反旗を翻す村々
前回のあらすじ
四コマ漫画の薄い本を売り出し、ボカロの魔術具で新曲が並び、コスプレ会場も用意したワド。
やっと夏コミらしくなってきました。
嫌な予感がして、僕は急ぎ見本を手に取る。慌てたノワール君はマナ力場で黙らせて、ページをめくる。
(アカーン!これR18だよぉ!)
猫魔族と猫魔族の濃厚なシーンが描かれていた。
誰の琴線にも触れなかったみたいで、全く売れてはいないけどさ、ドラゴン学院生徒もいるんだしこんな破廉恥なのダメだよ!
と、思っているそばから「一部下さいニャン」の声がして、ピコラの薄い本を大事そうに抱える猫魔族。
「「あ!」」
アマミちゃんと目があってお互い気まずくなる。
目を反らしたアマミちゃんは、そそくさとその場を立ち去った。
後日、聞いたんだけど「ピコラは嫌いだけど、作品に罪は無いニャン」と言っていた。ファンになったっぽい。
成人が買う分にはいいけど、子供もこれるブースだからダメって事でその後の販売は禁止にしたよ。
色々あったけど、大盛況に終わったかな。
その日の夜はカール先生の所で打ち上げだよ。
「ワドよ!吾輩が主役のマンガが出てるぞにゃん!」
「うん、ギャグ漫画だけどね。その扱いでいいの?」
「お、ホバーバイクがかっこよく描けてるにゃん!」
「ふはーうまいにゃー久々に生きてる実感がするのにゃー!」
(……その扱いで、いいっぽいね)
ガトーとカルカンは漫画の主役でトップを争う中だ。カルカン作品の四コマ目にリバースネタが多いのは、初年度の建国祭でやらかしたからだろうなぁ。
ある程度酔いが回ってきた所で、カルカンが最近の激務を愚痴りだした。
「最近は、国の周辺の村がワールドン王国に寝返るとかで、てんやわんやなのにゃ。ちょっとは対処するこっちの身にもなって欲しいのにゃー!うぃっく」
「ねぇねぇ、それってどういう事?」
カルカンを問い質そうとゆっさゆっさしていたら、何やら非常に嫌なデジャヴを感じたので、咄嗟にカルカンをガトーの方に突き出す。
なんとか危機一髪でカルカンのレインボーリバースを回避できた。ふぅーセーフセーフ。
「……おい、これはなんだにゃん?」
「それはカルカンとカルカンのゲ〇だよ?」
思いっきり顔面から掛かってしまったガトー。大変お冠だったよ。なんかごめんね?
とりあえず当面は、アニメと特撮の提供量を増やす事で許して貰う。
二人は体を洗いに出て行ったとこ。それで別のテーブルで飲んでいた勇者パーティーの面々に聞いてみる事にしたんだ。
「周辺の村が寝返ってる事について何か知ってる?」
「あぁ、ちょうどクエストで視察に行ってみた所だしな。新王都へ観光に来た連中や、その噂を聞いた連中が、こぞってワールドン王国に寝返ってるみたいだ」
(ふむふむ、観光の効果が出て嬉しいな)
レオから仕入れた情報からすると、実際に来てみると噂に聞いていた悪逆非道と全然違うって事で、良い国だとの感想になっているみたいだね。
それは嬉しいけど、僕の許可なく僕の国に参加を表明されても困っちゃう。
とりあえず他にも追加で聞いてみる。
「それがですねぇ、観光に来た民衆とそうでない民衆で完全に意見が真っ二つな状態?みたいでして」
「ノワールは黙ってろ!」
「ノワールは黙ってて!」
「……お前が真っ二つに割れろ」
「いやいや、今の意見は別に黙らせなくていいよ?」
「ワールドン様だけが優しい。……自分、泣きそうです~」
相変わらず僕を恨んでいる人は多いみたいだ。
僕が悪い事をしたんだから仕方ない。せめて少しでも、彼らに幸せのお裾分けができるといいんだけど。
僕はリベラさんの事があって、心境が変化している。故意じゃなくてもやった事は事実。
受け入れて、今後をどうより良くしていくかを考えるんだ!(主にルクルがね)
僕が情報量として彼らの分まで奢ろうとしたら、ピコラから「そんなの要らない」と言われる。
そんで、「それよりも猫カフェへの出禁の解除を求めます」と真顔で言っていた。
そっちはガシマ店長の裁量なんだけどなぁと思いつつも、僕は快くその条件を呑んだよ。
(後日、めっちゃ猫魔族ズから怒られたけどね)
色んな村が僕の国へ寝返る声明を発表するのが相次いでいた。そんな状況のまま、季節は処女節(9月)に突入する。
どうやら使節団としてザグエリ王国からバニワナシ村の団体、カービル帝国からはエマチサカ村の代表団が来ているらしい。
だから今日は、迎賓館でカジュアル面談なんだ。
(ん?カジュアルなのに迎賓館は変かも知れないけど、まぁ細かい事を気にしたら負けだね)
ワールドン王国からは僕、バラン君、ストロー、それからリゼが参加だよ。
ルクルとカルカンは別件だ。
ガトーは「特に専用のご褒美ないなら不参加でヨロにゃん」と勝手にサボったんだけどね!
代表団の人達と握手を交わして、挨拶をすませる。
それで申し出を聞いてみると、「兎に角、受け入れろ」って事になるのかな?
かなり迂遠な言い方しているけど、ザックリまとめるとそうなる。
それに対し、僕らは国に許可を貰ってこいと突き返したよ。
(戦争する訳にはいかないからね!)
ただ追い返すとゴネられるかも知れないので、食料品のお土産は既に用意している。それを手渡す準備をさせようとした所に反論がきたよ。
「ドウエン将軍から許可は出ております」
「ミカド陛下から許可もろうてますわ」
(はいーーー?)
全く予想外の返しに、バラン君もストローも固まっていた。
リゼだけが反応して、「証文はございますの?」と質問を返す。それを確認しつつ、僕の仕事もちゃんとするよ。
僕の仕事は【伝心】で彼らが嘘を着いていないか見破る事なんだけど、どうにも本当みたいなんだよね。
リゼが証文確認しても本物っぽい診断結果出ているし。
(これは一体どういうことなの?)
取り急ぎその場での回答は一旦保留させて貰った。
ルクルは別件で忙しいみたいだし、僕が裏を取ってくるしかないよね?
その日はお土産を手渡してお引き取り願ったよ。
翌日。
僕、エリーゼ、マイティ。それにリッツも加えて合計四人で、カービル帝国とザグエリ王国に裏を取る為の電撃訪問をする事になったよ。
勇者パーティーもついてきたがったけど、ハッキリキッパリ断った。……リッツが。
(なんだかんだでリッツって旅行好きなのかも?)
メコソンから、ドウエン将軍が港町スワンカナグクにいる事を聞いたので、早速向かう事にする。
と、いっても僕は地図が分からないのでマイティにお任せだ。
久しぶりに空輸邸を持ち出して、いざ出発!
マイティのナビに従い、南半球側のカシーナック大陸で、最も西に位置する港町へとやってきた。
離れた場所に空輸邸を置いて、皆で街へと向かう。
「ワールドン様!ここの街並みは遠足でいった所に似てない?あの屋根の感じとか特に!」
「ほんとだね。食文化も似てるのかな?でも遠足の時は孤島だったよね?やっぱ味付けは違うのかなぁ?」
「ワールドン様!全ての食事を買い占めますわ!」
「ダメだよエリーゼ、ステイステイ」
やっぱり旅行好きなようで、リッツのテンションはやけに高い。エリーゼも僕と久しぶりの旅行が楽しいのかニコニコしている。マイティは普段通りだね。
門番に通して貰うと、コテージのような建物に案内された。
向かったその先には、ドウエン将軍が待っていたよ。
「これはこれは、ワールドン様。そろそろお越し頂く時期かと考えていたが、お早い御着きで」
「……なんだか、以前と態度が違うね?」
「滅相もない。これが普通と認識している。すぐに案内させよう」
胡散臭い感じの対応をするドウエン将軍が、従者に指示を出して僕らを席に案内する。
座席の位置に、意図的なものを感じながらも着席した。
座席は、ドウエン将軍、彼の副官、マイティ、僕、エリーゼ、リッツという並び。
終始、僕とエリーゼの行動を警戒している。爽やかな甘いジュースが配られて、ドウエン将軍が仕切り出した。
「どうぞ召し上がってくれ。飲みながらで構わない。我が帝国の意向を伝えよう」
「あ、これ甘くておいしい!」
「ほんとだ、僕もこれ好きかも」
「今すぐ確保しますわ!」
暴走しかけたエリーゼを僕とリッツで必死に止める。
席の遠いマイティは頭を押さえ、無言で溜め息をついていたな。
僕らのフリーダムなやり取りに、ちょっと顔が引きつっているドウエン将軍が、改めて話を切り出した。
「……と、いう訳だ。で、彼らを受け入れて貰おうか。どうせ伝心というので読み取っているのだろう?これは我の本心である」
(コイツ、本当にやり方が汚い!嫌いだよ!)
やはり【伝心】の存在を知っていた。
だから隠さずに心の底で脅して来た。僕が受け入れないと、寝返ろうとした民衆は反逆者として処分される。
大量の間者を受け入れるか、声をあげた連中を見殺しにするか。その二択を迫られているんだ。
更に、受け入れる場合の条件もイヤらしいよ。
表向きの条件は、村を譲る代わりの最高品質マナ鉱石の納品。埋蔵量に相当分ね。いけしゃあしゃあと、「勿論、分割払いで問題ない」と言っている。
ついでに、過半数が改めてカービル帝国への帰属を願った場合は、「カービル帝国領に戻す事」が条件。
理由にしれっと、「民意を無視する訳にはいかん」とか何とか言っているけどさ、間者が過半数を占めているからこれが罠だって事は僕にも分かる。
「そうだね、一度国に持ち帰ってから折りかえ……」
「おっと、今すぐ即決して貰わないと困るな」
ルクルとその計略を最大限に警戒していて、今すぐの回答を求められているんだ。
(僕、苦手過ぎて胃がキリキリしてきた!)
アマミが購入したピコラ作の薄い本は、猫魔族と猫魔族の濡れ場を描いたものです。
猫魔族達はこっそり購入したみたいですよ。
それと、一部のマニアには凄く需要があったようで……。
次回は「思い出のライブ会場」です。




