おかえりが言えないままの誕生節
前回のあらすじ
物凄い仕事量に忙殺されるワド。
忙しくして、他を見ないで済むようにされている事に不満を覚えます。
自分に何ができるかを考え始めました。
僕とガトーは作業を続けながら、カービル帝国からの影響についてずっと話していた。
「ワドワド、考えるなって言ったのに……なんで、どうするかを考えてるんだにゃん?」
「ガトー、伝心で覗くのはマナー違反だよ?」
と、言っても僕もガトーから【伝心】で読み取っていた。ガトーが影響の裏話を知ったその理由を。
線路の件で鬼畜へ文句を言いに行ったガトーは、カービル帝国からの影響を聞かされて、僕がそっちに意識を向けないための共犯に選ばれていた。
僕がクロスワードに夢中になって、話を聞いていなかった事のペナルティとして仕事を積んで、忙しくて周囲に気を配れない様な計画だよ。
だけど、エリーゼが介入してしまい、話を聞いていない事のペナルティでは仕事を積めなかったようだね。
ま、僕が色々と食い下がってしまったせいで、そこにつけ込んで仕事を振って、予定調和には戻したみたいだけどさ。
(ルクルなりの優しさだとは思うけど、僕、ヤだな)
辛い事から目を反らしても良い状況が用意されている事に、僕は不満を覚えている。でも、それは僕が頼りなくてダメダメだからって理由も分かるから、ルクルへ文句を言いに行く気にもなれなかった。
見ないで済むようにした辛い事。そう、既に子供が数名病死するという実害が生じ始めている事。僕はそれに対し、何の力にも成れない事実が一番辛かった。
「ワドワド、そんなにしょんぼりするなにゃん。陸路だと妨害が激しいのなら、いざとなれば吾輩達で空輸すれば良いだろにゃん?」
「そだね、僕らが運べば早いし……それだよーー!」
「宅急便は結構めんど……いや、まぁいいか。それより赤から特撮の追加をせがまれてるぞにゃん。続きが欲しいぞにゃん?」
そうだよ。何も僕らが運ばなくても、空輸は可能なはずだ。飛行機を開発するんだ!
どうやれば作れるか僕には分かんないけどさ、ルクルや幹部の皆はどうにかしてくれるはず!
さっきから特撮のおねだりがウルサくなったガトーを無視し、僕はルクルの元へと向かった。
向かう道中にもガトーがついてきて、うるさい。
「おい!二人はブラドラを放り出してどうするんだにゃん?それと、吾輩が観たいのでは無くてだな、赤がどうしてもというから仕方ないのだにゃん」
「あーハイハイ、ルクルに相談した後でね」
「吾輩、一人で作業は寂しいからついてくぞにゃん」
ガトーが心配してついて来ている事は分かるから、特に何も言えないかな?
ちなみに、赤は特撮にハマったらしい。でも、赤は戦隊もの。ガトーはライダーと住み分けが出来ているっぽい。赤が戦隊ヒーロー好きな理由は、リーダーで、真ん中にいるのが赤だからだってさ。
(まぁ、らしいっちゃらしいけど)
ルクルの執務室前にきて、ノックをする。
中から「今は忙しいんで面会謝絶中ー」と言っているのが聞こえるけど、僕は我慢できずに押し入った。
ガチャ!バキッ!ドゴーーン!
「ルクル!相談に乗って欲しいんだけど!」
「ちょっとー、鍵かけてたのになんで入ってくるのー?ってかドアを壊すなーーー!」
「鍵?何のことかな?それよりも聞いてよ!」
鍵の事は誤魔化しつつ、僕は相談内容を口早にまくし立てる。
暫くジト目で抗議していたルクルも、飛行機の話題になる頃には真剣に聞いてくれた。
「……と、言う訳なんだけど、特急でヨロ!」
「いやいや、俺がカービル帝国関連で忙しいの知ってるだろー?」
「それだがなルクルよ。カービル帝国への対応は別の者に任せ、お前が異世界の飛行物体に当たるのが適材適所だと思うぞにゃん?」
ルクルは「分かったよー、その代わりさー」とあっさり引き受け、交換条件を出してきた。
どうやら、王都復興のお祝いを兼ねて、誕生節のお祝いを早めにやりたいようだ。
ま、去年は獅子節(8月)の末日まで待ったしね。
(その交換条件の理由……僕、分かっちゃった!)
「ねぇねぇ、それってリゼにおねだりされたんでしょ?ねぇ図星?ねぇねぇ!」
僕はその状況を想像して、大興奮。
思いっきりはしゃいで囃し立てていると、ガトーが心底うんざりと言った様子で、ルクルへ苦言を伝えている。
「ルクルよ。リゼとイチャイチャするのも大概にしろよにゃん?少しは自重してくれにゃん」
「なんだよー、俺とリゼがどうこうしようと勝手だろー?お前らに迷惑かけて無いだろー?」
「いや、飲み会でワドが、ルクルとリゼのモノマネばかりしてて絶賛迷惑してるぞにゃん」
それを聞くとルクルは「くっそー!」と言って悔しがっている。しかし迷惑だなんて失敬な。どんどんモノマネのスキルレベルアップしているはずだよ?
(これはもう一度ちゃんと見せておかなきゃね!)
それはそうと開催するのは、アルが帰って来ていないから早すぎると思うな僕。
僕がそう主張すると、予想していたのか即座に反論が来たよ。
「アルが帰ってきたら2回目をやればいいだろー?宝瓶節ではさんざんやってるしー?」
「なぬ?それめちゃナイスアイデアだにゃん!」
「いいよ、すごくいい!2回やれば2倍楽しいし幸せだよね!」
そんなこんなで王都復興&誕生節のお祝いを、急遽行う事になったぞ。急な話だったのにも関わらず、皆は頑張ってすぐに用意してくれたんだよね。
カルカンからの嘆願もあったので、カール先生がお祝いの総指揮を執っている。
要はビール祭りなんだ。しかも黒ビール限定。
スタウト、ポーター、ボック、ラオホ、ダークラガー、ブラックIPA……等などでの縛り有り。
(ぼ、僕としては金色のビールの方がいいけどなー)
でも、夜には日本酒、焼酎をメインにした鍋パーティーが予定されている。
色んな創作鍋があるらしくて、とても楽しみ。
お祭りを明日に控えた前日の夜。エリーゼとリッツも一緒にリベラさんの所に遊びに来ていた。
「明日のお祭り、リベラさんも楽しんでよね!」
「でもお酒とかあっても、ウチにはビットもおるし」
「そこはマイティや温泉女将さん達がいるから、1日くらい預けても大丈夫だよ!」
僕はそう言って半ば強引に誘った。来年の獅子節は……もう一緒にお祝い出来ないかも知れないから。
僕の必死さが伝わったのか、リベラさんは「仕方ない神様やなぁ」と応じてくれたよ。
(最高に楽しいお祭りにするぞ!)
僕が頑張るぞいポーズを決めていると、エリーゼからルクルに渡すプレゼントを預けられたんだ。
中身を聞いてみると、リゼへチェンジをお願いする券が5枚だそうだ。ガラケーの魔術具で「会いたい」的な事を言い合っているみたいだから、リゼから相談があったのかもね。
「エリーゼにしか贈れない素敵なプレゼントだね!僕もリゼに幸せになって欲しいな!」
「~~~~っ!も、勿体ないお言葉ですわ!」
「だから、ワールドン様は言う相手が違うんだってば……はぁ……」
なんだかリッツからはため息をつかれたけど、言う相手はエリーゼで間違って無いと思うよ?
こんな感じで、リッツとマイティからは偶にディスられるんだよね。主にリゼ関連の話題をしていた時になんだけど、なんでだろ?
少しだけモヤりながら前日の夜は過ぎていった。
お祭り当日。
午前中の催し物や出店は、ビットも一緒に連れ回っていて、なぜかラザの所にも訪問。なんでも御利益のあるパワースポットという扱いなんだ。
そしてお供え物は餡子が良いって事で、ラザ的にも嬉しいみたいで、WinWinの関係だよ。
今日は、タイ焼きと今川焼を大量に持って来た。ちょうど屋台で売っていたしね。
ラザも凄く喜んでくれたな。
午後の部からは、ビットを温泉女将ママさん達に預けた。
快く引き受けてくれたけど、託児所を急ピッチで用意する必要を感じたかな?今回の騒動で赤ちゃんが増えすぎたからね。
「えー、こんな盛大に祝ってくれて……」
「待ちきれないのにゃ!乾杯なのにゃーーー!」
「「「乾杯~~~!」」」
ルクルの挨拶をカルカンが強制キャンセルしての、大宴会が始まった。
皆すごい笑顔だ。王都復興が成って本当に良かったと思う。皆は口々に大した事はしていないというけど、凄く偉大な事を成し遂げているよ。
お酒を少しだけ堪能しているリベラさんに、僕は渾身のドヤ顔を決めて報告する。
「これが僕の自慢の国と国民達だよ!あ、ビールも自慢だよ!」
「ほんにおいしいビールですわ。自慢したくなるんも分かるわぁ。国も国民も……ほんま素敵ですわぁ」
リベラさんが、心からそう思っているのが伝わってきたよ。
夕日になる頃に、リベラさんが暇の挨拶を告げて、マイティが送迎するべく下がった。
そんで、僕はアルの執務室前にやって来ているよ。
去年、部屋の前に積み上げたプレゼントは、僕のやらかしで半分くらいがダメになっちゃった。けれど、今年はそれに負けじと大量に積みあがっている。
僕も、プレゼントを積み上げた。
(早く、おかえりを言いたいよ……)
皆のプレゼントを眺めていると、今年は去年よりもメッセージカードが増えているね。
ちょっと悪い気もするけど僕は一人だった事もあったので、そのメッセージカードをこっそり盗み見る事にしたんだ。
(えーと、なになに……)
『アルフォート君、早く帰ってきてくれ。いやほんと君の諫言が無いから困ってるんだ』
『アル氏、お土産にはブールボン王国名産の果実酒が欲しいのにゃ。本邸で飲んだ味が恋しいのにゃ』
『私はなんも分かってなかったんや。アルフォート様の諫言はな、この国に必要不可欠なんや。はようけえってきてや』
ふむふむ。最初のはバラン君だね。アルを君付けで呼ぶのは彼くらいだし。
何か困っているみたい?仕事関連かな?
次のはカルカンだろうね。というか、このカードを見る時には帰って来ているからお土産催促されても困ると思うよ?相変わらずKYだね。
それにアルがいるのはブールボン王国じゃなくて猫魔族の国なんだけどなぁ。ツッコミが追い付かないよ。
最後のはストローか。アルが必要と分かってくれたみたいだ。良かった良かった。
(んで、諫言って何の事だろう?)
そんな事を考えながら、僕は夜の部の鍋パーティー会場へと足を向けた。
ワドよりも周囲の方が、アルの帰還を待ち望んでるようです。
次回は「観光省の躍進」です。




