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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
育児はトラブルの連続

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自主謹慎は現実逃避

前回のあらすじ

テトサが新しい命を授かって喜んだ直後に、お祝いの席が設けられます。

ついにリベラさんを助けられて、涙するワド。

ですが……ある時期を境に、リゼが表に出てきてない事を知ってしまいます。

(僕のせいだ……)


 リゼは塞ぎ込んでいて、自主謹慎という名の引き籠り状態らしいんだ。原因は全部僕。僕の余裕が無さ過ぎた事でリゼを傷つけてしまったよ。

 今回の僕の暴走。それを引き起こしたホリター家の媚薬を提供した事で、リゼは自責の念を強めていたらしいんだ。

 皆が口々に「仕方なかった」「不安のワールドン様に誰かが救いの手を差し伸べる必要があった」と慰めていた。

 そこで気持ちを持ち直そうと必死に自分を奮い立たせたリゼ。

 そのリゼにトドメを刺したのが僕だ。


 リゼが自責で押しつぶされそうな中で申し出た「ビットに会いに行かない?」ってお誘い。それを僕は全力で拒絶したんだ。

 確かにあれ以来、リゼと中々会わないなとは感じてはいた。いたけど僕には余裕が無かった。だから一度も会えていない事にも、エリーゼの様子がいつもと違っていた事にも、全く気づけなかったんだ。


 僕がルクルにリゼへの謝罪の言葉を頼んだら、凄い形相で睨まれた。なんで怒っているの!?


「俺から謝ったら、リゼがどう思うのか分からないのー?本当にー?」

「ごめん……僕が馬鹿だったよ……」

「……ちゃんと謝れよー。協力はするからー」


 宴の終わり。何か言いたそうにして、言葉を飲み込んでいたエリーゼの印象がやたらと残っていたな。


─────────────────────


 翌日の早朝。白羊節の優しい日差しが心地よい。

 重機のお仕事に向かう前に、リゼの所に謝りに向かったよ。


「あ、リゼ……あのね。あの時は余裕なくて、そっけなく拒絶しちゃってごめんね?」

「……おはようございます。ワールドン様……」


 あれ?今日はリゼの日のはずなのに、エリーゼなんだけど?


「エリーゼは昨日眠れなかったの?これから寝るのかな?」

「いえ、睡眠は取りましたわ」

「ならどうして?」


 僕が小首を傾げていると、エリーゼはスカートの裾を強く握りしめながらぽつぽつと語ってくれた。

 リゼは起きると直ぐに気絶し、入れ替わる状況が続いているとの事だった。

 声を震わせながら「わたくしもお伝えしたのですけど……ダメでしたわ」と語っている。エリーゼからも自主謹慎を辞めるように何度も説得しているらしい。

 でも、リゼは頑なに拒んでいるそうだ。

 あの時も、あの時もあの時も……そう……いつもリゼは僕を気遣って声をかけてくれていた。その全てを僕は拒絶したんだ。本当にあの時の僕は何をやっていたんだろう。

 過去の自分を殴ってやりたいよ。


 マイティにリゼになったら呼んで欲しい旨を伝えて、重機のお仕事に奔走する。お昼休憩は大工さん達と楽しくお食事会。日没してからは新設されたお部屋で濡れ濡れのお仕事。深夜はラザの所で大きな資材の運搬や加工業務だよ。

 僕の部屋は黄金聖水の生成の為に必須だったから、最優先で修復されている。というより復旧のお仕事の為に黄金聖水が必要なんだよね。

 色々と僕が壊しちゃったから、頑張って復旧するんだ。時間の合間を見つけては、リベラさんとビットに会いに行っている。

 まだリゼとはあれから一度も会えていない。


 今日も業務ローテーションを熟して、ラザの所にやってきたよ。またも餡子の香りが充満している。


『ワド~ワド~これできた~すごい~?』

「お、新しい線路だね。凄い凄い!」


 ラザは働きたがらないから、逆にゲーム感覚でモノ作りに励んで貰っている。ルクル原案、ボンpresentsの『楽しくDIY国家事業』だよ。

 まぁ、どこから突っ込めばいいのか分からない代物だけど、ラザが楽しくお仕事出来ているから、僕からは何も言えないね。

 線路が餡子まみれなのはちょっとアレだけど。


『ねぇ~ワド~。リゼは来ないの~?』

「うん……リゼは暫くお休みなんだ」

『ボク~早く会いたいござる~。寂しいござる~』


 食事マナーの教育を通してリゼと仲良くなっていたみたい。ご褒美がそのままスイーツだからって部分が理由の大半を占めると思うけど、リゼは気に入られているみたいだね。

 改めてラザに地下シェルターの件で、お礼と褒め言葉を伝えたよ。それにしても地下なんて良く用意できたなぁと思って詳しく聞いてみた。


『くるっくる~るくるっくる~?』

「ルクルね。いい加減に名前を覚えてね」


 ラザの説明は分かりにくかったけど、要約するとルクルから魅力的な情報を【伝心】(    )で受け取って、地下シェルター作成を頑張ったみたい。

 ってか、内容確認したら【デパ地下】(      )じゃん!

 地下シェルターだから詐欺みたいな感じだけど、ルクルはデパ地下の魅力的な食品の数々で、ガトー&ラザの興味を惹いて協力をこぎつけたっぽい。


 ラザの所を離れて、濡れ濡れのお仕事に戻ろうと部屋へ向かう途中。リッツ&ドラゴン学院生徒とバッタリ会った。どうやら青空教室へ向かうみたいだね。

 ちょうど良かったのでリゼの件を相談してみる。


「カルカン様なら何か思いつくのかと思います!」

「うーん、あたしじゃ思いつかないけど、カルカン様ならいいアイデアあるかも?聞いてみる?」


 サブロワ君とリッツの意見を採用だよ。

 アルの時もそうだけど、KY力が高いカルカンは、人の心を解きほぐす最適解をいつも出すんだ。

 ドラゴン学院生徒とは別れて、僕はカルカン宅に向かった。


『ワールドン様!連打禁止なのにゃ!』


 カルカンの家の前には何故か僕を名指しで注意書きが張り出されていたよ。

 連打禁止?これってフリだよね?ね?


 ピンポーーーン!

 ピンポンピンポンピンポンピピピピピンポーン!

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ……!


「うるさいにゃ!」


 カルカンが、玄関の扉を勢いよく開けて抗議してきた。興奮していて「注意書き見えないのにゃ!?」と言っているけど、見たから連打したんじゃん。全く、分かって無さすぎるよ?

 寝起きなのかめちゃ寝癖が酷いカルカンは、猫耳パジャマを来ている。猫 in 猫状態だね。

 僕は顔を洗ってくるように告げて、その間はルヴァンのカードゲームの相手をして待っていたよ。


「お待たせしましたにゃ、それで何用にゃ?」

「実はお願いがあってね……」


 カルカンはピコラに抱きかかえられて出てきた。

 トリマーされていたのかやたらと上機嫌。

 逆にピコラの顔はだらしなく緩みきっている。

 チラリと他の勇者パーティーを横目で見たら、皆が訳アリ顔で神妙な感じに頷いていた。

 なんだか良く分からないけど、僕も頷いておこう。


「それだったら、リゼ氏にも思い出オルゴールの魔術具をプレゼントするのにゃー」

「何の曲をプレゼントするの?」

「曲じゃなくて、ワールドン様の優しい言葉を届けるのにゃ!」


 どうやら僕とガトーがカルカンにお父さんの復元オルゴールをプレゼントしたように、僕からのメッセージを封じ込めてプレゼントするって案らしい。

 ちなみにミカド王に矛先を納めさせたのも同様だ。ガトーが【伝心】(    )で読み取って、王妃・王子・姫、それから仲の良かった家臣の在りし日の思い出をオルゴールに封じ込めたみたい。

 それをプレゼントする代わりに諸々収めるように話したら、すんなり通ったみたいだし、「余が悪かった……皆にも申し訳ないわ」と反省の言葉も引き出せたようだ。


 ふむ。そうは言っても僕は生きているし、どうしようか?と思っていたら、「普段言葉にしてないけど、思っている事を伝えるのにゃ」と言われた。

 なんだよ、カルカンのくせに賢いな!

 それで、僕がお世辞で「カルカンは賢くて、優しいよね?」って伝えたら「新しいKYですかにゃ?」と目をキラキラさせていたから、もうそれでいいやって感じで流しておく。

 自分で自分をKYって……もう末期だね。


 良いアイデアなのは間違いないので、持ち帰って早速試して見る事にする。用意は出来たんだけど……その日も、その次の日も、そしてその次も……エリーゼだった。

 エリーゼに取り次げないか聞いたら「わたくしの言葉はもう読んで下さらないのですわ」と言っているんだ。聞いて下さらないの間違いじゃないのかな?でもエリーゼも憔悴していたし、僕はそれ以上軽口を叩けなかったよ。


 リゼに会えないし、渡せない日々に悶々としていたから、思わずルクルに当たっちゃった。今、ルクルの仮執務室で心無い言葉を浴びせてしまって、もう既に後悔している。けれど、謝罪の言葉が素直に出て来ないよ。


「俺に謝らないのはいいけどさー、リゼには謝りなよー」

「……どうやって?」


(会えないのにどうやって謝るのさ?渡すのさ?)


 ルクルは軽く嘆息し、「薬の出処を押さえろ」ってアドバイスをくれた。僕が分からなくて首を傾げていると、リゼが薬に頼っている事を補足してくれたよ。


「睡眠薬を押さえるって事だよね?」

「全然違うよー。ホリターの媚薬を押さえろっていってるのー」


 言っている意味が分からないから、知ったか&ドヤ顔して乗り切ろうとしたら、ふいにルクルの表情が真剣になってドキリとした。


「お前がさー、媚薬に逃げてた時はどんな時ー?リゼが今、媚薬を飲むのはどういった心境ー?良く考えろよなー」


 何故だか「ここは茶化してはいけない」と、そう思えた。それで冷静に振り返ってみると……完全に理解したよ。

 僕が媚薬に逃げたのは、「不安に押しつぶされそうだったから」だ。そしてリゼは今、不安に押しつぶされている。だから媚薬が必要なんだ。


 僕がリゼを傷つけてしまったホリター公爵本邸のあの一件。あの件の直後、リゼが媚薬を使っていた理由も分かったよ。


(僕に拒絶されないか不安だったんだ)


 その不安から逃げる為に、リゼは薬に頼ったし、今も頼って逃げている。

 ダメだ、ダメだよリゼ。

 それじゃ何も解決しないって僕は学習したんだ。

 僕はマイティに「媚薬を渡す前に、必ずコレを見せる事」と言ってオルゴールの魔術具を手渡した。

 それ以上の説明は不要で「ワールドン様の御心のままに」と請け負ってくれたよ。


(マイティ、頼むよ)



 そうして僕は、魔術具に思いを託したんだ。

ルクルから自分で謝るように諭された時点では、ワドはあまり理解できていません。

薬を使う理由を深く考える事で、ようやく相手の心への理解が一歩深まります。


次回は「王都リトライ!」です。

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