鍛冶の才能と約束
前回のあらすじ
落ち込むワドへの周囲の配慮で、カラ元気をふり絞ってブールボン王国へ行きました。
最初はカラ元気だったのが、懐かしいカオやミアと顔と出会う事で、次第に夢中になっているワド。
ブールボン王国の収穫祭へと参加しました。
はい、僕らはワールドン王国の収穫祭にいます!
時は少し遡り。
ブールボン王国の収穫祭に参加した僕らは、屋台で食べ過ぎて全ての店から出禁を食らうという、前代未聞の珍事に巻き込まれる。
そんでもって、エンジョイが足りないと騒いだガトーが、「ワールドン王国の収穫祭にいくぞにゃん」と、駄々をこねたのが発端。カオ君とミアちゃんは、連行されて観光旅行&収穫祭に強制参加なのだ。
二人は嫌がって無いけど、無許可で連れ出した事は後で親御さんに謝っておく……ルマンド君がね!
「僕の国&ワールドン王国の収穫祭へようこそ!」
「すげーーー!」
「凄い……凄いです!お姉様!」
リゼと一緒に子供達を引率する。ミアちゃんとカオ君は初めて訪れた他国の雰囲気に大興奮だ。
サブロワ君も来ていて、二人を案内しつつ勉強になると言っては色々とメモをしている。サブロワ君は普段勉強漬けで、あんまり新王都巡りをしていないって話だ。
(なら、とことん楽しんで貰わなきゃね!)
新作の、子供でも乗れるホバーキックボードを乗り回して、新王都をぐるっと一周。
ホバーキックボードは50cmまでしか浮かぶ事が出来ない。スピードも25km/hまでに制限されている。その代わりに子供でも乗れるって代物だ。
先ずは屋台めぐり。
僕の国はスイーツに力を入れているので、そこに関してはどの国にも負けていないと思う。
ルクル始め、呑兵衛組がお酒も力を入れているけども、今日のお客さんは子供達なのでスイーツ重視だ。
次は参拝。
ラザの所はマジで人気。尋常じゃない人の数で凄く並ぶの。でも、君主特権で通して貰ったよ。
カオ君が調子に乗って近付き過ぎて、マナ酔い起こしていたな。マナドラ病って勝手に命名されていて、注意喚起の張り紙が沢山あるよ。
景観を損ねているけれど……ま、仕方ないよね!
カオ君の回復を待ってから、スポーツ観戦。その日はちょうど野球を見れた。
レベルは草野球なのに、施設だけはエスコンフィールド並みだ。屋根もきちんと開閉するし。これも先行投資だよ。
ルールを知らない二人は観戦に飽きていたので、試合結果を待たずにその場を後にする。
(どっちが勝ったのか、気になるなぁ……)
後ろ髪を引かれながらも、遊園地に到着。
子供達は今日一番の大興奮だった。園内はキックボード禁止なので、入口で預けた直後から駆け回っているよ。
「リゼは何か乗りたい物ある?」
「ワ、ワドと二人っきりで観覧車に乗ってみたいの。凄くいい雰囲気になるから」
おねだりしてきたリゼは耳まで真っ赤だ。
【伝心】で読み取ると、ルクルともイチャイチャしていたみたいね。今度、全力でからかおうかな?
絶叫物の定番を一通り乗って、甘い物を食べて小休止。それからはのんびり楽しめるアトラクションを回った。
最後に観覧車。
ちょうど日没間近で夕焼けと、少しずつ新王都に灯りがつき始めるのが、とても素敵な光景だったよ。恋人に人気なのも納得だよ。
なお、サブロワ君だけ一人で乗っている。
(サブロワ君、なんだかごめんね?)
ナイトパレードも堪能して大満足な一日だった。
その日の夜には、ミアちゃんとカオ君をブールボンへ送り届けたよ。
ついでにサブロワ君も親御さんの所へ。そして、3日後にまた迎えにいって、ドラゴン学院寮へと無事に今帰還ってとこ。
あれ?でも何だか寮の前で騒ぎが起こっているな?
(一体、何があったんだろう?)
僕とサブロワ君に気づいたコビスが、こっちに駆け寄ってきた。
「ワールドン様!いい所に!あの大人を止めてよ!」
「サブロワ君は隠れて!今すぐに!」
アンも駆け寄ってきて、サブロワ君に隠れるように強めに言っている。なにやらただ事で無い事が起こっているようだ。
サブロワ君をアンに預けて、僕は騒ぎの中心に向かう。そこに居たのはマナ鍛冶師のホールンだった。
ホールンは金髪のミディアムヘアをシェイクしながら、駄々をこねている。僕は一先ず声をかけてみる事にした。
「ホールン?これは一体どうしたの?なんだかとっても荒ぶってるね?皆が怖がってるよ?」
「ワールドン様!サブロワ少年はどこですか!?彼は100年、いや1000年に一度の逸材です!彼に俺の鍛冶工房にきて欲しいんです!」
どうやらサブロワ君と会えない事に興奮していたみたい。僕らが新王都で遊んでいた翌日から毎日やってきて「サブロワ少年はどこだ!?」って騒いでいたようだ。
ホールンが探している理由はなんとなく予想つく。
ーーーホールンは天才少年を見た!VTRーーー
「お!お土産屋だ。見て行こうぜミア、サブロワ」
「うん」
「もうお小遣い無いでしょ?どうするのカオ?」
カオという少年は出世払いと称して、ちゃっかりと少女からお金を借りている。
ワールドン様の連れと思われる少年達。その内、一人は料理コンテスト常連であるサブロワ少年だ。
あの素晴らしかった料理を思い出し、少年へ声をかけた。
「サブロワ少年、今年の料理コンテストも素晴らしかった。ファンとしては、値引きせざるを得ないので、是非何か買ってって欲しいかな」
「お!値引きだってよ、やりぃ!」
「ちょっと、カオったら……」
カオという少年は目を輝かせて商品を品定めし始めた。少女が行き過ぎない様に注意している。サブロワ少年は、礼儀正しくお辞儀をして挨拶していた。
「この魔術具なんか最高だよな!」
俺の自慢の魔術具を手に取ってはしゃぐカオ少年。
付き添っている少女も、その出来にはうっとりとしている様子だ。
そこに首を傾げたサブロワ少年がダメ出しをし始めて、その内容に俺は衝撃を受けた。
「ここの作りが甘くて、光のマナの効率が下がってる。ここも繋ぎ部分がダメだよ。それから……」
サブロワ少年が指摘する問題点。
それは俺が何度も妥協した所だった。だけど、具体的にどのようにすれば改善できるかまでを語るサブロワ少年。
言われれば成程と思える改善点の数々。高い知識とそれを支える技術。既成概念に捉われない自由な発想。
(天才だ!)
それ以外に形容する言葉が思いつかない。俺が何十年かかっても辿り着けない領域へ、あっさり到達してしまえる天賦の才を目の当たりにしていた。
「サブロワってすげーのな」
「私もちょっとビックリしちゃった」
俺がサブロワ少年を勧誘しようとしたら、背後からワールドン様の声がする。
「おーい!みんな~次に行くから急いでね!」
ーーーホールンは天才少年を見た!ENDーーー
ホールンから【伝心】で読み取ってみたけど、案の定お土産の時の事っぽい。彼はサブロワ君の才能に惚れ込んだみたいだよ。
これなら無害だろうと思い直し、アンとサブロワ君をこちらに呼ぶ。
そして改めて皆に、ホールンを紹介しておく。
「こちらダフ村出身のマナ鍛冶職人のホールンだよ。カルカンに次ぐ実力者なんだ!僕の国の実務エース。そんな彼からお誘いがあるみたいだよ?」
紹介されたホールンは、これまでの行動を反省したのかちょっとバツが悪そうな顔をしながら、自己紹介を始める。
「今、紹介いただいたホールンだ。俺としてはサブロワ少年を鍛冶工房にスカウトしたいと思ってる。どうか来てくれるだろうか?」
サブロワ君が評価されたのが嬉しくて、僕はうんうんと頷いていたんだけど……返事には凄く驚いた。
「すみません、鍛冶場に立つのは無理です」
「な、何故だ!?それほどの才能は他にいない!俺が保証する。サブロワ少年は世界一のマナ鍛冶師になる!」
(めちゃ凄いっぽい。ここは僕も擁護しよう!)
「サブロワ君、鍛冶場に立っても学院生徒続けていいんだからね!若い時は何事も挑戦だよ!(ドヤァ)」
「だから無理です。ごめんなさい」
「なぜだーーーー!?」
(え?あれ?ダ、ダメなの?)
それでも猛烈に誘い続けるホールンと、必死に固辞し続けるサブロワ君。
ちょっとホールンが興奮しすぎているから、僕がやんわり窘めた。
「ちょっとちょっと、ホールン落ち着いて。ここまで頑なに拒否るんだからさ、なんか理由があると思うな―僕は」
「理由?」
怪訝そうなホールン。サブロワ君は明らかにホッとしていたかな?そこでサブロワ君が、鍛冶場に立てない理由をポツポツと語りだした。
ーーーサブロワと父の、大切な約束VTRーーー
【閑話:留学と鍛冶工房の約束】を再現。
ーーーサブロワと父の、大切な約束ENDーーー
「父さんとの大切な約束があるから、今は鍛冶場に立てません。ごめんなさい」
「あ……いや……無理言って悪かった。そうだな……本当に将来を思えばその方が正しいな。俺の方こそ、ごめんなさい」
なんとか、和解できたようで良かった。
少しはフォローをしておきたいから、落ち込んでいたホールンを夜の飲みに誘う。
そんな訳で、夜も遅い時間に飲みに来たとこ。
今日は他の人に出くわしたくないから、カール先生の所は避けてジャックのショットバーにした。
「初めて来ましたけど、いい店ですね」
「まぁね、ジャックが忙しいから不定期営業だけど、いい店だよ。あ、ジャック。僕はいつもので」
ジャックが「かしこまりました」と即座にカクテルの準備に入り、僕はどんなお酒が出るのかワクワクしながら待っていると、ホールンから感嘆の言葉を貰ったよ。
「流石ですね、ワールドン様。いつも飲んでいるお気に入りのお酒があるのですか?」
「ん?無いけど?あぁ、さっきのは何かカッコイイから使ってるだけだよ。ジャックはその辺の事情を諸々汲み取って作ってくれるからお任せだよ(ドヤァ)」
僕の説明にガックリ肩を落とすホールン。だけど、飲みが始まればすぐに陽気な雰囲気になっていく。
「それでちょっとホールンに相談だけどさ」
空いたグラスをカタリと置きながら「なんでしょう?」と問うホールン。そこに僕は本題を投げかけた。
「サブロワ君のこっそり育成計画に協力してくれない?」
目を輝かせたホールンとの悪だくみの夜は、静かに更けて行った。
もし寮にリッツがいたら、実力で排除されていたはずのホールン。
サブロワにとって良かったのか悪かったのか……。
ワドは思いつきで、ホールンと内緒の育成計画を進めます。
次回は「回るレーンと動けない将軍」です。




