓を見ると、地面スレスレって迫力あるだろうな(◍•ᴗ•◍)これは実際にあるのかな? 想像力だとしたら、すごくリアリティーがあります。 しかし、エリーゼの不眠不休は、少し…
エリーゼさんが可哀想なことになってるけど、 ワドも我が身のため必死! 互いにwinwinなのが面白い関係です。 猫ちゃんの語尾が自然になってきた。ようやく慣れたかな。
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