思い出のライブ会場
前回のあらすじ
幾つもの村がワールドン王国へ鞍替えするのが相次ぎ、裏を取る為に行動するワド。
カービル帝国でドウエン将軍と対峙してますが、ワドは凄く苦手に思ってるようです。
「スムーズに事が進んで何よりだ。では、お帰りはあちらからどうぞ」
ドッと疲れた。
見殺しにする訳にはいかなかったので、僕は条件を呑んだ。
なんだかルクルに怒られる未来しか見えないけど、エリーゼを一緒に連れていけばなんとかなるはず!
それよりもドウエン将軍がリッツに何か手紙っぽいのを手渡していたのが気になるな。
リッツに聞いてみても、「な、内緒だよ!」って教えてくれないんだ。
悪いと思いつつ【伝心】で覗いてみると、旧ビスコナ王家に関する情報のようだ。
(ドウエン将軍ってどこまで知ってるんだろう?)
リッツの出自や過去については、リッツが自分から言い出したくなるまで待っている状況だよ。
それにしても、今回の訪問にリッツが含まれるのをなんで予測出来たのかが気になる。リッツを隣の席にしたのだって、今なら偶然じゃないと分かるよ。
(帰ってからの相談が多いね。目眩がするよ?)
いつまでも引きずっている訳にもいかないので、気分を切り替えてザグエリ王国へとフライハーイ!
トンボリ川上空を渡っている時に、遠目に飛行船の試験運転を行う様子が見えた。
(ルクルとカルカンも頑張ってるね。僕もやるよ!)
その光景にやる気を回復しつつ、王都の近くにあった平地に空輸邸を着陸させる。
メタモルフォーゼしている間に、エリーゼが入国手続きを済ませてくれた。
「あたし、ザグエリ王都って初めてだから楽しみ!」
リッツのテンションも回復したし、気分よく王都へ向かっていたんだけど、近づくにつれて誰も言葉を発しなくなっていたよ。
王都はほぼ全壊していて、やっと復興のスタートラインに立った所だと思われる。僕の咆哮なんか比じゃない被害が出ているっぽい。
ガトーが神罰をして大変になったとは聞いていたけど、ここまでだとは思わなかった。
さっきマイティに聞いたら、ザグエリ王都の死者は12万人にのぼるそうだ。
(人口の約半分をガトーが神罰しちゃってるよ!?)
僕はその事実に軽い目眩がする。ガトーは友達や仲間以外にはあまり配慮しないし、ドライだと思う。
それに友達を傷つけた相手には、とことん容赦がない。
ちょっと考えれば予想できた事だった。
町の中に足を踏み入れると、僕が有名人なのか遠巻きに僕を見ては陰口を叩いている。
しっかりとエリーゼの耳もそれを拾ったようで、さっきから不機嫌オーラがハンパナイ。
そこに、瓦礫の影から複数の少年が飛び出してきて、僕に石を投げてきたんだ。
「殺しますわ!」
「エリーゼ、待って」
僕はマナ力場でエリーゼを止める。
とてもリッツじゃ止められない。今のエリーゼの前に立った人は、問答無用で殺される程の殺気だった。
そんな殺気にも立ち向かう一人の少年。
彼は僕に大声で罵声を浴びせてきた。
「死ね!悪逆非道のワールドン!お前なんかが生きていて良い訳がない!」
「殺し……」
「エリーゼ、本当に待って」
おかしいな。僕、マナ力場をかなり強めにしているんだけど、引きちぎられそうだよ。
困惑している僕に、少年は罵声を続ける。
「この死神が!お父さんとお母さんを返せ!」
僕はその言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になる。
直ぐにエリーゼが、殺意の衝動を少年に向けたけど、絶対にさせない。これ以上は誰にも死んでほしくない。
そう思っていた所にミカド王らが到着する。少年は衛兵に取り押さえられていた。
「ワールドン様、えろうすいません。そん子供はこっちで処分しときますんで」
「ダ、ダメだよ!彼を殺しちゃダメだから!」
僕は、今更に知った。その恨みの深さを。
やっと理解できた。ノワール君が評価が二分されていると言っていた事の意味を。
僕の国に入りたいという人達は、物凄く僕に対して好意的で、心から慕ってくれていたんだ。
だから、なんとなく恨みって言っても少しかなと軽く考えていた。
エリーゼの殺気にも怯まず、僕に挑んでくる。それほどの恨みだとは考えていなかったんだ。
(僕とガトーは、とんでもない事をしてしまったのかも知れない……)
少年への罰を行わない事を約束させてから、仮設テントへと移動したよ。
ミカド王からも事情を伺ったけど、王都の被害が大きすぎて余裕が無い状況らしい。
だから、「ワールドン王国で庇護してもらえるんなら、その方がええやろ?」と許可を出したそうだ。
「その……参加される村人ん中にも、恨んどるもんはぎょうさんおると思うわ。負担やったらこっちで対処しましょか?」
「いや、不満がある人も含めて僕が引き取るよ」
(……ルクルへ相談もせずに、勝手に受け入れ表明しちゃったな)
でも、少しでも彼らを救いたい。そう強く思ったんだ。大丈夫。ちゃんと説明すればルクルは分かってくれる。
ザグエリ王国からは特に何も条件をつけられなかった。条件をつける事が無謀だと分かっていて、「恩に仇で返す真似はできひん」と言っていた。
裏を取るだけのつもりでの歴訪だったけど、結果的に両方受け入れる事になったよ。
それからマイティに頼んで、少年にお金を渡そうとしたんだけど、叩き返されたそうだ。仕方ないのでフェグレー将軍にお金を渡し、少年のフォローをお願いしておく。
そこからの帰路は空気が非常に重かった。
「あたし、観光気分の軽い気持ちで、王都を観たいだなんて言って……ごめんなさい」
「いや、僕も知らなかったからお互い様だよ」
「ワールドン様!わたくし、なんとお詫び申し上げれば良いのでしょう!?ワールドン様が御止めになっているのに、わたくし……わたくし!」
「大丈夫、結果的に暴走しなかったんだから」
二人を慰めながら空輸邸に戻る。僕の心もぐちゃぐちゃだ。
(誰か、僕も慰めてよ……)
僕は飛んでいる間も落ち込んで下ばかりを見ていたら、ちょうど真下が、リゼとのライブの思い出の場所である事に気が付く。
楽しかったあの思い出に浸る事で、少しでも気分を紛らわせようと寄り道を決める。
それで、下降して近くの川の浅瀬へ、空輸邸を着水させた。
「あれ?ワールドン様、ここまだ山の途中だよ?」
「うん、リッツは知らないよね。ここはね、リゼにライブを披露した思い出の場所なんだ、気分転換にちょっと寄り道しようかと思って」
エリーゼとマイティが慌てているけれど、リッツと一緒に思い出の場所まで少しのお散歩。
夕日に照らされるライブ会場には、沢山のまんまる石がおいてある。
僕の記憶と少し違っているようだね。
「ワールドン様、お墓がいっぱいあるよ?」
「え?あれってお墓なの?日本のお墓とも西洋のお墓とも違うから分かんなかったな。なんであるんだろ?」
「さぁ?あたしに言われても分からないよ?」
事情を知ってそうなマイティに質問する。
彼女は暫く思考を和ホラーガードで誤魔化そうとしていたけど、ついに観念したみたいで語りだした。
「こちらは、アモーク伯が建てたお墓です。バンナ村で犠牲になった住民の数だけありますよ」
「そっか……あたし不謹慎な事を聞いたよね。ごめんなさい」
皆、沈痛な表情をしている。僕はお墓の重要性がよく分からない。ルクルと語り合っていた時も、分かって無くて、知ったかで押し通していたんだ。
なので率直に質問する。
「ねぇ、お墓ってなんで必要なの?もう魂はここに無いよね?魂が転生する300年後を待てばよくない?」
(あ、あれ?聞こえてるよね?無反応なんだけど?)
暫くの沈黙の後、リッツが先に口を開いた。
「あたしも、本当に必要なのかは分からないんだ。でもね、鳥さんが亡くなった時にお墓を一生懸命作って、そこでお祈りした時、鳥さんが喜んでくれた気がしたんだ。きっとそういう事じゃないかな?」
「え?魂が無いのに喜べる訳ないよ?」
僕とリッツが噛み合わない話をしていると、マイティが「大事なのは心の在り様です」と告げる。
そこにエリーゼも加わって、「大切なお母様に会える時間がそこにあるのですわ!」と言い出した。
エリーゼが母親の思い出話をして、厳しかったけど大好きだったと懐かしむ。マイティも両親のお墓がブールボンにあるそうで、その話をしていた。
リッツは両親の記憶がない。だけど、お墓があるのならお墓参りに行きたいと言っている。
(お父さんもお母さんもいないから、分からないよ)
強いてあげるのなら、万物の男神と虚無の女神だと思うけど、二人とも生きているし不滅の存在だし。
そもそも魂ってちょっと寝てればまた再会するんだから、一緒に過ごせない期間はとても寂しいけどさ、魂の無い所に祈りを捧げるのが分からない。
(僕には、分からないよ……)
僕は分からないまま、ひたすら相槌をうっていた。
なんだか、分からない事が悪い事のような気がしたから。
(でも、でも……僕、悪くない……と、思う)
僕の暗い表情を察したのか、リッツがマイティに過去話をせがんでいた。
エリーゼの母親の話や、エリーゼの幼い頃の暴露話が投下される。
ハチャメチャなのは子供の頃からなんだなぁと思いつつ、エリーゼの母親の話を詳しく聞いた。
結構、大事な事を聞いた気がする。
「やっぱり大切な人に伝えたい事はちゃんと言っておくのが大事だよね!」
「あたしもそう思うよ!」
「じゃあ、忘れないうちに言っておくね!マイティ、リッツ、それからエリーゼ……大好きだよ!」
「~~~~っ!」
バターーーン!
エリーゼが睡眠薬を飲んで倒れた。
マイティもリッツも、大げさなため息をついている。
(あれ?おかしいな?予定では僕も「大好き!」って言って貰える予定なんだけど?)
そこでリッツからの質問で「リゼお姉ちゃんとはどんな話をしてるの?」だとさ。愚問だね。
僕は鼻息を荒げて、いつもしているルクルとの仲を茶化す内容を自慢げに語った。
そしたら、マイティもリッツも更に大きなため息。
そして真顔で告げてくる。
「そのKYは無いよ」
「そのKYは頂けませんね」
(え?え?なんでKY?)
この世界でのお墓は、まん丸形状の石を台座にはめ込む感じの物となってます。
魂の輪廻のイメージであるのと、円満な転生を願って送り出す人々が、磨いて丸くするのです。
より大きくて、より正円に近いほどに、良い転生ができると言われています。
次回は「村の暴動鎮圧」です。




