育児と新しい母の決意
前回のあらすじ
楽しい建国祭が終わり、改めてカービル帝国へどのように対応するかを協議していました。
全然理解できていないワドとカルカンは、会議についていけないようです。
「吾輩、わかったぞにゃん。結局、薬の素材に関してどうするかが問題なんだろにゃん?」
僕とカルカンが吊し上げをされる中、ガトーが自慢げに持論を述べ始める。
妙に「どやにゃん」顔なのが鼻につくんで、的外れな意見を揶揄おうとした矢先。
「流石はガトー様やで!そうか、確かにや」
「なるほど、危険度を上げた理由はそれですか……」
ストローとバラン君はなんだか、さすガトーし始めたんだよね。チラリとルクルを見てみると、いつものルクルスマイルしていた。要するにこれ正解なんだ。
ここは僕も便乗しておこう!
「ま、まぁね、僕も分かってたんだから!お薬の素材が問題なんだよね!こんなの当然だよ!」
腰に手を当て胸を張り、言い切っておく。
「ワールドン様、あっしはあんまり知ったかしない方がいいって思いやすぜ」
「ワールドン様、今ならまだ間に合うで?ブーメランされん前に『知らんかってすんません』言いましょ」
すかさずボンとクラッツから「やめとけ」って感じの擁護がWで来たよ。ヴェストやポポロに視線を向けると、そっと目を反らされた。
「ほほほ、まずは知らない事を認めて、新しい知識を貪欲に求めるのがビールの道の基本ですぞ」
「……カール先生、知ったかして、ずみまぜんでじだあぁあぁあぁァァァァァ!」
「分かれば良いのですよ」
カール先生に優しく諭されて、僕は改心する。
ちなみに第3回建国祭で内閣府の変更も発表済み。
アル代理の任命が正式に発表された上、以前に時期尚早と断っていたカール先生がついに入閣だよ。
ほんでもって、不正行為も発覚した。
カール先生は「料理コンテストで優勝できたら」と大臣になるにはリベンジが先と公言していたらしく、ルクルがカール先生を勝たせる為に裏工作している。
さっきガトーに【伝心】で教えて貰ったから!
要はサブロワ君が負けたのは純粋な力量じゃないし、僕の賭けもノーカンのはずだよ!
カール先生は、防衛大臣と文部マナ省大臣を兼任していたカルカンの負担を減らす為、文部マナ省大臣へと就任したんだ。
ヘーゼルとホールンの力量もカルカンに追い付きつつあるし、新しい猫魔族の中にもマナ工学に精通している人はいる。
カルカン依存からの脱却の転換期に来ているんだ。
「って事で役場からの仕事内容も、諸々調整が必要になってるんよー。伝心の情報が漏れる前に事前準備を終わらせておきたいかなー」
ルクルが薬の採集依頼回りや警備体系を大きく見直すと言っていた。勿論、表向きには緩やかに変更しているように見せて、バレない工夫はするんだけれど。
これまでの工作はいずれも探りの域を出ないちょっかい的な物がメインだったそうだ。
それは恐らくホリター公爵家の暗部、ひいては薬品周りの不確定情報と、それらへの恐れから反応を見るに留めているとの事。
カービル帝国側の思惑が、心が読まれている前提に立つと、あからさまな工作を強行してくる恐れがあるそうだ。
「要は僕の国だけではお薬の素材が心許ないって事なんだよね?」
「そゆことー」
ビットがお熱出した時も、お薬で直ぐに良くなったんだし、僕の国の生命線だと思う。危険度があがったという事なので、僕も気を引き締めて事に当たろう。
今日の会議は飲んだくれも出ずに、ピリっと締まった雰囲気で終了だよ。
それからは復興とお薬が大事な事がバレない様にしつつの、諸々の改善とその準備だ。
新王都駅はガトーが「電車キング駅」と命名。誕生節に手に入れた命名権を使用しての無茶ぶりだよ。
とはいえ、ホームの看板にはガトーが名付けた名前が掲げられているけれど、皆は「新王都駅」としか呼んでいない。
車掌さんも「次は~、新王都駅~、新王都駅で御座います~」とアナウンスしている。
でもガトーはホバーバイクにばかり乗っているから、アナウンスの実態を知らないんだなぁこれが。
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今日は少し時間が出来たので、リゼと一緒にお出かけ。向かう先はリベラさんの所だよ。
という訳で、フウカナット村の離れの方に建てられた、大きめの屋敷へとやってきた。ここで元バンナ村の住民が共同で暮らしているんだ。
リベラさんとビット、妊婦さん、老夫婦がここに引っ越してきている。あと一人捕えられていた人がいたそうなんだけど、助けに行った時には、既に事切れていたと報告を受けている。
共同住宅ではバンナ村に親戚がいたフウカナット村の人達が色々と世話を焼いているんだって。
「リベラさ~ん、ビット~、遊びに来たよ!」
「ワールドン様、ようおいでなさった。リゼ様もお元気になりはったようで良かったわ」
「ん、ご心配をおかけしたの」
リベラさんに向かい入れられ、共同住宅へと足を踏み入れる。レンガ造りの住宅では無くて、木造なので特有の香りと温かみがあるね。
僕の国は国境林で守られてもいるし、ラザとガトーもいるから魔獣が襲ってこなくて安心なんだ。だから好きな人は木造にしたりしてバリエーションに富んでいるのだ!ふふん(ドヤァ)
大リビングには、テトサ夫妻が来ていた。
どうやらテトサは、出産までの期間をここで過ごす事にしたようだ。ワールドン王都での妊婦はテトサとバンナ村から救出した人だけだし、3歳児未満の赤子を育てているのもリベラさんだけだしね。
彼女たちは妊婦の大変さや、育児の大変さを協力しながら解決していくんだと。
女性率が高くて居心地が悪いのか、ヴェストは僕に暇の挨拶をして工場の方へ向かった。仕事かな?
テトサが、僕とリゼへ改善について尋ねてくる。
「ウチ、色々とこの国の育児環境の改善に尽力したい。リゼ様が協力してくれると心強い……かな?」
「ウチもな、アイデアぎょうさんあるんよ。なんでも聞いてーや」
「ん。任せて、将来の為に必要なの」
一人称がウチウチコンビになっているね。リベラさんはザグエリ語だからイントネーションが違うけど。
リゼは将来の為に本気で取り組むと請け負った。
法改正がバリバリに進みそうかな?僕もアイデアを出しておくよ!
「手当は拡充したいよね!それとね、僕が持っている異世界のアイデアはズバリ!母子手帳だよ!」
「「「母子手帳?」」」
後ろで控えていたマイティまでもがどんな内容なのかを質問してきたんだけど、僕、内容までは知らないの。
でも、ここまで来て引き下がれないよね!
「母子手帳ってのはね!手帳だよ!(ドヤァ)」
「ウチは知らんなぁ、皆さんは知っとるの?」
(ウチわかった。知ったか&ドヤ顔だね)
(ん、ワドのいつもの知ったかなの)
(相変わらずの知ったかですね)
なんだか僕に聞いても無駄だからルクルに聞くって話の流れになっているよ!?なんでどうして!?
おかしいな?ドヤ顔が甘かったのかな?
もうちょい鼻息をしっかり荒くするぞ!フンスーーー!
なんだかんだで今日は晩御飯をご馳走になるんだ。
リベラさんが「是非、食べてってーや」とグイグイ来たからね。
それでリゼは料理のお手伝い。僕はビットと遊んでいる。とても穏やかな時間だよ。
「わーりゅどんしゃま、これ!」
「うん、くれるの?ありがとう」
「これも!これもあげりゅ」
「僕、嬉しいなぁ」
ビットは僕がプレゼントした積み木で遊んでいたんだ。それでどんな物を建てるのか、何色が好きかだとかをいっぱいお喋りしていたの。僕が金色が好きって言ったら、ビットは金色の積み木をあげるって言ってくれるんだ。
可愛いなぁ……もっと色々プレゼントしたくなっちゃう。
帝王切開で取り上げた時は、本当に小さかったけど、今は元気に育っている。育児は本当に大変だから僕の国では暮らしやすくしないとな。
ザグエリ王都で二人が人質に取られていた時、バラバラに収監されていたそうだ。こんな幼い子を母親と離れ離れにするなんて、許せない……許せないよ。
「わーりゅどんしゃま?」
「あ、ごめんごめん。次はこれを積むんだよね?」
イケナイイケナイ。ビットにはこれからはずっと笑顔でいて欲しいよね。僕が暗い顔をしていたらダメだよね。
暫く遊んでいると、パンの焼けた良い香りが漂ってきた。リベラさん自慢のレーズンパンだね。
「おかあさん、いたりゃきます!」
「ハイハイ、召しあがりーや」
リベラさんにサポートされながらも、ビットはミルクにつけてパンを食べている。びったびたにつけているけどミルクパン粥なのかな?
食事をしながら、テトサが宣言している。
「ウチ、母の友の会を設立します。会長になります」
「なんだかすんごいやる気だね?」
なんだか被害者友の会に触発されたらしいけど、あの会は慰め合っているだけで、なんにも建設的な事は無いんだけどなぁ……まぁ、僕らが楽しそうって意見はそれはそうかも?
テトサは、育児が辛いものじゃなくて、楽しくて幸せなものって認識に塗り替える会を作ると意気込んでいる。なんだか被害者友の会と比べるとかなり意識高いので、劣等感を感じるけども頑張って欲しい。
それから何度も足しげく共同住宅には通っていたんだけど、エリーゼの時は結構話題が違うんだよね。
ってか主に、リゼを「どう幸せにするか?」って話題になるん。僕のテンションと鼻息も荒くなるん。
今日はリッツも一緒に来ているので、終始その話題が続いている。
「ダミアお姉ちゃんからも頼まれてるから、あたしやるよ!」
「わたくしも、ダミアから頼まれましたわ。ルクルと、もう一人のわたくしの婚約を推し進めますわ!」
「えとんと、リゼの許可を得ずに勝手に進めるのは良くないよ?ルクルの意見は聞かなくていいけど……」
どうやらダミアちゃんはリゼを進展させたいんだそうだ。耳打ちしていた内容はそれだったのか。どうも話を聞くと、アルが姉より先に結婚する事に抵抗があるんだと。
(気にしなくていいのにね?)
そんな和気藹々な所に、猫魔族の衛兵が緊急事態だと報告を上げながら駆け込んでくる。
「緊急事態ニャ!離反者ニャ!」
ワドはビットと一緒に遊ぶ時間が、心穏やかで最も大切な時間になっていたようです。
でも、とりあえずワドは、もう少し危機感を持つべきだと思うのです。
……内密にしているはずの被害者友の会の存在を、ほぼ全員が認知している事に。
そしてあの鬼畜が、それを知って何の罠も張らない訳がないという事に。
次回は「駆け込み妊婦と積もる敵意」です。




