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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
ドラゴン革命の黎明期

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閑話:家の大願と友人の懸念と

前回のあらすじ

ブールボン王国からワールドン王国へと移籍してきたバラン・カーボス伯爵。

新たな地で新たな友人を多く得て、価値観に変化があったようです。

ep.「周辺村の取り込み」~ ep.「税金撤廃と夏コミ」までのバラン・カーボス視点となります。

 私は今年の春、ブールボンからワールドン王国に移籍してきた。

 移籍の理由は領地だ。領地が欲しい。その悲願が諦めきれず今日に至る。

 私の家系は領地を没収された過去を持つ。それは濡れ衣での失脚だった。今ではそれも晴れてはいるが、過去の土地は既に別の貴族が治めている。


 領地欲しさに戦争まで望む気にはなれなかった。

 そこで同世代であり、懇意にして頂いているルマンド大公から、ワールドン王国への移籍を提案される。

 ワールドン王国は興されて、まだ間もない。

 貴族もホリター家のエリーゼ嬢と、アルフォート君しかおらず、土地持ちの貴族はいない。確かに狙い目ではあった。


 ものは試しと視察に訪れてみれば、革新的な技術に溢れる新興国。それをまざまざと魅せ付けられる。

 黄金聖水、それを利用した農法、神の御力で整えられた道路や施設。そして最高品質マナ鉱石。

 この国では考えられない程、最高品質のマナ鉱石が普段使いされている。そこには、我が家系が失墜する原因にもなった白の最高品質もあった。それをその辺の平民に運ばせている。正直あり得ない光景だ。


「……ルマンド殿、私は移住を今決めました!」


 気づけば宣言していたのだ。

 この国は世界の中心になる。そう確信していた。


 それからは怒涛の日々である。日夜働き、それを黄金聖水で癒す日々。

 社交界は大成功に終わり、ワールドンカップや料理コンテストで感じられた新しい風。

 そうして迎えた建国祭。

 ボードゲームでは暴走してしまい、神様をはじめ周囲の者たちを、少々引かせてしまった。


 さらに季節は双子節へと移り、アルフォート君が失踪した。

 最近は先代大公のロワイト様を思わせる自信をみなぎらせていたのに、どうしたのだろうか?

 しかしながら、心配する日は長く続かない。

 なぜなら、ワールドン様が暴走し始めたからだ。

 これまでワールドン王国は、ルクル様が全てを掌握する国だと考えていた。そう……誰もが。それは、アルフォート君を飾りだと認識している。その裏返しでもあった。

 実際には、ワールドン様の自制が働くかどうかはアルフォート君による所が大きかったのだ。ルクル様の意見は鬼畜意見といって流される事が多く、ワールドン様がすぐに忠告を取り入れるのはアルフォート君の諫言だけだった。


「バラン氏……アル氏はこの国の双璧ですにゃ」


 居なくなって初めて理解する。カルカン様の言葉の意味を。


─────────────────────


 そうした混乱が続き、ワールドン様の無茶振りの一環で、貴族撤廃が試行される。

 私もついに貴族では無くなったが、後悔はしていない。

 領地を持つ事。その本当の意味を教わった。


 神託の御力でもある【伝心】で伝えられた事。

 それはどこまでも純粋な想い。ワールドン様はただただ、国民が笑顔でいてくれる。それだけを心の底から願っていることがとても良く分かった。

 貴族が必要ないと断じたその源泉。純粋に国民の為を思って政治を行うのなら、そこに身分は要らない。

 なんと単純な事なのか。今ならばそう思う。


 会議を終えて、青い顔をしたストロー殿が、懸念を口にしていた。


ーーー青い顔のストロー再現VTRーーー

「ルクル様、折り入ってご相談がありますわ。この後少しお時間頂けるやろうか……」

「あー、ストローの相談ってさー、ワドが無知すぎて怖いって話でしょー?後で聞くよー」

「ハハハ……さすがですわ。ほな後で」

ーーー青い顔のストロー再現ENDーーー


 夜にストロー殿と話し合う場に私も呼ばれている。あの素晴らしい想いを受けて、なぜあのような顔になるのか理解できない。

 だが、ルクル殿のおどけたフリの中に潜む、真剣な雰囲気に背筋が伸びた。


─────────────────────


 会議を終えた後、すぐに父へ事の顛末を報告する。理解が得られるかの不安に揺れながら。


 ……ピー……ピー、ザザ……ザザ……


「父上、私は貴族でなくなる道を選びました。我が家の悲願である領地を、手に入れる事のできない息子をお許し下さい」

「……何を言うのか。民と共に幸せを歩む。それこそが我が家の悲願である。お前は何一つ間違ってなどいない。我が家の……いや、私の誇りだ」


 私はなんと愚かな息子だろうか。

 男爵から伯爵まで地位を戻した父の、本当の真意を汲み取る事も出来ていなかったとは……

 いつの間にか手段が目的になっていたのだと痛感する。その気づきを与えてくれた国民へ感謝した。


 この国は本当に、国民と大臣の距離が近い。

 その日のうちにフラっとよって、陳情できる。だから頼られるし、信頼もされている。

 ひとたび街に足を運べば「これ焼いたから食べて」「新作の味見どうです?」「お体ほぐしましょか?」とお節介にも程がある。だが、皆が笑顔だ。

 この笑顔を曇らせる懸念があるのかと、少し緊張しながら私は夜の密会へと参加した。


─────────────────────


 密会には私、ストロー殿、ルクル様、ガトー様の4人だけだった。

 他の幹部には聞かせたくないのだろうか?

 ルクル様の専属従者のジャックが、ミントのフレーバーティーを出した後に退室していく。私は唾を飲み込み、ストロー殿の言葉を待つ。

 苦悩の表情に、まるで縛りつけられたようなストロー殿が徐に口を開いて……


「ルクル様……私には、ワールドン様がえろう危うく見えるんですわ」

「うん、そうだねー。その懸念はあってるよー」


 あんな重い雰囲気のストロー殿の言葉にも、ルクル様は普段通りに返していた。


「ザグエリ王都事件。ワールドン様はどのようなお考えでおられるやろうか?私には怖くて直接きけへん」


 その発言に私は全身が凍り付いた。

 あれほど優しく、民を思っている神様。7000人もの大量殺戮に、何も傷付いて無い訳が無い。

 しかし当事者で無い私では……そこに思い至れ無かった。


「ルクル様、教えてくれへんか?」

「……ワドはあの事件で大きく傷ついてる。それは予想通りだよ。そのことを直視しないで済むように色々と気を反らさせたし、罪滅ぼしもしていた」

「罪滅ぼしとは?」


 私は思わず身を乗り出して質問していた。

 傍観者では無いのだ。私も関係者なのだ。きちんとザグエリ王都の事件に、向き合う必要がある。


「バンナ村で、なんだかワドが懐いた女性がいてね。その人の世話を焼いていたよ。それに生まれた子供に名づけもしていた」


 それを聞いた瞬間。ストロー殿は自分の顔を片手で鷲掴みにするように口を覆った。なにか途轍もない事に気づいたかの様に……


「あの出産はタイミングが良かったな。その女性を救えた事がワドの心を幾分慰めたと思う」

「それだけで立ち直れたのでしょうか?」

「いや、それから国を興して、ひたすら忙しくさせた。余計な事を考えないようにね。その内、あまりの辛さに投げ出すと思ってたんだけど……」


 ルクル様は少しお茶を飲んで口を湿らせる。


「なんだかんだで一度も投げ出して無いんだよねー。ちょっと予想外かなー」


 再び口を開くと、普段のおどけた口調に戻っていた。


「泣き言を言ってても逃げ出さないからさー。労わるタイミングを逃してるんだよねー」

(((え?労わる心があったのか……)))


 この鬼畜にも人の心があったのかと感心した所で、ガトー様が発言する。


「ワドは……絶対に逃げないぞにゃん」

「ふぇ?ガトーなにか知ってるのー?」

「ワドは優しすぎるからな……それにどんなに辛くても仕事から逃げないのは、アイツなりの罪滅ぼしなんだにゃん」


 ガトー様は続ける。


「どうしてそんなに頑張るのか聞いたら、ザグエリで失った人より多くの国民を幸せにしたいと、ワドは語ってたぞにゃん」

「……ワドがそんな事を?」

「そうだ。それに……お前らも気づいてると思うが、ワドは身近な存在の不幸に耐性がないぞにゃん」


 私の困惑を他所に、ルクル様は静かに同意する。


「だろうね。だからこそ、ザグエリ王都事件は避けられなかった。舐められたままで、ワドの大切な人がもし帰らぬ人となったら……世界に絶望がふりかかるよ」

「吾輩もそう思うぞにゃん」


 漠然とした不安に具体性が加わり、バラバラで繋がらなかったピースが、カタカタと音を立ててハマっていく感覚を覚えた。


「ワドは身近な存在の死に耐えられず、2度も虚無の女神の祝福を受けているにゃん」

「それはどういう?」


 虚無の女神の御力を教えて頂き、腑に落ちた。なぜ祖父が領地の事を忘れたのか、その謎が解けたから。


「1度目は顕現した後。2度目は銀と一緒の時だったらしいが……銀からの情報では友達が亡くなったらしいにゃん」

「友達?ワドに人の友達は居なかったはずだけど、それも御力なのかな?」

「人の友達はお前が初めてのはずだぞルクルよ。そうではなく、ワドと銀が一緒に赤ん坊から世話をした熊魔族だ。その代償は大きかったにゃん」


 ガトー様ほどの存在が大きいという代償。それを聞き、気づけば私の吐息は浅く短くなっていった。


「ガトー、その被害は?」

「80憶もの生命の命が奪われた」


 語尾をつけずに淡々と告げたガトー様の言葉に、我々は全員目を剥いた。


「あまりの出来事に、万物の男神が動いた程の事態になったのだ。あれは……そう、まさしく絶望の光だった」


 あの優しい光が、絶望の光へと変わる様は見たくない。私は怯えていた。


「大量の命を奪う事になったワドは落ち込んで、その事実を、友達を……その全てを忘れた……にゃん」

「……これは絶対に他言無用だね」


 ルクル様の言葉に、私は壊れたおもちゃの様にコクコクコクコクと、頷く事しか出来ずにいた。


「だとすると、ワドは死を正しく理解していないのかも知れない。ザグエリ王都事件の時、『謝れば許して貰えるか』と言っていた。あれはそういう事じゃないのかな?」

「それはありうるにゃん。生命が失われる死というものを、本質的には理解していないのかも知れないにゃん」


 そこに先ほどまで固まっていたストロー殿が、新たなる事実を投下した。



「た、大変やで。バンナ村には神像がありますわ。ほんでそれをミカド陛下は良く思わん。その女性は無事やろうか?」



 全員の唾を飲み込む音が、部屋に響いたような気がした。



初稿は倍ぐらいの文章量あったのですが、必要な要素だけ残して削りに削りました。

今回の閑話の中では、最も今後に関わる重要な情報が多いエピソードです。

※ワド視点だとこの辺りの情報は見えないので……。


次回からは新章「ドラゴン外交」となります。


次章から徐々に大きなストーリーが動き出します。

お楽しみに。


次回は「大地震と倒壊した摩天楼」です。

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 お邪魔しています。  とってもシリアスな面が感じられますね。いつも呑気なワド君ですが、実は重い事件にも関わっていたんですね。  バラン・カーボス伯爵は、真面目で真剣に物事を考える人なので、その視点を…
ワドにそんな過去があったなんて…生物と言っているので植物などもふくまれているんでしょうか?
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