猫魔族の国
前回のあらすじ
ルクル(ケタ)と無事に合流して、帰る事にしたワド。
ワドを待っていた猫魔族に声をかけられたところです。
話しかけてきた猫魔族に、挨拶を返す。
「やぁ、カルカン君。結界は無事?」
「はい!ワールドン様が配慮して、遠くに降りて頂けたので大丈夫です!あっ……にゃ!」
前回訪れた時に、色々と世話を焼いてくれた猫魔族のカルカン。
13歳のルクルと並んでも、身長は肩に少し届かないくらいの小柄な種族で、挨拶で掲げた手にはプニプニの肉球が見える。
カルカンをルクルに紹介し、猫魔族の国の入口まで連れ歩く。
猫魔族の国への入口は大森林の中にある。
生い茂った木々の葉で真夏の太陽が遮られているから、この辺りはとてもひんやりしているね。
猫魔族は二足歩行の猫で、ゲームで見たケットシーみたいな感じの魔獣。知能が高くて、会話も書面取引も問題ない。僕よりコミュニケーション能力が高くて悔しいよ。
既にルクルとカルカンは、ここまでの旅の話題で盛り上がっていた。
「なんと!白い最強種のドラゴン様と!それは凄いです!……にゃ!」
「ワドからドラゴンって聞いていたから、てっきり西洋竜だと思ってたら東洋龍だったよ」
ルクルがカルカンへ自慢げに語っているから、僕が真実を語って揶揄った。
「震えて相手できなかったのに。ぷぷぷっw」
「それは高いのが怖くて……ってさっきから、カルカン君の取って付けたような語尾は何?」
(おっと、気づいたな。ふふふ……)
前回訪れた時に【土下座】でお願いしておいたのだよ。いやー僕って気が利くね。
「ワールドン様から【土下座】でお願いされました!……にゃ!」
「ワドお前なー……えと、カルカン君?無理してない?」
なんかルクルは、僕がカルカンに無理させていると勘違いしているみたい。
誤解を解くために、きちんと説明しておく。
「だって猫魔族は、萌えの何たるかを理解してなかったから仕方ない。ちゃんと理解してもらったよ」
「大丈夫です!あ……にゃ!でも【土下座】はもう勘弁して下さい!……にゃ!」
「ワド、なにやらかしたのー?」
やらかし?
何を言っているんだ。萌えを理解してくれるようにお願いしただけだよ?
濡れ衣だよまったく。
(僕、悪くないよ!)
門番の猫魔族と挨拶して入国手続きを済ませ、道を進み大広場に入ったら、大きなクレーターが見えた。
「ここがワールドン様が【土下座】した現場です……にゃ!これ以上、破壊されるのは困るのですにゃ!」
「ワドー?(にっこり)」
「ん?なんかルクル怒ってる?」
土下座は地面に頭をこすりつけて、お願いする行為の認識だ。ドラゴン姿で地面に頭をこすりつけたら、50mぐらいのクレーターが出来るのは普通だと思う。
「なるほどねー。誠意じゃなくて脅迫として土下座(物理)を使っていたのかー。ワド反省!」
「違う!誤解!僕は誠意を持って土下座を!」
「それで何をお願いしたかなー?」
珍しくケタ……じゃない、ルクルが激怒している。
謝りながらお願いの内容を説明した。
最初のお願いは人への変化、あと必要な魔術具を無償で譲って貰う事。
次のお願いは人の言葉を教えて貰う事。
最後のお願いは語尾に「にゃー」「にゃ」「にゃん」をつける事。
ちなみに「にゃー」は共通の砕けたタメ口で、敬語寄りなのは男性が「にゃ」を使い、女性は「にゃん」を使う事をお願いした。そして……
猫魔族の大広場には、3つのクレーターが出来た。
「変化とその魔術具は分かる。言葉を教えて貰うのも分かる。最後のはなんだー!」
「だってこんな猫の見た目で語尾が普通なんて、そんな、萌え力が低すぎる見た目詐欺みたいなの、許せなかったんだよ!」
(だって見た目詐欺だったんだもん!仕方ないよ!)
「男女で使う語尾を変えるまで、やらなくてもいいだろー!?それはー!?」
「だっておっさんが『にゃん』とか気持ち悪いって思ってさ」
最初はジェンダーレスを意識して、区別なく使ってもらったけど……流石にちょっとキモかったんだよ!
(僕、悪くない!)
「お二人とも大丈夫です。街を破壊しなければ、このぐらい全面協力します。……にゃ!」
人の国でも猫魔族の国でも、土下座のお願いが断られなかった理由が分かった。
(脅すつもりは無かったんだ、ごめんね?)
そうしたやり取りをしながら大通りを抜けて、猫魔族の住宅街を進む。
大木を活かしたツリーハウスのような建物が多い。人族の建物とは異なる建築様式が立ち並んでいるね。
「猫魔族の街は木造建築が多いんだねー」
「そうなのだ。僕も最初は驚いて……」
「カルカン君、なぜ木造?火災は大丈夫?」
「あ、それはですね……にゃ!」
猫魔族の国は対空用の防護結界を張っているとの事で、翼竜族の侵入をそちらで防いでいると言っていた。
前回、僕が空から侵入して防護結界を割ってしまったんだ。その修復を優先していたので、広場クレーターは1年経っても放置されていたらしい。
「レンガや石造りだと爪研ぎで爪が荒れてしまうので、対空強化し木造にしてます。にゃ!」
「あー種族の習性かぁー。なるほどねー」
「あ、だから僕も……」
あれ?なんかルクルから、シカトされている気がするんだけど何で?
信頼度、カルカンの方が高くない?
「国王様はこちらです。……にゃ!」
樹齢2000年を越える大樹の中に、猫魔族の国の王宮がある。この大樹は多くのマナを含んでいて、ちょっとやそっとじゃ燃えないらしい。
天然の空洞部分にあるためか、木の香りがより一層濃く心地よい。
そんな中、老いて真っ白の毛並みになっている国王が、僕らを歓迎してくれた。
「お久しぶりです。ワールドン様」
「……(しかめっ面)」
「あっ、お久しぶりですにゃ!」
「久しぶり、国王殿(ニッコリ)」
ちゃんと忘れずに語尾をつけれた事に、僕は笑顔で応える。
ルクルからのジト目が消えない……なんでだろ?
語尾に「にゃ」がないケットシーなんて萌えないゴミじゃない?
「秘薬のご協力、誠に感謝ですじゃにゃ」
「うん。役に立って良かった」
「カルカンは好きに使って下さいませにゃ」
挨拶を終えて謁見の間を後にした。ルクルが何をやらかしたのか説明しろと言っている。
(やらかしじゃないし。言いがかりじゃない?)
猫魔族の治療薬に、癒しの力を吹き込む協力をした。
結界破壊の詫び石として、僕のマナ鉱石をプレゼントした。
防護結界の修復が終わり次第、カルカンがアドバイザーとして一緒に来てもらう話になっていた。
ただそれだけだよ?
「カルカン君はついてきて大丈夫ー?」
「はい。準備に1週間、頂ければ……にゃ!」
ルクルとカルカンはすっかり打ち解けている。
「治療薬はちゃんと効能あったのー?」
「はい。素晴らしい効果です。副作用の寿……」
「おっとぉ!それ以上はイケナイなぁ!カルカン君!」
カルカンは副作用の「寿命が短くなる事」を話そうとしたので、全力でキャンセルさせて貰った。
大怪我でも治せると思うけど、寿命が半年は短くなるんだよね。
(うまく誤魔化せたかな?)
そうして、カルカンが出発準備をしている間、僕とルクルは観光をしながら楽しく過ごした。
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カルカンの準備が整い、いよいよ出発の日を迎えた。
「兄をよろしくお願いしますにゃん!」
カルカン、妹がいたのか……語尾が使い慣れていて順応している。やっぱりこういうのは若い子の方が、適応力は高いのかもしれない。
彼女も見送りに来てくれたんだ。
(手づくりスイーツのお土産も貰ったよ!)
猫魔族の国の特産であるサツマイモを蒸して、柔らかくなったのを潰し、マッシュポテト風にしたところにバターを加えて焼く、郷土料理のスイーツだ。
少しスイートポテトに似ている。
(優しいバターの香りが食欲をそそるよね!)
猫魔族の国を出て、暫くお土産を食べ歩きながら今後の話をしていた。
「どこに向かわれるのですか?……にゃ!」
「貴族同士のいざこざの宿題があって……」
僕はすかさず宿題を相談する。港町巡りで抱えた宿題は凄くめんどくさいんだよ。相談を聞いたルクルは即座に不満そうな顔をし、そっぽを向く。
「ワド、それは君の宿題。俺とカルカン君は関与しないからねー!」
「えぇ!?そりゃないよルクルー」
まぁ正直どうでもいいかとも思っていた。彼らの問題は一先ず忘れて、約束のあるモンアードに戻る事にしている。
その為に、近くの鉄道のある港町へと向かった。
土下座の被害が明らかになりましたw
次回は「無自覚ドラゴンのやらかし・前編」です。




