人助けの旅路・前編
前回のあらすじ
街の中をお姫様抱っこで目立ってしまったワド。
鉄道は魔獣のせいで止まっていました。
討伐隊の隊長に見覚えがあるワドは、会うのを避けたい模様です。
「ん?ワド、なにコソコソしてるのー?」
ルクルに声をかけられた。こっちは目立ちたくないのに!
さすがに人でごった返しているので、こちらに集まる視線は周囲の人達だけだった。
「討伐一番隊、隊長ガルド。本日マルハチマルマルより作戦開始します!」
「頼んだぞ、ガルド。本隊の騎士団が到着するまで被害を最小限に抑えよ」
「はっ!出発準備を進めます!」
どうやら先遣隊はもう間もなく出陣するらしい。やっぱり知っている顔だ……気不味い。
「ルクル、行くなら今すぐ空路でいくよ!」
「え?ワド、ち、ちょっと待ってー」
「待てません!」
エリーゼをお姫様抱っこから片手で抱え直しつつ、カルカンを頭に乗せて、ルクルを左肩に担ぐ。
すぐに駅を離れ、門の方に爆走した。従者3人組は……しっかりついてきているな、よし。
走りながら門番に挨拶して門をダッシュで通過する。そのまま門から見えなくなる所まで走り続けた。
「待ってー、一体なんなんー!?」
「どうされたのですにゃ!?」
「ん、あ……リゼは……はぁ、はぁ……」
「待ちません!」
エリーゼを支えている右手は、エリーゼのちょうどお尻に添えられている。角度的に指が挟まる位置だ。
エリーゼの吐息が荒くて時折変な声が出ているけど、今は気にしている余裕がない。
門が見えなくなって、全員をおろして最速の脱衣&ドラゴン形態へのメタモルフォーゼを完了させる。
朝からずっとエリーゼの視線が僕から離れないのが凄く怖いけど、今は無視だ。先遣隊が来るまでに終わらせる!
「早く乗って!」
「いや、その……えと……空は……」
煮え切らないルクルを咥えてヒョイと背中に放り投げる。ついでにカルカンもエリーゼも従者3人組もヒョイヒョイ投げた。
「捕まって!飛ばすよ!」
「ひぃー!ダメだってばー!」
「僕の底力を見せてやる!エターナルウィング!」
「おい!ちょっと待てー!急加速は無理!Gがかかりすぎー!ふざけ……ぐはぁぁあーー」
こういうのはノリと勢いと掛け声が大事なんだよ。僕はノリで飛んだ。
そこに「そもそも、元ネタあのアニメだろー!」とかルクルがツッコミいれている。
(なんだ、ルクル案外余裕あるじゃん)
現場に到着っと。
ささっと皆をおろして人に変化する。今日は光ガード5割増のサービスだよ!僕のガードは鉄壁なのだ!
「怖いですにゃ、空の旅キケンですにゃ……」
「速すぎ、無理。うっぷ……ワドあとで覚えてろよ」
「はぁ……ん……激しくてぇ、リゼ感じちゃったぁ」
皆がガタガタ震えて、空の旅は二度と嫌と繰り返している。……約1名は例外だけど。
さて、魔獣はさっさと除去しちゃおう。
「あれは翼竜族の最上位の魔獣ですにゃ!」
「危険です!お嬢様!ワールドン様!御下がり下さい!」
「え?カルカン君、あれってヤバいのー?」
なんか外野がうるさいな。とりあえず他に一切当てないように、力を抑えて軽くブレスを魔獣に当てる。
魔獣は、それまで暴れていて大地を振動させていたけど、ブレスが当たると音が掻き消える。
一瞬で骨になり、骨もすぐにマナになって風に溶けていった。
カルカンと従者3人組が、顎が外れたかのように口を開けて放心している。
「や、やったか?」
「ワドの吐息羨ましいの。リゼも浴びたい」
(こら、ルクルはフラグ立てないの。エリーゼは羨ましがってるけど、普通は耐えられないよ?)
「ワド……あれはなんなのー?」
「ん?ブレスでの新陳代謝促進だよ」
「へ?骨になって消滅したけどー?」
「1000年くらい促進してあげたからね」
今度は、ルクルまで大口を開けてマヌケ面しているよ。
僕のブレスも説明したのに忘れているみたい。
強制的な代謝促進に対して、短命の種族はなす術がない。だから僕にとってその辺の魔獣の強さの大小なんて、ほぼ同じなんだよね。
「さーて、飛んで戻ろう!」
「はーい」
「「「お断わりします!」」」
「徒歩がいいですにゃ……」
エリーゼ以外から賛同が得られなかった。解せぬ。
(だったらどうするのさ?)
「あそこに目印の鉄塔があります。ちょうど次の駅との中間点です」
筆頭従者がそう言うと、次の駅を徒歩で目指す意見でほぼ満場一致だ。反対票は僕だけだった。
エリーゼすらも「人目につかない所の方が、色々できるから」と言っている。
(その色々の対象ってひょっとしなくても僕なの?)
なんか悪寒を感じながら、徒歩で次の駅に向かう事に渋々従った。
徒歩の旅が始まる。
鉄道復旧がスムーズになるよう、魔獣を駆除した事だけ現場に書き残したよ。
食材を現地調達しながら、ズンズン進む。美味しくない魔獣も獲っていた。下処理と調理でマシになるらしい。勉強になったな。
─────────────────────
「この村で泊まれないか聞いてみよー」
「賛成にゃー」
半日ほど歩いて見つけた村で、宿泊交渉をすることになった。
従者3人組は食材調達について話あっている。
まぁいきなり飛んできたから、食料が少ないんだよね。
僕は食べなくても平気だけど、出来れば甘いものを食べたいなぁ。
それよりも切実なのは睡眠だよ。とりあえずエリーゼに寝て欲しい。信者カムバック!
朝からずっと視線が剥がれないのが怖いの。
(ずっと見られるの怖いんですけど?)
交渉して、老人と子供の二人暮しの家へお邪魔する事になった。家に全員は入れないから、従者3人組は牛舎の脇で野宿だ。
カルカンは井戸水を汲んできて、せっせと体をタオルで拭っている。やっぱマメだ。
「カルカン君は綺麗好きなんだねー」
「もう、臭いと言われたくないにゃー」
ルクルとカルカンの会話を盗み聞いていたら、カルカンのトラウマが発覚した。
昔、妹に「お兄ちゃんちょっと匂うよ」って言われてからは毎日綺麗にしているんだとさ。
(思ってたよりシスコンだったよ、カルカン)
ちなみに僕は会話に参加できていない。
なぜならエリーゼが抱きついているから。
友達のスキンシップはそろそろ延べ14時間なんだけど、これってほんとに友達の標準なの?ほんとに?
助けを求める視線を送っても、ルクルとカルカンはもう目すら合わせてくれない。カルカンは特に顕著でエリーゼに絶対服従の状態だ。
(もっかい素朴な瞳で危険な女か質問してみろよぉ!できねーだろ!?)
この家の家主であるおじいさんはかなり高齢らしい。そろそろ年齢を見分けられるようになりたいなぁ。
髪の毛が無いから白髪判断できんかった。ぐぬぬ。
子供はルクルより年下だな。身長が低いから。何歳なのかは分かんない。
幼いからか既に夢の中だった。
「そうですか。徒歩で港町までいかれるので……うちの子も明後日に、港町のお貴族様の所にいく予定ですじゃ」
おじいさんが言うには、その子供の両親は流行り病で3年前に亡くなったそうだ。
不憫に思ったお貴族様が下働きとして雇ってくれるらしい。
「儂も、もう長くは無いでしょう……この子に少しでもまともな環境を与えたいのですじゃ」
お貴族様の下働きは文字の読み書きなど、最低限の教養が与えられるらしい。
平民は教養があるかないかで、暮らしが雲泥の差だと言っていた。
「土下座すれば教えて貰えるんじゃない?」
「ワド、お前の土下座は脅迫だよー?」
「あ、そうだった!」
いけない、いけない。今まで土下座で困難を乗り切っていたから、思考が土下座厨になっていたな。
そうした会話も一段落し、夜も遅いので寝る事になったよ。
─────────────────────
(エリーゼが離れないし、寝てくれないんですけど?)
皆が寝たら、エリーゼが服を脱ごうとしたから必死で止めた。嫌な予感が止まらなくて本能が「止めろ」と訴えていたから。
それに自称スキンシップも、服の中に手が伸びはじめた。これも必死に止めている。
「ワドぉ、つれないぃ。リゼともっと仲良くしよ?」
「充分仲良しじゃないかなぁ、マブダチだよ!……ちょっと!手を入れない!」
「今夜は寝かせませんの」
(お願い、寝てくれーーーー!)
ちなみに裏稼業のお薬は、港町ホッドケットに残したままとの事。僕が暴走気味に出発したから、荷物が丸ごと置き去りらしい。
行動は計画的に……を学んだよ。
だけど僕は乗り切った!
皆寝ていて誰も見ていなかったから、ドラゴン形態になって空に避難した。
そうして朝までやり過ごしたのさ。
(いやー危なかった。いやマジで)
「ワールドン様!おはようございます!わたくし、なんだか昨日の記憶が無くて……今からこの村を全力で説得しますわ!」
「エリーゼ、良かった~おかえり!」
「わ、ワールドン様!?」
僕は信者エリーゼの帰還を泣いて喜んだ。号泣した。一周回って天使に見える。
エリーゼには「昨日1日中倒れてて心配してたから」という話で説明した。
「ご安心下さいませ!わたくしがワールドン様をおいて死ぬなんて絶対にありえませんわ!」
「うん……うん!」
布教ドンドンやっちゃってよ。全然いいよ!
もう一生寝ないでね!エリーゼ!
ワドは、計画的に行動する事の大切さを学びました。
次回は「人助けの旅路・後編」です。




