閑話:最高のKYになる為に
前回のあらすじ
戦闘を終えて地下シェルターにやってきたワドとガトーを見て、慌てるカルカン。
それから復興に勤しむカルカンと仲間達の、KとYの物語。
ep.「媚薬の代償と後悔」~ ep.「深刻な小児科不足と薬不足」までのカルカン視点となります。
「はわわわわ……なんて恰好なのにゃ!」
地下シェルターに戻ってきたワールドン様とガトー様。二人とも一糸まとわぬお姿であった。
ワールドン様が気を利かせて、ガトー様の分まで光ガードを展開してはいる。だけど、この事実が妹に漏れたらと思うと、怖くて仕方が無かった。
ガトー様もそう思っているみたいで、大慌てで服に着替えてはいたけど、多くの人が目撃しているし、何よりピコラ氏が転写の魔術具で激写していた。
これは非常にマズイ。マズイのにゃ。
「ピコラ氏、いま撮影していたマナ石が、世に残ると危険なのにゃ。没収するにゃ」
「嫌です。どうしてもというのなら条件があるわ」
「条件はなんにゃ?」
ピコラ氏は顔を真っ赤にしている。風邪かにゃ?
「私と籍を入れてくれるのなら……」
「ちょっと待ったーーーニャン!」
咳をいれる?やっぱり風邪かにゃ?
そこへ凄い剣幕のアマミ氏が会話に割ってきた。
「そんなどさくさ紛れは認められないニャン!カルカン氏の良い所をあげていく勝負をするニャン!」
「あら?それなら負けないわ。勝負しましょう。だけど私が勝ったらアマミのヌード撮影もさせてね」
「くっ、背に腹は代えられないニャン」
二人の女性の舌戦。
(なんだか二人が私をKYと褒めてるのにゃー)
そんなに褒められると照れる。なんだかヒートアップしているので、適当に勝者を決めて、一旦矛を収めてもらう事にする。
長い付き合いだし、今回はアマミ氏にした。
「双方、そこまでにゃ。今回の勝者はアマミ氏にゃ」
「やったーーーニャン!」
「そ、そんな私たちの絆が負けるなんて」
「って訳で、勝者への賞品にゃ」
アマミ氏にドロップ飴を手渡す。
「こ、これはなんですニャン?」
「咳に効くドロップ飴なのにゃ。喉はお大事ににゃ」
アマミ氏は「そうじゃないニャン」と項垂れていたけど、平和に決着してこれで良かったと思う。
それからなんやかんやあったけど、地下シェルターを出たら王都がだいぶ様変わりしていて、皆が顔面蒼白になっていた。
どうせやる事は一つだ。あんまり多くを考える必要なんて何もない。深く考えるのは、どうせルクル氏がほっといてもやってくれるだろう。
私は強く皆を鼓舞した。
「皆、大丈夫にゃ。一度やった事にゃ。また再建するのにゃ!次はもっと良くなるにゃ」
それからは王都の大復興計画が敷かれて、それに邁進する日々。私たちマナ回路技術者もより快適な魔術具を提供する為、多忙を極めていた。
ヘーゼル氏の最高傑作であるガラケーの魔術具。今年に完成したその新作は、正直脱帽だった。
(この世の常識が変わるはずにゃ!)
恐らく数年で、伝書鳩が全てガラケーの魔術具に置き換わるだろうと思われた。情報の伝達速度、精度、機密性、いずれをとっても驚異的だ。
強いて挙げるならコスト面が課題だし、基地局もまだまだ不足している。だけど時間の問題なのは明白であった。
それから程なくして、ワールドン様から緊急の依頼を貰う。伝心オルゴールの魔術具の作成依頼だ。
トスィーテに凄いと褒められた、その魔術具には思い入れがある。爆速で作り上げたら、ワールドン様はお褒めの言葉をくれた。
「早いね!流石はカルカンだよ!完璧で優秀な仕事をしてくれて僕、大満足!」
「新しいKYですかにゃ?そんな事ないけど、嬉しいのにゃー」
私が、完璧で優秀の褒め言葉に酔いしれていたら、「なんでそうなるの!?」「そんなに自分を卑下しなくてもいいよ?」とワールドン様に言われた。私は謙遜しすぎただろうか?少しはワールドン様を見習ってドヤ顔もした方が良いのかもしれない。
そう思っていた所に、ガトー様から呼び出しを受けた。
(一体、何の用にゃ?)
そう思いながら、ガトー様の専用お宅に訪問して、詳しく事情を聞く。ガトー様は絶望の淵でも覗いたような感じで、項垂れて死んだ目をしながら説明をしだした。
「……服、はじけ飛んだ時の件、トスィーテにバレた……クシマ経由で漏れた……らしい……ぞにゃん」
(クシマ氏ーーー!なんて事するのにゃーーー!)
薬不足に陥っているワールドン王国では、薬学に精通しているクシマ氏は重宝している一人だ。薬の原材料を確保する為に、猫魔族の国に行き来している。
まさか、そこから漏れるなんて夢にも思わなかった。
つい先日、「トスィーテだけには絶対漏れないように」という共同戦線をガトー様と張ったばかりなのに、こんなの無いのにゃ。
そして、詳細報告を求められているようだ。
「頼む、一緒に弁明してくれにゃん!吾輩だけだと辛いにゃん!」
「……さーて、今日もレオ氏達と飲みに行く約束があるのにゃ」
私が華麗な逃亡を決め込もうとしていたら、ガトー様が、お酒を奢るから一緒に居て欲しいと懇願している。借金の関係でその申し出には惹かれる……でも。
「ガトー様はお金関連では残念なKYだからにゃー、ちょっと迷うのにゃー」
「おい、吾輩がなんで残念なんだにゃん?隠してないでさっさと教えろにゃん」
絶対、怒るから言いたくない。
私はだんまりを決め込もうとしていたら、【伝心】で盗み見たのか騒ぎ出した。
「吾輩はケチでも欲張りでも無いぞにゃん。全く濡れ衣だにゃん。ちゃんと奢ってやるぞにゃん」
そんな事ない。絶対にKでYだと思う。だけど、ここで押し問答しても、押し切られる。仕方なく私は、謝罪会見へ同席する事にした。
ーーーガトー、涙の謝罪会見VTRーーー
「本当にごめんなさい。不可抗力だったとはいえ、トスィーテには多大なご迷惑を……」
〜〜〜暫くの間、すすり泣く演出上映〜〜〜
「吾輩、この度は誠に申し訳なかったと深く反省しているにゃん。これで謝罪会見を終了するにゃん」
「え?これで終わりですにゃ!?」
〜〜〜とっても、ひんやりオーラが充満〜〜〜
「ガトー様、私知ってますにゃん」
「ヒィィ!」
「ト、トスィーテ。おお、お、おち、落ち着くにゃ」
「私は落ち着いてますにゃん」
〜〜〜トスィーテ、優しい笑みに変わる〜〜〜
「ガトー様……よく頑張りましたにゃん」
ーーーガトー、涙の謝罪会見ENDーーー
(クシマ氏、ワールドン様、GJにゃーーー!)
最初、トスィーテは怒り狂っていたそうだ。でも、事情を知っている猫魔族全員から事細かに説明され、ワールドン様からも謝罪があって、ガトー様に寛大な処置を貰えるよう懇願されていたとの事。
特に「友達思いなガトーに辛い役回りをさせてしまった」と、泣き崩れて後悔するワールドン様から、ガトー様が主観の【伝心】を見せて貰い、許すと決めたようだ。
(穏便に解決して良かったのにゃ!)
許されて調子に乗ったガトー様が余計な事を口走るまでがテンプレだから、私は急いで謝罪会見会場を後にした。飛び火はごめんなのにゃ。
暫くして、リゼ氏から魔術具の修理依頼が来たので手早く直す。
リゼ氏からも、エリーゼ様からも何度も感謝を述べられ、KYだと褒められた。修理の腕が見込まれたのだろう。私はニヤけ顔を止められなかった。
それからはGWWや建国祭を終えて、ザグエリ王国との和平条件も交わした。皆は止めていたけど、ワールドン様はザグエリの主犯である貴族を処刑した。私も処刑は必要だったと思う。
だけど、リベラ氏の言葉を聞いて、酷く落ち込んだワールドン様は部屋に閉じこもってしまったのだ。
私は外にお酒の香りでも用意すれば、勝手に出てくると放置を決めていたのだが、ルクル氏やリゼ氏、ガトー様にまで「KY道を極めているカルカンにしか頼めない」と言われて、私もワールドン様を引っ張りだす為に呼ばれていた。
ーーー金の竜の天岩戸作戦VTRーーー
「リゼ氏は勇気を持って立ち直ったのにゃ!強い心と勇気を持っていて、人前に出れば看板役者でもあり、清く優しい心もあるワールドン様なら出来て当然なのにゃ!さぁ!一緒に働いて希望と夢で溢れる国にするにゃ!」
バン!
「さっきからKY、KYってうるさいんだよ!」
ーーー金の竜の天岩戸作戦ENDーーー
ちょっと声をかけただけで、直ぐに出てきた。
(ほら、やっぱりワールドン様はちょろいのにゃ)
ワールドン様の復帰祝いに、ガトー様の奢りで飲みに来ている。ルクル氏やリゼ氏もいるけど、ガトー様がお金を払うのは自分と私の分だけだ。
とてもセコい。
「ワドは、恋バナ・やりすぎ、じゃないかにゃん?」
「なぬ?」
ガトー様が早くもいじり始めた。
そのKYは褒め言葉じゃ無くてただの事実にゃ。
「ううん。ワドは、可愛くて・やればできる子なの」
「リゼ!」
「せやなぁ、ワールドン様は、寛大で、優しい方やと思うわ」
「リベラさん!」
二人の褒め言葉には、私も腕を組みながらうんうんと頷いて、同意を示す。
ワールドン様はやればできる子なのにゃ。
あ、なんだかルクル氏がやたらとワールドン様を持ち上げ始めた。これは鬼畜な仕事をお願いする前兆だ。
私は巻き込まれるのを恐れて、そっと視線を外した。
「だってワドは賢くて・優秀……だからさー」
「そ、そう?まぁね!(ドヤァ)」
「吾輩……友達として残念に思うぞにゃん」
「ガトーってば僕の才能に嫉妬しちゃった?ん?ん?」
人差し指と親指で三角形を作り、顎を乗せ、分かったようなしたり顔のワールドン様は「やっぱ僕って天才かな?」と言っていた。
(天災の間違いじゃないのかな?)
それに、ガトー様も人の事言えないと思う。どっちも残念な神様なのは間違いない。
私は、触らぬ神に祟りなしの精神でスルーしつつ、料理とビールのお代わりを注文する。
「カール先生、注文いいかにゃ?この『極上ウニ尽くしコース5品』と『贅沢アワビのステーキ』それからシムコーのドライホッピングWIPAをお代わりにゃ」
「おい、高いものばかり頼むにゃにゃん!こっちの方が10カロリも安いだろ?こっちにするにゃん!」
料理とお代わりを楽しみに待っていたら、なにやらガトー様が騒ぎ始めた。
「おい!そっちはまだ吾輩が食べてないぞにゃん。こっちの唐揚げはレモンかけて吾輩のものとアピールしてただろにゃん!おい!」
(ハァ~、うるさいにゃ……)
「にゃーーー!?このウニ尽くしは値段がバグって無いかにゃん!?桁が間違ってるぞにゃん!」
(あー、ガトー様は絶対、KでYなのにゃー)
謝罪会見は伝心で行っています。会見は白い長テーブルに横並びです。
すすり泣く演技は非常に巧かったのです。
ですが……トスィーテはイラっとしたみたいですね。
次回はアマミ視点の「閑話:特別指導と恋のライバル」です。




