総理不在の獅子節
前回のあらすじ
税金ゼロ政策の一環としてギャンブルに力をいれたワールドン王国。
禁止されながらも手を出したカルカンは、破産してしまったようです。
「ねぇワド、獅子節のお祝いはまだしないの?」
リゼからここの所、何度も催促されている。
リゼはルクルと恋人関係になってからは、誕生節のお祝いを楽しみにしているみたいだよ。
プレゼントもいっぱい用意しているってさ。
(お熱い事だよね!)
会議室へ向かう道すがら、リゼとはアルの話題だ。
「僕、ギリギリまでアルを待ってあげたいんだ。だって、アルの成人の誕生節な訳だしさ。お祝いしてあげたいから」
「ん……急かしてしまってごめんなさい」
アルは現在、猫魔族の国にいる。
ホリター暗部から連絡があったんだ。猫魔族の国にアルが女の子と二人で現れたって。その女の子が誰なのか分からないけど、無事が確認できて本当に良かったと思う。
トスィーテちゃんがアルに帰らないのか質問したらしいけど、今は帰りたくないって事だから帰りたくなるまで待っているんだ。
所在が分かったので、今後の方針を決めるための会議で今、集まっている。
幹部の中で唯一、アルの席だけが空席だ。
アルが不在の間の総理大臣と財務大臣に、代行を立てる事が正式に決定し、臨時代行の総理大臣としてバラン君、財務大臣はストローに依頼した。
これで色々と滞っていた事業が再開できるね。
それから、事業の課題の話に移っていく。
「うーん……やっぱりさー、銀の最高品質マナ鉱石を早めに入手しないとまずいかもねー」
「獅子節のお祝いが終わったら直ぐに探しに行くから!ガトーも一緒に探してくれるから直ぐだよ!」
「おう、吾輩も一緒に探してやるぞにゃん!」
建設事業は諸々困った状況になっている。
なんせ、ルクルが銀の最高品質マナ鉱石を使う前提で事業計画を立てているからね。
マナ鉱石は色によってそれぞれ属性がある。
赤なら火・炎熱、青なら水・氷雪、と言ったようにそれぞれの属性があって、属性毎のマナ力場を扱える。
ルクル曰く「マナ力場は重力場や磁場に似ている」という話。方向と力を与える物となんとなく捉えていたんだけど、基本的な所は「確かにそうなのかも?」って思った。
それぞれの属性に対し、方向と力を与える影響力が大きくなるんだ。金なら光・生命、緑なら音・大気といった方向や力を操作できる。マナの影響を受けて進化するのも、鉄が磁石になるのと同質のものらしい。
そして、銀は物質・大地の属性なんだ。
要は固形物の物体に対する影響力が最も高いので、大きな物を軽くさせるのに最も効率的だそうだ。
「えと、リニアモーターカーも車体部分に銀を使うんだよね?」
「んー、そうだよー。この世界の汽車が銀色な理由もそこにあるんよねー。大地に対して反発するようなマナ力場にして重量を軽くするのー」
そっか。
蒸気機関車が黒い車体じゃない事に不満があったけれど、理由を知って納得だよ。
「む、てことはホバーバイクやバスも銀を車体に使えば、もっと楽に量産できるのかにゃん?」
「ですにゃー!銀のマナ鉱石あれば、大量生産も可能になるにゃ!所でガトー様、お金貸して欲しいにゃ」
ホバー乗り物を輸出産業にする為にも、銀の探索は急務っぽいね。でも、僕の我儘で待って貰っている。
あとカルカンは最近ずっと金欠だよ。
「だからさー、誕生節のお祝いを早めにやって、さっさと【ドラ探】してきてくんないー?」
「僕、アルを待ちたいんだ!この1年間、ずっと成人のお祝いをしてあげたくて色々考えたんだから!」
僕が大きな声で待つ宣言をしたら、カルカンがスッと立ち上がって、不気味な笑みで僕に近寄ってきた。
「ワールドン様、私が代わりに銀様を探してくるにゃ。だからお金を貸して欲しいにゃ」
「ダメだよ?カルカン、隠れてこっそりギャンブルしてるの皆知ってるんだからね?そんな事してると誰からも信用されなくなるよ?」
「大丈夫にゃ!次は大きく勝って全額返済するにゃ」
「カルカン様、それアカンやつやで?」
「これはもう、ギャンブル依存症では?」
ストローやバラン君も窘めている。
カルカンはゲームが弱いけれど、レースだとマグレで偶に当たるんだ。そして当たった時の快感が忘れられないみたいで、隠れてギャンブルを繰り返している。ダメ猫まっしぐらな状況なの。
「吾輩も別に冷たくして貸さない訳じゃないぞにゃん?お前の為だにゃん。それにトスィーテも英雄の父も、そんなお前の姿見たくないはずだにゃん」
「あぁ~、そんな正論聞きたくないにゃー!」
カルカンは泣きながら外に逃げ出したよ。
かわいそうだけど、僕も心を鬼にしてお金は貸さないって決めているんだ。
皆に目配せして頷きあったよ。
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それからは、アルからの連絡を待つ日々だ。
季節は完全に真夏で、猛暑が続く。
公務にやる気も起きないし、ドラゴン学院もちょうど夏休みに入っているので、学院寮の方に遊びに行ってみる事にしたんだ。
「ワールドン様、こんにちは。ようこそ学院寮へ」
「最近、暑いよね。アンも夏バテしてない?」
副院長のアンが出迎えてくれた。
リッツはどうやら外出しているみたい。カール先生の所かな?
僕が扇風機の魔術具の正面を陣取っていたら、麦茶を持ってきたアンがおずおずと恥ずかしがりながら、何やら差し出してきた。
「あの……ワールドン様、これをルクル様へ誕生節のプレゼントとしてお渡し頂けますか?」
「えと、これ凄いね。でもルクルがリゼと恋人になったのって知ってる?」
「はい。それでも……好きです。それにリゼ様からも身を引く必要はないとお伺いしました」
「え?リゼが?」
「なんでも独り占めしようとして失敗した事があるらしくて、今度は同じ過ちをしないと仰っていました」
そうなのか。
でも、リゼは無理しているんじゃないのかな?
だって、リゼの本能は独り占めしたい筈だし、無理していないかはキチンと聞いておこう。
そんなことを考えていたら、アンが不安そうな顔になってきていたので、僕は改めて笑顔を向けた。
「わかった、預かるよ。僕が責任もって届けるから」
「ありがとうございます」
アンから手編みの麦わら帽子を受け取った。
ビールジョッキを模したワッペンまでついている。
彼女の純粋な思いが伝わる素敵な贈り物だった。
僕が渡し方を思案していると、ちょうどそこにリッツ達が帰ってきた。
「ふぃ~、あっちぃー!あ、ワールドン様じゃん!」
「あー!ワールドン様だ!珍しいね!」
「あれ?ワールドン様、今日はどうしてここに?」
「こんにちは!ワールドン様、お久しぶりです」
コビスとマーデルが僕の側にさっそうと駆け寄ってきた。リッツは荷物を片付けながら僕に質問して、サブロワ君は礼儀正しく一礼している。
「ちょっと皆の顔を見に来ただけだよ?リッツ達は今日はどこに行ってたの?」
僕はコビスとマーデルに引きずられて、食堂の方に移動した。
「今日はね!金欠のカルカン様への差し入れと、その見返りにマナ工学を教えて貰ってたんだ!」
「おぅ!すっげー専門知識教えて貰ったんだよ。難しすぎてサブロワしか分かんなかったけどな!」
「凄く勉強になりました。カルカン様は凄いです」
マーデルが差し入れしていたのか。
コビスには講座が難しかったみたい。
サブロワ君は思い出して興奮しているけれど、いつものように礼儀正しいね。
「はぁ~、聞いてよワールドン様。カルカン様の所にいったら、またレオさんたちがいたんだよ」
「なんか最近、仲良いみたいだよね?」
「あたし注意したんだよ?カルカン様に馬券買ってきてあげるのは良くないって……」
「今なんて!?」
カルカンがどうやってギャンブルしていたのか分かった。
レオたちが仲介役だったんだ。
道理でレース施設へのカルカン立ち入りを禁止してもカルカンのギャンブルが減らない訳だよ!
さらにカルカンはお金の為に、彼らとルームシェアをしていると聞いた。
(もう!なんかもうだよ!)
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さっそく文句を言いにお宅突撃だ!
カルカンの家に超速でやってきて、インターホンを鳴らしまくる。暫く反応が無かったけれど、やっとドアがガチャリと開く。
「カルカン!なんで勇者と一緒に暮らしてるの!それにギャンブルはダメって言ったよね!」
「ワールドン様、うるさいにゃ。そんなにピンポンを高速連打しなくても聞こえてるにゃ」
「それで勇者たちは!?」
「レオ氏たちならリッツが帰った時に尾行していったにゃ。あとクエスト受けるって言ってたにゃ」
「勇者たちもレース施設の立ち入り禁止にするから!」
「そ、そんにゃー、後生にゃー許してにゃ」
僕はこってりカルカンを絞っておいた。
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そうして、獅子節の誕生節のお祝いの日を迎える。
それからもアルを待ち続ける日々が続いていたけれど、獅子節も最終日というとこまで待ってもアルは連絡をくれなかった。
「アル、こなかった……」
「ワド、そんなにしょんぼりしないで欲しいの」
「うん、ごめんねリゼ。ありがと」
皆からのアルへのプレゼントが一杯届いているから、それをアルの部屋の前に積み上げる。
僕も用意したプレゼントを積み上げて、メッセージカードも添えた。
カードには「おかえり&成人おめでとう」というメッセージと僕の絵を書いた。皆からは理解できない絵だと馬鹿にされているけど、アルへの気持ちを沢山込めて書いたんだ。
(喜んでくれるといいな。アル、成人おめでとう)
それからはルクル達と合流して、ルクルの15歳の誕生節をめいっぱいお祝いした。
アンのプレゼントも喜んでいたし、リゼのプレゼントは後で二人きりで開けるみたい。ごちそうさま。
それと、ガトーへのお祝いのプレゼントはルクルが用意していた。
カジノ施設のガトー専用VIPルームだったので、ガトーはめちゃ喜んでご機嫌だよ。
皆が楽しそうで、嬉しい。嬉しいけどさ……
僕はずっとアルの事を考えていたよ。
アルの人生相談にのった時から、アルの成人を心待ちにしていたワド。
成人のお祝いができなくて、物凄くしょんぼりしています。
次回は「銀に会いにいく」です。




