首脳会談
前回のあらすじ
メイジーとブールボンの国賓を招いて、ワドは社交界デビューしました。
知ったか&ドヤ顔のせいで、ルクルが両方の国王から、名指しで呼び出される事となってしまいました。
「と、言う訳で……ルクルをご指名なん」
「はぁーー?ワドー、責任取ってくれるー?」
皆で僕の部屋に集まって、今日の事を相談していた。
けどなんで僕が責任取らされるのか意味分かんない!
僕は[頑張るぞい]ジェスチャーを細かく繰り返して抗議したよ。
「僕!悪く!無い!から!おか!しい!よ!」
「お、竜鱗を100枚で許してやるよー」
「そんなに出せる訳無いでしょ!?」
「そっかー!200枚がいいのかー!」
(ふぁ!?なんか僕の竜鱗が、すぐ生える事がバレてるぞ?)
「ガトーーー!犯人はお前かぁぁあぁあ!?」
「ワドワド。犯人はこの中にいるってセリフからだぞにゃん?様式美だろ?」
「あ、ごめんごめん。えと、どこのセリフからだっけ?」
「そこのコントドラゴンズさー、もっと毟られたいのかなー?」
なんか今回のご指名よりも、竜鱗の事を隠していた事にお冠みたいだよ?
僕は慌てて差し出した。
「200枚入りま~す♪あ、今日の分は今抜いた20枚で許して」
「おいー!どっから抜いたんー!?」
「もう……セクハラだぞ☆」
「ルクル、その竜鱗が欲しいの。何でもするから」
リゼが欲しがっているけど、あげないよ?
なんかアルが頭を抱えているな。どうしたの?
「アル、頭痛が痛いの?」
「ワドワド、それ意味被りだぞにゃん?」
「ええ、2重の意味で頭が痛いので、それで合ってるかも知れませんね」
この会議にはじめて呼ばれたテトサが、完全に固まっていた。僕らのここまで砕けたやり取りを見るのは初めてっぽい。リッツがフォローに向かったけどさ……
「……シュコー!シュコー!シュ……」
「ウチ、お家帰りたいですー!ルクル様ぁ」
「ぷしゅる~うまーにゃー。労働の後のビールは格別にゃー!ラオホうまーにゃ!」
(残念。不審者が近寄ってきたとしか認識されてないんだな~これが)
既に出来上がっているカルカン以外は、マイティとリッツがお茶を淹れてくれたので、それを飲んで仕切り直しだよ。
「ウチ、こんなカオス空間で、まともな精神保てる気がしないです!」
「大丈夫!そのうち染まって慣れるから(キリッ)」
「ウチ侵される……イヤーーー」
「テトサ氏もたまには飲むにゃー?」
アルが長いため息吐いた所で、ルクルがパンパンと手を叩いた。
「ハイハイー!注目してー、メイジーとブールボンあわせて首脳会談やっちゃうからねー」
「吾輩は不参加でよろにゃん」
「んー?ガトー専用のラグジュアリーチェアーを用意してるけどー?出ないのー?」
「不参加とは言ったが、出ないとは言って無いだろにゃん?どんな性能だにゃん?」
椅子の仕様書をチラ見せしながら、会談で目指すべきゴールを語っている。ルクルってば器用だね。
どうやら、同盟を優位な条件で結ぶ方針らしいよ?そのために提示する物が色々と資料に載っているな。
ん?なんか違和感……
「ね、ねぇルクル。この資料っていつ用意したん?」
「…………」
僕はガトーに目配せした。頷くガトー。ちょっと拝見しますよっと。
「ギャーーー!なんで和ホラーガードしてんの!?」
「ヒィ!?なんかトスィーテの人族版みたいなのがいたんだけど!?怖いぞにゃん!」
「え?トスィーテちゃんってそんなヤバいのー?」
「なんらー?トスィーテは世界一可愛いらぞにゃー!謝るにゃー、うぃっく」
なんか終始ドタバタして、その日は終わった。
会議の終わりには、アルとテトサが、なんか分かりあった感じで握手していたよ。なんで?
でもでも、ルクルは、呼び出されるのも台本だったみたいだし?一応話通しただけだね。
(あれ?僕、竜鱗の毟られ損なんじゃ?)
んで翌日、首脳会談の場が設けられたよ。
ワールドン王国からは、僕、アル、ルクル、ガトー。
メイジー王国からは女王とモンアード君。
ブールボン王国は国王、ルマンド君、ロウム宰相。
明確な上座を作らず、巨大な円卓ってか、ぶっちゃけ中華テーブルを用意したんだ。ガトーがぐるぐる回したがったけど、流石に止めたよね。
それとね、人数比率を考慮して、エリーゼとカルカンには遠慮して貰ったよ。
「では、はじめさせて頂きます。ですが堅苦しい事は抜きにして、我が国自慢のお酒でも飲みながら歓談しましょう」
アルが台本のセリフを諳んじていたところに、マイティが高級酒を運んできた。
お、マイティがドレス姿だよ。首謀者はエリーゼだね?グッジョブ!
「まずはビールからお楽しみ下さいませ」
まずは僕が飲まないとね。グィっと呷る。
(一杯目からスペシャリティなの!?)
芳醇な香りと風味は濃厚なブラックベリーを思わせる。ビールって説明していたから、果汁やスパイスは入って無さそう。
って事は酵母なのか。凄いの造ったな。
「うまーーーいぞにゃん!?これ別格だぞにゃん?」
「カルカンがここに居たら大騒ぎだったね」
来客の方々も飲み始めたよ。皆すんごい驚いていた。
にしてもさ、ガトーは宙に浮くリクライニングシートだよ。専用椅子だ。
(う、羨ましくなんて無いんだからね!)
林檎を思わせる日本酒、バニラの香りとロースト感漂うウイスキーと続く。
いずれも去年の出来とはレベチである。この世界ではまず飲めないクオリティーだ。
「信じられん……こんな旨い酒があったとは」
「私は酒が苦手だが、これは美味しく頂ける。これほどのは飲んだ事が無いな」
ブールボン国王はお酒好きっぽくて、色々飲んだのと比べてもレベチっぽいね。
メイジー女王はお酒苦手なのか。でも結構ハイペースで飲んでいるな。度数高いけど大丈夫?
「我が国としては、嗜好品や娯楽を提供して行ければと考えております」
お酒が進んだ所でアルが方針を語りだした。
「このような酒ははじめてでした。他の国でも受け入れられると思います」
「是非とも、我が国に卸して下さい。全ての酒を仕入れさせて頂きます!」
「ゴホン。陛下、落ち着いて下さい」
メイジー女王は冷静だね。
ブールボン国王は興奮気味だったから、ロウム宰相に窘められていた。
「嗜好品と娯楽と言う話ですが、ホバーバスは輸出されないのですか?我が国としてはあちらの方が魅力的でした」
「ホバーバスは、まだ生産ラインが追いついて無いのです。ホバーバイクの方は再来年くらいには輸出出来るかと」
メイジー女王はホバーバスを狙っているみたいで、アルが予定通りの回答をしていた。
ずっと黙っていたルマンド君が口を開く。
「品物よりもルクル殿のお知恵を貸して頂きたい」
「モンアード領としても、ルクル殿のアイデアを望みます。領地の改革案を……何卒」
モンアード君も便乗してきたところへ、メイジー女王が怪訝そうな顔で尋ねる。
「モンアード卿、具体的に欲しい案があるのか?」
「陛下はココ伯爵達の現状をご存知ですよね?」
「あぁ、劇的に関係改善していて、私も驚いている」
モンアード君は笑みを深め、少し溜めつつ答えた。
「こちらのルクル殿の案で改善したそうです。しかも会ったその日に出した案でです」
女王もブールボンの面々も驚いて身じろぎしていたね。でも言わせて貰うよ?
「ココ伯爵達の問題を浮き彫りにしたのは僕だからね!さぁ褒めてよ!(ドヤァ)」
「あーハイハイ。凄い凄いー。えーと、皆さん。まずは同盟を結んでから細かい事は追々にしませんか?」
僕の渾身のドヤ顔が、ルクルの提案であっさり流されたよ。シクシク……
基本的に軍事面での不可侵条約と、国交樹立。
それから、研究機関を3カ国合同で立ち上げる事になった。
造船技術をメイジーが提供、建設技術をブールボンが提供、僕の国からは、マナ鉱石とアイデアを提供だよ。
メイジーもブールボンも、数百人の技術者を出すのに、僕の国からはアイデアだけなんだ。マナ鉱石提供というのが大きいんだけど、僕とガトーがいるし無限増殖だから。
「同盟はここに樹立しました」
「それで、この同盟の布告をしていいですかー?」
アルが宣言したら、ルクルが布告の話題を被せてきたけど、聞いて無いよ?
アルも驚いている。
「なるほど」
「そう言う事ですか」
モンアード君とルマンド君は分かったみたい。
僕は正直分かって無いよ?
「モンアード卿、どう言う事か説明してくれるか?」
「陛下、同盟の効果を最大化するのと、ガトー様のお披露目を兼ねているのです」
メイジー女王がモンアード君に尋ね、続いてブールボン国王もルマンド君に質問し始めた。
「モンアード殿の仰る事は本当なのか?ルマンド殿」
「はい。同盟樹立を二柱の神の連名で布告する事で、紛争を沈静化させる狙いもあります。ザグエリも指名手配を取り下げざるを得ないかと」
アルと僕はバッとルクルを見た。
落ち着き払っているルクルの態度から察するに、ルマンド君やモンアード君なら看破すると見越していたみたいだ。
(でも、内緒なのはなんで?)
僕は問い質す為に【伝心】した。
『ルクル!なんで内緒で進めたの!?』
『んー?ま、布告での効果の1つが俺らの都合だからだよー。警戒しすぎたけどねー』
『どゆことなん?要点まとめヨロ!』
『吾輩が教えてやるぞにゃん?』
ガトーが【伝心】に割り込んできた。
ってかガトー分かったの!?
『お前とアルだと布告に意識向き過ぎて、焦って失敗するからだぞにゃん?』
『何を焦るって?』
『吾輩を巻き込んで、ザグエリやカービルに敵対行動は不利と浸透させる狙いだにゃん』
『え?マ!?戦争回避できるん!?』
ルクルは笑みを深めた。正解なの凄い!
『樹立の布告が狙いだから、ゴネられると困るんだにゃん。ワドは戦争回避の為に、気持ちが焦るだろ?だから交渉で不利になるんだろ?にゃん?』
『凄いねーガトー!正解だよー』
そっか、僕やアルはメンタルコントロールが、レベル低いから足元みられる可能性があったのか。
でも、アルは凄く悔しそうで、歯からギリッて音が聞こえる程なのを表面に出すから、まだまだって判断されたんだろうな。
3カ国同盟は、僕とガトーの連名で神託したよ。
数日後、僕らの国際指名手配は解除された。
(これでまたバンナ村に遊びにいけるね!)
ついにカオス空間へ参加する事になったテトサ。幹部になると大変です。
リッツはマナ汚染を気にするより、テトサのように精神汚染を気にすべきと思いますね。
次回は「音楽や芸術を豊かに」です。




