初温泉
前回のあらすじ
盗賊団は暴走したエリーゼが、一人で全滅させてしまいました。
初めての温泉宿にワドは興味津々です。
(さてと、念願の温泉だよ!)
盗賊の残処理を騎士団に押しつけて、僕らは温泉を楽しむ事にした。
温泉宿の修繕に関しては、僕の財布が笑顔でマネーパワーゴリ押しして一件落着。
「この宿、夕飯は魚料理だそうです!……あ、にゃ!」
カルカンが魚料理に興奮して、また語尾を忘れている。全く……萌え力がまだまだだね。
確かに人力ミンチ肉を見た後じゃ肉料理は食べたくないかも。
ルクルも肉料理で無くてホッとしているみたい。
この宿では箸が出てきた。使うのは初めてだ。
ルクルとカルカンは器用に使っているけど、僕は苦戦をしている。
早々に諦めてフォークとナイフを要求したよ。
「魚料理のバリエーションが多いねー」
「ここに住みたいにゃー」
「ワールドン様!料理人を勧誘しますわ!」
「エリーゼ、ダメだよ?」
カルカンは割と本気で言っている気がするよ。
先日、港町ホッドケットでも食した、小さな魚の刺し身が出てきてメロメロになっていた。
カルカンの大好物と思われるその魚は、この宿では酢味噌で食べるようで、非常に美味だった。
僕はデザートで出てきた、葛餅に似たお菓子が一番気に入ったよ!
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食事を終えたら、温泉だ。
僕とエリーゼと、従者で紅一点の女性の3人で女湯に向かった。
「マイティ、ワールドン様の香油も用意して下さいませ」
「かしこまりました、お嬢様」
香油は好きじゃないんだけど、エリーゼはいつも用意してくれる。
毎回、マイティに頼んで短めに切り上げて貰っていた。香油を「要らない」って断るとエリーゼの暴走がはじまっちゃうから、流れに身を任せている。
かけ湯をしてから岩風呂に向う。
(こ、これが憧れの露天風呂かぁ!ちょっと感動!)
エリーゼが暴れたから少し見晴らしが良すぎるけど、覗かれる心配はない。
光ガードもあるけど、エリーゼのオートガード(物理)で瞬殺されるからね。
ま、ドラゴンの時はいつも全裸だから、僕は見られても平気なんだけど。
「極楽、極楽」
「本当に素晴らしい湯ですわ!」
あ、湯が金色に染まりはじめた。僕のマナが濃過ぎるんだな。
うーん、ま、エリーゼとマイティしかいないし許容範囲って事で。
「ワールドン様!見てくださいませ!金色ですわ!」
「……ワールドン様、こちら無害でしょうか?」
マイティが有害で無いのかを警戒して、サッと湯から出たよ。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと癒し効果あるだけだよ」
「流石、ワールドン様!素晴らしいですわ!」
せっかくの温泉なんだから静かにゆっくり入ろう、とエリーゼを諭す。あー極楽。
マイティは先に上がって、香油やマッサージの準備をしている。
満天の星空を見上げながら、肩まで浸かった。
少し静かなエリーゼを見ると、疲れたのかゆっくり船漕ぎをはじめていたよ。
ここ数日は色々あったしなぁ。
湯当たりする前に、出るように言わなきゃ。
(……ん?……船漕ぎ?……あーーー!)
「ダメだよ!エリーゼ!寝たらダメだ!寝たら(僕が)死ぬぞーーー!」
「……ん、……」
「エ、エリーゼ?」
「……おはよ、ワド」
(手遅れだったーーーーー!)
ヤバいヤバいヤバいヤバい……とにかく逃げろ。
本能が最大級の警鐘を鳴らしている。
「じゃあ僕は上がるから、エリーゼはゆっくりしていってね!」
「ワド、リゼと洗いっこしましょ?ね?」
「僕、もうのぼせちゃってさ……」
逃げようとしてもガッチリホールドされている。
(ひぃー!ロックオン完了してるぅぅ!)
全く振りほどけないんだけど、一体どんな膂力してんの?
……僕は負けた。
と、とにかく、一般的な友達の範囲内での洗いっこだけは、約束もぎ取ったよ!
「ねぇエリーゼ、普通はタオル使うんじゃないの?手で洗うのおかしいよね?」
「タオルなんかじゃ隅々まで洗えませんの」
「いや、変だよ?一般的じゃ無いよね?」
「ワドが知らないだけですの。リゼの周りでは一般的ですのよ?」
(え?そ、そうなの?)
人間の友達がルクルとエリーゼだけの僕には、どのあたりまでが一般的なのかわかんない。
ケタが見せてくれたアニメの温泉回でも、女の子同士が素手で胸を揉んだりしていたから、一般的な範疇なのか?大丈夫?
「分かったよ、エリーゼ……ってそこはちがくない?え?……これはさすがに……」
「リゼは隅々までっていいましたの」
「ちょっ……あ……」
いけない!このままではR18になっちゃう!僕は17歳だからそこにはいけないよ!
「た、助けてマイティ!」
「ワールドン様!エリーゼお嬢様!香油の準備が出来ております!お早く!」
「だそうだよ!僕は香油に行くよ!」
素早く泡を流して、マイティの所に逃げ込んだ。
「助かったよ、マイティ。貞操の恩人だよ」
「まだ終わってません!第二波、来ます!」
エリーゼが泡を流してこちらにやってくる。
「どどどど、どうすんのさマイティ!」
「策はあります!私の提案に逆らわないで下さいませ!」
「うん!分かった!逆らわないよ!」
「ワドったら、そんなに慌てなくても香油は逃げませんの」
ヒィィィ、き、キターーーッ!よし、マイティを信じる。次の指示を待ってみる。
「お嬢様、ワールドン様の香油ですが、お嬢様がお塗りになられては如何ですか?」
(ひぃぃ、何言ってんのマイティ!?)
「あら?それは良い案ですの」
(ギャーー状況悪化!)
マイティが渡した香油を、エリーゼが塗り拡げる。
もう、どうにでもなれの心境。
「あ、お嬢様、手で塗り拡げるのではなく、舌で舐め広げては如何でしょう?」
(ふぁーーー!?ま?マイティ!?)
「素晴らしい案ですの。今日は冴えてますねマイティ」
(二人共、頭オカシインジヤナイノ!?)
あまりのパニックに心の声までカタコトになっちゃったよ!
ギャー!ベロの感触がぁ!ペロペロタイーム始まっているよ!R18直行便だよ!?
バターン!
(え?何が起こったの?)
「安心して下さい。効きました」
そんな冷静に「履いてますよ」みたいな事を言われても……何が何だか。
混乱しながら見回すとエリーゼが倒れていた。
「こんな事もあろうかと、香油に裏稼業の睡眠薬を入れて置きました」
(マイティの危機察知凄い!)
実は騎士団を迎えに港町へ戻った時に、荷物を回収していた。特に睡眠薬は、僕の安全の必需品だよ。
「マイティ、ありがとう……命の恩人だよ」
「これから共に頑張りましょう。ワールドン様」
僕とマイティは両手でガシッと握手した。
お互いの瞳は、強大な敵に立ち向かう強い意志を秘めている。ゆっくり頷き合った。
僕とマイティは戦友だ!
流石はマイティ。エリーゼ対策はちょっと想像斜め上を突き抜けているね。
マイティ、これからも頼りにしているよ!
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翌朝、無事に信者エリーゼへと戻っていた。
湯当たりで意識を失ったと、エリーゼには説明をする。
「ワールドン様、申し訳ありませんわ。わたくし、眠らないとお約束しましたのに……」
「た、体調が悪かったんだから仕方ないよ。それよりこれからは寝ないでね!」
「はいっ!気合いで起きてますわ!お任せ下さいませ!」
未練タラタラのカルカンを引きずりながら、僕らは温泉宿を後にした。
マイティの機転により、ギリギリ貞操は守られましたw
次回は「領主不在」です。




