各国訪問と新年祭の招待
前回のあらすじ
モナリーガ王都を訪れたワド達。
摩天楼都市は倒壊した姿へと変貌を遂げていました。
国王との会談に臨みます。
「はじめまして、ボチョール殿」
僕は挨拶をしながら、やたらと筋肉質で人族では大きいモナリーガの国王と、ガシっと握手をした。剣聖と呼ばれる彼は気さくでとても人当たりが良い。
歓談の最中にも感謝を述べられたよ。
「ワールドン王国のおかげで、今年はかなり良かったのです。つい先月までは……」
話を詳しく聞くと、ストローのペテン師活動の影響で、カービル帝国やザグエリ王国との小競り合いが今年は無かったらしい。
周辺の行商人達も戦争を忌避して、カービルやザグエリを避ける傾向にあったって事で、モナリーガでの活動が増え、閉鎖的な雰囲気も幾分和らいだんだと。
「えとえと、今月は何かあったの?」
「それはこの王都の惨状が答えです」
今月は大地震が相次いで、大打撃だったそうだ。
そりゃーそうか、これだけの高層建築物が軒並み倒壊しているんだから大変だよね。
「民の間では、タングステンドラゴン様を永き眠りから起こした不届き者がいるのでは?との噂が流れております。エターナルドラゴンで在らせられるワールドン様は、何かご存じでは無いでしょうか?」
ドキッとする事を言われ、僕は腕を組んで回答を必死に考えた。
「う、う~んう~ん……ぼ、僕も知らないかな?」
「左様ですか……」
(ごめんなさい!)
不意に追及されたから、咄嗟に嘘ついちゃったよ。
確かに人族からタングステンドラゴンと呼ばれている銀を起こしたのは僕らだし、地震の原因も僕らだから何か申し訳無さ過ぎて。
一先ず、エリーゼが先に貿易周りは話をつけていたらしいので、今後は貿易が盛んになると思う。
モナリーガ王国からは乳製品と牛肉を主に輸入する予定だよ。広大な牧草地を抱えるモナリーガ王国は、非常に高品質な牛が育っているんだ。
僕の国は狭いから、そんなに牛さんが過ごしやすい土地じゃないんだよ……く、悔しくなんか無いから!
「では、そろそろお暇するよ。新年祭には是非遊びに来てね。来ないとガトーがお仕置きしちゃうかも?」
「ハハ……インビジブルドラゴン様のお仕置きとは、大変な事ですな。……是非行かせて頂きます」
ん?あれ?軽い冗談のつもりだったんだけど、めちゃ真剣な表情で困るよね。
(ドラゴンジョークだよ?)
って事で外交回りでの1国目終了。
うんうん。結構いい感じのスタートを切れたんじゃないかな?
地震からの復興で忙しそうなので、王都観光は諦めて、さっそく次に向かう事にしたんだけど……
「ワールドン様、カルカンを回収する必要がありますわ!あんな産廃でも、開発で利用価値がありますわ」
「うん、分かってる。あと、友達の事を産廃呼ばわりは控えようね」
エリーゼにも言われた通り、カルカンを回収する必要がある。メイジー、ブールボン、トーハトの3か国にはカルカンを連れて行って、防衛に有益な魔術具を売り込む予定なんだ。
独自の戦力を持つモナリーガ王国はともかく、ザグエリ王国と隣接しているそれらの国は、ザグエリに対抗できる手段は欲しい筈との事。
カルカン不在でもOKなリアロッテ王国とパウス王国から先に回る事にした。
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まずは、トール・キシリガム・リアロッテ国王。
リアロッテ王国の国王は、たぶんちょっと高齢なんだと思う。主に髪の毛判定だけれども。後で確認したら60歳らしい。予想が当たってプチドヤァしたよね。
トールからは、ラコア将軍の件を謝られたよ。
僕としては気にしていなかったんだけど、勇者レオパーティーにはこれで説明できるかな?リッツの件もあるしさ、関係を改善したくはあったからね。
「結構辛かったね」
「料理人を制裁しますか?」
「いや、ただの感想だからこの世からグッバイさせないであげてね?」
リアロッテ王都の食事は全体的に辛かった。赤いしさ、部屋中に辛い香りが充満していたな。
(やっぱり僕は甘い物の方が好きかな?)
リアロッテ王国で数日滞在した後に、パウス王国へと渡った。物件下見ではスルーしたから気にはなっていたんだ。
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次にパウス王国のリコー・トガン・パウス女王。
ここは国際法廷がある中立国。国の面積はかなり小さい。下から数えて2番目の国土らしいよ。ちなみにワールドン王国が3番目だから、僕の国より小さいんだ。
リコー女王は僕に好意的だったから、全ての提案を快く受け入れてくれたな。新年祭へのお誘いも、一番乗り気だったかも?
「ワールドン様は私と同じ趣味のようですので、親近感があります」
「そうなの?リコーちゃんも恋バナとか好き?それともスポーツかな?」
「いえ、そっちでは無くて……私は裸族なのです……それでワールドン様も同じ趣味だと伺いまして……」
「ん?裸族って?」
詳しく聞いてみたら、日常を裸で過ごしている人だと。ってか僕の事を裸族だと勘違いしているから、そこはしっかりと訂正させて頂いたよ。全く、僕は露出狂でも裸族でも無いのに、なんで皆勘違いするかな?
(エリーゼ辺りが戦犯な気はする。……何となく)
パウス王国でも数日間滞在したけれど、王立図書館が中々に凄かった。
リコーちゃんからプライベートなお茶会にも誘われて、それに参加した時の彼女は本当に裸だったよ。
お風呂以外で全裸は良くないと忠告をしたら、ここに咎める者はおりませんって諭されて僕も裸族してみた。確かに服着なくてもいいってのは解放感あるね。
エリーゼ達は固辞していたな。
あと、衛兵の男の人がチラチラ見ていたから、一応光ガードだけはしておく。
(僕は露出狂じゃないからね!)
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滞在を終えて、いよいよ猫魔族の国なんだけど、ザグエリ王国の上空をつっきる為に、最速で向かう事になったんだよ。
「じゃ、リミッター解除して飛ぶけどいい?」
「「はいっ!」」
「……」
エリーゼはいつも通り。リッツは分かって無いのか結構乗り気。マイティだけは悲壮な表情を浮かべていた。
普段のエターナルウィングと比べると、「普段がコマ送りレベルに見えるくらい違う」と速度を説明したら、マイティは絶望の淵を覗いたかの様に崩れたよ。
(いや、マイティも進化してるし大丈夫!……多分)
最近、マイティから「ワールドン様は多分ってつけて置けば大体OKと考えてるかも知れませんが、OKではありません」って言われて凹んだから、言葉にして【多分】は言わないようにしている。
【多分】は念のための予防線&免罪符なのに、先に釘点すなんて酷いよね。あと、心の中はセーフだよね?
(リミッター解除!エターナルウィング!)
僕は音速を遥かに超えて飛んだ。
神界では光速で飛べるんだけど、現世に顕現して肉体を手に入れてからは、その速度では飛べないの。
(ふぅ……到着っと。タイムは?お、5分ジャスト!)
測った事なかったけど、約25000km/hみたいね。
前回も置いた水辺に空輸邸を着水させる。エリーゼがマイティとリッツを、荷物みたいに肩に担いで出てきた。出てくるなり、マイティとリッツは盛大にレインボーリバースしているよ。
「うぅ……こんなに辛いなんて、あたし無理」
「……想像以上の地獄でした……ね」
「ワールドン様!景色が素晴らしかったですわ!」
進化しているマイティとリッツがこの状態って事は、他の人にはやっちゃダメだね。
景色を堪能できるエリーゼは、もうドラゴン枠でいいんじゃないかな?
とりあえず【伝心】でカルカンを呼び出した。
「ワールドン様、さっきの世界を切り裂くような巨大な音はなんですにゃ!?近所迷惑にゃ!」
「ワールドン様、ご無沙汰してますにゃん」
「カルカン、トスィーテちゃん!」
カルカンは激痩せしているけども、なんだか元気になっているな。
トスィーテちゃんの機嫌は良いみたい。
あれ?ガトーの事を怒って無かったっけ?
「トスィーテちゃん、ガトーのことは……」
「わーわーわー!ワールドン様、ストップにゃ!それは禁句にゃ!せっかく今は虚無の女神様のご慈悲が働いてるのにゃ!触れないで欲しいにゃ!」
(そっか……トスィーテちゃん忘れたのね。仕方ないよ、うん)
美しい緑に囲まれた猫魔族の国の入口を抜けて、大広間に入る。歩いている間にリッツとマイティも少し回復したみたいで良かった。そして出会ってしまう。
「「わ、ワールドン様!?」」
その重なった声は、エリーゼと大広間に居合わせた女性から発せられた。僕も驚いた。まるで鏡を見ているような気分だったから。
「ね、ねぇ……2Pカラーの僕がいるんだけど?」
「ワールドン様、2Pカラーって何なのにゃ?それにあれはアル氏なのにゃ!」
「「「えぇ!?」」」
「ちょ!?……はぁ……これだからカルカンは……」
冷静になって、しっかり聞いてみると確かにアルの声だよ。
どうして見た目が……あ!
「変化の魔術具!?」
「はい、ですにゃ!アル氏は……モゴモゴ……」
アルが超絶ダッシュしてきて、カルカンの口を塞いでいた。
顔を引きつらせながら「カルカン、少し黙りましょうね」と、カルカンを強引に抑え込んでいる。
(でも、残念……既に伝心で読み取り済みなんだ)
どうやら、アルは姉であるエリーゼに、強く出られる存在になりたい願望があったようだ。
そこへ、カルカンがエリーゼ様を一発で黙らせる事ができるのは僕だって提案して、今の姿が出来上がったみたい。目の前に自分がいるのは変な気分だなぁ。
「わ、ワールドン様が御二人に……ふぅーーー!」
「お嬢様落ち着いて下さい」
色以外は完璧に同じだ。髪を染めて、瞳にカラコンを入れれば、誰も僕と見分けがつかないかも?
僕は瓜二つなアルを見ながら、色々と悪用されそうで登録した姿以外に変化できなくなるって制約は、仕方ないし、必要だと思ったよ。
遠くから見知らぬ若い女性が歩み寄ってきて、カルカンを振り回しているアルをゆっくりと諭していた。綺麗な長い髪がとても印象的な人だね。
それから、僕らに振り返って優雅な礼をして一言。
「お初にお目にかかります、ワールドン様。あーしはダミア・マカと申します。お会いできて光栄です」
「はじめまして、ダミアちゃん?マカさん?」
「あーしの事は、ダミアで構いませんわ」
(この人が、例のアルが連れていたという女性なのかな?)
ワドの予想は正しくて、戦犯はエリーゼです。
外交で訪れた国に、手土産として絵を配っています。
そう……ボンに描かせたワドのヌード絵です。
こっそりと布教活動をしていたのですよ。
次回は「ホラーハウスで女子会」です。




