大地震と倒壊した摩天楼
前回のあらすじ
ガトーから緊急事態の連絡を受けたワド。慌ててモナリーガ王国のラザの住処へと向かいます。
「い、急がなきゃ!」
ガトーからの連絡では、ラザがどうしても僕に会いたいと言って、マナ制御できてもいないのに無理に動こうとしているとの事だった。頑張って止めているらしいけど、単純な力比べだとガトーに勝ち目はない。
僕は大慌てでルクルへ出発の報告に向かったよ。
執務室の扉を勢いよく開けて、唐突に宣言した。
「ルクル!僕はラザの所に行くよ!」
「んー、スイーツは空輸邸に用意しといたから持ってってー、そのまま例の外回りも行ってきちゃってー!終わるまで帰ってくるなよー、よろしくー」
「えと、連れてくのはエリーゼだけでいいの?」
「カルカン君も現地調達して連れてってねー」
「分かった!僕、急ぐから!」
僕が踵を返して、部屋を出ると「次からはノックしろよー」ってのが背後から聞こえたけど気にしない。
空輸邸の所に向かうと、既にエリーゼとマイティ、それにリッツがスタンバイしていた。
「ワールドン様!大量のスイーツをご用意してますわ!早くアラザン様にお届けしますわ!」
「今回はリッツも来るの?」
「あたし、もう進化を気にしないから、素手で隅々まで香油も塗るよ!」
リッツは完全に吹っ切れたみたい。元気が戻って良かったよ。早速、ドラゴン形態にメタモルフォーゼを完了させる。久々の自己ベスト更新!(ドヤァ)
空輸邸を大事に抱えてモナリーガ王国まで、かなり飛ばした。やっぱり僕だと目立つから、金色の光る飛翔体として目撃情報多数になっちゃうけど、仕方ないよね。
一ヵ月ぶりに現場にやってきたら、凄く地形が変わっていた。かなり浅い所にガトーとラザがいるのが見える。
『ワド~!ワド~!おかえり~!』
「や、やっと来たにゃん……」
「ごめんごめん、これでも急いだんだよ?で、何があったの?」
「ワドよ、聞いてくれにゃん」
ガトーが止めても、ラザは僕に会いに行くと勝手に動いたらしいよ。そしてこの辺りでは大きな地震が沢山起こったみたい。更に飛行までしようとしたから、緊急地震速報を僕に送ったって事だったよ。
「あ、危なかったね……」
「吾輩も焦ったぞにゃん」
「今のアングルとタイミング完璧でしたわ!アラザン様の可愛い仕草が撮影できましたわ!」
「えっと、ワールドン様?アラザン様が飛ぶと何か問題あるの?」
リッツが質問してきたから、端的に説明したよ。
「モナリーガ王国の大地が飛ぶよ!」
「そうだぞにゃん。浮遊大陸が爆誕するぞにゃん」
「え?えぇーーーー!?」
人族の歴史の前の古代文明時代。巨大大陸が空を飛ぶという御伽噺や伝承があるけど、それってラザが空飛んでいる時だからね。
マナを抑えないと、大陸の位置が変わっちゃうの!
とりあえず、マイティにお茶を用意して貰って、持ってきたスイーツを早速食べる事にしたよ。
栗たっぷりのモンブラン、焼き柿のブリュレ、梨のシフォンケーキ、林檎アメ、それからタルトタタンは柿、梨、林檎でそれぞれ用意している。
アップルパイを始めとしたフルーツパイは今からリッツが焼いてくれるんだ。
「さ、ガトーもラザも一緒に食べよ!いっぱい用意してきたから!」
「む?サツマイモは無いのかにゃん?」
「ちょっと旬には早いし?」
『おいし~!おいし~でござる~ボクこれ好き~』
ちょっとラザは手掴みで食べ散らかしていて汚い!
あ、そうかテーブルマナーを全く知らないからだ。
カトラリーなんて使った事もないだろうし。
『ペチャ……ペチャペチャペチャ……おいし~!』
「おいおい、ラザラザ、カップは手に持って飲むんだにゃん。こうだぞにゃん」
「カップに頭突っ込んじゃダメ!あーもう、そうじゃないんだよラザ!」
『とってもおいし~。ボクしあわせ~』
うーん、なんか赤ちゃんの食事を見ている気分だけど、ラザは凄く幸せそうな笑顔だから、今日は口うるさく言わない方がいいのかな?
そんな事を考えていたら、ちょうどパイが焼けたのかリッツがお皿に盛り付けていた。焼きたての良い香りが辺り一帯に漂っているよ。ヤバい涎が……
『これ何の香り~?』
「む、良い香りにゃん。アップルパイかにゃん?」
「ペアーパイとのハーフミックスじゃないかな?」
林檎と梨の強烈な香りと焼けたパイ生地の香りが、凶悪なまでの誘惑を仕掛けてくるよ。まだかまだかと待っていたら、ラザがひょいパクしちゃったよ!?
『おいし~これあったかくておいし~』
「ちょっとー!?まだ切り分けて無いでしょ!?」
「おい!吾輩のペアーパイとアップルパイ……許さないぞにゃん!」
『う~?ワドも半分たべる~?』
食事マナーを教えるのは絶対だよね!切り分ける前に手づかみで食べちゃうとかあり得ないから!
顔にベタベタとパイ生地を張り付けたラザの顔を、拭いてあげた。
(僕、これしてあげた事……ある……)
「ワールドン様!?どうなされたのですか!?」
僕の顔を覗き込んで、エリーゼが慌ててわたわたとしだした。僕はまた泣いていたみたいだ。どうしてだろう……なぜだか涙が止まらないよ。
そこにガトーが明るい声で急に話題を変えてきた。
「ワドワド、なんだか荷物多いがすぐに帰るんじゃないのかにゃん?吾輩もお出かけ行きたいぞにゃん」
「ん?えとね、猫魔族の国に行って、カルカンを回収してから各国回るんだよ」
ガトーの表情が見るからに青いものに変わった。
ってか、カルカンがガトーのやらかしを暴露して、大変な事になっている事は僕も知っている。
「わ、吾輩は急用を思い出したから……ついては行けないぞ……にゃん!」
「トスィーテちゃんに怒られてきたら?謝ったら許してくれるかもだよ?」
「深淵を覗く瞳から帰ってこないってカルカンから報告きてるぞにゃん!?吾輩怖いぞにゃん!」
『う~?ガトーいらないならこれ貰うよ~ござる~』
トスィーテちゃんは水着コンテストの事を知って、闇落ち中なんだ。カルカンがストレスで激痩せしているってホリター家の暗部から連絡入っているし。
僕も今のトスィーテちゃんに会うの怖いなぁ……ってホラー話をしていたら涙も引っ込んだよ。
とはいえ、仕事だから割り切って行くしかないの。
「おい!ラザ!吾輩のモンブラン!許さにゃいにゃん!」
『う~?おいしかったよ~、モン……栗のやつ~』
「さてと、僕は外回りがあるからそろそろ行くよ」
「吾輩のモンブランだにゃん!って、行くのかワド……吾輩はここでラザの面倒をみてるからな」
『う?ワドどこかいくの~やだ~ボクもいく~』
僕はラザの頭を撫でながら優しく告げた。
「また来るから。それに早くマナを抑える事を覚えてね。そしてまた一緒に暮らそう」
『うん~!ボクいっしょにくらす~がんばる~』
「ワドワド、トスィーテに謝っといてにゃん!」
ガトーの懇願は華麗にスルー。だって僕に怒りの矛先がきたらヤだし?とっても怖いし?和ホラー苦手だし?ついでに伝心ブロックしておこうっと。
皆が空輸邸に乗り込んだから、そそくさとメタモルフォーゼして出発だ。
『ワド~待っててすぐにマナ抑える~』
「ワド!無視するなよにゃん!代わりに謝罪ヨロにゃん!」
「またね!ラザ!」
「シカトすんなよにゃん!」
ガトーがなんか言っているけど僕は聞こえないふりをして、まずは一番近いモナリーガ王都に訪問だよ。
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摩天楼のような煌びやかな王都には、実は凄く興味があったんだ。念願のモナリーガ王都への期待に胸を膨らませていた……はずだった。
「な、なんじゃこりゃー!?」
僕の身長くらいあった巨大な建造物が、軒並み倒れていて、至る所に見かけた空中歩道がほとんど崩れ落ちている。憧れのモナリーガ王都の見る影も無かった。
ひとまず、王都にほど近い広大な空き地へと空輸邸を置き、皆で情報収集するべく行動する。
「とりあえず王都の情報を聞き込みだね」
「ガトー様の情報からすると、学院テスト前までは無事だったと思われますわ!」
エリーゼが提示してくれた情報は僕も覚えている。
学院テストの前にガトーとストローがペテン師活動した時に、摩天楼も作りたいとガトーが言っていたのを、僕も一緒になって盛り上がっていたから。
と、いう事はだよ?この4ヵ月くらいの間に、何か大きな事が起こったのは間違いないんだ。
何か途轍もなく重大な見落としがあるような気持ちに、後ろ髪を引かれながらの聞き込み調査を行った。
入国手続き待ちをしていた商人さんにヒアリングしたら、ここ最近で大地震が相次いでいるらしい。
(ギャーーー、僕らのせいだったよ!)
さっきガトーに報告を受けたラザの動いた日と、大被害が出た地震の日が、完全に一致だよ!
う、うーん……目眩が……
「ワールドン様、王宮への訪問のアポイントメントを取りましたわ!」
「早いね。じゃあ、宿を取ろうよ」
比較的被害の少ないエリアで良い宿を探して、温水プール付きの20階建て高級ホテルのスイートルームを確保した。
ナイトプールもあるらしいから楽しみ。
って感じではしゃいでいて、女子会オールに突入したんだけど、ルクルとアルの話題が出来ないのすっかり忘れていたよ。
マイティも表には出さないけど、アルが連れている女性ってのを気にしているみたいだし?
リッツは気にしないでって言っているけどさ、やっぱ気にするしさ。でも、エリーゼの浮気お仕置きには皆してドン引きしたなぁ。
エリーゼはアンとの浮気現場を僕に聞いたので、さらに過激なリゼ映像での鑑賞会をルクルに強要し、全力で映像をみて、全力で興奮しなさいと脅していた。一瞬でも気を抜くと、ころ……鉄拳制裁が待っているからルクルも必死だったっぽい。
エリーゼが超至近距離で監視しながらの鑑賞会は命がけだったみたいだよ。ルクルはもう浮気しないでよね!
翌日、一睡もしなかったエリーゼが、外務大臣として先に交渉の場に向かったよ。
僕は午後に設けられる歓待の宴から参加なんだ。
午前中いっぱいモナリーガ王都を観光し、そして今からトップ会談ってとこ。
「はじめまして、ワールドン様。私はボチョール・コ・モナリーガと申します」
ラザが動く事で地震が何度も発生してしまいます。
この世界での超高層ビル群だったモナリーガ王都は被害が甚大になってしまいました。
次回は「各国訪問と新年祭の招待」です。




