役場じゃなくてギルドだよね
前回のあらすじ
新しく冒険者と冒険者ギルドが発足しました。ルクルが初代ギルドマスターに就任します。
それと前後してアルが失踪しました。
「アル……大丈夫かなぁ?」
アルが失踪してから1週間が経った。
マナは感知できるから生きてはいる。ルマンド君に鉱石ラジオで連絡とってみた所、ホリター家の暗部で追跡は出来ているとの事だった。
今も僕の部屋で、アルの行方を話している。
「ワールドン様!アルフォートの居場所は分かっているので心配要りませんわ!」
「でもでも、僕、心配だよ」
「むむ?アル氏のルートだとホバーバイクで猫魔族の国を目指してるのかにゃ?」
「む?その先のブールボンかもしれないぞにゃん?」
アルはホバーバイクを勝手に国外へ持ち出して、猫魔族の国&ブールボン王国方面に向かっている事が分かっている。ほんとアルはどうしたんだろう?
ルクルは新しく設立したギルドの運営が忙しくて、この一件が起こってから会っていない。
【伝心】でアルの事を相談したら、今は時間が必要という回答だった。ここの所で自信をつけていたアルの中の何かを、エリーゼの暴走が壊してしまった、とルクルは見ていたよ。
僕はそんな簡単にアルの事を割り切れなかった。
それに、リッツの件も片付いていないんだ。あれからリッツは一度も従者の仕事についていない。どうも避けられている気がするんだ。学院に様子を見に行ってもよそよそしいしさ。
これも【伝心】で相談したけど、今は放っておくのが一番だって回答だった。僕、そんなこと無いと思うけどな。話し合う事が大切だと思うんだ。
そう考えていた所に、モンアード領の役場から連絡があった。移住希望の女性が現れたんだ。
ちょうどいいから、リッツと二人きりで行く事にしたよ。君主命令を使ってリッツを無理やり連れ出した。
空輸邸の前までリゼと2匹の猫魔族が、見送りに来ている。
「じゃ、行ってくるから留守番よろしくね」
「ん、任せて。リッツも頑張って」
「…………はい」
「リッツ氏、暗いのにゃ!モンアードはお魚美味しいとこにゃ!代わりに行きたいくらいにゃ!」
「吾輩は港町は行かないぞにゃん」
「お土産買ってくるね!ほらリッツ行こう!」
「どうしてもと言うのなら、吾輩も一緒に行ってあげても良いぞにゃん?って聞いてにゃん!」
このツン・デレネ子には構ってられないよ。
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僕は久しぶりのメタモルフォーゼをして、空輸邸を運んだ。
別にもう日を改める必要はないんだけど、なんとなくいつもの宿を取る。見慣れた店主に挨拶を済ませて、ベッドの上に荷物を置いたら、さっそくリッツと向き合ったよ。
今夜はじっくり、リッツと語るんだ!
「さ、リッツ。僕とお話しようよ!」
「……あたしに話す事は無いよ?」
「どんな話でもいいよ!」
「……あたしには無い」
「僕にはあるよ!大好きなリッツといっぱいおしゃべりしたいな!」
僕がそう言うと、リッツは物凄く長いため息を吐いた。なんか気に障る事いったかな?
「はぁ~~~……なんで、あたしに言えるのに、肝心な所で言えないのかなぁ」
「な、なんの事?」
僕はリッツの言葉の意味が分からなくて狼狽えた。そしたらふいにリッツが笑ったよ。
「ふふっ……ワールドン様はKYだから仕方ないかぁ」
「え!?僕、KYなの!?カルカン枠なの!?」
「うん。幹部の皆はそう言ってるよ」
めちゃくちゃショックだった。特にカルカンにも言われているのが屈辱だよ!
でも、やっと心を開いてくれたリッツとお話が出来たんだ。
「あたしも頭では理解できてるんだ。でもね、心が受け付けないんだ」
「嫌なら出ていかなくていいんだよ!僕、大好きなリッツにいつまでも居て欲しいから!」
またもリッツが凄くガッカリした声をあげたよ。
「はぁ~~~……なんであたしに言うかなぁ?」
「え?え?」
「こっちの話!気にしないで!」
「でもでも気になるよ?」
「ワールドン様って……発言に気をつけてって誰かから言われたりしない?」
リッツの指摘にちょっとドキッとした。めちゃ心当たりしか無いから。
「何故だか良く言われるよ?」
リッツは鼻で笑って答えた。な、なんなの?
「ま、そこがワールドン様っぽくて、可愛い所でもあるからね」
「そう?僕ってば可愛い?なんだか嬉しいな!」
「……別に褒めてないよ?ま、いっか」
面と向かってディスられるの結構キツいかも?
それからリッツがゆっくりと自分の考えを語ってくれた。
「受け付けない理由は分かってるんだ」
「良かったら、僕にも教えてくれる?」
「あたしが……ルクルの一番じゃ無いって事に、心が追いつかないんだ……分かってても、突きつけられると辛いから……」
それはなんとなく分かる。
ルクルの中でリゼが一番になっているのは、僕も受け入れるまでに時間がかかったから……
「映画デートの後、リゼお姉ちゃんとルクルがキスした事を知っても、諦めたく無かった。でも、連れ帰っていいなんて、あたし居なくてもいいんだって……」
「そんな事ない!そんな事ないから!」
「分かってる。ルクルもそんなつもりじゃないと思う。……けど、辛いと感じるのはイケない事なのかな?」
僕は慰めるつもりで口を開いたけど、言葉は出てこない。だって仕方ないと思っちゃったから。
「ワールドン様……あたし、辛いよ」
「リッツ!ゆっくりでいいんだよ!僕も時間かかったから!ゆっくり受け入れよ?」
「……いいのかな?まだ好きでいても……」
「全然OK!恋のアディショナルタイムはありだよ」
「ふふっ。ワールドン様はホント恋バナ好きだね」
「落ち着いて行こう。まだ慌てるような時間じゃない。だよ?」
「ふふっ……うん。あとちょっとだけ好きでいたいな」
僕はリッツも大好きなアニメの台詞で励まし続け、心が前を向くように応援したんだ。
「ありがとう。少しだけ心が軽くなったよ」
日付が変わる頃には、リッツの自然な笑顔が戻っていた。やっぱりちゃんと話し合うのが大事だよね!
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翌日、モンアード君への挨拶を済ませた後に、さっそく役場へ訪問したよ。手続きもスムーズだったな。
帰り際にリッツから思いがけない事を指摘される。
「ワールドン様、王都に役場は作らないの?まだ無いけど困らない?」
盲点だった。
今まで無くても何となく回っていたから気付かなかった。でも、ルクルは気づいているはずなんだ。帰ってから聞く事を心に決めたよ。
けど、国に戻ってからもルクルは忙しくて会えなかった。
アルも居ないから僕が決めないと……そうだ!
アルの執務室で公務を代行しているストローへ、僕のアイデアを伝えにさっそく向かったよ。
「ワールドン様、役場はアルフォート様が計画進めてたみたいやで?いきなり居らんようなってもうたから頓挫しとるみたいやわ」
「ストロー!別に役場じゃ無くてもいいんだよ!ギルドだ!ギルドを作ろう!」
「はいー?冒険者ギルドはありますやん?」
「他の色んなギルドだよ!」
僕、思いついちゃったんだ!
どうせなら新しくギルドの文化を作ればいいんだってさ。
それから僕はひたすらに働いた。
数日間、頑張ったかいあって、各ギルドの骨格が決まってきたんだよ!
僕の裁量で決めた書類をエリーゼに手渡す。
「では管理者はルクルに決定ですわ!わたくし早速、説得してきますわ!全力ですわ!」
ドドドドドドドド……!
エリーゼに任せておけば説得は問題ないね。
一仕事追えた僕は、達成感でいっぱいだったよ。
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だけど、ルクルに仕事を積みすぎたのもあって、色々と歯車が噛み合わなくなったんだ。
港町も役場をやめてギルドにしたら、あちこちでトラブルが頻発して大変な事になった。それの収拾に追われて、ルクルはもっと身動きが取れなくなったんだ。
僕が困り果てていた時に、港町のトラブルを解決してくれたのが、自称勇者達だった。
最近は、港町近辺のクエストを優先して受注しているみたいで、ギルド職員がうまく案件処理できていない時に、王都でどのように捌いていたかの情報をくれたらしい。……主にノワール君がね。
でも、一連の混乱については、吊し上げを受ける事になったよ。
「では、ワドがギルティだと思う者は手をあげるにゃん!」
ガトーが仕切っている会議で、今まさに吊し上げされている。ルクルは現場指揮で居ない。アルも失踪したままだから、僕を抑えられる候補としてガトーが議長に選ばれていた。
「ほら、ワドよ。目を閉じてないでちゃんと現実を見よにゃん。お前とエリーゼ以外、全員が手を上げてるぞにゃん?」
「ぼ、僕、見えてないかな!」
「ワールドン様!往生際が悪いのにゃ!しっかり目を開けるにゃ!」
「せやで。現実は受け止めましょ?」
「わたくしが悪いのですわ!ワールドン様を責めないで下さいませ!」
僕を止められるルクルをエリーゼで封殺して、常識担当のアルが不在のままで、色々と改革を強行推進した事で大変な事になった。
エリーゼは僕を庇ってくれているけど、僕が自重しなきゃならなかったのは、今なら分かる。止めてくれる人がいるって大事な事だと痛感したよ……
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更に数日が経過し、ようやくルクルに余裕が出来たのか、僕の部屋へとやってきた。
「ワドー、お前なー。エリーゼ様を送り込んでくるのはヤメロよなー。いや、マジで洒落にならんからなー」
「ごめんごめん。で、いつギルドの仕事に戻らなきゃなんないの?今日はゆっくりできる?」
「んー?諸々マニュアル化してきたから、よほどのトラブルが出ない限り、俺の仕事は無いよー」
え?そうなの?心配して損した気分。
「俺が大変だったのは事実だからなー」
「だから僕、謝ってるでしょ!?」
そこにリッツが乱入してきた。最近来なかったのにどうしたの?
「ワールドン様!前にお話ししてた水泳大会をやろうよ!」
「急にどうしたの!?」
リッツはキッとルクルに強い視線を向けた。
「あたし、悩殺水着で最後の花火をあげるんだ!」
「よし!面白そうだからやろう!」
「おいー?ちょっと話が見えないんだけどー?」
僕とリッツは笑顔で頷きあった。
「マイティさんみたいに悩殺しちゃうから!」
「マイティの紐水着を超えてみせるからね!」
後ろで控えていたマイティが、動揺して後ずさっていたな。
いつもは止めてくれるルクルとアルがいなかった事で、ワドはズレた政策を推し進めてしまいました。
エリーゼは常にワドのYESマンですから止めませんし……。
元々、役場で行政が回っていた港町の方は大混乱だった模様です。
ここでワドは止めてくれる人の大切さを学びました。
次回は「ドキッ!ドラゴン水着大会」です。




