夏コミと新たな働き口
前回のあらすじ
新駅の開設やキャッシュバックキャンペーンにより、観光客が激増し賑わいをみせる新王都。
往来で詐欺を行っていたカルカンは、エリーゼの特別指導に強制連行されました。
カルカン達がドナドナされた後は、リッツ達ドラゴン学院生徒と一緒に見て回ったよ。
「バギャさんの映画凄く良かった!」
「ガシマさんの猫カフェも良かったよ!」
皆が口々にどこが盛況だったかを教えてくれる。
フウカナット村の村長のバギャは絵画やアート方面にセカンドライフを見出している。
個展だけでは飽き足らず、映画監督にも挑戦したようで、概ね好評のようだね。
(僕も、後で観に行こうっと)
ガシマはいっつも眠そうな目をしているシルバー毛並みの猫魔族。
僕が睡眠が足りているかを聞いてみたら、「この目と耳が垂れてるのは生まれつきですニャ」と返された。眠そうに見えるけど、眠い訳では無いみたい。
猫魔族たちで喫茶店を経営している。皆は猫カフェと呼んでいるけどね。コーヒーを注文するとガシマの手品が観れる事があるという噂を聞いたよ。
カルカン曰く、昔から手品が特技だったそうだ。
(僕も近いうちに行こうかな?)
「じゃあ、皆も気をつけてね!」
「はーい、ワールドン様さようならー!」
「「「さようなら!」」」
僕とリッツはその後、リベラさんの所にお邪魔して、テトサ夫妻と一緒に晩御飯を食べた。
リベラさんは誰かに食べて貰うのが好きみたいだから、最近は結構ご相伴に預かっているんだ。
(少し、お腹大きくなってるね)
テトサのお腹が少し大きくなっていた。
リベラさんの頃と比べるとまだまだだから、これからもっと大きくなるんだと思う。
最初ビール目的でついてきたヴェストも、テトサの為に奮闘していて、変わったなと思うよ。
そんな物思いに耽っていたら、託児所の話題になった。
「小さい子供がいるお母さん達に、託児所のお仕事をして貰うの?」
「せや、ウチも働きたいし、一緒に面倒見れるし、お互いの情報交換もできて一石二鳥やで」
「あたしも良い案だと思う!」
リベラさんが働きたいと、積極的に託児所のお仕事を提案していて、リッツも賛同している。
良さそうな案だし、ルクルに提案してみよう。
テトサも妊婦ができる仕事をやりたいそうだ。
「子供の相手はしんどいかもだけど、編み物とか衣類を作るくらいなら身重でもできます。子供用の服はこれから沢山必要ですから、どうですか?」
「ルクルに聞いてみるけどさ、無理はしないでよねテトサ」
「そうだぜ、働くのは俺らがやるから」
「ヴェストさんは過保護すぎ!」
子供用の衣類を作るお仕事を妊婦さんに斡旋するのは悪くない案だね。これも議題にあげなきゃ。
あと、ヴェストは確かに過保護。今もリッツからめっちゃ言われている。
んで僕のお仕事斡旋プランは、おもちゃ作成だよ。
だって、ビットも楽しそうに遊んでいるしさ、これは必要な物だと、物凄く理解したんだ。
一緒に遊ぶ前は、「なるべくあった方が良い物」くらいの認識だったけど、今では「子供の成長に必要不可欠な物」と認識を改めている。
実はルクルと、知育玩具について既に相談済みなんだなぁこれが!(ドヤァ)
「わぁ、このおもちゃ良さそうやわ。ビットにも欲しいわ」
「ウチ、ワールドン様らしくて素敵な案だと思う!」
「へー、珍しくワールドン様にしては良い案だね」
「確かに。ワールドン様にしては良い案ですね」
リベラさんとテトサには高評価。
リッツとマイティからは辛口評価。
(ってかさ、「にしては」って酷くない?僕、一生懸命考えたのにぃ!)
僕がプンスコしながら、二人に猛抗議しているとこに誰か訪ねてきたみたいだ。
ヴェストが訪問者を招き入れている。
そこには、クラッツやバギャを始めとしたフウカナット村の面々が揃っていた。
一体、どうしたのかを僕が質問する。
「ワールドン様!今年の夏コミはいつ開催で!?」
「せやせや!一体いつやるんや!?待ちきれへん!」
「ハハハ、こんな感じでな。俺の手に余るんで直接お願い申し上げにきたんや」
フウカナット村の面々は、クラッツの静止も聞かずに「ワイも」「ワイも」と待ちきれないアピールが続く。
それを聞きながら、そういえば今年はすっかり忘れていたなぁと思った。
(そうだ!これを機に本来の形に寄せてみよう!)
「僕、いい事思いついちゃった!」
「あー、ワールドン様のいい事って大概ダメだよね」
なぬ?僕のドヤ顔予備モーションを、数フレームで見切って割り込みキャンセルかけてくるリッツ。
それから「先にギルドマスターに相談しましょう」と諭してくるマイティ。いや、鬼畜に相談してもさ、ダメって言われるだけだし?アルがいるなら大丈夫か聞くんだけどさ、今はいないし?
(って事で推し進めてOKって事だよね?)
僕が意見を無視する気マンマンで頷いていたら、二人が本格的に文句を言い始めている。
僕が「二人もエリーゼの特別指導を受ける?」って聞いたら、二人は完全に沈黙したよ!
(この脅しは結構使えそうだねぇ、心のメモ帳にメモっとこう)
満足げに微笑んで、フウカナット村の皆に開催日だけ告げてその日は終了。
んで、何故か翌日にルクルの執務室に呼び出しを受けた。
そして今、僕は正座をさせられている。
(チクった犯人は……リッツ?それともマイティ?)
「テトサからさ、ワドが何か勘違いで余計な事をしでかしそうって報告上がってるんだけどー?」
(テトサだったかーーー!)
予想外の密告者に僕が言葉を無くしていると、尋問官のガトーがスッと前に出てきた。
僕は慌てて伝心ブロックしようとしたけど、間に合わなかったよ。
「ルクルよ。コスプレイベントの開催と、薄い本の販売を目的としてるようだぞにゃん?」
「なーんだ、思ってたより普通の内容だったなー。ってかほんとに夏コミにしようとしてたんー?」
「そ、そうだよ!冬コミだって狙ってるんだから!」
僕が何かしようとする度に、やらかしを疑うのはどうかと思う。
その後は薄い本の内容について追及された。
でも僕は17歳だからKENZENな内容だよ!
いきなり過ぎるとダメだって事も学習したから、最初は四コマ漫画から布教すると決めていたんだから!
ルクルもガトーも一緒にしみじみと「ワドも自重を学習したか」と頷きあっている。
全くなんなのさ。人の事を小馬鹿にしすぎだよ。
でも、なんだかんだでOKをくれたばかりか、全面的にバックアップもしてくれる事になった。
(ルクルだって、中身全然違う事に不満だったんじゃん!素直になろうよ!)
それからカルカンが不眠不休で、ボカロの魔術具を仕上げたらしい。
不眠不休なんて鬼畜な所業に心配になって声をかけてみたんだけど「助かったのにゃ。ルクル氏は命の恩人にゃ」と不満は無いみたい。
どうやらエリーゼの特別が延長されるのを「これができるとワドが喜ぶ」とルクルがエリーゼに伝える事で回避したんだとさ。
なのでカルカンは命の恩人だと思っているようだ。
(つまり間接的には、僕が命の恩人って事だよね!)
ちなみにレオ達は、ここ最近の記憶が完全に無いらしい。虚無の女神様の御慈悲かな?
そんなこんなあって、先ずは四コマ漫画の布教。
これは比較的すんなり通った。
レストランでアルバイトのお仕事の四コマ漫画や、月刊少女漫画家の四コマ漫画。それと、街中での危機管理の四コマ漫画を紹介したよ。
(……むぅ、解せぬ)
ラインナップが悪かったのか、誰も彼もがギャグ漫画を描いている。
いや、ギャグ漫画はいいんだ。僕も好きだし。
問題はモデルに僕やガトーが多いって事。
ねぇ、フウカナット村の皆。もしかして僕の事、ギャグキャラと認識していない?
ガトーはともかく僕は違うから!誠に遺憾砲を撃っておくよ!
んでもってボカロの魔術具。こっちも問題。
これは声に持っているマナの……って異世界でいう所の声紋?を登録して、その声で歌わせる事ができるんだ。
サンプルとして僕の声紋を提出している。
そしたら、僕の声で卑猥な単語を読ませる輩が出てきたって訳。
そういう使い方は厳罰に処す法を作る事にしたんだけど、廃棄する前に「もう一度だけ聞きたいの」と言ってリゼが中々その単語を消さなかったりして、揉めに揉めたんだ。
(はぁ……変態紳士ってのは、異世界の日本って国だけにしてほしいよね、全く)
ボカロの魔術具への卑猥な言葉の刑罰は、エリーゼからの三ヵ月間指導になった。それから誰も試みる人がいなくなったし、これでやっと安心できるよ。
その刑罰をみたクシマが、薬品を作りながら「あの刑罰は死罪より重いニャ」と零した事が、エリーゼにバレて一日特別授業になったそうだ。
口は禍の元だよね。
諸々の準備期間が過ぎて、いよいよ夏コミ!
僕は正しいコスプレ姿に大満足している。
ここまで来たらビッグなサイトも作りたいよね?
僕が長い事かけてせっせとアニメ布教をし続けたおかげで、異世界の有名アニメのコスプレが多数見えるよ。
(いやぁ~長かった。建国当初とは見違えたよね)
最初の頃は理解して貰えなかったけど、あらたな文化を根付かせる事が出来て感慨深いな。
四コマ漫画の販売列も盛況のようだ。
バギャの所は、まるで商業ブースだね。シーナのイラスト集も凄く人気。だけど、モデルが全部ボンだけどね。しかもセミヌード。
(ん?あれってピコラ?)
ピコラが出展しているみたいで、レオ達が呼び込み、列整理、売り子をやっていた。
どんなの描いたのか興味あるから、僕も列に並ぶ。
「……こちらが最後列だ」
「ルヴァンはその黒装束暑くないの?」
僕の質問に、ルヴァンはまたも長文の自分語りをしている。まぁ、放置でいいでしょ。
暫く待っていたら、売り子のノワール君とバッチリ目があった。
「やぁ!気になったんで来たよ!一部おいくら?」
「あ、ワールドン様。ピコラさんの作品はですね。どうやら猫魔族の成人向けラブロマンスのようでして、未成年のワールドン様へお売りはできないかなぁと」
(な、なんだかとても嫌な予感がするよ?)
テトサは、リッツとマイティに依頼されたから告げ口をしたのです。
二人曰く「妊婦には仕返ししないはず」との事で。
次回は「反旗を翻す村々」です。




