閑話:スイーツ天国
前回のあらすじ
ワドと一緒にラザに会いに向かったガトー。
マナ制御できていないラザの為に居残り特訓に付き合います。
ep.「変化のスピードラーニング」~ ep.「屋台完全制覇」までのガトー視点となります。
『金~まって~。おいてかないで~』
明らかにワドは、後ろ髪を引かれていたと思う。
吾輩はラザが落ち着くまで、暫く待った。見るからにしょんぼりしているな。こういう仕草は二人共そっくりだ。
『さぁ、ラザよ。吾輩と特訓だぞにゃん』
『……やだやだ~、緑やだ~』
吾輩は「専用メニューの特訓だにゃん!」と、意気込んだのだが、ラザは全くやる気を見せない。
さっきから背を向けていて、こっちを見もしないし、マイティが置いていった鏡ばかりを見ていた。
仕方ないので、少し柔らかい口調で諭す。
『ワドと早く一緒に暮らしたいだろにゃん?』
『う~?うん、ボク、金と一緒がいい~』
『マナを抑えれば、会いにいけるから頑張ろうぞにゃん』
それから特訓に勤しんだが、中々上手くいかない。
ラザはセンスが無いのではないか?
さっきから教える内容がループしているぞ。
そして上手くいかないとスネ始めた。しかも『ガトー、教えるのヘタ~、ボクできない~』って吾輩の教え方が悪いような言い方だ。
スペシャル特訓メニューは、完璧なはずだぞ?
『だから何度も言ってるにゃん!ぐぐぐ~ってしてから、ぐむむむむ……スンッってやるんだにゃん!』
『ボクわかんない~もうやだ~ござる~』
それからも押し問答が続いたが、無理に教えすぎて本格的にやる気をなくしても困るので、暫く休憩する事にした。この際だから例の『くまちゃん』に関しても、良く言い含めておこう。
『おい、ラザ。ワドとくまちゃんの事件の件の詳細を教えるにゃん』
ん?目を閉じて突っ伏して寛ぎ始めたぞ?聞こえているはずだが、こちらからの【伝心】は完全にブロックしているようだ。
床に指で落書きを始めているし?ってあれドラゴン形態のワドか?
妙に似ているな……ってか凄く巧い。
吾輩はコッソリ近づき、ラザの頭をポンポンッと撫でた。
『なにするの~?』
『なんで吾輩を伝心ブロックするんだにゃん?』
『そんなの~皆してるよござる~』
(マ、マジかにゃん……)
ラザから『緑は嫌われてるから全員からブロックされてる』という真実を聞かされる。教えて貰った内容が割とショックだ。
だけど当時、『全員でハブるの可哀想だ』とワドが言っていた話を聞いて、少しだけほっこりした。
(やっぱりワドは友達だよな!)
『う~?緑がクレクレいうからだよ~』
『わかったわかったにゃん。それで真面目な話するぞにゃん』
吾輩は、ワドが全て忘れる事になった事を持ち出して、くまちゃんとの思い出を想起させるような言動は控える……ように言い含めた。そう『ワドを傷つけたくないだろにゃん』と少しずるい言い回しで……
ラザはふいに立ち上がって、吾輩の頭をゴツンと小突いた。
(いっっったーーーーーぁあ!)
ラザの力で殴られたから吾輩は地面に体が埋まってしまった。こういうのはもっと手加減して欲しいぞ。地中からヒョコっと顔を出して、抗議しようとしたらラザが既にこっちをロックオンしていた。
『うぉ!モグラ叩きはやめるにゃん!』
『もぐら~?ちがうよ~緑たたきだよ~』
暫くモグラ叩き攻防を繰り返していたが、飽きたのか攻撃がやんだ。しかし確信犯なのがタチ悪い。
なんでこんな事したのか聞いたら『金がまるで悪いみたいにいうから~』と……想定とは、ズレた所で怒っていたみたいだな。
くまちゃんの件だけは念押しする。
『なんで~?』
『くまちゃんとの別れが辛すぎて、ワドが虚無の女神に御力を使われたのだから、辛い事を思い出させてやるな』
『う~。わかった~よ~』
……と、必死に言い聞かせて、どうにかくまちゃんとの思い出を、不用意に触れない事だけは約束させる。ラザは何よりワドを大切に思っているから、これで守ってくれるだろう。
だけど、吾輩だけ事情を知らないと、意識せずに地雷を踏んでしまうかも知れない。ワドの為にと念押しして、改めて経緯を質問した。
『どうかこの通りだにゃん』
『う~、ちょっと待ってて~』
そういうとラザは立ち上がって、天井を見上げたまま何度か頷いている。誰かと【伝心】しているのか?
『ん~とね~、天使族のせいなんだって~』
『おい、誰と伝心してたんだにゃん?』
『白だよ~』
吾輩だけがブロックされているのが濃厚になってきた。いや、白はワドもブロックしていたから、吾輩だけが嫌われている訳じゃないはずだぞ。
それから白を呼び出し、3人で情報交換した。
白から聞かされた内容としては、皆、ラザだけはブロックしていないという事だった。現にラザは白や青と【伝心】でやりとりしているのが証拠だ。
ワドから青のマナ鉱石を依頼された時も、ラザが仲介役を務めて短期間で見つけたらしい。
『で、金の暴走の原因だったか?』
『そうだにゃん。吾輩、細かい事は知らないにゃん』
『そうだな。説明してやろう』
くまちゃんは、ワドに取り入ろうとした天使族達に騙されて、海馬魔族に殺されてしまったようだ。それで天使族を中心に、空の種族と海の種族が絶滅したのか……
『だが、既に絶滅してるのなら問題ないなにゃん』
『……いや、そうでもないが』
『ん?白?何かあるのか?』
『今はいいか。どうせそのうち知るだろう』
白は相変わらず多くを語ってくれなかった。伝えなかったという事は、それほどの事じゃないのだろう。
だけど、丁度良い。白にもラザの特訓に付き合わせよう(ニヤリ)
『白、ラザの特訓に付き合ってくれにゃん』
『まぁ、いいか。断った方が後で面倒だからな』
白は色々と態度がでかいが、なんだかんだ面倒見がいいからな。ラザの特訓に付き合ってくれた。
しかし、吾輩よりも教えるのがヘタではないか?『抑えたいと思ったら抑えれば良い』とか何のアドバイスにもなって無いぞ?
『う~、できない~ござる~』
『よし、早速実戦だ。ほれ飛んでみろ』
『ちょま!何言ってるんだ白!』
『なんだ?語尾を忘れているぞ?』
(コ、コイツ……ツッコミを学習しやがったにゃん)
白のレクチャーはテキトー&雑を窮め、且ついきなり実戦させようとして大変な事になった。なので、早速お帰り頂いたぞ。
帰る際に『急に呼び出して、急に帰れとは……相変わらず我儘だな』と捨て台詞を残された。とはいえ、ワドに任されたのに浮遊大陸爆誕させて、人の世界に問題を起こすわけにはいかないしな。仕方ない。
白が去っても、ラザは白の悪い所を真似て、ざっくりな制御で飛ぼうとする。全く何が『大陸の位置が変わるだけだろ?』だよ。それにしても白は、碌な事をラザに教えなかったな。
それからもラザを必死で止める日々。
もう、これで何回目だ?外は大変な事になっていそうだ。
『う~、ガトーうるさい~もうボクあいにいく~』
『まてまてーい!ワドを呼ぶから待つぞにゃん』
思いとどまってくれたラザは、少しかがんで吾輩の顔を覗き込んできた。なんで止められているのか理解して無いような顔をしている。
『ちゃんと理解してるかにゃん?』
『うん~、大丈夫~でござるござる~』
(本当に大丈夫なんだろうな?頼むぞ……にゃん)
必死の救援信号が功を奏して、空が金色に染まる光景が広がっていく。間に合ってくれたか。
ーーー救援に来たワド配達員VTRーーー
『ワド~!ワド~!おかえり~!』
「や、やっと来たにゃん……」
「ごめんごめん、これでも急いだんだよ?で、何があったの?」
「ワドよ、聞いてくれにゃん」
ーーー救援に来たワド配達員ENDーーー
度重なるラザの動きのせいで、この辺りの地形はもう別物ってくらいに変わってしまっている。地表の方が被害が少なく済むので、最近は地表にあがって訓練していたからな。
変貌を遂げたモナリーガの土地に若干困惑しているワドに事情を説明しておく。
ちゃんと労って旨いスイーツを出して欲しいな。
ワドが持ってきたスイーツは大量だったので、心往くまで堪能した。とはいえ、勝手に吾輩のスイーツを食べるラザには教育が必要だな。
ワドが帰った後も、おいてったスイーツを食べるのがラザの楽しみになっていた。
ペチャ……ペチャペチャペチャ……
『おいし~』
『また、カップに頭突っ込んでるにゃん……』
そろそろスイーツが底をつきかけている。でもラザは3分しかマナを抑え込めない。3分では吾輩もラザもとてもワールドン王国まで飛べないのだ。困った。
『ガトーは遅い~ござる~?』
『お前だって遅いだろにゃん?』
『ワドか白ならすぐつくのに~』
全く、悪気が無いからと毎日ディスられると……
『それだ!』
早速、ラザ経由で白を呼び出す。
ラザをワドに会わせる為だと言いくるめて、どうにか白タクを手配できた。
二人で白の背中に乗る。白にはリミッター解除して貰い、最速で運んで貰うのだ。
『ではいくぞ…………ついたぞ』
早い。あっという間についた。音が遅れて鳴り響いている。
ぐぬぬ、やっぱり白のスピードには敵わないな。
そう思っていたら、ラザが吾輩を見て爆笑した。
『ぷぷぷ~、ガトーの毛がなんか変でござる~』
『ラザだって毛が全部逆立ってるにゃん!』
『まぁ……どっちもどっちだ。では帰る』
吾輩とラザは、電気で全ての毛が逆立って別人の様になっていた。白が帰った後も、お互いの姿を見て指さして笑いあっていたな。ラザとこんな風に笑いあったのは初めてだったから、少し嬉しい。
こうして、その日からスイーツ三昧が始まった。
近くにラザ専用料理人の家まで建てられている。
正直羨ましいが、「ガトーも食べに行けばいいし、ラザはそこだけだよー」とルクルに言われて、一旦矛先を納めたのだ。
「ガトー様、アラザン様、今日もぜんざいたっぷり持ってきやしたぜ」
『わ~い!ボク、ボンすき~』
餡子を知ったラザの、超ヘビロテに付き合わされ、最近は飽きてきたなぁ……餡子。
ラザは餡子とお餅が大好物になっています。
料理人も「毎日、餡子を茹でてるなぁ」と呟いていますね。
次回はカルカン視点の「閑話:最強テイマーの熱血指導」です。




